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4.ユウトとエリは、サラセナの提案を受ける

「ウルフヒュム……っていうと、もしかして、私みたいな種族ですか?」


 サラセナの提案に対して、エリが持った疑問はエリにとって当然のこと。自分以外の獣系亜人を見たことないのだから、確認するしかない。

 しかしそれは、サラセナにとってはもちろん驚くことであった。


「……獣系亜人そのものを、見たことがないのですか? 自分がそうなのに?」

「ええっと……鏡を見て、初めて自分がふさふさでまっしろだって気付いたぐらいの記憶喪失です……ハービットンもユウト以外は知りませんし、正直エルフも今日見たのが初めてでして……」


 あははとごまかすように笑いながら、エリは恥ずかしそうに頭を掻く。


「それで、結局協力してくれるのですか?」

「ユウトは協力した方がいいと思う?」


 分からなければ、まずはユウトに聞く。


「ちょっとまってね。サラセナさん、質問いいでしょうか」

「……はい。やはりあなたが、指示役なのですね。」

「お恥ずかしながら……もちろんエリの方が強いですからね。それで、ピーブイピ……じゃなくて、ウルフヒュムの襲撃ですね。僕が気になるのは一つ」


 ユウトは表情を消し、小さな身体ながら相手の目をじっと見て、一歩前へ出る。

 サラセナは、息を呑みながら……半歩下がった。ユウトの雰囲気に押し負けていた。


「ウルフヒュムは、息の根を止めるところまでやりますか? もしそうだというのなら、僕は協力する気はありません」

「っ! も、もちろん撃退か捕縛で済ませますわ! 殺しまでやってしまったら、我らも獣同然、腕や足に大怪我を負わせたとしても、命までは取りません!」

「それを聞いて安心しました」


 ユウトはふっと笑い、一歩下がる。サラセナは大きく溜息を吐くと、椅子に座った。


「……っふぅー……協力いただけるとのことで、感謝します。ウルフヒュムに対して剣を向けることが出来れば、我々もあなた達を疑うことはないでしょう」

「わかりました」

「それじゃあ……お父さん、二人は任せてもいいですか?」


 アグロウスは腕を組んで頷くと、エリとユウトを誘って部屋を出た。


 三人が退室した後。


「……ハービットンって、あんなに堂々としてる種族だったかしら……。多分、彼だけよね……?」


 サラセナは一人、ユウトの雰囲気に未だ呑まれていた。




 アグロウスの部屋は、もちろん娘であり長のサラセナと同じ家で、大きな部屋になっている。

 その向かい側に、客人用の宿泊場所がある。


「もしかするとエリ殿には小さいかもしれぬが、大丈夫であろうかのう……」

「んー、ユウトと一緒なら私はどこでも大丈夫ですよ」

「ほほ、仲の良いことは、ええことじゃ」

「うへへ……」


 そんなやり取りで顔を緩めて赤面し、照れ隠しにユウトを抱き寄せるエリ。 

 ユウトの後頭部が、エリの柔らかなものを押し返す感触を明確に伝えてくる。


「え、エリ、あんまり人前では……ああもう今更かあ……」

「仲睦まじいの! ところで、ユウト殿は、男性でいいのですかな?」

「あっ、えっと……はい、男です……」

「それはまた羨ましい限りですのう! このような男女の番いもおるとは、面白いものじゃて」


 番い、という言い方が指すのは……カップル、アベック、そして……妻夫。

 エリは緩んだ顔から本気で羞恥を我慢するような茹で蛸赤面に変わり、ユウトは後頭部からずぶずぶとエリに埋まっていく。


「それでは、睦み合いのお邪魔となる前に、退散しますかな! 襲撃の際には呼ぶので、そのつもりでいてくれたらええぞい」

「わ、分かりました」

「あと、個人的に出たい時はノックをするように。二人だけで集落には出て行かぬようにな」

「はい」


 ユウトはアグロウスの言葉を一応は真面目に返しながらも、エリの胸の中に挟み込まれながらの会話だったので、内心は穴があったら入りたいほどの恥ずかしさであった。

 穴ではなくエリの身体に入ってしまっているわけであるが。


「え、エリ〜、そろそろ解放してくれないかなぁ〜……」

「……もちょっとだけ、もちょっと……」

「もうちょっとって……あの……ちょっ……」


 恐るべし、エリのバストサイズ。

 ユウトは後ろからでも、少し声を出しづらくなっていた。

 さすがにこの姿勢でエリの身体に溺れるのは恥ずかしすぎるので、ユウトは足を使ってエリに抗議する。


「わ、わっ! あ、ごめん解放するね!」

「ううっ……エリって、こんな僕に対して大胆だったかなあ……」

「ま、毎年いちおー、抱きついてはいる、けど」

「……そういえばそうだった……」


 そう、エリは毎年ユウトに抱きついていた。

 無邪気に、都会で育った美少女は従兄にハグをしていた。

 ただしエリは標準的な日本人らしい体つきをしていた。


 そのノリのまま、エリは今の身体でもやっているというだけであった。

 あのスキンシップの激しさを思い出し、ユウトは抗議を諦めることにした。


「ふぅ〜……。さて、エリには事前に言っておくけど、ここはPvPの場所だったね。あまり利用していたわけではないから忘れていた」

「PvP? なんだろう、対戦?」

「おっ! そのとおりだよ」


 プレイヤー、対、プレイヤー。

 その中でもこの森は、団体と団体の対決の場である。

 プレイヤーは、ここジュライミストのエルフと共に、襲撃者と戦うのが攻略に必須となっている。

 場合によっては、ボスCPUの代わりに、プレイヤーが襲ってくることもある。


 つまり、攻略に関してはユウトの予定通りであった。

 ただその中でもずっと考えていたのが、エリの存在だ。


「多分相手のウルフヒュムは、普通に喋ったりできる狼人間だ。顔まで狼の男かどうかは分からないけど、大幅に人間に近いはずだよ」

「……あっ、それで」

「うん、エリには実際に人間に近い存在を斬れるかといったら斬れないだろうし、何より僕がエリにあまりそういうことをしてほしくないから」


 エリは、先ほどのユウトが自分のことを考えてくれていたことに胸が熱くなった。

 同時に、自分はユウトがいなければとても怖い橋を渡らされる可能性があったことに気付き、身体が震えた。


(やっぱり今度も、守られるだけだなあ……)


 そう思ったからだろう、エリはユウトの提案に飛びついたのは。


「でも相手がどう出るか分からないから、対人戦を見越してエリに戦い方のパターンを教えようと思う」

「! うんっ! ユウトは絶対、絶対絶対! 私が守るからね」

「ほんと頼りになるよ、よろしくね」

「はい先生!」


 ユウト先生による、エリの対人戦特別訓練が始まった。

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