004 突然死
今日も霊安室の秩序を守る。
仕事中に倒れて救急搬送されてきた三十代の男性。
治療の甲斐もなく亡くなった。本人はどうしても死んだと理解していない。
「だって俺は今、あんたと話してる」
(どうしたら死を理解してくれるのかしら)
肉体から魂を引き離したものの、この調子が数時間続いていた。
数時間経つと、男の身体がふわふわしてきたようだ。
「俺、どうしたんだ? 何が起こってるんだ? 死んだ!? いや、ありえねー。あんたと会話できてる!」
その時、衛藤のユニフォーム姿を見て声をあげた。
「あんた、ここの看護師じゃないね。あそこにいる看護師たちと違う」
(そうよ、だって私、ずっと昔、夜勤明けの帰り道で事故に遭って死んじゃったんだもん)
「……死んだ? じゃああんたは……ずっとここにいたのか? ひとりで……成仏もせずに」
(……ええ)
「なんだよ、それ。あんただって成仏したいだろっ!」
(……私がここからいなくなったら、あなたのような人を、正しい道へと導くモノがいなくなってしまう)
次第に男の体は、頭上から射す光に吸い上げられるように、浮いていく──
「どうしようもないのなら! 覚えててやるからな! あんたが俺や、俺みたいな奴らにしてくれたこと、覚えて……」
そこまで言うと、男の姿は完全に消失した。
静寂を取り戻した霊安室で、私は独りこう思う──
(……私がしていることは、間違ってなかった)




