10.エリの圧倒的なボス攻略
ユウトとエリは、村を出る前にシャティナへとお礼を告げる
「いいわよ、あなたたちに助けられたのは違いないんだし」
「それでも本当に助かったよ、エリが受け入れてもらえるかどうかは、今後の活動に影響するし。何かお礼をさせてほしな」
「んー、そこまで言ってくれるのなら……その分も村を助けてくれると嬉しいわね。私もそれなりに実力あるけど、入り口守ってるから討伐任務って請けられないし」
「それなら、ちょうどだぶついてた依頼を請けたところだよ」
シャティナは、ユウトの言った『だぶついていた任務』に思い当たった。
「……まさか、デーモン?」
「そうそれ」
ユウトがあっさりと受諾した内容を話して、シャティナは驚きに飛び上がった。
「ほとんど警告代わりに張り出してるようなやつじゃない! 大丈夫なの?」
「エリなら大丈夫かなって」
「そ、そう……」
シャティナは少し呆れながら、エリの方を見上げる。
(こういうこと思うの失礼だって分かってるけど、なんでユウトと組んでるのかな……?)
視線を感じて、そんなシャティナの心情を察するエリであった。
しかしエリにとって、ユウトは絶対の存在である。なぜならユウトは、選択を間違えないのだ。
今回の依頼だって、最初に出会った暴力呪術師よりも強いデーモンだと判断できなかったら請ける気はない。
しかし『ユウトが大丈夫と言ったら、絶対に大丈夫な相手しか出てこない』という信頼がエリにはあった。
エリにとってもっとも恐怖である『未知』を解消してくれる存在がユウトであり、それを取り除いてくれるのなら全ての実作業が些事である。
「それじゃ、行ってくるね!」
「ええ、気をつけて」
シャティナは結局、エリがいいというのなら、いいのだろうというぐらいの認識で、二人を見送った。
しかしエリも、実際のところユウトはどれぐらい相手の情報が分かっているのか、気になるところであった。
少しシャティナに疑われたことも影響してか、詳細な情報がどれほど出るのか聞いてみることにした。
「相手の大型デーモン? 多分グレーターデーモンだと思うよ」
「ぐれーたーでーもん?」
「そう。『ナスタレアの陵』という、初代魔王を祀った墓のこと。エルフの人が遺跡って呼んだのは、奥の扉が開かないから墓だと分からないんだよね。ピラミッドとか古墳とか、ああいうタイプの遺跡なんだよ」
相手の魔物を聞くつもりが、思った以上の情報量が出てきてエリは驚いた。
ユウトはゲーム攻略だけでなく分析や考察も含めて、並大抵ではない知識を持っている。
「えっと、じゃあ、グレーターデーモンはそこから?」
「そうだね。遺跡の奥というか、多分奥の穴かなあ……ここの魔族はかなり地下層にいるんだけど、何かの偶然か上に上にやってきて、一体出てきてしまったのかも。もしくは墓を守る見張りに出てきたのかな?」
「ほえー……」
「ちなみにそれ相応に強い敵だけど、見た目の近いザガルヴルゴスに比べたらかなり弱い。っていうか一番最初のボス扱いなんで、そこがエリでも大丈夫だと判断したところ。棍棒持ってるけど鈍重だから、回避してね。装備は『ザガルヴルゴスの呪縛杖』に比べたら、エリにとって下位互換だけど、売れるかもしれないから拾っておこうね」
「わ、わかりました先生!」
疑っていたわけではない。
ただ、ちょっと試すつもりで質問したのだが、ユウトの持っていた相手の情報量は半端なかった。
(やっぱり私のユウトは世界一頼りになる最高のパートナーだ!)
