25.ナスタレアの陵と、未知の要素
ユウトとエリは、数日ぶりの遺跡もとい『ナスタレアの陵』へとやってきた。
昨日デーモンを全て討伐できたことで、辺り一帯はすっかり魔物がいなくなっていた。
「いやー、まさか各族長があれだけ倒してくれるなんて、元々攻略するつもりの身としてはちょっと得した気分かな?」
ユウトは、開いたままでありながら全く魔物が出る気配のないナスタレアの陵の正門より、地下階段へと足を踏み入れる。
「族長さんたち、すごかったね。サラセナ様とか、シャティナみたいな弓を使うかなって思ってたんだけど」
「まさか大弓使いとはね。あれ受けると盾を構えていても吹き飛ばされるから敵に回すと厄介だよ」
「そんなに?」
「……まあ、ゲームでは、細い梁の上で前後左右からあれが飛んできたからね……防御したら落下するし、駆け足で綱渡りしてる感覚だったよ……」
「よくクリアしたねそれ……」
ユウトはサラセナの勇姿にちょっとしたトラウマを思い出しながら、階段を降りていく。
「ユウト、私が前に出るね」
「あっ、ここは僕が前に出るよ。このマップに関してはエリが先導して歩くべきじゃないから」
「……なんで?」
エリの疑問の声を受けて、ユウトは振り返り右手を出す。
首を傾げながらも立ち止まったエリを見て、ユウトは少し進んだ先の床を見る。
そして、一歩踏み出したと思った瞬間に、何故か勢いよくバックステップエリのとこまで戻ってくる。
エリはその行為に驚いた瞬間、なにか堅いものが当たったような音が響きわたり、反射的に正面に目を向ける。
ちょうど音のしたところに続いて四度、針のようなものが壁に当たり火花を散らしていた。
「……ユウト、まさかここって」
「そう。ナスタレアの陵は魔王の墓。ここは墓地とか古墳とか、そういう魔王の墓というよりは……」
ユウトが、カシャカシャと床のボタンを踏みつけて、もう罠が作動しないことを確認する。
そのまま針が出てきたあたりの壁に指をかけて、まるで舞台裏を覗くように壁の裏を見る。
そこにあった小さな箱を開いて、アイテムに触れた瞬間にインベントリへと回収した。
「ファラオのピラミッド。忍者屋敷であり宝物庫なんだよね」
その気負いのない姿を見て、エリはユウトに先頭を任せようと思った。
——ほんの少し、かっこいいユウトを後ろから眺めたいという欲もあったのは秘密である。
それからユウトは、敵のいなくなったナスタレアの陵を悠々と歩いていった。
途中罠があるところではエリを止め、壁に隠し通路があるところは全て壊して進む。
様々な場所に隠されているアイテムを、次から次へと取得していくユウト。その姿は、さすがやりこんだユーザーであった。
いくつかのアイテムのうち、ユウトが使えなさそうなものや、エリの方が向いてそうなものは、エリが取得していた。
「刀とかあるんだ……」
「一応この世界にもそういう武器はあるよ。はっきりと日本があるわけじゃないけど、そういう見た目の敵もいないこともないし」
「そうなんだ、忍者とかも?」
「忍者はいないかなあ……手裏剣みたいな装備や道具もなかったし」
なんとも曖昧な世界観であったが、エリは初めて手に持った刀の綺麗な波紋を見つつ、インベントリに仕舞う。
「なになに……『髪切焰紋藤枝』? 不思議な名前だね」
エリは、なんとなくアイテムの名前を読んだ。
しかしその瞬間……ユウトは目を見開いて、エリに詰め寄る。
「な、何て……!?」
「えっ、ユウト?」
「今、そのカタナをなんて読んだの!?」
あまり見たことのない焦りように、エリは再び右手にカタナを出して、ユウトに渡す。
ユウトも自分でそのカタナを両手で持ちながら、インベントリに仕舞ってアイテムを見る。
それからユウトは、口で「【インベントリ】」と言って画面を出した。
そのまま指を伸ばし、アイテムを押す。
押されたアイテムが光り、数秒経過すると——画面が変わる。
「わっ!? な、なにこれ!」
