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19.ユウトの活躍チャンスと、エリが感じる従兄の凄さ

 シーファンシティへと入ると、当然のことながらフォックスヒュム達が歩いている。

 身体的特徴の上では一番近いのがエリであったが、それを加味しても、エリの圧倒的な背の高さと胸の大きさは、注目を浴びるには十分すぎた。


「ゆ、ユウト、私すっごく見られてるね」

「ん? でもオーガストフレムでもそうだったでしょ?」

「そうだけど、なんか今回はちょっと違うというか……」


 エリは周りの皆を観察する。細い目をしたフォックスヒュムの、ちらちらとした妙に湿度のある視線を感じるのだ。

 もちろん目を合わせようとしても、逸らされてしまう。


「それより、ちょっと寄り道していい?」

「いいけど……何かあるの?」

「ここの武器屋に、確かあるはずなんだ」


 ユウトが興味を示したため、エリはユウトを優先して頷いた。シャティナとロックも顔を見合わせつつ、ついていくことにした。


 シーファンシティの武器屋にあったもの。

 それを手に取り、ユウトは二本を迷いなく買い、片方をエリに渡す。


「ユウト、これは……もしかして!」


 ゲームでも再々登場する装備であり、こういう時に自分の分まで買ったユウトを見て、エリもその用途を予測できた。

 その視線に応えるように、ユウトは頷いた。


「『魔法使いの杖』だよ」


 それは、ハービットンのユウトが自らの不利を打ち消せる、最大の武器だった。


 -


 ここシーファンシティの亜人フォックスヒュムは、主に魔法使いが多い。

 剣士などもいないことはないが、圧倒的に魔法の世界で研鑽を組む者が多いのだ。

 それは種族の血に関わる先天的なものなのか、それとも周りの環境の影響なのかはわからない。

 どちらにせよ、結果としてフォックスヒュムは魔法使いメインの国となった。


「エリと一緒だとすんなり解決できるかなと思って後回しにしていたけど、早い段階でシーファンシティには来たかったんだよ」

「そっか、ユウトは魔法なら活躍できるかもって思ってたんだね」

「そういうこと。実際にどれぐらい使えるかは要検証だけどね」


 エリは、ユウトの先ほどより少し浮ついていると感じられる楽しそうな背中を見て、自分の嬉しくなり口角が上がる。

 それと同時に……ユウトにプレゼントしてもらった魔法使いの杖を見て、もう一つの感情を覚える。


(ユウトは……この杖を使えば、自分も活躍できると思ったから心を躍らせている。自分だけが知っている、今の私が知らないような魔法……)


 それは、どんな人でも思う感情。

 他の人ができない活躍を、自分がやってみたい。

 自分だけが知る、自分だけの優位性を保っていたい。


(だけどユウトは、杖を二本買った。……間違いなく、その魔法の知識を全て私に教えるつもりなんだと思う)


 ユウトは、親族であり、男であり、年上である。

 ただでさえ自分が活躍しづらいと悩んでいるほどの最弱転生。

 劣等感――そういった感情が皆無であり続けることなど、よほどの聖人君主でも不可能だろう。


 しかしユウトは、エリに知識を惜しみなく伝えるつもりでいる。

 それは間違いなく、エリが活躍したいという気持ちを汲んでくれているからであった。

 ユウトは自分だけの優位性による活躍ができなくなるということを、エリのために迷いなく選んだのだ。


 エリの胸の中に、再び温かい火が宿る。


(やっぱり、ユウトは同年代の男子より……ううん、学校じゅうの先輩を含めても絶対に有り得ないぐらい、最高にかっこいいなあ。弱い自分を必死に強く見せるだけじゃなく、自分だけのアドバンテージを譲って、それでも活躍しようとしてくれる)


 そう、杖は二本。

 ユウトだけでも、エリだけでもない。

 エリに魔法を授けた上で、自分も魔法で活躍しようとしてくれている。


 これができるから、ユウトなのだ。

 この両方ができる人は、なかなかいない。


(だったら、私は)


 ユウトの魔法を全て吸収して、彼の望む以上の活躍をしてみせよう。

 そう決意するエリだった。


-


 フォックスヒュムの市長がいるという小さな御代へと、四名は足を踏み入れる。

 門番はさすがにいたが、エルフとウルフヒュムの姿を報告すると、城の中へと招き入れるように言われたようだ。

 四人は、まっすぐ奥の部屋へと案内される。


「……おや、珍しい組み合わせですね……」


 部屋の中にゆったり座っているのは、金髪金目の、フォックスヒュムの男。

 その飄々とした雰囲気の壮年の男は、細い目を驚いたように開けると、四人を見た。


「あなたは……ロック、でしたか」

「おう、覚えておいてもらえるなんて光栄っすね」

「ふむ……お隣はエルフですか」

「……ええ」


 シャティナが話を振られて、渋々頷く。

 自分たちにとっては、争いをけしかけてきたヤツ、というだけの印象しかなかった。


「エルフの集落を襲撃したのでは?」

「ストレートに聞くっすね。それをあんたがけしかけたっつーのに……」

「とんでもない言いがかりですね。私はエルフを『強い』と言っただけですよ?」


 悪びれる様子のない、狐の男。

 その開き直り方に、さすがに二人も嫌な気持ちになってか、眉間に皺を寄せる。


「ところで、わざわざそんな二人がそろってやってきたとは、何かご用なのですか?」

「それに関しては僕から」

「……君は?」

「二人の付き添い、柳葉ユウトです。それよりも、質問をいいでしょうか」

「もちろん」


 ユウトはフォックスヒュムの長に対して切り込む。


「『遺跡の解錠石』という道具をご存じですか?」

「……知らない、ですね。前も名前を聞いたような気がしますが……心当たりはありません。他に質問は?」


 頭を押さえているフォックスヒュムの長。その返答を聞いてエリは真っ先に首をかしげた。

 一方ユウトは、一つの疑惑が確信に変わる。


(否定したけど……多分、この人が持っているんじゃないかな)

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