表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/75

8.ユウト先生と生徒エリの戦い方授業

 日光の差す崩れた中庭。その場所を中心に反時計回りに進むエリと、後ろから盾を構えて歩くユウト。ちなみに目の前に広がるエリのお尻に関しては、一度落ち着ける場所まで行ってから謝ることに決めていた。

 ぐるりと90度ほど回ったところで、別の広間がある。その場所には、槍持ちのスケルトンがいた。


「ユウ兄ぃ。待ってて」

「いや、エリ。ここは僕に任せてくれ」

「へ?」


 ユウトは先ほどゴブリンが持っていた木の棒を持つと、縦をやや斜めに向けて前に突き出す。


「よく見ていて」

「う、うんっ! ユウ兄ぃのこと、めっちゃ見てる! じーっ」


 エリの答え方にやや照れつつ、ユウトはスケルトンとの距離を一定に保つ。

 槍の先端がユウトの盾に当たり、音が鳴る。

 次の瞬間、スケルトンは大きく身体を仰け反らせて槍を構えた。攻撃の準備動作だ。


 スケルトンが踏み込み、ユウトの身体を貫通するように槍を突き出した瞬間、エリの肝は一気に冷えた。

 しかしユウトは、相手の踏み込みに合わせて冷静に、槍を盾で横に滑らせた。

 そして、次の瞬間。


「よっ!」

「——!」


 表情のないスケルトンが、どこか驚いたように腕を弾き飛ばされていた。

 ユウトは、盾の曲面を利用して攻撃を受け流し、相手の腕を大きく横に開けて胴体をガラ空きにしていた。

 初戦では無難に、挑戦を避けたパリイである。


 そしてガラ空きの胴体に、両手で棍棒を持つと……大上段からスケルトンの首に突き立てるように、思いっきり振って地面に縫い付けた。

 パキィ! と乾いた音が鳴り、スケルトンは一撃で動かなくなった。


 そしてユウトはエリに振り返り、左手に持った盾を何度も払うように動かして言った。


「今のがパリイだよ。こういうやつね」

「……す、すごい! かっこいいです先生!」

「何度もやったからね。エリもこの動きを覚えてほしい。といってもエリは運動神経いいから、すぐに上手く出来るよ。後ろに回り込んで刺す方法もあるけど、こっちはエリなら本番でも大丈夫」

「よーし! 私もやってみる!」


 エリは気合を入れて、中庭途中の広間から、別の扉へと足を進めた。


「昔もさ、こうやってユウ兄ぃに教えてもらったよね」

「昔? 何があったかな」

「あはは、覚えてないのならいいよ。いろいろ教えてもらったし、迷惑かけっぱなしだったよね」

「……んん? ごめん、本当に思い当たらないや。でもエリのこと迷惑に思ったことはほんと一度もないし、大変だった記憶も全くないなあ……。僕も子供だったし、エリと遊ぶのは楽しかったーってぐらいしか記憶にないよ。あんま覚えてなくてごめんね」

「う、ううんっ!」


 それはユウトの飾らない本心であり、エリもそのことが伝わっていた。

 それが故にユウトの返事を聞いたエリは、前を歩きながらも顔を見せられないぐらい顔を真っ赤にして口元を緩めていたのだった。

 今だけは、人間の耳が後ろから見えてなくて良かったと、エリは自分の頭から生えたもふもふの獣耳に感謝した。




 次の扉を、エリはユウトに教わったとおり、盾を構えながら開ける。開いた先から不意打ちがないことを確認すると、二人は中へと入った。


 そこは先ほどの暴力呪術師がいた部屋と同じような、大きな部屋があった。

 暴力呪術師の代わりに、スケルトンが一体、ゴブリンが二体いる。

 その三体は同時に、侵入者に気付いた。


「エリ、スケルトンを任せた!」

「おっけー!」


 エリは、先ほど目に焼き付けたユウトの動きを、頭の中で再現していた。


 同時に、ユウトから言われたことを思い出す。


————エリは運動神経いいから、すぐに上手く出来るよ。

————エリなら本番でも大丈夫。


 あそこまで絶対の信頼をもって褒められるとは思わず、顔は真剣でも心はかなり弾んでいた。

 と同時に、そこまで信頼してくれたユウ兄ぃに、かっこ悪いところは見せられないぞと思った。


 スケルトンが左から、ゴブリンが右から襲いかかってくる。


 ユウトがゴブリンの攻撃を避けるのを見届けて、エリは盾を突きだしてスケルトンへと勢い良く踏み込んだ。

 それに合わせるように、スケルトンが槍を突く。受け流そうとするも、ぶつかってスケルトンはその反動で仰け反りふらつく。

 この隙に攻撃すれば、片手で盾を持った戦い方としては合っていた。だが、エリはユウトの、あの動きの美しさに拘っていた。


(違う、相手の腕を向こうに弾くんじゃなくて……こちらに、深く……!)


