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2.エリの種族を認めてもらうまで

 ユウトは木の上で矢を撃つ準備をした女性を見る。

 少し分かりにくいが、奥にも別の戦士が構えているのが見える。

 まず敵対するのは不利だと考えたユウトは、盾を持ったまま両手を上に挙げて叫ぶ。


「すみません! 話を聞いていただけませんか!」

「なんだと亜人……亜人じゃない、今のはそこの人間の子供か?」

「ハービットンです!」

「なんと、小さき者か……?」


 女性がユウトを見て、少し戸惑った声を発する。

 その反応を見て、構えた盾を少し下ろしながらユウトは内心ほっとしていた。


(ハービットンに対する印象は、悪くなさそうだ……)


 アクションゲームである関係上、同じ人間体型でしか操作することはできない。

 ハービットンでも獣系亜人でもやってきたことはもちろんないので、相手の相性がいいかどうかは博打であった。賭けは当たり、相手の警戒が大幅に解かれる。


 ちなみに、ダメだった場合はエリに強行突破してもらうつもりでいた。


「獣の奴隷か」

「いえ、違います。僕はエリ……彼女のパーティーメンバーです」

「……奴隷じゃなければ、部下か?」

「それも違います、僕の方が彼女の指揮権があります」

「は?」


 木の上の女性が降りてくる。高さ4メートルはありそうな枝の上から落ちてくると、痛がるそぶりも見せずにユウトに近づいた。

 一瞬、ユウトは振り返り、エリにだけ聞こえる小声で囁いた。


「合わせて」

「……!」


 エリはユウトを見て小さく頷くと、盾を武器を持って構えつつも、ユウトの後ろについた。

 ユウトは歩いてきた女性を見て、やはりと確信する。

 耳が、非常に長い。


(人物の顔ぶれは違うけど、ここにいるのはゲームと同様にエルフで間違いない。弓と、剣と、術と……あとは恐らく、隠密も)


 女性の後ろから、更にエルフの男性が盾を構えながら近づいてきた。

 ユウトはその、二人のエルフの雰囲気を見て、自分たちが目的地に到着したことを確信した。


(到着した……。PK(プレイヤーキラー)集団に囲まれた、濃霧の森にあるエルフの集落、『ジュライミスト』)


 エルフの男女は、お互いアイコンタクトを取りながら、ユウトとエリに視線を向ける。特にエリに対する警戒心が高い。

 先に声を出したのは男の方だ。


「もし、お主。先ほどその獣系亜人を、自分の部下だと言うたな?」

「部下とまで言うつもりではないですが、一応彼女が年下で、対等な関係のつもりです」

「……にわかには信じられんのう」


 若々しい見た目とは違って、老け込んだような言葉遣いをするエルフの男性。

 エリは、身の丈190cmほどの——それでもエリよりは小さい——その男性に対して、困惑した表情を浮かべながらユウトの方にちらりちらりと視線を向ける。

 そんな表情をするものだから、むしろエルフの二人の方がエリの反応に驚いていた。


 今度はエルフの女性の方がエリに声をかける。


「あんた、名前はエリっていうんだな?」

「は、はい……」

「ここへは、何しにきた?」

「えっと……何しに来たの? 魔物討伐?」


 疑問を持たれて、初めてエリはジュライミストでの目的を聞いていないことに気付いてユウトに聞く。


「ここの奥にある遺跡っぽい場所に、大きい魔物がいるからそいつが目的だよ」

「あ、やっぱそなんだね。今回もたくさん私に任せて!」

「もちろんだよ。ここのボス、スピード型だから僕の身体じゃ絶対相性悪いんだよね……」


 そんな二人のやり取りに、エルフの女性は目を見開く。


(本当に……獣が小さき者の指示を仰いでいるのか……?)


 後ろの男性も同様に、エリの反応に驚いていた。


「そうか……エリとやらは獣の耳はあるが、いきなり喧嘩を売ってきたりするウルフヒュムの連中とは違うのじゃな?」

「えっと、フェンリルヒュムっていいます。一応近い種族っぽいけど、全然違うんじゃないかな?」

「そうか。……ふむ……。……獣系亜人が何度か挑みに来たが、まさかあんた、挑むのが怖くて力を出さない、ってわけではあるまい? 自信がないのか?」


 少しにやりとしながら、挑発的な表情を取る女性。


(力自慢の獣どもは短絡的だと聞く。少し煽ってみるか)


 そのようなエルフの女性の内心は、エリには分からず。

 言われたことに対してエリは面食らいながらも、少し強めに鼻で息をして、反論はしない。

 さすがに気分は悪いが、耐えることを選んだ。


 しかし、その煽りに対して反応したのは、むしろユウトであった。


「エリが対人戦で負けるわけないでしょ、エルフって思ったより血の気の多い種族なんですか?」

「は?」


 ユウトは、エリを誰よりも信頼している。

 今の交渉に於いて悪手であるとは頭で分かっていても、エリを侮辱されて黙ってはいられなかった。

 これには、ユウトが我慢強いと知っているエリが一番驚いていた。


「そういう挑発をしているのは、そっちがエリの優しさに甘えているからでは?」

「……っ! 言わせておけば、小さき者のくせによく吼える! 大して強くもないくせに、獣の手下に守ってもらって威を借るなど、弱いヤツの考えそうな————ヒッ!?」


 エルフの女性がユウトに挑発を返そうとしたところで、エリの剣がエルフの首につきつけられていた。

 それは圧倒的な身体能力で動いたことと、【インベントリ】を利用した一瞬の動き。

 エルフの二人は全く反応できないまま、命がいつの間にか相手に握られていることに、遅れて気付く。


「あ……インベントリ……?」

「ユウトは……ハービットンの彼は、私よりよっぽど強いですよ。私のことは、どんなに言いたい放題言ってくれてもいいですけど、あまりユウトに対してナメたこと言ってると……ユウトの言いつけを守れる自信はないです」


 ユウトは、エリを侮辱されて怒った。我慢できずに声が出てしまった。

 同じように、エリはユウトを侮辱されて一瞬で頭に血が上った。

 だから我慢できずに手が出てしまったのだ。それでも、寸止めで抑えている。


「ぬぅ! すまぬ、エリ殿! 今のは試すような真似をした此方が悪かったぞい!」


 エルフの男性は、すぐさま慌てたようにエリに深く頭を下げた。


「あ……アグロウスさん……」

「シャティナも謝るのじゃ、口で煽っておいて激昂に殴りかかられもしていない、これでは獣系亜人よりよっぽどこちらの方が野蛮じゃぞ。このエリ殿がそこいらの獣とは違うのは、もう分かったであろう」


 シャティナと呼ばれたエルフは、気まずそうに「す、すみませんでした……」と言いながら頭を下げた。

 元々そこまで敵対心があるわけではなかったため、エリはすぐに彼女を許した。


 ユウトはエリが思いの外突っ走ったことに少しはらはらしていたが、自分が先にやらかしたことにも反省した。

 同時に、今エリに言われたことが嬉しくて、やや緊張感が欠ける反応だと自分で思いつつも、少しむず痒くなってしまう。


「とりあえず、集落に用事があるということでいいですかな?」

「いいんですか、アグロウスさん」

「長に怒られたら、その時はその時じゃな。第一強行されてたところで、とても抑えられそうになさそうだしのう」


 アグロウスは、エリとユウトに目配せすると、森の奥に向かって歩き始めた。

 ユウトはゲームの知識外の第一関門を切り抜けられたことにほっとしながら、二人の後を追った。

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