20.ユウトは石の在処を探し当てた
解錠石を持っていないと聞いて、真っ先にエリはユウトの袖を引っ張る。
「(どうしたの?)」
「(私、たらい回しっていうWebページをたらい回しにされるのを思い出してたところ)」
「(気持ちは分かるよ……)」
遺跡の解錠石というものを探し出すのに、何故ここまであっちこっち行かなければならないのか。そしてこの旅に終わりはあるのか。
だから、エリはそう思っていたところにやってきた、ユウトの一言に一瞬頭が真っ白になる。
「(でも、ここでゴールのような気がするね)」
「(……え?)」
瞠目しながら隣の従兄を見ると、可愛らしくウインクひとつ。
その姿にエリは、既にユウトがこの問題への解決の手がかりを見つけていることに気づいた。
(うっそお……ユウトすごすぎてちょっと今回ばかりは意味不明だよ……!? どこにそのヒントがあったの!? あとウインク可愛すぎてごちそうさまです!)
エリは考えるのをやめた。
フォックスヒュムの市長と、護衛の男。
名前はそれぞれ、ヤルクとユンという。
ユウトとエリの二人が一歩下がって会話している最中、まずはそのヤルクの態度にロックが一言かける。
「自分らが喧嘩させたっつー自覚はあるんすか?」
「強い相手というふうにガイアさんには説明したはずですがね?」
「ぐっ……」
ロックが引き下がりかけたところで、次はシャティナの方が声をかける。
「じゃあ、それで襲撃されたっていうのなら、私に対しては悪いとか思っているの?」
「いえ、特には。直接的に私が関与しているものでもないですし、いずれ起こる未来が早めになっただけともいえます。それともあなたは、ガイアさんより直接は何もしていない私の方を責めますか?」
「……言ってくれるわね……」
シャティナも眉根を寄せ、何か追撃しようとしたところで、次にユウトが口を開く。
「動機」
「ん?」
「動機はなんですか? こういうことがあると、そればかり気になってしまって」
「動機……動機ですか」
「はい」
ヤルクは頭を押さえながら、少し止まる。心配そうにユンが近づくと片手を前に出して手助けを拒み、首を振る。
「すみません。それで、動機ですか」
「はい」
「なんとなく、そうした方がよいかなと思ったからです。面白いと思ったのかもしれません」
あまりにもあんまりな回答に、ロックは腰に手を伸ばす。
それは、オーガストフレムのオーダーギルドでもあった、『一線を越える気がある』という動き。
護衛のユンも、杖に手をかける。
両者ともに、手を置いただけであるが、緊張が高まる。シャティナはロックの後ろに下がって、様子をうかがう。争いを避けて……ではないだろう。弓術担当として、ロックの後衛として動くためだ。
しかしユウトが、ロックの手の甲に、自分の手のひらを乗せて諫める。
驚くロックに対して首を振って、ユウトは前に出る。
「それは違うでしょう。面白いと思ったのなら、観戦に来ればいいです。でも、街の者は誰も知らないみたいですね」
「……何故、そう言い切れるのですか?」
「だって、エルフとウルフヒュムの二人がセットで歩いていたんですよ。実はここに来る前に杖を買ったのでそこら中を歩いていたのですが、ついに誰にも気に留められませんでした。不思議ですね」
ユウトの答えに、ロックとシャティナ、更にユンも驚いた。
「それ、は……」
返答する前に、こめかみに親指を当てて目を閉じるヤルク。
「……それは、つまり」
「ああ、いえ、その先の動機はもういいです」
「何ですって? 君が聞いたんじゃないのですか?」
「いえ、そんなことより聞きたいことがあります」
ユウトが自信満々な理由が分からない。
皆がその雰囲気に飲まれている中で、次にユウトの放った一言が意味不明で、皆同時に首をかしげた——ただ一人、頭のいい相棒を除いて。
「最近頭痛、頻発しているんじゃないですか?」
「……何故、そのことを……いえ、むしろ何故そんなことを聞いたのですか? それこそ動機が分からない」
「そんなの簡単です」
はっきりとヤルクの目を見て。宣言した。
「問題解決への一番の近道だからですよ。——エリ!」
次の瞬間、ユウトがエリを見ながら、手で十字架を切る。
ユウトの視線を受けて、エリが叫んだ。
「【ブレッシング】!」
その叫び声に、突然憑き物が落ちたように、ふわっと気絶するヤルク。倒れそうな主の身体を支えつつ、ユンはエリを睨み付ける。
「気絶魔法……!? 貴様、何をした!」
「解呪です」
「……解、呪……?」
そのあまりに予想外の魔法を宣言したエリに、慌てたようにユンは、ヤルクの顔を見る。
直後、ヤルク目を開き、ユンを見る。
「……ユン……」
「は、はい」
「何か、今までになく頭も身体のすっきりしていますね。病気が治ったようですが、来客の者がやってくれたのですか?」
ヤルクの声を受けて、エリが視線を浴びる。
エリが魔力のタリスマンを見せたことにより、フォックスヒュムの二人はエリの能力を知って驚いた。
「狼型でありながら高位の魔法使い……!」
ウルフヒュムでは魔法使い自体が珍しい。その中でも体格のいいエリが魔法を扱うのは、かなり特殊な事例であった。
そのまま話がエリに移りそうなところで、ユウトが割り込む。
「ヤルク様、再び質問をいいですか?」
「再び……?」
ヤルクは疑問に思いつつも、ユウトに告げる。
「ウルフヒュムの一族を使って、エルフの集落を襲わせた理由はなんですか?」
「それに関しては……そうですね、他の者からそうやってみないかと言われたからですよ……いえ……なぜ私は、そんなことを……」
突然さっきまでとは違う答えを言い出し、自分の言葉に自分で驚くヤルクに周りが疑問の声を出す中で、ユウトが手を叩く。
「それに関しては、一度おいておくとして。もうひとつ、ヤルクさんは『遺跡の解錠石』というものをお持ちですか?」
「遺跡を開ける石のことか? 確か……」
ヤルクは机の中をごそごそと探ると、その中から複雑な模様をした、大きめのコインのようなものが現れた。
「これでしょうか?」
「はい、相違ありません!」
それは、ユウトがゲーム中で見たものと同じ見た目の、正真正銘の『遺跡の解錠石』があった。