18.四種族の共同戦線
「……驚きましたね、この展開は」
「ああ、自分で来ておいてなんだが、俺も驚いてるぜ」
ここは、ジュライミストの長であるサラセナの部屋。
今、ユウトとエリの目の前には、サラセナとガイアの二人がいる。
周りには、ガイアの付き添いにウルフヒュムが二人。
そしてエルフはアグロウス、シャティナ、他数人のエルフがガイア達を取り囲んでいる。
しかし皆、敵対心よりも困惑の方が勝っていた。
「ウルフヒュムが急に襲ってきたとき、不自然だと思ったのですが……そうですか、フォックスヒュムが……」
ユウトとエリは、ガイアとともに事情を話した。
フォックスヒュムは、元々ウルフヒュムと交流のある同じ獣系亜人である。
その彼らから、戦い甲斐のある強い種族として、エルフの住むジュライミストを紹介されたということだ。
「ここにいるエリっつークソ強い女がいないタイミングで襲撃できたのが、もしもフォックスヒュムが襲撃時期を指示したことだというのなら……」
「……なるほど、私たちの争いそのものが、完全にフォックスヒュムにいいように操られてやっていたということなのですね」
「ああ。術使いのやりそうなことだ」
周りのエルフ達も、ようやく事情が飲み込めたようだ。
「直接聞きたいところですが……私も集落を離れるわけにはまいりません。それに、今はお互い争っている場合じゃなくなってしまいましたし」
サラセナは、腕が無事になった様子を見せた。
ガイアはそれだけで、サラセナに挑む気はなくなった。勇気と無謀は違う、万全な状態でないのに襲いかかって勝てると思うのは、勝負に対する冒涜であると考えていた。
「とりあえず俺も直接乗り込むつもりはねえ。そこでだ……今回の騒動、暴いたユウトに一任してみたいんだが、お前どうだ?」
「え?」
ユウトが急に指名されて驚いていると、サラセナも笑顔で頷いた。
「そうですね、ユウトさん、申し訳ないのですがエリさんとともに、シーファンシティへと向かってもらえますか?」
二人はもちろん頷いた。
この旅に選ばれたのは、ユウトとエリ、そしてガイアからは名誉挽回をしたいロックと、ユウトを見極めたいと内心思っていたシャティナの二人が立候補した。
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四人は魔物を狩りながら、東の方へと歩く。
「ガイアって、襲撃の指示をもらっていたと言ってたけど、それってフォックスヒュムから連絡が来たってことでしょ? 待ってたら相手から連絡来るんじゃないの?」
「こっちに思惑がばれたとなると、来ない可能性もあるし、待ってるよりも出向いて、逃げ出す前に聞き出すっていう方針にしたらしいぜ」
会話している二人は、シャティナとロックだ。
数日前までは武器を持って争っていたが、お互いに事情を知った今となっては、お互いの遺恨らしいものはないようである。
エリはゆったり、ユウトは小走りについていく。
そんなユウトを姿を見てエリは抱いて歩こうとして、ユウトはこちらに視線を向けると、遠慮するように首を振る。
シャティナはずっと、エリとやりとりするユウトの様子を見ていた。
ロックはシャティナの実力を量るように、ユウトに向けた後頭部を見ている。
一緒に戦うとなると、どれほどの実力かは気になるところであった。
四人の旅路は基本的に、エリが【サーチ】で敵を探し出して、先に倒してしまう。
本来ならば遠距離攻撃を持つシャティナが先制攻撃をするところであったが、エリより先に敵を見つけ出すことはついにできなかった。
「さすがエリ……」
「おまかせください!」
「任せちゃってるわ」
もちろん弓を構えて出番のないシャティナがそれなのだから、剣を一応持っているロックは全く出番もない。
そこでロックは、ユウトに話しかける。
「なあなあ、ユウトっていったよな」
「ん? どうしたの?」
ロックは、ストレートに聞く男だった。
そういうあたりが考えナシなんだと、ここにガイアがいたら言われていたところだろう。
「ユウトってエリとどうやって出会ったんだ?」
「まあ……そうだね。旅の途中で記憶喪失になっていたところを見かけたから、いろいろ教えながら助けてるんだよ」
「一応力は見せてもらったけどさ、それでもいい拾いものっつーか、味方にするには都合良すぎるっつーか」
「そこは否定しないよ、すごいよねエリは」
ロックはその感想を否定するように首を振る。
今度はシャティナがロックの方を見ていた。
「いや、あんたもすげえよ。ウィングとナーシャも瞬殺したとか聞いたぞ」
「ウィングとナーシャ……って、剣を持っていたのと槍を持っていたウルフヒュムのこと?」
「そうそう。つえーんだなって思った」
ウィングとナーシャは、ともにウルフヒュムの中でもそれなりに実力のある者。
その攻撃を軽くいなしてみせたというユウトのことを、ロックが侮るはずもない。
シャティナも、疑わしかったユウトの実力が第三者の発言によって証明されたことで、すんなり信じる……とまではいかないものの、可能性として感じるようになっていた。
(本当に、あの身の丈で戦うのね)
その姿を見るのを、エルフの長の一番弟子は楽しみにしていた。
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野宿を挟み、フォックスヒュムの集落、シーファンシティへと到着する。
赤い建造物、派手な色の着物のような服、その雰囲気は今までの町と大きく異なるものであった。
「ねえねえユウト、ここが、フォックスヒュムの集落なの!?」
「そうだよ。ちょっとというよりかなり中国っぽいけど、ここが狐の亜人の都市。本当はもうちょっと後に来るつもりだったんだけどね」
ユウトとエリは、門の前に立つ。
ここシーファンシティは門番がいるわけではなく、自由に出入りできるようにできている。
「ここに、俺らウルフヒュムを嵌めたやつが……!」
「そうと決まったわけじゃないけど……確率としては高いわね。エルフもずいぶんご迷惑被ったわ」
ロックとシャティナの二人はすっかり、やる気満々だ。
実際に被害を受けた人間なのだから、そりゃあ眉根に皺も寄ろうというものであろう。
ユウトはそんな二人を見ると、エリの方を向いて頷いた。
「それじゃ、フォックスヒュムが疑惑の相手なのかどうか、判断しに行こう。」