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22.ジュライミストの危機

 ユウトが話したそのタイミングで、勢いよくノックもなくエルフの男性が入ってくる。

 注目を一気に浴びて一瞬男は息が詰まるも、すぐに報告事項を思い出して声を上げる。


「緊急連絡します! 遺跡より、以前現れたグレーターデーモンが複数体、こちらに向かってきているとの報告を受けています!」

「——なっ!?」


 その場に集まる全ての者が驚いた。

 グレーターデーモンは、簡単に討伐できるような敵ではない。村に向かわずに遺跡近辺を徘徊していたから、なんとかやり過ごせていたのだ。


「既に攻撃を受けている者もおり、限界かと」

「わ、わかりました、追って指示を出しますので再び周囲の警戒を……」

「ハッ!」


 部屋から退室したエルフの男性を見送ると、ユウトは目を閉じて、息を吸う。身体の中に溜めた緊張をゆっくりと吐き出すと、目を開いた。

 それは覚悟を決めたものの顔。


「エリ、また頼ることになっちゃうけどいいかな?」

「ユウトが私を頼ってくれるだけで嬉しいよ!」

「本当に頼りになるよ。以前遺跡でグレーターデーモンの背中を刺したのを覚えてる?」

「うん」


 シャティナも把握していた、高難易度にて浮いていた任務の一つ。エリが徘徊していたグレーターデーモンの討伐をやってくれた件である。


「あれが、恐らくあと十五体出る」

「……十五体?」

「うん、十五体。他にも細かい敵が現れるかもしれない」


 唐突にユウトの言い放った無情な数字に、真っ先に驚いたのはシャティナである。


「え、ええ!? あのでかい魔族、あと六体もいるの!?」

「そうなんだよね……。一応エリなら対処できると思うけど、場合によっては同時に襲ってくることもあるので、そうなるとさすがのエリでも話が変わってくる。なんとか分担して対処したいので……」


 ユウトは、サラセナ、ガイア、ヤルクを見る。


「お三方にも協力してもらいたいんです」


 ユウトが目を向けた三人。

 三人はお互いに目を合わせて頷き、指示を出した。


「シャティナ。村の者に、守りを固めるよう伝えて。終わったら北門で私と合流」

「ハッ!」


 サラセナの指示に次いで、ガイアがロックへ、ヤルクがユンへ指示を出す。


「ロック、とりあえずお前はよくやってくれた。キャンプの連中全員呼んでこい! 遠慮なしの喧嘩だ!」

「了解だ、大将!」

「ユン。我々は都市から離れているので、このまま二人で迎えましょうか」

「そうですね」


 そして皆が指示通り動いたところで、アグロウスも肩を回す。


「それでは……儂も気合いを入れ直すかの!」

「おう、そういえばあんた、見た感じ本気でやってなかったじゃねえか。どうだ、騒動が収まれば一度俺と……」

「いや、それはやめておくわい。力はもう衰え気味でのお。力比べなら、エリと存分にやればよかろう。儂の技術も教えとるから、前より強いぞい」

「ぐっ……」


 争い好きのガイアがアグロウスに興味を持ったが、そこはさすがの年の功。のらりくらりと躱し、ガイアが既にエリに対して苦手意識を持っていることも察した。

 女で、長という雰囲気もない年下のような存在で、自分と同じ亜人。その上で圧倒的に強いエリは、ガイアの価値観を揺らしかねないほどであった。

 そのタイミングで、ユウトは話をまとめる。


「はい、この話はここでおしまい。相手が近くまで来ているかもしれませんから、僕たちも行きましょう。エリも、僕のことは心配しなくていいからね」

「ほんとに大丈夫?」

「ほんとほんと。エリは実際に見てないと思うけど、グレーターデーモンって動き遅いからね。まあ倒したことあるし、大丈夫でしょ」

「んー、ユウトが言うなら、わかった!」


 それは、エリと同じぐらい……周りから見れば、エリに比べて不思議なぐらい、落ち着いたユウトの姿だった。

 ヤルクに次いで、サラセナ、アグロウスも……ガイアでさえ、ユウトの特異さに気づきだした。

 ここにいるハービットンは、ただのハービットンではないと。




 集落の周りに、ゴブリンとは少し違う、小型のデーモンが現れる。

 それらをエルフの集落の者達は的確に対処していった。


 ユウトは、戻ってきたシャティナが加わったところで、皆に指示を出す。


「小さいデーモンはある程度無視しても構いません。目標はグレーターデーモン。あれさえ倒しきってしまえば、すぐに戻るか逃げるかすると思うので。エリと、僕たちで別々のチームとして討伐します」

「分かりましたわ」

「心が奮い立つのう!」

「おう、任せな!」

「ふむ……お手並み拝見といきましょうか」


 皆は既に、ユウトの指示に従う方針だ。

 その中でもつい先ほどの会話ながら、ちょうど指示を飛ばしていていなかったシャティナは未だに首をかしげていた。

 彼女は最初にユウト達と出会った反面、一番ユウトの活躍を見ていない者である。

 そのため、未だにどこまで信用すればいいか判断できない状態であった。


(ま、偽物ならすぐにボロが出るでしょ)


 なんてことも考えるぐらい、シャティナはユウトの実力に疑問を抱いていた。

 まあ、それはユウトがエリに捕まっている時にばかり出会っているからなので、ユウトにとっては偶然の不可抗力である。


 皆が集まっていたところで、エリが歩き出す。


「多分、こいつはグループから外れたグレーターデーモン。あっちから入られると厄介だろうから行ってきます!」

「両手を真下に振り下ろす攻撃は、バックステップで回避して。それじゃ、気をつけて!」

「ありがとう!」


 エリは皆に断りを入れ、森の奥まで一気に走った。


「さてと……」


 森の奥には、二体のグレーターデーモン。その姿を見て、ユウトは指示を出す。


「僕たちもやっていきましょう。まずシャティナ。確実に倒すための指示に従ってくれる?」


 名前を呼ばれたエルフの少女は、自分で身を奮い立たせるように口角を上げて頷き、森を蹂躙する怪物達を険しい目で見据えた。

 シャティナは初めて、ユウトという存在をここで知ることになる。


 三種族の同盟による、反撃が開始された。

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