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5.転生先の身体の理由、そして二人の決心

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 自分の前で、笑顔でVサインを作る美女に対してユウトが抱いた気持ちは果たしてどのようなものか、彼自身もうまくそれを言葉にできないでいた。

 しかしユウトも洗礼君こと暴力呪術師を倒したことで、少しずつ考える余裕が出てきていた。


 まずユウトは、そもそもどうしてここにエリがいるのかという、根本的な疑問を持った。


「エリは、どうしてこのゲームの世界に……? ああいや、ブラッディ・ブラックバーンのReincarnationモードを、僕に続いてスタートさせたということぐらいは分かるけど……」


 エリがここにいるということは、自分と同じことをしたと見て間違いないだろう。しかし、ユウトには理由がわからなかった。

 それに対してエリは、寧ろ何故分からないのだと言わんばかりに、腰に手を当ててぐいっと身を乗り出した。

 ぷりぷりと怒る様は可愛らしくもあるが、腰を曲げても上から見下ろされる形で顔を近づけられる迫力は半端なものではなく、ユウトは気圧されながら、同時に顔を近づけられてやや照れながら一歩引く。


「どうしてって! ユウ兄ぃは自分がどうなったかわから……あ、そっか自分じゃ分からないよね。私も自分がどうなったか見てないし」


 怒ったと思いきや、エリは何やら一人で納得して身を引く。


「ユウ兄ぃはね、私の目の前で光ったんだよ」

「光った……?」

「そーなの。そしたら次の瞬間にはもう消えちゃって、私ほんっとーにびっくりしたし、心配したんだから!」


 ユウトは自分が、客観的に見て、自分がどういう変化をしたのか当然知らなかった。

 『光って、消えた』という表現。それはゲーム世界ならまだしも田舎の現実世界では有り得ない光景であり、エリが冷静さを失うには十分すぎる衝撃だった。


 しかし、エリはパニックを起こす最後の一歩手前、画面を見て踏みとどまった。


「それで、私はゲーム画面の、注意事項と利用規約を読んだんだよ」

「……利用、規約?」


 普段なら流し読みしてしまうか、読み飛ばしてしまうようなゲームの利用規約。

 違反する内容は、改造や暴言など。それらのルールはどのゲームでも変わらないものであり、ゲームの利用規約もまた、どのゲームでも大差はなかった。

 だからユウトは読み飛ばした。まさか、異世界に飛ばされるなんて事前に予測できるはずがない。

 しかし、エリは目の前に前例があった。異世界に飛ばされるという前提で利用規約を読んだのだ。


「利用規約は、異世界に飛ばされるというか、別の世界でゲームクリアを目指すみたいなことが書いてあったよ。クリアできるとすぐに戻ってこられるけど、ゲームオーバーになったら戻って来られない。それでもいいですかって書いてた」

「……よくないよなあ」

「だよねー……」


 しかし、利用規約に同意してしまったのだから、これはもう読み飛ばしてしまった自分が悪い。

 ユウトは考えても仕方のない部分をそう結論づけて、他の内容のことを聞きだした。


「他に、まずそうな規約はあった?」

「……うん、注意事項のほうにね……多分ユウ兄ぃと私の、この姿に関係するものだと思うんだけれど……」

「この姿? もしかして僕がハービットンに転生してしまったのもそれ?」

「あ、ハービットンっていうんだ。見た目は子供より小さいぐらいなのに、ユウ兄ぃの顔って思うとちゃんと分かる感じだから可愛くて好きだよ」

「こ、こっちの気持ちも考えてよ、走るのさえ大変なんだから」

「あっごめんごめん」


 笑いつつも反省してる様子のない、長身で年下というエリからの『可愛い』『好き』という評価に、倒錯的な恥ずかしさがこみ上げるユウト。

 『好き』は喜んでもいいとして、『可愛い』は果たして喜んでもいいものか。

 少し咳払いすると、ユウトは次を促す。


「それで、なんで僕はハービットンになってしまったのか分かるの?」

「うん。このゲームの転生にはルールがあって」

「転生に、ルール?」

「うん。それによると、転生後の姿は――」


 ――ゲームに詳しいほど、弱くなる。


 その言葉を聞いて、ユウトは体から力が抜けて尻餅をついた。

 エリはユウトの様子に慌てて、すぐ隣で女の子座りをする。


「な、なんだよそのルール……この転生モード自体がプレイ時間によって出てくる上に、このゲーム自体が攻略サイトを見なければ一人でクリアするなんて、かなり難しいゲームなのに……」

