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13.カレンはユウトをもっと知りたい

 御者の男は、元気になった巨大な馬を見て嬉しそうに頭を撫でる。立ち上がるとその馬は、地球上の者と比べても一回りほど大きい体躯であった。

 長い付き合いであろう御者と馬の姿を温かい目で見ながら、馬車に乗り込む六名、そして……ここで新たな問題が現れる。


「……ええと、ユウ兄ぃ、私これ入らない……」


 扉や天蓋付きで密閉された、外敵を防ぐ六人乗りの大型の馬車。前方にカレン・オーガストフレムとメイドのナタリア、そして護衛にサリス。後ろに周囲を警戒するダグラス・アリア・トニーが乗る。

 馬車はその六名で限界であり、その中に空きのスペースもない上、そもそもエリの体格が馬車に入らないのである。


「エリ殿は本当に大きいですね……」

「あ、エリって呼び捨ててください、サリスさん」

「ええと……だったら、私のこともサリスって呼び捨ててくれていいわ。仲良くしていただけると」

「うん、ありがとっ!」


 エリがすぐに距離を縮めたことを見て、ユウトも「エリがそうなら、僕もそうしてもらえると」と告げた。

 ユウトは、陰気キャラというほどではないものの、そこまで積極的に友人を自分から増やしてくるタイプではなかった。しかしエリが積極的に動いているのを見て、自分もあまりじっとしているのはよくないな、と思って動いたのだ。エリのいい部分の影響が出た形だ。


「ところで、エリはどうする?」

「んー、私体力有り余ってるし、自分の限界って分からないし、馬車の横を走っていく形でも十分だよ」

「た、大変じゃない……?」

「平気平気、長距離走好きだからね!」


 エリ——女子高生の朝永エリ——は、イマドキの女子高生なりにスマホを使いこなしゲームも遊ぶ女の子である。しかし体育などにも積極的であり、ユウトとはまた違うタイプであった。

