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26.数々の罠と宝と、衝撃の最下層

 ナスタレアの陵の地下から更に下の階段へと降りると、ユウトはまず、十字路の地面に立つ。

 そこで数秒待つと、再び登りの階段へとエリと一緒に戻る。


「行くんじゃないの?」

「行くよ。でも……見てて」


 エリは、階段を十段ほど上がって振り返り、下を向きながら耳を塞ぐユウトを真似……しようと思って、頭の上から生えている耳をぺたんと下に倒した。

 一体何が起こるのかと待っていると――――!


 ――――ドォン!


 大きな音と、座り込んだ自分の身体への振動。

 何が起こったかなんて一目瞭然だった。


 鉄球だ。階段のすぐ下に、直径三メートルほどの大きな鉄球がぶつかってきたのだ。

 その鉄球は階段への道とはサイズが合わないから、勢いを大きく殺して跳ね返り、やがて向こう側へと戻っていく。

 エリはその轟音と衝撃を肌で感じて、耳から手を離してこちらを見たユウトと目を合わせた。


(……ほんと、ユウトがいないととても攻略できないよぉ……)


 エリにとって、この手のトラップダンジョンはまさに天敵である。

 元々そこまでアクションゲームをやっていないので、一体どこから罠が来るか全く分からないのだ。

 反面ユウトは、初プレイでもそれなりに罠を回避するだけの知識の下地がある上で、マップの罠を暗記していた。


 その当のユウトは、そんな罠よりも気になるところがあった。


「……エリって、えーっと、まあその、元人間のエリだよね?」

「な、なに? そりゃそーだよ……?」


 ユウトは、自分の頭に手を乗せて首を傾げた


「やっぱり、その耳から音が聞こえてるんだよね。不思議な感じだなあって」

「ああー……」


 ちょうどその行為で不慣れに間違いながらやっていたところだった。


「確かにここから聞こえるよ。正面は遠くまで聞こえるけど、後ろはあんまり聞こえないんだよね。不思議な感じ」

「なるほどなあ。本格的に、フェンリルヒュム……狼人間の感覚になっているんだね」

「うん。ユウトはどう? ハービットンって人間と違う?」

「人間の子供よりは身体能力が高いってことぐらいは分かるけど、あとは完全に人間だね。もしも人間だって自己申告したら、多分分からないんじゃないかなあ」


 ユウトの感覚からしても、本当に小さい人間という感覚だった。体型がドワーフのように太めになったりといった要素もなく、ひたすらに小さい人間。それがハービットンという種族だった。


「それじゃ、進んでいこう。あの鉄球は二個目は来ないはずだから大丈夫だよ」


 エリは、ユウトが言うのなら大丈夫だろうと頷いて、ユウトの後ろについて階段を降りた。

 その先も、地面から槍が出てきたり、突然壁が迫ってきたり、天井が降りてきたり、檻が閉まったり。

 そういった罠を、ユウトは丁寧に一つずつ、先に発動させて無効化している。


 ゲームでも、一度発動した罠は、場所移動か、もしくは『ゲームオーバー=死に戻り』でもしない限りは、そのプレイ中なら二度と発動しない。

 同時にユウトは、場所移動したところで境界線があるわけでもないし、場所移動で罠が復活するということが『自分だけがプレイヤー視点』という不自然な事態になるため有り得ないと判断した。


 つまり、一度発動してしまえば半永久的に発動しない可能性大。

 そのため、ユウトは積極的に罠を避ける方向ではなく、発動させる方向で進んでいっていた。

 自分が行けない場所には、『爆発小樽』を投げ込んで。そして檻が閉まった場所には、エリの持つ『ザガルヴルゴスの呪縛槌』で叩き壊してもらった。


「エリの力の前だと、檻とかも破壊できるんだからすごいなあ。ゲームだと当然、マップを壊すとか掘るとか、できないからね」

「そうなんだ……ってそりゃそっか」

「確かに、鉄の鎧の兵士を一撃で倒せる戦士が、土の壁すら掘ることができないって変なんだけど、まあゲームだからね」


 ユウトは、エリによって破壊された罠の檻をくぐり、部屋の中心にある宝箱へと脚を進める。

 エリは堂々と鎮座する綺麗な宝箱にわくわくしながら、蓋が重そうだし開けるぐらいはやってもいいかな? なんて思っていたが、結局これもユウトのおかげだと彼に譲った。

 そのユウトは、宝箱を避けて歩き、後ろ側へ回った。

 そしてその宝箱に向かって……思いっきり蹴りを入れた!


 エリが驚くのを余所に、宝箱の口が開いた。その瞬間、中から勢いよく鉄の矢が射出されて、壁を少し削るほどの威力でぶつかって地面に落ちる。


「毒霧とかと比べて、この手の罠は対処しやすいからいいよね」


 そんなことない、とエリは顔面真っ青でユウトの後ろ姿を見ていた。

 調子に乗っていたら、胸の中心にあの壁を削るほどの金属の矢が刺さっていたかもしれないのだ。そんな恐ろしい宝箱の罠も、ユウトにとってみれば『対処しやすい部類』でしかない。

 心から、ユウトがパートナーで良かったと……同時に、出しゃばらなくて助かったと思った。


「ここにあるのは、上位装備である『司教のタリスマン』……ん?」


 ユウトはその黒いタリスマンを見て、違和感を覚えた。

 白教会の白魔法にあわせて、タリスマンの系統は基本的に白なのだ。

 だから、目の前の装備品が明らかに別の何かであることを悟り、インベントリに仕舞うと再び説明を出した。


「……『異教のタリスマン』……これも、知らない装備だ。エリ、取っておいてくれる?」

「いいの?」

「僕じゃ使えないからね。それに、装備条件も厳しいかもしれないから」

「わかった!」


 エリは黒いタリスマンを手に取ると、自分のインベントリに仕舞って、何度か左手で出したり収納したりを繰り返した。


「これで、このナスタレアの陵の宝箱は全部……だったはず」

「そうなんだね。じゃあ次は……」

「本命のボスだよ」

「じゃあ、私の出番だね!」


 エリは両手を握って気合いを入れ、ユウトも頷いた。

 ユウトはエリに、この場所にいるボスのことを、動きも合わせて説明した。

 何度か復習して、エリはそのボスの動きを暗記したとユウトも判断した。




 それからマップを順調に進んでいき、更に階段の下へと降り立つと、そこはこのナスタレアの陵の最下層。

 目の前に広がる大きな扉こそが、このマップの終点であり、ボス部屋だ。


「この先にいるんだね?」

「そうだよ。……それじゃあエリ、お願いしてもいいかな」

「任せて!」


 このマップでは、既に先日の大反乱で敵を全部倒してしまったため、エリの出番は全くなかった。

 だからボスはせめて、思いっきり活躍して倒そうと心に決めていた。


 エリは槍を手に、扉を開く。

 そしてその扉の先には――――


 ――――既に倒れているボスと、近くに立つ男。


「……え?」


 エリの声が、静かな空間に響く。

 ボスが光って消えた瞬間、男が振り返った。


「……ほう、久しぶりだ。といっても、君たちは私のことを覚えていないだろうが」


 そこには、オーガストフレムで見た顔。

 各地で暗躍する元凶、ワレリーがいた。

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