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29.ユウトとエリは、謎の空間を調べる

 ユウトは、ゆっくりと周りを見る。

 ステータスの画面ような、有機的デザインでありつつ近未来的な空中パネル。

 それらがいくつも並んでいる。

 反面今の床などは全て金属による無機物。明らかに『このマップではない』としか思えない世界だった。


「なんだ、ここ……」

「ほんとなんだろうね……?」


 ユウトは壁にあるパネルに触れる。

 画面が変わると、そこには文字列がリスト形式で並んでいる。

 その内容を読んでいて、ユウトはそこに書いてある文字に震えた。


「これ……」

「え?」


 エリも画面をのぞき込む。

 そこに書いてある文字に「ひっ!?」と悲鳴を上げると尻餅をついて後ろずさる。

 ユウトはそんなエリの反応に対して、今回は目をくれない。反応を予想していたからである。


 この画面上に書いてある内容は、ごくシンプルなものだった。


——Reincarnation : Dead 73/75.


 ユウトやエリでも分かる、簡単な英単語。

 意味は『転生者のうち、75人中73人の死亡を確認』である。


 あまりにも残酷で、当たり前の数字。

 ユウトとエリ以外は全員、『暴力呪術師ザガルヴルゴス』によって殺されてしまった。

 それが誰の目にも分かる形で表示してあるのだ。


 下側には、プレイヤーの名前が並んでいく。日本語、日本語、英語、ハングル文字、日本語、英語、日本語、タイ語、ドイツ語……。

 その全てがReincarnationであり、全てが死者である。

 一番下に、見慣れた日本語『柳葉ユウト』と『朝永エリ』の二つの名前があった。


 同時に、ユウトは違和感を覚える。


「この場所は、転生者を把握している……」


 そう、明らかにここはゲームのシステム側の場所なのだ。

 ユウトはそのことに気づくと、周りのパネルにも手を触れだしていく。


 他の場所にあるパネルを触れると、再びリストが出てくる。


「グレーターデーモン、16/22。ひとつは最初のボスに出会うところで、残りの五つはラストダンジョンだったはず」


 ユウトはそのパネルが、ボスを記録したパネルであることに気づき、全ての数字を眺める。

 リストには、ユウトにとって見慣れた名前が並んでいく。


 エリはなんとか復帰して、ユウトのところへと四つん這いで近づく。


「ユウト、それは……?」

「これはボスだね。ほら、0/1っていうのが並んでいて、一番上がグレーターデーモン。エリと一緒に倒したあいつらを、ほとんど倒したっていうのが表示されている」

「ってことは、ここボスが全部乗ってるんだ」

「そうだよ」


 エリはその、0/1というのが並ぶ数字を眺める。


「イーリアスのクレイゴーレム。これも倒したんだね。1/1になってる」

「そう。下側の『砲撃のクレイゴーレム』が丘の上にいた敵だね」

「うんうん。……あっ、『陵の剣士』ってのも、1/1になってる」

「説明したとおり、ここのボスだよ。墓場の一番奥で、大きな剣士……だったんだけど、戦うことはなかったね」


 エリはユウトの説明に頷きながら、下から三番目を見る。


「あ、ここに暴力呪術師ザガルヴルゴスってあるね。1/1になってる。下から三番目」

「最初に出会った奴だね。……って、あれ……?」


 ユウトは、その位置に違和感を覚える。


 ザガルヴルゴスは、魔王四天王。

 その並びは、四天王で一番最後でなければならない。

 そのザガルヴルゴスの下には、当然ラスボスの魔王である『ヴィオルノート 0/1』という名前がある。


 ぞわり。


 見てはいけないものを見てしまうのではないだろうか。 恐怖から背中に鳥肌が立つのを感じる。

 しかし、見なければならない。魔王ヴォイルノートの次の名前。


 その、下。




 『ナスタレア 0/1』




「うそ、だろ……」

「……ユウト?」


 ユウトは、エリの声に視線を向けた後、自分たちがやってきた場所を見返す。

 何もない部屋。

 そう、何もない部屋だ。


 ユウトは今まで、そこにいたボスを思い出すように虚空を睨み付ける。


 思い込んでいた。

 初代魔王ナスタレアの墓地である『ナスタレアの陵』にいる最奥のボスは、身体の大きな剣士。

 だからそれが、前作シリーズで出てきた、大きな剣を持つボス『皇帝のミイラ』のセルフオマージュとして、わざと似せて作ったボスだと思っていた。 思い込んでいたのだ。


 しかし、もしもあれが。

 もしも、あのボスが『ただの墓守』なのだとしたら。


(魔王ナスタレアは、別にいる……!)


