3.ユウトとエリはジュライミストの長と会う
原因不明でネットワークが繋がらないので、テザリングで投稿してます。
なおってるといいなー……小説がデータ転送軽くてよかった。
ジュライミスト。
それは、霧と森に包まれ、木の上で武器を構えることに長けたエルフが守りを固める天然の要塞。
ユウトにとってジュライミストは、ゲーム内では特に敵が見えないこともあって恐ろしい印象が強かった。
実際この者たちは敵に対しては容赦がなく、見方によっては独特の閉塞感に包まれている……が、実際にユウトがこの場所に来て感じたことは、思った以上に爽やかな空気であったことだ。
森自体が涼しいことと、霧が思ったよりも湿度に影響していないことも影響している。ミストとはいうが、単純に水ではないように感じていた。
「結構爽やかな空気だね」
「エリもそう思った? 僕も、ジュライミストはもっとじめじめしてるものかと思ったけど、気持ちいいね」
シャティナが、集落の守りのために残ると言い、二人はアグロウスと三人となった。
その森を歩いている内に、ちらほらとエルフの顔が見えてくるようになる。さすがに見慣れぬ二人に対して警戒していたが、アグロウスが先導していることも影響してか、問題になる様子はない。
そして、霧に包まれた森の中から、草木が取り払われた広い道と、木造建築の家が現れた。
ジュライミストの入り口だ。
「まずは儂が長に話をする。それまでお主らは、不用意に喋らぬようにな」
「はい、対応いただきありがとうございます」
「ん」
アグロウスとともに、集落を真っ直ぐ進むと、やがて木造の家が現れる。
ログハウスというよりは、どこか日本家屋に近いその家へと足を踏み入れ、二人はアウグストに任せるままに屋敷の奥へと足を進める。
やがて家の奥にある扉をノックし、相手の返事を聞かずにアウグストは扉を開けた。
「邪魔するぞい」
「お父さん、ノックをしたら返事をするまで待ってくださいとあれほど……え?」
アグロウスが遠慮なく足を踏み入れた部屋の先には、大きな机の前で本を読む年若い見た目の緑の長い髪を真っ直ぐ伸ばした女性。
その柔らかな目が驚愕に見開かれる。
「そ、その者達は……」
「儂の責任で、集落に招いた者達じゃよ。村の信頼を得たいところじゃな」
ユウトとエリは、二人の会話を聞きながらその関係図が分かった。
アグロウスの後ろで、エリが身を屈めてユウトのすぐ近くに耳を寄せる。
「(長のパパさん?)」
「(らしいね)」
なるほど、確かにアグロウスに任せておけば万事解決であった。彼がこの集落で発言権があることに疑う余地はない。
緑の髪のエルフは、ユウトには目もくれず、エリを思いっきり指差しながら、震え出す。
何事かと思っていると、直後、叫んだ。
「思いっきり亜人を連れ込んでるじゃないの!? なんなの、危機感ってものがないわけ!?」
やはりエリに対して、エルフのアタシはかなりきついようである。
その反応を見て、エリは悲しそうに目を伏せた。
「やっぱり……そう、なんですね。よっぽどその、獣系亜人って、嫌われてるんだなあ……」
「それはエリの責任じゃないよ、気にしないで。僕の知ってる知識になくて……いや、調査不足だった、ごめん」
「ユウト……ううん、それこそユウトの責任じゃないよ。だって私、考えることすら殆どしないもん。ユウトに任せっきりで起こったことは、全部受け入れるつもり。だから、ユウトの責任でもないよ」
二人のやり取りを聞いて、エルフの女性が立ち上がり、怪訝そうな顔をして寄ってくる。
近づくと、ユウトからはかなり見上げる形になった。体感上、170cmぐらいだろうか。エリのちょうど胸のあたりに顔があり、ユウトは女性の胸が正面に来る形になる。
「……あなた、獣系亜人ですよね? 何他人事みたいに言ってるんですか?」
「その者は、儂が話をした限りウルフヒュムとは全く関係ないぞい?」
「お父さんから見てそんなに違うものなのですか? 私にはよくわかりませんが……」
エルフの女性は、二人を見比べて、一歩下がると「【ステータス】」と呟いた。
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名前:サラセナ・フェスラァヤ
レベル:101
種族:ハイエルフ
