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24.ユウトは相手の謎を考える

 ジュライミストの広場には、今エルフとウルフヒュムの主要な者が集まっている。

 ヤルクとユンの二人は、フォックスヒュムの代表としてこの場にいる形だ。


 エリに肩車をされて、高い位置からユウトが村の皆を見る。

 ……少し恥ずかしそうな顔をしているのに、周りの皆は気づかないフリをしていた。

 知らぬは当のエリ本人だけである。


「ええーっと……あっ、聞き取りづらい、ですか? わかりました。……皆さん! 集まってもらったのは他でもありません、この魔族が襲ってきた原因についてお話しします!」


 ユウトの宣言に騒然となったが、ガイアが手を叩きながら「まずは聞け! 俺も知らねえんだからよ!」と大声で叫び、静まったところでユウトを見て頷き先を促す。

 こういう時には、この大柄で豪胆な男が非常に頼りになった。


「ありがとうございます。相手は恐らく、人間の男! いえ、人間かどうか保証はできませんが……とにかく、その男にオーガストフレムは一度滅ぼされかけました!」


 再び声が湧き上がるも、今度はすぐに皆静まった。

 皆が思っていたよりも大きな事態に、その先が聞きたいのだ。


「結果的にオーガストフレムは、エリの活躍によってゴーレムが瞬殺され、ヘンリー・オーガストフレム様も怪我なく無事ですが——」

「ユウトの活躍もすごかったからね!」

「——そ、そうだったね! 僕とエリで、街を襲う二体のゴーレムを倒しました! その巨人を召喚したのはとあるオーダーギルドメンバーでしたが、その彼に呪いをかけたであろう人物が、ワレリーという男です!」


 集まった皆が、口々にワレリー、という呟きをする。

 その中で……一人、頭を抱えてうずくまる人がいた。

 ユウトは自分の太ももを握っているエリの手を二度叩き、手が離れたところで飛び上がり叫ぶ。


「エリ! 受付さんだ! 右の奥にいる!」

「ッ!? 大変……!」 わかった!」


 エリは受付の女性のところまで走り、左手を胸のところに持ってきて叫んだ。


「【ブレッシング】!」


 解呪の魔法を叫び、受付の女性が気絶したところで回復魔法を重ねて使い、優しく揺すって女性を起こす。

 その姿を見ながら、ユウトはエリに近づきつつ違和感を覚えた。


(ワレリーという名前を聞いて、気絶した。僕も、エリに解呪してもらった)


 そしてユウトは、その違和感の正体に気づく。


(……ワレリーって、なんでわざわざ名前を伝えてるんだ? こんだけ共通してるのなら偽名である可能性が下がるけど、じゃあ本名を教えることに、何か意味があるのか?)


 その結論に近づくにつれて、ユウトは得体の知れない相手の不透明さにだんだんと不安になっていく。

 ワレリーという男の、あの不健康そうな見た目と、何を目的としているのか分からない行為。更には記憶改竄や感情操作をしてしまえるほどの圧倒的な呪術。


 そして同時に……そんな得体の知れない男と自分がすれ違ったという事実。

 それこそが、最もユウトの背筋を凍らせたものだった。


(エリがいなかったら、本当に詰んでた。僕一人が強くなっても、絶対に無理だった)


 エリは、最初からワレリーの呪術が効いていないようだった。

 相手の容姿も名前も、全く忘れていない。ワレリーがエリに呪術をかけてないとはとても思えないので、間違いなくエリはワレリーの呪術を『完全に無効化』している。

 改めて、エリは最強転生というものの体現者であると感じた。


「……ん……」


 ユウトがいろいろと考え事をしているうちに、どうやら受付嬢が起き上がったようだ。

 ユウトのすぐ後ろには、サラセナ、ガイア、ヤルクとその護衛達がやってきている。


「……あ、れ……エリさん……サラセナ様? わ、私に何か……」

「フリウィラ、あなたは先ほど、頭痛で倒れていたのを覚えていますか?」

「え? え、ええ……それはもちろんです。エリさんが治してくれたのですね」

「少し違います」

「……え?」


 受付嬢改めフリウィラが、エリと長の顔を交互に見て首を傾げる。


「受付さん……フリウィラさんはですね、『ワレリー』という名前を聞くと記憶が改竄されて頭痛を覚えるようになっていたんです。今はどうですか?」

「え……われ、りー? ワレリー……いえ、今はなんともありません」

「良かった。オーガストフレムでも、いろんな人が……というかユウトも含めて、同じ呪いにかかっていて名前を聞くだけで頭痛を訴えて倒れていたんです」


 その内容に、集まっていた皆が驚く。

 ユウトは後ろを向いて、皆に向かって叫んだ。


「これが、ワレリーという男の脅威です! 恐らく一度ここに来て姿が割れた以上は、二度と来るとは思えませんが……それでも警戒に越したことはありません。皆さん、くれぐれも気をつけてください!」


 ユウトの視界内にいる、各種族の者達が一様に頷いた。

 これにてワレリーの脅威を皆に伝えることができたようだ。ユウトは安心して身体から力を抜く。


「結局、何が目的だったのか……」

「それでしたら、もしかしたらオーガストフレムの件かもしれません」


 フリウィラは、ふと思い出したようにワレリーが来た時のことを話し始めた。


「不健康そうな人……確かにそうですね。その人がオーガストフレムに何か騒動がなかったか聞いてきて、旅人にすぐに鎮圧されたという話をしました」

「……もしかしてそれって」

「はい。ユウトさんとエリさんの二人ですね。今までなんで忘れていたのか……」


 そこまで言って、「ああ」と声を上げて話をつなげる。


「そういえば、ワレリーにその話をした時、何度か街の被害のことを聞かれましたね。私は報告通り、何もなかったと言ったんですよ。それを聞いたあの男は——


 ——笑っていました」


 あまりにも不気味な男の話に、疑問は深まるばかり。

 果たして相手の目的は何なのか。

 ユウトとエリはジュライミストでの騒動が終わった今も、緊張した面持ちが取れずにいた。


 とりあえず大規模な襲撃が終わって疲れが出たからか、皆ここで解散となって各自疲れを取るために休むことになった。

 




 翌日、ユウトとエリはサラセナへと一応連絡をする。


「遺跡……ああ、あの場所の調査ですね?」

「はい。元々あの場所に入るために来ました。もう解錠石がなくても入れるかと思いますが、一応入るよと報告しておこうかなと」

「そうだったのですか、丁寧な方ですね」

「恐縮です」


 ユウトの話を聞いて、サラセナは袋からエリに道具を手渡す。


「これは……解錠石ですか?」

「ええ。もしも内側から閉まったら大変ですし、私はもうそれを保管する資格もないと思いますし……できればエリさんに持っていてもらった方が安全面では無難かなと」


 ユウトはサラセナの言わんとしていることが分かった。

 信頼してくれているのだ。


「わかりました。それでは遺跡から帰ってきたら、必ずお返しします」

「本当に欲がないのですね……。分かりました、それではお貸ししますね」


 ユウトはサラセナから石をもらい、エリとともにサラセナへと礼をして部屋を出た。

 いよいよ二人の本命、『ナスタレアの陵』攻略が始まる。

唐突な告知ですが、

https://twitter.com/MasamiT/status/1181412280744890368

https://ncode.syosetu.com/n3567es/

『きゅうけいさんは休憩したい!』がこの度商業作品として連載開始し、年内にコミカライズします!

こちら側の作品は章が終わるまで更新して、きゅうけいさんの更新をメインとしようと考えています、よろしくお願いします!

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