「……そんなに難しいゲームなの?」

「隠し要素のオンパレードだよ。僕も何件か見つけて攻略サイトを編集した人の一人だけど、自力で全ての攻略情報を一人が見つけるなんて、とてもじゃないけどできないし、時間が足らないよ。進行どころか周回でも取れなくなるアイテムやトロフィーが多いから、やり込めばいいってものじゃないのも大きい」

「……じゃあ、この『転生』で始めた人たちは……」


 エリが、青い顔をしながら壁一面の赤い染みや、床に倒れたハービットンの死体を見ながら震えて呟く。ユウトは眉間に皺を寄せながら、声を絞り出した。


「……攻略サイトを一度でも見た人は、例外なく同じ姿になったんだと思う」


 エリはその死体の一つに、慕っている従兄の姿を重ねて震えた。


 転生モードが出るまで遊んだ人。

 その事実が、既に攻略サイトを見ている確率を大幅に上げ、仮に見ていなかったとしてもプレイ時間はゲームの内容に詳しくなることに直結している。

 このゲームで強い存在に転生するには、ゲームを起動して放置するしかない。もちろんそんな人は存在しないので、否応なく必然的に、全員がハービットン初期装備として転生させられた。


 二人は知らなかったが、転生を一度やってしまうと、数十分も経てば『Reincarnation』モードは画面から消えてしまっていた。それ故に、この事件の全容どころか、とっかかりさえ現実世界では誰も掴めていない。


 ゲームに詳しいほど、キャラが弱くなる。

 ゲームに詳しくないほど、キャラが強くなる。

 ただしゲームに詳しくなければ、到底クリアは不可能。


 Reincarnationは、まさに究極のハードモードであった。


 しかしここに、その例外がいた。

 ゲームに詳しくない人が、正規の手順で転生する。

 その上で……詳しい人が傍にいて助けてくれる。


 エリは今更ながら思う。『ユウ兄ぃがいなかったら、あのボスには負けていた』と。

 先ほどの指示も的確だった。ユウトは細かい敵の予備動作を記憶していて、全ての攻撃パターンを教えてくれていた。

 どの向きから殴ってくるかすぐに教えてくれたので、盾での対処が簡単だった。


 だからエリは今、はっきりと決心する。


「ねえ、ユウ兄ぃ」


 エリは膝を突いて――ようやくそれで近い目線となる――ユウトの両肩を握る。

 肩に触れる暖かさ、正面に来た美女の顔。そして膝を突いた瞬間に揺れた大きな胸に心臓が跳ね上がり、視線を動かさないようユウトは必死に意識をエリの目に向ける。


「私、ユウ兄ぃと一緒にこのよくわかんないゲームモードをクリアしたい。私一人じゃ、きっと無理だろうから……。ね、一緒にクリア目指そうよ!」


 そんなエリの宣言に、ユウトは照れている場合じゃないと深呼吸をし、そして自分のために追いかけてきてくれた従妹の姿を見る。


「ありがとう、すごく助かるよ。正直このままだと一人じゃとてもクリアできそうになかった。エリと一緒なら、いけそうな気がする」

「よーし、ユウ兄ぃと初めての共同作業だね!」

「そりゃケーキカットだし、共同作業ってのなら荷物の運び入れも一緒にやったばかりじゃない?」

「えへへ、そだったね」


 二人はおかしさに一緒に笑い、そして二人同時に、車から運び入れた荷物を思い出した。

 箱の中身は都内の有名店で買ったという、大きな燻製肉だった。

 その、先ほどまで家族の団欒を楽しんでいた、長期休暇中の田舎に訪れた明るい食卓を思い出す。


「……戻りさえすれば時間は変わらないらしいし、このままいなくなると心配をかけるだろうし。よし、エリ。二人でクリアを目指すよ!」

「うん、約束だよユウ兄ぃ!」


 必ず二人で揃って帰るのだと決心し、二人はしっかりと頷き合った。

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