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6.無邪気な従妹はダイナマイトボディ

 考えることは多いが、まずは先に進むことをユウトは優先した。

 その前に、床に投げ捨てられた剣を見てエリのほうを向く。

 

「エリ、剣は拾っておくんだよ」

「え、でももう持てないよ?」

「アイテムの収納を使えば……って、立て看板読まなかったの?」

「え……えへへ、全然……」


 元々エリは説明書を読まない性格だろうとユウトも思っていたが、まさかこの世界に来て戦い方の参考になりそうなものを、全く読まずに来るとは思っていなかった。


「な、なんか攻撃にR1とかよくわかんないことが書いてたから、全部無視しちゃって……」

「あれコントローラーに割り当てられたボタンの名前なんだけど」

「あ、やっぱりコントローラーのボタンのことだったんだ」


 言われてみると確かに、実際に自分で自分を動かす身体に転生してみたら、コントローラーの操作は何の意味もない。

 そう思ったユウトは一通りの攻撃の振りなどをエリに説明すると、次はユウトが【インベントリ】を実際に見せた方が早いと思った。


 インベントリ。

 それは、所持したものをリストアップする、プレイヤーの道具管理システムのことである。

 プレイヤーは持ちきれない道具を、常にインベントリの中に収納することで、アイテムの回収をしている。


 ゲームにおいてアイテムの限界数などというものはあまり考慮されることがない。

 所持道具の重量によって主人公の動作が遅くなるゲームも昔はあった。それ自体はリアルではあったのだが、果たしてそれが面白いかと言われると、難しいものがあった。

 重いレアアイテムを拾うと自分の道具袋から売れるアイテムでさえ捨てなければならないわけで、それを気持ちの良いプレイ感とは言い難かったものがある。


「ちょっと僕が試してみるよ」

「お願いします先生!」

「よく覚えておくんだよ生徒君。それでは……【インベントリ】」


 ややおちゃらけたやり取りをした後、ユウトがそれを呟いた瞬間、自分の正面にゲーム画面と同じパネルが出てくる。


「うわーっ、なにそれすっごい!」

「この中にアイテムを入れられるはずだよ。恐らく、こうやれば……」


 手元に開いた画面を見ながら、ショートソードを拾うと空欄に剣が現れる。そこをスライド操作すると、手元の剣が消えて、空欄の枠の色が変わった。


「こうやって、押して右だと右手……スマホで文字入力する要領で収納していくんだ。なんでもかんでも拾っていく必要はないけど、一通りのアイテムを網羅しておいた方がいいはずだよ」

「わかりました先生っ!」


 素直に返事をするエリにユウトは苦笑し、今しまったばかりの剣を取り出して渡す。エリは「【インベントリ】! うおおっ!」と歓声を上げながら、道具の整理を始めた。

 ユウトはその姿を見ながら、エリの全身を観察する。


 上半身は袖のない衣服に包まれており、防御力としては少し心許ないぐらいであった。下半身はショートパンツで、白く輝く肌がすらりとブーツまで伸びている。

 健康的な色気にくらくらするし、何より……。


(こ、こんなに体格差があるものなのか……?)


 体に密着している布地は胸までで止まっており、胸とショートパンツの間には素肌がある。

 そこには獣の亜人特有の、しなやかな筋肉を表す縦のラインが正面にある。

 ユウトの目線にあるのが、エリのお腹。ハービットンと、エリの転生した亜人の身長差は、あまりにも大きかった。


「よしできた! ん、ユウ兄ぃ?」

「あ、ああいや! 何でもないよ!」


 エリの身体に見とれていたなんて気付かれたら、恥ずかしくてたまらない。慌てて身体ごと反対を向いたユウト。

 そんな彼に対し、エリの口元は我慢できないぐらい緩んでいた。


(ユウ兄ぃ、かわいすぎる……!)


 元々小さい子が好きというエリにとって、今のユウトの姿はあまりにも好みに合致していた。

 ユウトは目を合わせる一瞬、こちらの身体を見ていたように思う。

 先ほども、ユウトをからかい半分に試すようで申し訳なく思いつつも、わざと胸が揺れるように膝を突いてみた。一瞬だが視線が動いたのを確認した。大きい胸も、きっと人並みに興味があると予測した。


 それらを極力見ないようにしているユウトのいじらしさは、頼りになる年上の男性とは違う、エリにとって初めて見る健全な男子としての姿だった。

 あのいつも真面目で余裕のある従兄ユウトが、自分を見て顔を真っ赤にしているという事実は、エリの胸を甘く締め付けていた。


(ユウ兄ぃが、めちゃめちゃ私を意識してくれてるっ……! こ、このまま勢いでメロメロに……は、むしろデカすぎて引かれちゃうかなあ?)