 しかしバスケ部やソフトボール部などのスポーツ系の部活を断って、文化系の部活に入った。形だけの美術部という名の帰宅部である。

 理由はもちろん、夏休み中は柳葉家のお世話になるためであった。


 そんなわけで、エリのことをよく知っているユウトは、エリの提案に頷いた。

 残りのメンバーも、誰よりもエリのことを知っていそうなユウトがそう判断したのなら、と納得した様子であった。


 しかしここで、ユウトにとってもエリにとっても、想定外のことが起こる。


「それではユウト殿、もしご迷惑でなければ、前側に乗って下さるかしら?」


 前側。もちろんそれは、可憐なお嬢様と綺麗なメイドと美人女性リーダーのいる前側の席である。

 そしてその席には、当然三人分しか席はない。


「あの、僕はどこに乗れば……」

「三人のうち、どなかたの膝の上にでも、それか詰めれば大丈夫かと。……もしも、どうしても嫌だというのなら、断ってくださっても」

「いえ、嫌ということはありませんが……」


 乗る方向で決まってしまいそうなところで、エリは少し慌てる。

 しかしユウトを背中におぶって走るのもユウトの負担が大きすぎるし、ましてお腹側に抱きしめて走るということがどういうことになるのか分からないエリではなかった。


 結果、代替案がないまま、ユウトにそれとなく聞くしかなかった。


「ゆ、ユウ兄ぃ、大丈夫?」

「やましいことはございませんので……」

「再び敬語!?」


 ユウトは努めて「大丈夫」と自分に言い聞かせるようにして、馬車に入っていった。

 エリはユウトを不安そうに見ながらも、「ユウ兄ぃなら大丈夫、大丈夫……」と言い聞かせている。

 ……つい先ほどまで、当のエリは自分が一番激しいスキンシップをしていたことは都合良く忘れていた。




 話はついたということで、馬車が走り出した。少しずつ加速をつけて、緩やかな大地をまっすぐ走っていく。

 その姿を、エリは後ろから、時には横から眺めていた。

 ユウトに関しては割り切ることにした。


「うわーっ、かっこいいなー」


 エリの姿を、馬車の中で『大鷲の翼』のパーティーメンバーは目を丸くして見ていた。


「すさまじいな……馬車用のジャイアントブラックホースに、余裕でついてくるとは……」

「わかってたけどエリさん、とんでもなさすぎぃ……あ、手振ってる〜」

「ってーか、むしろさあ」


 アリアが手を振り返すのを見ながら、トニーが前方へと首を向ける。


「あれと戦って勝ったユウトってハービットンの方が、わけわかんなくないっすかね……」

「あー……」


 アリアとダグラスも、納得したように前方を見る。

 先ほどもエリにアドバイスをして、回復魔法を使わせていたユウト。その判断はかなり唐突であり、なのに効果は絶大だった。


「……確かに一番謎に満ちてるのは、あのハービットンだな」

「もしかしたらぁ、お嬢様って」

「……あのハービットンが何者なのか、会話の中で聞き出すつもりだ」


 アリアとダグラスの予想は当たっていた。

 前方の馬車では、カレンがユウトと会話するためにユウトを呼んだのだ。

 理由は、単純にユウトがどれほどの存在なのか、計りかねていたからだ。




 ユウトは、真ん中でカレンに抱きかかえられていた。

 お嬢様といった雰囲気の、精神年齢は一回り下の女の子の腕の中にいる恥ずかしさはもちろんあったが、それ以上にユウトが居心地が悪かったのが……。


(……分かってはいたけど小学生か中学生ぐらいと思われるカレンお嬢様よりも、遥かに僕の体格の方が小さいんだなあ……)


 改めて分かる、自分の小ささであった。

 三人の中で一番背の低い、幼い令嬢そのものの女の子に弟扱いされかねないぐらい小さいのだ。左右からは、更に大きな女性に見下ろされている。

 胸に去来する表現しづらいくすぐったい感覚と同時に、田舎ではまず縁のない若い女性に囲まれているという状況から来る、ほんの少しの嬉しさもあったりした。


「ユウト、お話してもいいかしら」

「え、ええ……どうぞ」

「それではまず————」


 カレンは、ユウトとエリの馴れ初めの話を根掘り葉掘り聞いてきた。

 ユウトは(後でエリと話を合わせないとな)と思いながらも、オーガストフレムの地の近くの草原で、思い浮かんだ地名をエリとの遭遇地点にした。


 あまり嘘が多いと、すぐにぼろがでてしまう。

 基本的な部分はエリがこのゲームを知らないことを利用して記憶喪失に、あとは自分がフォローしようとユウトは判断した。


「————なるほど、そこでエリとユウトは出会った……ということは、そこまで長い付き合いではないのね」

「そうですね。まだ教えていないことも多いので、旅しながらいろいろ教えている最中です」


 カレンは、少し強めにユウトを抱きしめる。その腕が妙に気持ちよく感じてしまい、改めて自分の姿勢の恥ずかしさを意識した。

 お嬢様が喋っている間はサリスとナタリアが口を挟むわけにはいかないが、それでもユウトの顔が赤くなっていることには気付いていたので、ナタリアは内心かわいいなと思っていた。

 サリスは逆に冷静にユウトを観察していた。


「お嬢様、ひとつ確認をしてもよろしいでしょうか」

「サリス? ええ、いいわ」

「ありがとうございます。ねえ、ユウトに聞きたいのだけれど」


 サリスは、ユウトを観察していて気になったひとつのことを聞いた。


「ユウトの年齢を教えてもらえる?」


 それは、ユウトの反応。小さな男の子が年上の女の子に抱きしめられて恥ずかしがっているというほうがしっくりくるぐらい、ユウトの反応は初々しかった。

 ユウトの反応を可愛いとは思いつつも、同時にハービットンがどれほどの年齢か、人間の彼女には分からなかった。


 ユウトは、一瞬どう返すか迷ったが、嘘をついたところで齟齬が出来るとよくないと判断し、自分の年齢を伝えた。


「18だよ」

「じゅ、18歳……! え、あれ、私より年下……!?」


 真っ先に反応したのは、メイドのナタリアの方であった。

 カレンの身を守る係として、近い年齢でありながら仕事が一通りこなせるナタリアは、メイドの中でも一番優秀である。

 そのナタリアから見て、冷静にホブゴブリンを倒して自分を助けたハービットンは、もっと年上だと思い込んでいた。


 サリスに代わり、カレンが話を引き継ぐ。


「驚いたわ、アリアと同い年なんて……。それで、ユウトとエリは、二人でその草原から直接、私達を見つけて走って来てくれたのね」

「あ、少し違います」


 ユウトはここも、嘘が混じると整合性が取りにくくなるだろうと、転生してきてからの話をした。

 しかし、この話は皆にとって……むしろオーガストフレムにとって、驚くべきものだった。


「あそこにある廃墟みたいな城で、戦い方の練習をしたんですよ」


 ぴしり、と凍り付く三人。

 ユウトがその反応を見て、だんだんとまずいことを言ったんじゃないかと視線を動かすと、そこにはずっと冷静な顔をしていたサリスが、驚愕に目と口を大きくしていた。


「……ゆ、ユウト……まさか、あの『帰らずの城』に入ったの?」

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