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5.ユウト先生の戦い方講座

 自信満々に、エリは対人戦では負けないと言ったユウト。

 あの時は頭に血が上ったというか、エリを馬鹿にされるのが我慢ならなかったから叫んだ。

 それに、誰を相手にしても負けないというのを疑っているわけではない。エリは実際に、とてつもなく強いのだ。


 しかし実際のところ、いざ対人戦になると、魔物とのそれとはまた勝手が違ってきてしまうように感じる。

 相手の攻撃が巧みであったり、搦め手で仕掛けてきたり……ということを心配するのはもちろんあったが、もう一つ理由があった。


「好戦的な獣系亜人のウルフヒュムを相手に、『殺さずに撃退する』っていうのを事前に練習しないと難しいと思うんだよね」

「あっ、そっか。今の私って」

「うん。普通に考えて、エリの武器が当たった時点で相手は無事では済まないと思う。使えるとしたら、ショートソードを除けば、素手ぐらいだね……」


 エリが持っている武器。

 初期装備の、エリから見たら膝下程度の長さとなってしまう『ショートソード』。

 魔王四天王、暴力呪術師ザガルヴルゴスの持つ必殺のラージクラブ『ザガルヴルゴスの呪縛槌』。

 同じくザガルヴルゴスの隠し武器『ザガルヴルゴスの尾槍』。

 後者二つを対人戦で使おうものなら、一撃で即死や身体欠損まで行ってしまう可能性も十分に有り得るだろう。


「というわけで、アグロウスさんに早速聞いてみるよ」


 ユウトとエリは、アグロウスに相談して、村の武器屋へと足を運んだ。

 外では少し注目を浴びて肩身が狭いながらも、店に入るとすぐに集中して武器を物色し始めるユウト。

 エリは店内をちらちらと見回しながらも、基本的には手を前で組んでユウトを見ながらじっと待機していた。


「エリ殿は見ないのですかな?」

「うーん、武器ってそんなに興味がないですから。今持ってるのでも十分ですし」

「……獣系亜人という括りの常識、ちゃんと改めないといかんのう……」


 アグロウスは腕を組みながらエリを見ている中、ユウトはめぼしいものを見つけたのか、四つの武器を買って帰った。


「ユウト、結構選んだね」

「資金は潤沢にあるから、必要になった時に買うんじゃなくて、今買っておこうかなってね」


 ユウトとエリは、再びアグロウスとともに村長の家の部屋に戻る。


 部屋に帰ってユウトが最初に取り出した武器は、ショートソードより長くて、鋭利ではない武器。


「ユウト、これってただの棒に見えるんだけど」

「そうだよ、これは頑丈な鉄でできた棒だね」


 エリは、1.5mほどの金属の棒を両手で持ち、先端を下に向けて構える。


「うん、様になってる。武器としては心許ないような気はするけど、でもそんな武器でもエリの身長で持つと、圧倒的に有利な武器になるよ」

「そ、そうかな?」

「エリからしたら胸の下ってぐらいだろうけど、僕の背丈より高いからね、その棒。普通のウルフヒュムが相手でも、それで突き攻撃をされるとやりづらいはずだよ」


 ユウトは盾を出すと、エリに向けて構えた。


「突いてみて」

「う、うん……」


 エリは緊張しながらも、ユウトに向かって軽く金属の先端を当てる。

 コツ、と木の音が鳴り、ユウトの腕が身体の方に押し込まれ、少し足下がふらつく


「だ、大丈夫?」

「……っとと、さすがに強いね……。うん、大丈夫だよ。もう一度同じように突いて」

「わ、わかった……」


 ここで遠慮をしたら却って失礼だろうと、エリは同じように盾で突いた。

 ユウトは再び、同じような動きをする。


「もう一度」


 今度はエリも、無言で頷いて同じように突く。

 しかし次の瞬間——!


「——きゃっ!?」


 エリは、同じような手応えが返ってくるかと思ったら、急に身体が横に引っ張られた。

 そうと思ったら、お腹に温かい感触が伝わる。

 気がついたら、ユウトが自分のお腹に右手を当てていたのだ。


「……え、あれ?」

「今のが、エリに注意してほしいこと」

「な、何をしたの?」

「パリイだよ」


 エリは、ユウトに言われて初めて、自分が今の一瞬で受け流されたことに気がついた。

 あまりにも予想外の方向から力が加わって、頭が一瞬パニックになったのだ。


「……気付かなかった……」

「事前に練習できてよかったよ。ウルフヒュムがどれぐらいの規模と体格なのかはわからないけど、間違いなく僕より大きいはずだよ。だから、今のような流し方をされると、懐に潜り込まれた時に危ない。注意してね」

「……肝に銘じておきます先生……」


 エリは、ユウトの温かな手のひらの感触がすっと離れたのを感じた。


(今のはユウトの手だったから良かったものの、もしもこれが敵の剣だったら……)


 事前に練習していなかったら、迂闊にショートソードでこの流れをやっていたかもしれないのだ。

 エリはその可能性を考えて、青い顔で身震いした。


 しかしエリの心配を余所に、ユウトは両肩を竦めて笑っていた。


「ま、この武器は盾を持ってない戦士相手に使えば基本的に問題はないと思うよ。ゲームでは絶対に相手の胴体にしか攻撃できなかったけど、突きじゃなければ足を払ったり、それこそエリなら相手の脚の骨を折ったりできるかもしれないし」

「じゃあ、気をつけるのは相手が盾の時?」

「そのとおり。『槌』なら盾ごと潰せるけど、今回はそうもいかない。しかしそんな時のために、もう一つの武器を用意したんだ」


 ユウトは、インベントリから二つ目の武器を取り出す。


「ゆ……ユウト、これって……」

「僕には使わないでね、さすがにエリにこれを使われたらいろいろとつらい」

「絶対使わないって!」


 エリが反論しつつも、急に窓の方へと顔を向ける。

 窓を見ながら耳がぴくぴく動き、ユウトはすっかり動物の耳となった従妹の獣耳をどんな仕組みになっているのかとじっと見つつ、その様子からエリが何かを感じ取ったことが気になった。


「エリ、どうしたの?」

「うーん、なんか騒がしい?」

「……まさか」


 ユウトがもしもの可能性に小さく呟いた瞬間。

 部屋の扉が音を立てて開いた。


「連中、動きが速い……! すまぬ、お二方! 早速襲撃があったぞい!」


 二人は顔を見合わせると頷き、アグロウスとも頷き合って外へと走った。

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