2.柳葉ユウトはゲームの世界へ転生した
異世界転生ランキング30位でした! ありがとうございます!
ユウトは急に光に包まれたかと思ったら、頭がふらっときて眠ってしまったかのように意識を奪われた。
数刻か、一瞬か————ユウトが目を開いた時に視界の先にあった光景は、全く見知らぬ空と……二つの月。
二つの月というものを見て、ユウトはまだ寝ぼけている頭でぼんやりと考えた。
(……いくつかの漫画やゲームで、月が二つというものはあったな……)
そう、例えば――。
(『ブラッディ・ブラックバーン』も)
先ほどまで遊んでいたゲームを思い出し、ユウトは起き上がる。
そして自分の姿を見て驚いた。
(革の鎧。自分が着ているこれは……初期装備!?)
そのデザインは、まさに先程まで遊んでいたゲーム『ブラッディ・ブラックバーン』の見慣れた初期装備そのものだった。
目の前に、ウッドシールドとロングソードがある。それらを持つと、ずっしりとした重みが両腕に広がる。
有り得ない、感触が現実そのものであった。
(リインカネーション……転生……まさか!)
自分の姿の次は、周りの建物を見る。
大きな王城に蔦が絡まっており、城壁などもところどころ崩れている。しかし何よりも、この建造物の形状に見覚えがあった。
間違いなく、ゲームのチュートリアルステージそのものであった。
ユウトは深く考えずに『Reincarnation』を押してしまった自分を後悔した。
次に想像したのは、先ほどまで一緒に仲良く喋っていた従妹の顔。
(僕は、エリと一緒にいはずだ。異世界転移のようなものとなると、エリの目の前で消えてしまったのか? まさか……突然、死んだり……してないだろうか……)
あの元気な顔が曇っていないか心配になるも、それを確認する手段などあろうはずもない。
注意事項を読み飛ばし、利用規約を読み飛ばした、その結果が今の状況である。
このまま待っていても助けなど期待できないと判断したユウトは、何度もやったチュートリアルステージを攻略していくことにする。
チュートリアルは単純だ。地面に刺さった看板に書いてあるボタンと動作動作を覚える場所で、敵は弱い。
しかしここにはコントローラーなどあろうはずもなく、ユウト自分の体で動くしかなかった。
ユウトにとって何度も遊んだゲーム内でも、実際にそのファンタジーの世界観を色濃く反映した廃墟を歩くのは新鮮であり、少し恐ろしくもあった。
(……折角だし、考えても仕方ないのなら……まずはReincarnationモードも遊んでみるか)
ユウトは『Rスティック』『Lスティック』など何の意味もない看板を読みながら、建物を進んでいく。
次の看板は『R1』と書かれていた。意味は『右手のボタン1』で、効果は『攻撃』である。もちろん現実に自分で自分の体を動かしている以上、そんな看板は何の意味もない。
ユウトは目の前のチュートリアルステージで出てくる……にしては妙に大きいゴブリンを見つけて、盾を前に出しつつ剣を構える。
ゴブリンと正面から目が合うと、相手は木の棍棒を何度も見た動きで振りかぶってきた。本来ならば簡単に盾で受けられそうなその攻撃を、ユウトはその姿の大きさから威力を想像して回避した。
そして相手が空振りしたところへ、剣を両手持ちし飛び込み攻撃を行う。ゲームで何度もやった、確実な攻撃パターンだ。
ユウトの六度目の攻撃で、ようやくゴブリンは倒れた。ゲームのチュートリアルより、かなり時間がかかっている。
「やった! ……あれ?」
声を発した瞬間、ユウトは違和感に襲われた。
(何だ、今の妙に高い声は……?)
「あ、あ……あー、あー」
何度か発生してみて、その可愛らしい声が自分の口から出ていると気付いて……同時に、本来なら人間の胸までしかないゴブリンを同じ目線から見ていた理由が分かって、ユウトはついにその可能性を確信した。確信してしまった。
(子供に転生してる……!?)