 そして、次の攻撃をうまくこちらに引き込んだ直後、思いっきり腕を横に振るった。

 槍を持ったスケルトンの腕がミシリと音を立てて手から槍が吹き飛び、それだけで最早敵は戦闘不能に近いほどだったが、エリはそのままユウトと同じように自身の尾槍を両手に持つ。


 ユウトは腕を振り上げて、ようやくスケルトンの首に突き立てられるような背丈。

 しかしエリに対して、スケルトンの頭頂部は胸元までしかない。


 結果、胴体ガラ空きで大の字になって立つスケルトン目がけて、エリはザガルヴルゴスの尾槍を両手で、力一杯真上から床に叩きつける形となった。

 スケルトンの頭は当然一撃で粉々に崩れ、肋骨は弾け飛び、それでも勢いは止まらず石造りの建物の床にヒビが入る。

 エリ本人はユウトを真似ただけのつもりであったが、とても比ではないほどの圧倒的なオーバーキルであった。


 もちろんそんな音を聞けば、ユウトだって気付く。


「……今の、エリ……だよね……?」

「あ、あはは……」


 ユウトはその、致命の一撃というにはあまりにも派手すぎる一撃に対して、


(ダメージレース向いてそうだなあ……)


 なんて現実逃避をしていた。

 分かってはいたが、エリの転生した身体、あまりにも強すぎる。

 ふと戦い方を教えたはいいものの、早い段階で自分が旅のお荷物になりそうだと、ユウトは内心焦っていた。




 しかし、エリもまたエリで、目の前の光景に焦りが隠しきれなかった。

 この場にいた敵は三体、うち二体のゴブリンはユウトが担当した。

 そのゴブリンは、エリが振り返った時点で既に二体とも事切れていたのだ。


 もちろんこれは、ユウトが何度も見て把握しているゴブリンのリーチとパリイのタイミングを利用して、手早く倒していたのだ。


「あ、あれ、私がスケルトンで、ユウ兄ぃがゴブリン、だよね?」

「そうだよ、スケルトンを担当してくれてありがとう」

「うんっ! ってそーじゃなくて! いつ倒したの?」

「エリと同じように、パリイからの一撃を二回やっただけだよ。致命の一撃は威力が高いし、もしかするとさっき暴力呪術師を倒した時に経験値のおこぼれをもらったのかも?」


 そんな返答を聞いて、エリは驚きつつも、滅茶苦茶ときめいてしまっていた。


(ゆ、ユウ兄ぃがタイムアタック日本一なの、まだナメてたかも……むしろ、滅茶苦茶小さいのに、条件上は最弱転生のはずなのに、二体担当して私より速いってすごくない……? ちょっと待ってユウ兄ぃかっこよすぎない!?)


 そんなユウトの姿に興奮し、同時にエリはユウトにとって自分がどういう立場でついてこようと思ったかを強く意識する。


————最弱転生した従兄のために、最強転生した自分が身体を張らなくちゃ、ついてきた意味がない!


 だからエリは、自分のためにもはっきりと宣言をした。


「よーし、戦いでさえまだまだっぽいから、どんな敵でもユウ兄ぃにたくさん頼ってもらえるよう、ユウ兄ぃより強くなるぞーっ!」

「いや、既にエリは僕より全然強いからね?」

「えっと、じゃあユウ兄ぃより上手く素早く倒せるようにがんばるよっ!」


 元気よく宣言したエリに対して、努力家で頑張り屋なのは昔っからだなあと思いつつも、この子ならすぐにできるようになるだろうとユウトは考えていた。


(二人で協力して帰る。それはきっと、間違いない。……でも)


 ユウトは、筋力レベル最大にして大槌で潰したかのような、スケルトンの残骸を見た。


(……エリが全ての知識を僕から受け取ったら……僕ってエリのお荷物になっちゃうなあ)


 ふとそんな考えが頭をよぎったが、ユウトは今そんなことを考えても仕方ないと、すぐに頭の疑問を振り払った。




 そして二人は、次の扉を見る。

 ここから先も、もちろんユウトにとって全く知らない場所である。


「じゃ、開けるよ」


 エリが盾を構えながら扉を蹴破り、一旦離れて槍を構える。

 ユウトもエリのすぐ隣に立つ。


 扉の先には、エリが蹴破った鉄の扉を背中に受けた、エリより多少背の低い程度の(本来は人間よりやや大きい)ホブゴブリンがいた。


「エリ!」

「うん、ユウ兄ぃ!」


 しかしユウトもエリも、その大型モンスターが気にならなくなるレベルで、扉の向こうに広がる光景に同時に反応した。


「「————外だ!」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