 ユウトは初めて、この転生モードの最後の敵を知った。

 自分の知識の外にある、完全に謎の存在。

 ラスボスである『魔王ヴィウオルノート』より強い、全く予備知識のない相手。

 その敵に対して、死に戻り、死に覚えナシで挑まなければならない。


「……ユウト?」

「あ、ああ、エリ……」

「大丈夫? えっと……ユウトが悩むようなことだと、私じゃ力になれないかもしれないけど……話を聞くだけなら、できるから」


 ユウトは、そこで自分の眉間に皺が寄っていたことに気づいた。

 難しいことを考えるとすぐこれだと、眉間を指で揉むと、少し気を楽にしてエリに事情を話した。

 ここのボスのこと、魔王ナスタレアのこと、自分の知識のこと。


「……そこにあるナスタレアっていうの、ユウトも戦ったことない相手なんだね」

「そう。だから相手の情報が全く分からない。僕が代わりに戦えたらいいんだけど、この身体で勝てる相手かどうか怪しいから、エリを危険に合わせることになってしまうかもしれない……」


 少し心苦しそうに話すユウトに対して、エリは温かいものを感じながら、先ほどと同じように……しかし先ほどとは違い、今度は自分の意思ではっきりと、ユウトを撫でる。


「……エリ?」

「全部背負い込みすぎだよ。ユウトは私に任せた方がいい時、積極的に任せるべきだよ。それで私が危険な目に遭っても、ユウトが危険な目に遭うより全然いいよ」

「そう、かな?」

「そーなの。優しいし、頼りになるし、やっぱり私のパートナーはユウト以外ありえないよ。私はユウトのために最強転生したんだから、ナスタレアだかなんだか知らないけど、絶対勝ってみせるよ!」


 エリの自信に満ちあふれた言葉と、頭を撫でる温かい感触に、心が落ち着いてくる。

 しかしさすがに、頭を撫でられるのは恥ずかしかった。

 それでも自分で大丈夫だと言った手前、断りづらい。


「エリ、その、ありがとう。もう大丈夫だから」

「うん」


 エリも、ユウトの顔が困ったように赤くなるのを見て、さすがにちょっとやりすぎたかなと手を引っ込めた。

 ちなみにもちろん、そんな照れ顔もエリにとって好みだったので、表向き優しい表情をしつつもひたすらに内面では悶えていた。


「そ、それじゃ、他のも見ていこうよっ!」


 エリ自身も自分でやっておいて照れながら、次のパネルに手を触れた。

 アイテムのような名前が並んでいて、それに興味を示さずに次は防具のリストを開いて、それも流し読みする。


 最後に奥のパネルに触れると、それまでとは全く違うものが表示された。

 ユウトはその文字を見て驚く。


 書かれていた『Teleportation : 0/45』というパネルに、ユウトは指を伸ばす。

 一番下の名前二つをクリックすると、名前の右側の『Disable』が『Enable』へと変更された。


 ユウトはそのパネルの詳細を開くと、『All』を選択して、一覧のチェックボックスを入れる。

 それを、二人分。


 エリは、黙々と作業をするユウトの手が止まったところで声をかけた。


「ユウト、ここでは何をやったの?」


 振り向きながら、ユウトは親指を立てた。

 その内容を聞いて、落ち着いていたエリもさすがに驚く。


「瞬間移動を有効にした。恐らく印のある場所なら、僕達は全ての場所に移動できるよ」


 それは、まさに反則チートといえる改造だった。

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