このアクションRPGというジャンルのゲームでは、敵味方共に操作感の差が出ないように、身長差や体格差などにプレイ感が影響しないようにしている。
プレイヤーは子供をプレイすることもなければ、巨人をプレイすることもない。だから全てのユーザーは、テクニックによって平等に技術を競うことが出来る。
しかし今、明らかに胸までしかない魔物である雑魚のゴブリンと目が合った。同時に、ゲームでは初期装備として置いてある武器は、ショートソードであったはずだ。
そう、ロングソードだと思い込んでいた剣は、単に自分の体格から見て大きく見えたショートソードだったのだ。
(どうするんだこれ……こんなに速度もリーチも、何より回避行動できる距離にハンデがあるモードなんて……)
そう思いながら、結局ハードモードだと分かった上で遊んだのが自分であることを思い出す。
何もかもが後の祭り、文字通り後悔先に立たず、であった。
ユウトは自分の短絡さに再び溜息をつきつつ、それでも待っていたところで事態は進まないだろうと、次の道を進んでいった。
しかし次の看板は、無視出来なかった。
(『詠唱』……ステータス?)
それは、今までに見た看板の説明とは違うもの。
訝しげに思いながらも、試してみないことにはわからないと、少し恥ずかしく思いつつも声を出す。
「『ステータス』……なんか独り言言ってると馬鹿っぽいなハハ————うわっ!?」
自分で自分の滑稽さに笑った次の瞬間……目の前には、ゲームの画面で見たステータスそのものが表示されていた。
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名前:柳葉ユウト
レベル:1
種族:ハービットン
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「本名かよ!?」
そのステータスを見て、まず真っ先にその部分を叫んだ。
一体どうやって調べたのか、自分のIDであったアレキサンダーと誕生日を組み合わせただけのプレイヤー名は跡形もなく、ステータスには堂々と自分のフルネームが書いている。
しかしユウトは、その部分がすぐに気にならなくなるぐらい、不自然な場所に気付いた。
種族の表示欄だ。
「ハービットンって確か、アクセ作ってた種族だよな?」
ハービットンとは、ゲーム中盤に出てくる山林中腹の村に住む一族で、アクセサリーを製作・加工できるようになるゲーム攻略用の重要拠点にいる一族だ。
ゲーム中ではNPCであり、対立もせず会話のみ。だからユウトも彼らの種族としての能力そのものに関しては、あまり気にすることもなかった。
何度も攻略したユウトにとっても『ああ、魔法と器用さに特化した種族なんだな』程度であった。
しかし、自分は今その種族になっている。そうなると、当然話が変わってくる。
何よりも重要視されるのは、その種族の容姿である。
ハービットンは単純な話、一族全てがとても小さい。彼らは大人でも、人間の子供ぐらいの背丈しかなかった。
「……ってことは、まさか僕はこれで、大人として転生してるの!?」
ユウトはその事実に焦りが募る。子供の体で転生したのならまだ成長途中だし、大人になれば出来ることも増えるだろうと思っていた。その前提条件が、ハービットンであることにより全て覆ってしまうのだ。
つまり、このゲームの転生モードをクリアしなければ、ハービットンのままであるということ。そして逆説的に、ハービットンのままゲームをクリアしなければならないことを意味する。
それまで培ってきたゲームプレイは、盾受けのスタミナ、高威力武器を装備する筋力、何より敵の攻撃を回避する回避動作の距離によってゲームを遊べていたのだ。
だから、横跳びやバックステップの回避距離が短ければ、当然攻略そのものが変わってくる。
そしてユウトは、このゲームを遊び込み、攻略サイトの一部も担当したほどの人間の一人として、一つの明確な事実を知っている。
このゲームは、回避を前提としている。
最終的に、盾受けだけではなく回避行動を得意になっていくことによって敵を倒すのが、このゲームのプレイスタイルなのだ。
敵の攻撃は強めに設定されているが、落ち着いて対処すれば、確実に回避出来る攻撃も多い。
しかしその回避行動で、敵のリーチから回避しきれないとしたら?
――間違いなく、このゲームは、ほぼクリア不可能となる。