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輪廻の扉 ~看護師千代の物語~    作者: ひな月雨音・菜須よつ葉
10/12

010 老人

 102歳という天寿を全うしたお爺さんが、霊安室へと運ばれて来た──



「儂、死んだというのに笑っておりますな」



 自分の亡くなった姿を客観的に見つめながら、お爺さんは呟いた。



(大往生でしたね。大きな病気や怪我もなく人生を全うされるのは、なかなか無いのですよ)



 私はお爺さんに話しかける。



「ひ孫の顔まで拝むことが出来ました。妻は若くして亡くなりましたが、これからは時間を気にせず、たくさんの土産話を聞いてもらおうと思っとります」


(奥様、ちゃんと待っていらっしゃいますよ)



 亡くなった本人の希望があれば、生まれ変わるまでの時間を調整することが出来る。


 しかしそれは、地獄行きが決まっているモノには適応されないルールらしく、決して抗えない絶対の掟のようだ。


 私はそんな光景を幾度となく見てきている。



「そうですか。妻は……待っていてくれましたか。長いこと、本当に長いこと待たせてしまいました。こんなに年老いた儂に、気付いてもらえるだろうか」


(愛する人はどんな姿になってもわかるんじゃないですか? あなたも奥様の姿は、今でもはっきりと覚えていらっしゃるでしょう? それと同じですよ)



 うんうんと何度か頷き、笑顔になったお爺さんは続けた。



「新婚以来のふたりの時間を、楽しもうと思います」


(そうしてください。今まで出来なかったことを1つずつ楽しまれたら良いんですよ。まず、奥様となさりたいことをしてください)



 ふたりの間に刻まれた長い時間を、ゆっくりと取り戻す。



「死んでも楽しみが出来るとは、素晴らしいことですな」



 私は笑顔で肯定すると、お爺さんを霊安室の扉の前に立たせた。



(この向こうに、奥様がいらっしゃいます。思い残すことの無いようお過ごし下さい)



 扉の取っ手に手を掛けるお爺さん。



 ガチャ──



「あぁ、なんと言うことだ。待たせてしまって、本当にすまない」


「いいえ。あなたはご存知なかったでしょうが、いつもそばにおりましたので」



 私はふたりを送り出すと……。



(末永く、お幸せに)



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