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突然の内容を表示する魔法と、そのレベルにユウトは驚いた。
情報開示は、よっぽどのことがなければなされないと考えていたからだ。
実際、オーガストフレムではギルド登録の際にも、プライバシーに配慮して要求されることはなかった。
つまり、このステータスを見せたということは。
実力の示威であり、こちらの開示の要求である。
これを出されたら、断ることはできない。
「挨拶が遅れて申し訳ありません、私は『ジュライミスト』の長、サラセナ・フェスラァヤというものです。相手に要求する上では、まず自分が率先してするもの。お二人とも、ここで信用を得るためには情報を開示していただきたく思います」
ユウトは断る理由もなかったので、自分のステータスを表示させた。
「……レベル26のハービットンですか、旅には慣れているようですね」
ユウトは、また上がったなと思いつつ頷いた。
エリはユウトを見て、自分も表示させようとして、少し踏みとどまってユウトに聞く。
「ねえ、ユウト。私も表示させてもいいんだよね?」
「いいと思うよ。どのみち出さないといけないだろうし、それによって不利益もないはず」
「わかった」
そのやり取りに、周りのエルフ達はお互いに顔を見合わせていた。
なんといっても、そのエリの態度に驚かされたのである。
サラセナとアグロウスが、顔を近づけてひそひそ話をする。
「(おかしい、明らかにハービットンの指示に従っていますよ……?)」
「(儂もそれを見て入れようと思ったのじゃ。あの亜人、尊敬か恋慕かは分からんが、完全にあのハービットンにベタ惚れと見た)」
「(まさか……)」
否定しようとして、先ほどのやりとりを思い出す。
確かに部屋に入ってきてから、全く暴れる様子もなければ、自分のレベルを見て喧嘩腰になったりする様子もない。
獣系亜人は、戦闘民族というのがサラセナ達にとって常識だからだ。
「えっと、それじゃ……【ステータス】」
そんな二人の気を余所に、エリは自分のステータスを表示させる。
その内容を見て、凍り付くエルフ二人。
「な……なんですか、このレベルは……」
「あはは……」
エリは、頭を掻きながら自分のステータスを見て気まずそうに笑う。
それはもちろん、尊敬や畏怖の眼差しとなるこのレベルが、別に自分が地道に育てたわけではないのだから。
「……お父さん、知ってましたか?」
「いや……相手にしても勝てないぐらい強いとは思っておったが、まさかこれほどとは……」
サラセナはその数字を見て最初は驚いていたが、、すぐに顎に手を当てて考え込んだ。
その様子にユウトとエリは顔を合わせると、サラセナが考えをまとめたのか、口を開いた。
「……エリさん、でいいのですよね?」
「あっ、はい。もっと気楽に呼んでいただいてもいいですよ?」
「いえ、これは元来のものなので。……あなたは、見た限りではウルフヒュムとは全く違う、ということでいいのですか?」
「……ユウト、私ってそんなに違うの?」
「耳が似てること以外は全然違うよ」
ユウトの返事をもらって、「だ、そうです」と答えたエリ。
そのやりとりも、サラセナにとっては驚くことであった。
「自分のことも含めて、ユウトさんに任せているのですか?」
「はい。私はえっと、記憶喪失……です。亜人ってのがどういう種族かも知らないので……ユウトは知識豊富で頼りになるので、私は彼を信頼して、判断にはいつも従っています」
はっきりと言ってのけたことで、サラセナもようやく納得する。
力自慢の獣系亜人が、圧倒的に高いレベルでありながら、弱い者の知識を尊敬しているのだ。この者は、獣系亜人のような『力こそ全て』という価値観とは全く違う、文化人の類なのであろう。
同時に、その全幅の信頼を寄せられているユウトという存在に、サラセナは大いに注目した。
だからサラセナは、ユウトに対して提案をする。
「ユウトさん、あなたたちは我々の信頼を得たいと言いましたね」
「……? はい」
「それでは、あなたたちが敵ではないと、この集落の者に証明する方法を提案します。有り体に言えばお願いですね」
サラセナは、一度目を閉じて、再び目を開くと驚くべきことを言った。
「今現在、我々ジュライミストはウルフヒュムの集団から襲撃を度々受けているのです。彼らの撃退に協力してくださいませんか?」