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29.二日目任務は、トニーと行動

 トニーは、朝早くから道具を背負って二人に近づく。

 そして、満面の笑みでユウトを覗き込む。


「ユウトは泊まりだったんスよね、昨日は二人でイイコトしたんすか〜?」


 朝一番でいきなりの下世話なネタに、顔を真っ赤にしながらユウトは首を振った。


「す、するわけないよ!? 第一エリはまだそんな年齢じゃないんだから!」


 エリは、反論に怒ることすらできずに恥ずかしがっていた。

 ユウトの返答を聞いたトニーは、今ユウトからひとつの情報が出て来て驚く。


「……エリは、そんな年齢じゃない? いや待て、ユウト。お前さん18だよな?」

「そ、そうだよ」

「もしかして、エリって相当年下?」


 その質問に、そういえばユウトは自分の年齢しか伝えていなかったことを思い出した。

 大鷲の翼の皆はもちろん、カレンやヘンリーも含めてそうだったが、エリとユウトが並んでいたら当然エリの方が年上に見える。

 兄と慕うといっても、せいぜい同い年か師弟関係みたいなものだと皆思っていた。


「16歳だよ」


 ユウトの言った年齢に、トニーは「うえええ!?」と驚いて一歩引き、エリの顔を見上げ、身体を足元までなめ回すように見て、再び「ええ……?」と困惑した声を上げた。


「16って……いや、エリさん、まじっすか?」

「え、ええっと……はい……」

「まじっすか……こりゃ驚いた。ああ女の子に年齢聞いて自分だけってのはいかんっすな、自分は23っすわ。パーティー内だと下から二番目っす」


 トニーはしきりに、「アリアより年下かあ」と呟いていた。


「それよりトニー、何か用なの?」

「ん? ああ、今日は魚の方にでも行こうかなと思ったんすよ」

「魚?」


 ユウトの質問に、トニーはにっと笑って背中の袋を取り出す。

 そこには、鉄の柄に網を取り付けた道具があった。

 所謂『タモ網』である。


「へえ、トニーは魚を獲りに行くんだね」

「おうよ、この辺りじゃ魚も料理で出てくる。網を張って一気にって方法もどっかの街がやってたんだけど、翌年全部ダメになっちまって以来禁止されてるから、地道に手で獲るってわけよ。なかなかこれが面白いんすよね」