 当のエリは、そんなことを考えていた。

 エリ自身は、当然のことながら自身の顔を見たことがない。自分の全貌を客観的に見られない上あまりにも大きくなりすぎたからか、いまひとつ自信の決定打に欠けるものがあった。

 もちろん杞憂もいいところである。


 そんなエリの内面など露知らず、ユウトはエリのことを意識しまくっていた。


(……無邪気な女の子がダイナマイトボディになるのが、ここまで凶悪だったなんて……。さっきから可愛いって言われてるけど、男としてはその『好き』は素直に喜べないよなあ……)


 ユウトはユウトで自分の顔を見たことがない。

 2メートルほどもありそうな女性が、小学校低学年程度の身の丈の自分に対してどういう感情を抱くかを想像し、当然子供か園児扱いだろうと結論づけてがっくりしていた。

 こちらも杞憂もいいところである。


 二人の認識は、お互い微妙にすれ違っていた。




 少し気持ちも落ち着いたところで、ユウトは再び部屋を見渡す。

 ボスのいないチュートリアルステージのボス部屋は、日本一のプレイヤーでさえ初めてだった。


「……そういや、チュートリアルボスを倒してしまった場合、どうなるんだろう?」

「ちゅーとりあるぼす?」

「さっきのボスのこと。魔王四天王で一番強い暴力呪術師ザガルヴルゴスだよ。チュートリアルであいつにやられて、ゲームではその直後に操作方法の最後にゲームオーバーの感覚を覚えて話が始まるんだよ」

「あ、妙に強いと思ったら倒せるようなボスじゃないんだ。さっきまでのちっちゃいやつと骨に比べて明らかに強いと思ったもん」

「勝てないよあんなの。……エリは、僕と違って初めてで勝っちゃったけどね……」


 少し顔を逸らして卑屈気味に呟いたユウトに対して、エリは明るく返した。


「全部ユウ兄ぃのおかげだよ! 杖からどーん! ってしたやつ、知らなかったら私も絶対壁に埋まっちゃってたし、ほんとにありがとね!」

「……そうか、そうだね。うん、こちらこそ僕の代わりに倒してくれてありがとう」


 嫌味に感じるかもしれない言い方をしたユウトに対して、真っ直ぐなお礼をエリに言われて、ユウトはすっかり毒気が抜かれた。

 こういう時に弱い自分を馬鹿にしてきたりしないエリのことを、ユウトは改めて爽やかでいい子だと感じていた。


「エリの強さ、頼りにしてるよ」

「……! うんっ、どんどん頼ってね!」


 エリは驚いたように目を見開いたと思ったら、花開くような笑顔で返事をした。

 そして胸を張って、片手は腰に、もう片手で自分の胸をいつものようにどんと叩いた――つもりが、豊かな乳肉を自分の手でばるんと大きく揺らしただけだった――姿に、ユウトは視線を惑わせて顔を赤くしながら横を向く。

 エリもユウトの反応を見て、さっきの行為が自分で自分のおっぱいを揺らしただけだったことに気付いて、とんでもなく恥ずかしい行動をしたと気付いて照れた。


「あ、あはは……この体に慣れないとなあ。靴とか見えないし履きづらそうだし、ベルトは絶対自分じゃ締められないよ」

「そうなんだ。ベルト、赤い革に金の刺繍が入っていてお洒落だよ」

「え、そうなの見てみたい! う、うっ……み、見えないっ……! もーっ、胸大きすぎるとこんなに不便なんて思わなかったよぉ!」


 エリは腰を曲げたりしながら自分のお腹をのぞき込むも、ついに諦めてがっくりうなだれた。

 割と本気で困ってそうな従妹の姿に、あれはあれで大変なんだろうなーと思いながらユウトは再び部屋を見渡した。


 この広い部屋はゲームシステム上はボス部屋であっても、別に行き止まりの闘技場ではない。

 ユウトの視線の先。そこには、来た方角とは逆の場所にある、金属の扉。

 チュートリアルボスを倒さなければ開かない……つまり、未だに誰も開けたことがない扉だ。


 データ改造で開けた人もいたものの、向こう側は窓から見える背景があるだけの、何の3Dデータもない場所であったし、それは当然のことだった。

 この場所のボス、暴力呪術師ザガルヴルゴスに勝てるプレイヤーなどいない。そして周回プレイでも、二週目でチュートリアルステージに戻ってくることは有り得ない。

 故に、開発者が何のデータも用意していない扉。


 ユウトはその扉を、ゲームのダウンロードコンテンツの追加ステージを買った日のような期待と、未知のステージで死に覚えゲームに挑む緊張を胸にしながら見つめていた。

ユウトは130cm

エリは200cm

ぐらいを想定しています

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