「必要ないかなと思って教えていなかったけど、装備の詳細な説明……というより、その装備における物語みたいなものがあるんだよ」
「へ、へえ……全部の装備にあるんだ」
「そう」
エリは、ユウトの隣に顔を近づけて画面をのぞき込む。
そして中の文面を読んで……ようやく、ユウトが不思議な反応をした理由を理解した。
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髪切焰紋藤枝
異国の刀鍛冶、藤堂藤枝が打った刀身四尺の大太刀。
刀好きの少女は、その気持ちを変えぬまま大人になり、やがて一人で刀を打つまでの若き巨匠となった。
異端とされた女の作る刀はまた異端であり、焰の波紋を持つ刀は魔性を宿し、炎の力を持つようになる。その力は他の刀と比べるべくもない。
恐怖か、それとも醜き嫉妬か——女そのものが魔性のものとされ、集落で女自身の作りし刀によって理不尽に処刑された。
藤枝の残した刀は、神をも切るとさえいわれている。
その特別な力を内包せし武器は、転生を選びし旅人の手助けとなる。
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「……ユウト、この武器って」
「そう。ここにあるのは『大太刀』という名前のない武器だったはずなんだ。僕もそれのつもりで手渡したんだけど……」
エリは、ユウトの濁した言葉を察して、文面の最後を見る。
————転生を選びし旅人の手助けとなる。
間違いなく、自分たちのような『Reincarnation』を選んだプレイヤーに向けた武器だ。
「こんな装備、見たことがない。というか、『アイテムコンプリート』のゴールドトロフィーを獲得しているから、僕が知らないということは、実装されていない装備なんだ」
その事実は、ユウトにとって驚きと同時に、好奇心と恐怖心に襲われるほどのものだった。
ユウトは全ての知識をつけたが故の最弱転生。
エリは知識が一切ないが故の最強転生だ。
だから、ユウトから知識のアドバンテージがなくなると、当然のことながら一気に役に立てなくなる。
とても対等な関係ではいられないのだ——
——などと思っているのはユウトばかり。
エリはユウトの複雑な表情を見て、そんな気持ちを察することが出来ないわけがない。
元々優秀なのに加えて、人の機微に聡く、その上でユウトのことを何よりも最優先して考えているのだ。
エリは、ユウトから刀を受け取る。
そして再び鞘から刀身を出すと、今度は空中に向かって勢いよく振る。
その瞬間、確かに炎の帯が刀の通り道に広がった。
「ユウトのおかげだよ、この武器が見つかったのは」
「……え?」
「ユウトがいないと、私はこの、明らかに掛詞で神を殺せる特別な刀を手に入れることができなかった。隠し通路なんて、わからないから」
「エリ……」
「だから、ユウト。私を導いて。今でさえ、ユウトのおかげでどんな敵でも楽勝だから、もっともっと私を導いてね。私、まだまだだけど頑張って追いかけるから!」
エリの言葉は、お願いであり……ユウトへの激励だった。
ユウトも、そんなエリの気持ちを察することが出来た。
現実世界でも、背丈も成績も追い抜かれるであろう年下の女の子。
だけど、そんな子がいつも自分をこんなに慕ってくれている。
こんなに最強転生しても、自分を追いかけると言ってくれたのだ。
これ以上情けないところは見せられない。
そうユウトは強く思った。
「……ありがとう。そうだね、どんどん先に進んでエリを導くよ。分からないこと、なんでも僕を頼ってね」
「うんっ!」
「……なんだかエリには、いろいろと救われてばっかりだなあ」
ユウトは照れ笑いしながら、顔を隠すように進行方向を向いて歩き出す。
その背中を見ながら、エリは呟く。
「……救われてばかりなのも、私の方なんだからね……」
その呟きはあまりに小さくユウトには聞こえなかったが、エリは自分の呟きを、ユウトの言葉とセットにして、心の額縁にしっかりと飾った。
二人は再び、ナスタレアの陵を進んでいく。




