7.二人は村での仲間を得る
シャティナが一旦別行動で木から木へと飛び移り、周りの様子を見る。
村の周りに配置されていた、他のエルフの守備担当と連絡を取り合い、シャティナへと敵が来ていないことを告げる。
どうやら今回の襲撃の敵が全ていなくなったと確認できたようで、シャティナも含めて村長の家に戻ることとなった。
報告に戻るため、三人は村長宅へと戻った。
「ご苦労さまでした。お父さん、エリさんの様子はどうでしたか?」
「確かに相手を攻撃したぞい。エリ殿は本当に強いのう、目の前で棒を振り回し、一瞬で撃退してしまったわい」
「シャティナはどうでしたか?」
「はっ。エリ殿は、確かにウルフヒュムどもを撃退してのけました。武器はユウト殿の指示で鞭を使っていましたが……見た感じ非常に、痛そう、でしたね。鞭があんなに使えるとは思いませんでした」
「ふむ……」
二人の反応を聞き、サラセナは納得したように頷く。
「エリ殿のこと、信用に足る人物だと判断しても良さそうですね。まずは疑ってかかったことをお詫びします」
「い、いえいえそんな! なんかもう、襲ってくる人たちすんごい怖かったから仕方ないかなって思いましたし!」
「そう言っていただけると……」
エリは、実際にウルフヒュムがどういう襲撃をするかを目の当たりにした。
剣を持って切りかかってくる相手。それが自分と非常に近い容姿をしているのだ。警戒もするものだと思う。
エリに代わって、ユウトが声をかける。
「それにしても、なぜ相手はあんなに襲ってくるんですか?」
「そんなの、エリさんなら……いえ、エリさんは全く彼らとは関係がないのでしたね」
サラセナが目配せすると、アグロウスが説明をする。
「ウルフヒュムという種族は、とにかく戦闘を好む種族でのう。行く先々で、戦闘を仕掛けては『勝ち』に価値を見出してきた。今の面白かったかの?」
「お父さん、駄洒落を言い出すのは老け込んだ証拠ですよ」
「うぐっ……いつの間にか可愛げのなくなったのう……」
今のやりとりで少しぼかされてしまったが、ユウトは明確に、相手の目的がわかった。
「ただの、力の誇示のためだけに襲ってきている……ということなのですか?」
「そういうことになりますね……」
ユウトもエリも、さすがに呆れた。
「こうではなかったはずなんだけど、どうなるんだろうな……」
「ん、何でしょうか?」
「ああ、いえ、すみません何でもないですよ」
首を傾げた周りの面々だったが、特に気にしなかったのかその場で解散となった。
特にこれといった行き先はなかったので、エリとユウトは先ほどと同じように二階を借りる。
エリは、ユウトの方を向く。
「ねえ、ところで」
「うん?」
「さっきの、ゲームの話?」
エリは、ユウトがつぶやいたことに気づいた。
――こうではなかった。
それは間違いなく、ゲーム内ではどうなっているかという言葉だったとすぐに感じ取ったのだ。
「うん。ゲームではこの村の……」
ユウトが途中まで言ったところで、ドアのところへとすり足で近づく。
そしておもむろに、ドアを勢いよく開けた。
「――きゃっ!?」
「え、あれ? シャティナさん?」
ドアにいたのは、シャティナだった。
シャティナはなんとなく、ユウトとエリの様子が気になってやってきていたのだ。
それは何か疑ったとかそういうわけではなく、直感によるものであったが、実際少し危ない話をしていたので勘は当たっていた。
しかし当然、それを許すエリではない。
「ちょっとーシャティナさん、人のプライバシーには立ち入っちゃだめだよーっ! 私とユウトの二人っきりでの話、聞かれたくないんだから! 怒るよ!」
「ご、ごめんなさい!」
エリは、ユウトがあまり外部に漏らすとまずい話をしていたので怒ったのが半分、もう半分はもちろん、ユウトとのプライベートな時間に、他のことを気にしなければならないと思うと腹が立ったのだ。
しかしユウトは、前半半分ぐらいまでしか理解しなかったので、エリの反応に少し驚いていた。
「エリ、そんなに怒らなくても」
「むー……ユウトは、やっぱりこれぐらい小さい方が好みなの?」
「……え、ええっと……何が言いたいかは察したけど、ぶっちゃけシャティナさんも僕より遥かに大きいんで……」
「あっ」
ユウトは、エリが自分の背丈が大きくなったことを気にしていることを知っている。
だからエリにとって、その部分はデリケートな問題なのだ。
しかし当然、エリとシャティナの身長差など、ユウトにとっては誤差というぐらい、どちらも大きい。
そもそも女性を見上げるという機会自体、元の身長167cmでもまずなかったのだ。
さすがにエリも反省して申し訳無さそうにしていた。
ユウトは話の流れを変えるように、シャティナの方を向く。
「ええっと、まあそれはいいとして、シャティナさんはなぜこの部屋に?」
「あの……改めてお礼を言いたくて。エリさん、先程は助けてくれてありがとうございました」
「わ、そんな丁寧にいいですって」
「……自分から喧嘩をふっかけた相手に助けてもらうなんて、さすがにアグロウス様の言うこともわかりますね、小さい器でした」
シャティナは反省して、頭を伏せた。
そこへユウトは、ふと思ったことを提案する。
「でしたら……代わりにお願いを聞いてもらえますか?」
「お願い、ですか?」
「はい。シャティナさん……もう堅苦しい感じの喋りはやめて、それで僕とエリの友人になりませんか?」
ユウトの提案に、シャティナは驚きに目を見開いた。
しかしユウトとしては、打算もあっての提案だった。
村長の父親であるアグロウス。その彼と一緒に護衛任務にあたっていたシャティナは、間違いなくそれ相応の立場のエルフだ。
実力も高く、そして村人からの信頼も厚いに違いない。
もしもそんな彼女が一緒に行動してくれたら、かなり村のエルフからの視線から、疑わしく思うものが減るのではないかと考えた。
「エリもどうかな?」
「えっと、うん、私もいいと思うよ。シャティナさんは?」
「……そう、そうね。うん。シャティナで構わないわ。よろしく、二人とも。何かトラブルがあったら私が助けるから、その辺りは信頼してくれていいわよ」
シャティナはまずエリに、そしてユウトに握手で応じた。
ジュライミストで、初めての仲間が増えた。