「なるほどなあ、釣りかあ」


 エリもユウトも、魚を食べたばかりである。昨日は串焼きを食べてアリアのヘビーラビット狩りを見て、今日は魚を朝食に食べた直後にトニーの釣り道具を見ている。


 トニーの話を聞いて、ユウトはふと思い出す。

 西の森に、大きな川と橋のマップがあったはずだ。

 ゲーム中は当然のことながら、プレイヤーも通行できるただの目印でしかなかった。


「もしかして、西?」

「おっ、知ってるんじゃないすか。ってことは、自分の言いたいこともわかるっすよね」

「もちろん。エリもどう? 今日予定がないのなら、トニーの魚獲りにでも付き合うっての」

「そうだね。東の森、ミリアさんの話によると私は大丈夫だろうけど、昨日ユウトが沢山採集したからまだ大丈夫って言ってたし」


 エリも頷いたところで、今出て来た話題をトニーが拾った。


「アリアが話してたっすけど、東の森でホブゴブリンって運悪いっすねー……南東の廃城の魔物が、東の森の奥だから……北からっすか? とてもありえないっすよ」

「そんなに珍しいんだ?」

「年数回でもあったら、近づくヤツはいないっすよ。超速いけど数百回のうち一回は必ず脱輪して事故死するかもしれない馬車とかあったら、乗るっすか?」


 トニーの例えに、納得したようにエリもユウトも首を振った。

 ホブゴブリンに出会うのはあまりにも危険で、もしも頻繁に出るようなら、間違いなく誰も寄りつかない。


「んじゃま、軽く携帯の干し肉でも増やして向かいますかね」

「うん、よろしく」

「ユウト、私昨日のベリーまた食べたい」


 ちょうど、アリアが納品したばかりのあの屋台のことだ。


「おっ、じーさんの焼肉んとこっすね! あのじーさんベテラン先輩で、数々の生活魔法を使いこなして遠征してたんすよ」

「そういえば魔法でコップを洗ってたよ」

「ありゃ初歩の初歩で、屋台で焼いてる肉も、あとサーバー冷やしてるのもじーさんの魔法っすよ」


 ユウトは、昨日飲んだ飲み物が冷えていた理由がようやく分かった。

 氷を入れて、というのではなく、単純にあの屋台のおじいさんが複数の魔法を使いこなしていただけだったのだ。


「へえ……すごい人なんだね」

「弟子入りを志願する人も多くて、簡単に教えてるって聞いたっすよ」


 その情報を聞き、ユウトもいずれ習いたいなと思った。

 エリはきっと使いこなせるであろうが、『生活魔法』というものはゲームの攻略にはなかった。何一つ知識はないが、きっと必要になるだろうと思う。


「んじゃま、そろそろ……って」


 トニーは、眼を細めて人混みを見る。


「どうしたの? トニー」

「……ダグラスっすね」


 トニーの視線の先にダグラスがいるようだが、視線の低いユウトはもちろんエリからもよく見えなかった。


「バッグ持ってるっすね。武具もつけて」

「そういえば、昨日も会ったよ」

「知らないお仕事、あっちもやってるみたいっすねー。行動は自由っすから、あんまり詮索はしないようにしてるっすよ。収益もそれぞれ自分の懐に入れていいって、サリスは言ってるっす」


 最後にそう言ってトニーは手を叩くと、あまり話し込んで時間がなくなるともよくないと、準備を開始した。

 たまたまこうやって『大鷲の翼』のメンバーに出会うのなら、明日はダグラスの仕事を手伝ってみようかな、とユウトは考えていた。




 ユウトの記憶通りの場所、西の森には10メートルほどの幅の緩やかな川があった。

 ゲーム中は設定されていなかったのか見つけたことのなかった魚が、川の中にいくつも泳いでいる。


「うし、今日も元気いっぱい、沢山っすね!」


 トニーは道具を取り出すと、川の縁へと近づいて網を構える。

 真剣な顔をしてゆっくり沈めて、川の上流の流れを見ながら前後に動かし……勢いよく持ち上げる。


「うっし!」


 網の中には、まるまると太った、ヒレの妙に多い魚がいた。

 古代魚のようで、少し違う。恐らく地球では存在しないであろう魚。


「おーっし、シレルサンサまずは捕獲! この調子で、ヌルレードも捕獲させてもらうっす!」


 トニーは楽しそうに、背中から降ろした大きな容れ物に、暴れる魚を入れる。

 ユウトは全く知らない淡水魚を見ながら、今朝食べた魚が恐らくアレだったんだろうな、となんとなく予想をつけた。

 ヌルレードが、コース料理で出て来た魚だろうか。


「トニー、僕らは道具もないし、そのあたりで討伐でもしてるよ」

「まじすか、助かるっす!」


 ここでトニーの成果を見るのも面白いが、することがないのではいたところで仕方がない。

 ユウトはトニーの返事を聞くと、エリと一緒に森の方へと足を進めた。




 昨日と同じように、【サーチ】の魔法を使って森を歩くエリ。

 ユウトは足元を見て、ナイフを取り出す。


「どうしたの?」

「ファス草だ。シェイル草はないけど、こっちはファスの方が多いんだなあ。ちょっと採ってくよ」

「わかった! 昨日と同じように、私は魔物を倒しにいくね」


 ユウトはエリに索敵を任せると、森で昨日はシェイル草に比べて少なめだったファス草を採集し始めた。

 エリは気合いを入れて、サーチに引っかかった魔物を狩りに出向く。


 お互いがお互いの得意な部分を補い合っているこの任務、悪くないなとユウトは思い始めていた。

 エリも、魔物が相手ならいくらでも戦える。それ故に、自分の得意なことを任せてもらえる今の役割に満足していた。


 ——それから、せいぜい十分も経過していない頃。


「……ゆ、ユウト……」


 エリが、困惑した声でユウトに声をかけた。

 その雰囲気に気付いたユウトは、立ち上がってエリを見る。


「どうしたの、エリ、何かあったの?」


 ユウトはすぐに採集を止めてエリの近くに走る。

 エリは、自分の右手を差し出した。


 その手の平の中には、ゴブリンの魔石が10個ほど。


「こんなに……! 沢山倒してくれたんだね」

「うん、まだまだこんなものじゃないぐらい、倒したよ。……でも、そうじゃなくて……」


 珍しく、歯切れ悪く声を出したエリが、左手を出す。

 その中には……魔石が一つ。

 右手の魔石の、十個のゴブリンの魔石と、ちょうど同じぐらいの質量になるであろう大きな魔石。


「……まさか!?」

「うん……」


 昨日、エリが査定に出した魔石の話を聞いていたユウトは、すぐに左手のものが思い当たった。


「絶対出ないって言ってたのに、この森にもホブゴブリンがいたよ……?」


 ユウトはその答えを聞いて、違和感を覚えた。

 二回連続の、ホブゴブリン出現。しかも、ゲームでは有り得ないところで。

 真っ先にゲームとの違いを想像したが、今のところ魔物の配置に関しては殆ど差がないといっていい。


 そしてユウトは、ひとつの可能性に思い至る。

 ——何かの異変を感じる、と。

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