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27.ワレリーの謎と、ユウトの判断

 ワレリー。

 ユウトとエリの旅先で、何度もその影を感じる謎の男。

 その男が、すぐ目の前にいる。


 高低差のないフロアで、バスケットコートを広げた程度の広さの地下ボス部屋。

 その正方形の静かな部屋で、ワレリーと対峙している。

 緊張するなという方が無理であった。


 しかしユウトは、ワレリーの言葉を聞いた瞬間、エリの服を勢いよく引っ張った。


「——えっ、ユウト?」


 ユウトはワレリーに顔が見えないように、エリの正面に回りしがみつく。


「ふむ、何か怖がらせてしまったかな?」


 ワレリーの声を聞きながらも、エリはユウトが服を引っ張るのを真っ先に気にする。ちょうどユウトは胸の下になり、エリの顔が見えない。そこでエリはしゃがみ込んで、ユウトに顔を近づけた。

 そこからユウトが前に出たことで、エリの顔と近くになる。

 唇でも触れかねないぐらいの、至近距離。その急な展開にエリは、顔を真っ赤にして視線をそらせていると————


「(知らないフリをして)」


————ユウトが、無声音で呟いた。


 そのメッセージに瞠目し、すぐに目を普段の状態に戻す。

 表情を確認するとユウトはエリの後ろに再び回り込み、まるで怯える子供そのもののように、エリの後ろへと隠れた。


 エリは、相手に不自然のないような会話になるよう、パターンを構築する。


「……ええっと……どこかで、お会いになりましたか? もしかして、ボスを討伐してくれていたのでしょうか」

「オーガストフレムで、すれ違った程度だよ。ボス討伐をしにきたわけではない……と言いたいところだが、結果的にはそうなったか」


 ワレリーは、ボスの消えた辺りに落ちた、光る石を見つめる。

 ユウトはその姿を見た瞬間、一気に背中に冷たいものが走った。


(あれは、『太陽石』! クリア必須アイテム!)


 ユウトは、エリに攻めさせるべきかどうか迷っていた。

 ワレリーの近くにある以上、うかつに手を出すわけにはいかない。しかしあれがなければ、詰んでしまうのだ。


 間違いなくワレリーは、あの石を奪うことを目的に動いている。

 ……と思っていたのだが。


「これではない」


 ワレリーは、興味なさそうに視線を外し、奥の方へと歩いていった。

 その姿を見て、ユウトはすぐに、太陽石のところまで近づく。

 そしてインベントリの中へとしまい込んだ。


 ワレリーは、その動きの一部始終を見ていた。


「君は、今、ずいぶんと積極的に動いたな」

「……不要そうな感じでしたから。綺麗だから、ほしいなと」

「まあ、構わんよ」


 ワレリーは本当に興味なさそうに、ユウトから視線を外すと部屋の奥に行く。


(行き止まりのはずだ)


 ユウトはワレリーが、ボス部屋の奥の壁に歩いていくのを見ている。

 凹凸のある壁の模様を、握ったり押したりしている。

 ゲームでは、このあたりのマップもユウトやユウト以外の数々のプレイヤー達が、全て壁沿いに歩きながらボタンを押すという、デバッガーのようなことをやって調べている。

 だからユウトは、このあたりにゲームでは何も実装されていないことを知っていた。


 しかし……次の瞬間、衝撃に目を見開いた。


 ワレリーは、壁の石を一つ握った。そして、何か重いものを引き摺ったような音が聞こえてきた。壁の一部が、引き抜かれたのだ。

 ユウトにとって、全く知らない要素。ワレリーは壁の一部を引き抜くと、その引き抜かれたいしの側面に、何か近代的なボタンが配置されてある。

 それは、PC機器のようで……ピラミッドの最下層のようなマップには、あまりにも不釣りあいなものであった。


 ワレリーは、驚く二人を見て口角を上げる。


「さて、ここから先は見せるわけにはいかないのでね。君たちはここまでだ」


 ユウトは、ワレリーが動いた瞬間に、エリの正面に回ってしがみついた。

 エリも、何かユウトが喋ろうとしているのだと瞬時に判断し、ユウトに顔を近づける。


「(効いたふり……を……)」


 ユウトは急に頭をわしづかみにされたような睡魔に殴られて、意識を保っていられなくなり、エリの方へと倒れ込む。

 言いたいことは伝わっただろうか。

 ユウトはそう思いながらも、エリの柔らかな感触による暴力的なまでの安心感との相乗効果によって、一気に身体から力が抜ける。

 手足が動かない状態で、呼吸をして……そのまま意識を失った。




 ……ウト、ユウト……。


 近くから聞こえる声と、身体を揺すられる感触に、ユウトは眠りから覚醒した。


「……ふぁ……」

「起きた……。ほんとに、よく眠ってたね」

「……エリ……。……っ!」


 ユウトは、眠る瞬間に見ていた光景を思い出して、辺りを見る。

 そこは既に、何もないボス部屋。

 すっかり見慣れた、特徴のない四角いマップだった。


 ユウトが慌てているところで、エリはユウトの肩に両手を置く。

 エリは、真剣な顔でユウトに言った。


「ワレリーだよね。……私、一部始終、全部見たよ」

私の住所チーバくんの鼻先なので、次更新できなかった時はお察しください……。

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