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28.エリは、二つ目の目的を持つ

無事通り過ぎた、良かった……!

 エリの発言に、身を乗り出すユウト。


「ワレリーの一部始終……!」

「そう。一応出て行って一分ぐらい経ってるし、私の魔法の索敵からも離れてるから大丈夫だと思う」


 ユウトはエリに続きを促そうと思ったが、その前にエリから顔を触れられる。

 何事かと思っていると、心配そうな顔つきで顔や身体を触られた。温かく柔らかな感触に、なんともくすぐったさを感じて照れる。


「ど、どうしたの?」

「……うん、ブレッシングを使ったから、それの後遺症はなさそうかなって」

「あ、そっか……ワレリーの使った魔法は、眠らせる魔法だったから……。僕は見ての通り、なんともないよ。大丈夫」

「よかった……」


 エリはほっと一安心すると、ユウトの頭を撫でた。

 そして……自分が何をやったか気づいて慌てて手を離した。


「ごっ……ごめんなさい! 子供みたいに頭を撫でて……! うう……ついにやらかしてしまった……」

「あ、確かに今撫でられたね。ちょっと驚いたよ……別に嫌じゃないけど」

「……ユウトは、好きでこんなに小さくなったわけじゃないのに」

「ついにってことは、前からやりそうになってたんだよね」

「……うん」


 エリは、さすがに今回ばかりは失礼だったと思った。

 エリの中で、ユウトを抱きしめたり背負ったりすることはあっても、子供扱いというわけではない。エリの中にははっきりと境界線があるのだ。

 頭を撫でるのは、親愛や恋愛感情とは違うものだと認識していた。それが故に、自分の行動を後悔していた。


 しかしユウトは、あっさりエリの気持ちをひっくり返す。


「でも頭を撫でるのとか今更だよね?」

「えっ」

「えっ」


 なんとも間抜けなやりとりをやって、ユウトは「あ、そっか」手をぽんと叩いた。


「エリって、朝弱いよね」

「う、うん……」

「ってことは、ここずーっと毎朝、僕の頭を撫でたりぽんぽん叩いたりしてるのも、きれいさっぱり覚えてないんだね?」


 ぴしり、とエリは石化した。

 ユウトの顔を見たまま、指一つ動かせないまま頭の中だけが高速回転する。


(……待って、待って? 今ユウト何て言った? 毎朝、頭を撫でたり? ぽんぽんしたり……ぽんぽんしたりって、それ、ユウ兄ぃ人形にやって……あ、あああああああああーーーーっ!)


 エリは、思い出した。

 抱き枕(実際には抱き枕ではなくユウトに似たぬいぐるみ)を抱いていないと眠れないからという理由で、ユウトをぬいぐるみと同じように扱っているのだ。

 だから当然、寝起き直後にぬいぐるみと同じようなことをユウトにやっていたのだとすぐに理解した。


「あ、一応先に言っておくけど、嫌じゃないからね」

「……え?」

「確かに、その、エリの……胸に、埋まる、のよりは、えっちじゃないんだけど、それ以上に気にするの分かるよ。子供扱いだもんね。でもまあ……仕方ないというか、実際完全に周りから子供か妹だという目で見られてたというか……」


 エリのパニックしていた思考が、ゆっくりと平常運転となり、冷静さとともに意味をしっかりと理解していく。

 ユウトは、年下の女の子に子供扱いされることを、受け入れた。


「……許してくれるの? 本当に?」

「いいよ。むしろエリこそ、格好良さのかけらもない、いとこの兄としては終わっちゃってる僕に失望しないかなーなんて——」

「しないよっ! プライドだけ高くていじけてたりする人より、全部受け入れてくれるユウトの方が百倍かっこいいもん!」


 エリは、強めにユウトの言葉を否定した。

 それに対して、「エリは優しいね」と目を細めて笑うユウト。


 エリは以前、クラスメイトの男子の身長を抜いたときに、避けられたことに対して傷ついていた。

 しかしユウトは、自分の身長を追い抜いたとしても、嫌なことは絶対にないと言い切ってくれた。


 それから余裕が出てきて、思ったのだ。

 どうして女子が男子を抜くと、あんなに嫌そうな顔をするのかということに。女性が、男性より優秀なだけで不満を噴出させる人の話を思い出して、嫌な顔になった。


 それに引き換え、ユウトは何もかもが違う。

 まず、クラスの男子とは比較にならないぐらいにエリより小さい。力も弱いし、恐らくレベルと種族を見たときは嫉妬をしていた。

 その上でエリの全てを受け入れてくれるし、優秀さを褒めてくれる。ともすれば、このままではヒモである。しかしユウトはエリを何度も知識面で助けてくれる上、普通に剣で戦うこともできるのだ。しかもレベルと種族を忘れるほど、信じられないぐらい強い。

 エリに任せっきりにした方が早くても、自分でできるならやってしまう。その上で、ちゃんとエリを尊重して任せるところを任せてくれる。その匙加減が、絶妙だった。


 年下の自分に子供扱いされても、受け入れてくれる。

 活躍する年上の男性としては、異例すぎる寛容さ。


 それが故に、エリはこう思った。

 ——ああ、かっこいいとは、こういうことなのだ、と。


(……まっずいなあ。年一で会う度に好きになってたけど、こんな長期間一緒に二人きりになることがなかったから、ユウトのことまだまだ侮ってた。クラスメイトの駄目な部分、全部ユウトは完璧だもん。比較にならないよ。なんでモテてないのか理解できないよ)


 ユウトの新しい面をいくつも知って、その全てがエリにとって最上の対応だった。ユウトは、ずっと好きだったユウトのまま、変わらない。


 エリは、ひとつの決心をする。


(この世界から帰る直前に、伝えよう。私の気持ちを)


 この世界での目的、その二つ目が出来た。

 クリアすれば気持ちを伝えるというのは、言い直せば『クリアできない限り、この気持ちを伝えることはない』ということ。

 エリはそのことをはっきり決めると、自分の中でゲームクリアという目標の優先度が一段階上のステージに上がったのをはっきり意識した。


「ユウト、眠る直前も私を助けてくれてありがとね」

「どうしたしまして。エリこそ魔法を使ってくれて助かったよ」

「うん」


 エリは最後に、確かめるようにユウトの横髪を優しく撫でた。

 そして気合いを入れると、壁に向かって歩き出す。


「ワレリーに襲いかかるのは、ユウトにとっても未知数だし今はナシとして。これだよ」


 エリは壁のリモコンらしきものを手に取ると、操作をする。


「確か……これだったはず」


 薄目を開けて、ワレリーの動きをしっかり目で追っていた。

それ故に、エリはワレリーの全ての動きを把握している。


 エリが操作すると、正面にある壁が下へとスライドする。


「これは……!」

「そう、これが私が見たものだよ。ほんとに……なんだろうね、ここ」


 ユウトは、壁の中を歩いた。


 魔王の墓というマップの、最下層。

 周りはただの地中でしかないはずだった。


「……完全に、全く違う世界観の場所だ……!」


 その道の先は、明らかに近未来に脚を突っ込んだ内装をしていた。

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