エリは、自分の隣を歩くサラサラ髪の美少年を見て、改めて自分にとって一番の相性を持つ存在だと理解できた。
決して従兄だからというだけではない。誰に否定されようとも、ユウトほど『組みたい』と思わせる存在はいないだろう。
相手の情報さえ分かれば、エリにとって怖いものなど何もない。なぜなら自分は、ユウトが認める最強種族の最高レベルだからだ。
エリは村を出たとき以上の自信を持った足取りで、遺跡へ向かっていった。
……ちなみに自信満々な足取りになったため歩幅が大きすぎて、ユウトが小走りで声をかけ、結局エリがユウトを抱き上げてしまったことも付け加えておく。
ユウトは赤面しつつもエリに移動の指示をして、遺跡の前に到着した。
エリもユウトを下ろして、右手に槍を構える。
「……この辺りが発見報告。そして、木の上にちょっと見えているあれが、例の陵。もう少し歩くと、入り口が見えるはずだよ」
「分かった。【サーチ】」
まっすぐ手を下ろした状態で左手に『魔力のタリスマン』を出現させて魔法を使い、魔法使用後にはすぐに収納して槍を両手持ちに持ち替える。
エリは既にゲーム世界での攻略にも慣れてきており、必要最低限の一連の動きはベテランのそれそのものであった。
そんな従妹の姿を後ろから見て、ユウトは改めて朝永エリという女の子の優秀さを実感する。
(しっかり者で、センス抜群で……エリ以上はいないってぐらい、エリって最高のパートナーだなあ。釣り合うように頑張らなくちゃ)
ユウトはユウトで、エリに対してそう思っていた。
槍を構えて、小走りに前へと進むエリ。ユウトが慌てて追いかけると、エリは数十メートル先で止まり、ユウトの方を見て手のひらを前に出す。
ユウトはそれで、エリがサーチの魔法により魔物の存在に感づいて、ユウトが近づかないように指示を出したのだと悟り、エリを見ながら頷きつつ、木の陰に隠れる。
エリはその姿を見て口角を上げて頷くと、遺跡の方へと視線を向ける。
(……いた)
陵の入り口がやや右側に見える場所。そこには、ユウトから教えてもらった情報通りの魔物がいた。
グレーターデーモンと呼ばれるそれは、大きな棒きれを片手で構えて、虚ろな目で歩いている。
一端向こうまで移動すると、こちらへと歩く。そして比較的近くの方で止まると、再び向こうへと歩き出す。
エリはその後ろ姿を見ながら、ユウトに教えてもらった攻撃方法を思い出していた。
あのときパリイを、自分の運動神経に全幅の信頼を置いて教えてもらえた。
そのときにユウトは、本番でも自分なら大丈夫だと言った攻撃があったはずだ。
他にも、高所からの飛び降り攻撃など、攻撃パターンをいくつか聞いたことがある。
そのことを思い出したエリは、静かに、しかし勢いよく飛び上がった!
「————!?」
無言で後ろからの攻撃を選んだエリは、両手に槍を持ち、相手のグレーターデーモンの背中目がけて槍を、バックスタブかつ落下攻撃になるよう、姿勢の悪い相手の丸まった背中に突き立てる形で飛びかかった。
その槍が、一気に相手の胸を貫通する。
エリは、グレーターデーモンの背中を両足で蹴って、引き抜きながら飛び降りて着地と同時に構えた。
「…………」
グレーターデーモンは、エリを首だけで振り返る。
倒し損ねたか、と思ったところで……グレーターデーモンは、前へとゆっくりと倒れ込んだ。
「ふーっ……」
一安心して息をつきながら、エリはユウトの方を向いて親指を立てる。
「はは……グレーターデーモンが一撃って、ボス戦の一確クリアがいけるわけで……。それ、アクションゲームとしてどうなんだろうね……?」
ユウトはエリのあまりの強さに乾いた笑いを上げながらも、エリの方へと歩き出した。
「とりあえず、魔石とラージクラブは回収。これで戻るとしよう」
「うん!」
二人は一安心して、来た道を戻る。
今度はエリもゆっくりユウトに合わせて足を進め、ユウトもなるべく大股を心がけながらも、ゆったりと二人並んで歩く。
そしてのんびり談笑しつつ歩きながら、そろそろ村の近くといったところで……エリが突然無言で走り去った。
ユウトはエリの突然の態度の変化に驚きつつも、村まで走って……近くに来たところで、ようやく事態を把握した。
村からは、火の手が上がっていた。