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勇者の従者は泣き虫アサシン  作者: SHO-DA
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第6章 少女の初陣

       --------------------

「あのぅ、護姫様。あたしたちの出番が、どんどんなくなりそうですけど・・・。」

「うむ・・・しかしミュシファよ。お主は冒頭では随分目立っておったし、どうせ戦闘のシーンではたいして目立つまい。それより我がこの場面で出てこないとは、どうしたことだ!」

「でも護姫様は、いないことで逆に隊の中の重要な存在だって最確認されてますし。」

「ふむ・・・ま、我のありがたみを思い知るがよい。ソディもそれほど目立っておらぬし。」

「お二人とも前戦役で充分目立ったから・・・ワンマンフォートレスにワンマンアーミー。」

「むむ。しかしまだもう一戦、大きいのがある。目立ちたくはないが、やらねばなるまい。」

「・・・実は護姫様も隠れ目立ちたがりだって、パシリが言ってたな・・・。」

       --------------------

第6章 少女の初陣


 そして翌朝。夏の日差しが強い。熱くなりそうだ。それでも早朝からあわただしい。基本的な準備は昨日で終えているとはいえ、やはりいざ始まるとなれば動きが出てくる。

 俺は仲間たちに出撃前のあいさつをした。おそらく2000体が守る城館でも、このメンバーだけで陥落させることは不可能じゃない。でも今日はあくまで支援が基本。きっと南街区の兵たちは苦戦する。でも、今回の戦いは『苦戦の末の勝利』が目標だ。いや、北方領での戦い全てが、これを目標とする。勇者様や仲間たちが表に出て軽々と勝っても、ここで暮らす人たちの気持ちがまとまらなければ、所詮本国の支援がない中やっていける訳がない。だから、苦しい戦いの中で、北方領の人たち自身が同じ経験をして、同じ苦戦をして、同じ勝利を味わう。そのことで、やっとこのバラバラな北方領が一つにまとまるかも知れない。

 これがコルンさんとセウルギンさんがまとめた、北方防衛の基本姿勢だ。もちろん、その中核には、この旧都を支配していた一族の末裔アルになってもらう。幸い城館さえ手に入れれば、その地下にある食料や財宝が、そして何より名声がアルの力となるだろう。

「では、勇者様・・・お気をつけて。」

 俺は勇者様に微笑まれて、ちょっと幸せな気分でアルのいる第10小隊・・・本陣に行った。

 アルは不機嫌な顔で俺を迎える。顔は青白くて、目が赤い。ち、なんかイヤな気がするぜ。

「・・・今頃到着かい。ボクの近侍のくせに。」

 ・・・みたいなモンであって、ただの連絡係なんですけど!言わないけど。

「昨夜は眠れなかった・・・ボクは初陣だぞ。キミはボクの話し相手をするべきだった。」

 ・・・そんなの、俺なんかよりどっかのイケメンに頼め。あの竹槍の若いヤツもまあイケメンの類だったぞ・・・とも思ったが。兵もいることだし。ニコニコと愛想笑い。

「申し訳ありません。ですが、昨夜は陣法師殿との打ち合わせがありまして。」

「言い訳するな!ついでにその慣れない話し方を止めろ!」

「へいへい・・・慣れないかな?結構こういう作法も身についてんだけど。」

「ボクが聞き慣れない。キミの言い方はいつも通りでいい。」

「そりゃ、どうも。」

 こんな会話をしているうちに、白かったアルの顔に血の気が戻ってきた。

「んじゃ、アル。そろそろ始まる・・・ってアレ?」

 勇者様だ。左手に優美な曲線を描く曲刀、先代世界樹の芯核の刀・・・エルフ族から預かった信頼と友誼の証・・・を握っている。虹の色の髪は、太陽の光を反射し、七色の光に移り変わりながらキラキラと輝いて。防具は全身を覆う藤革甲。精霊の嫌う金属の防具はまとっていないが、南方の植物を魔法やら何やらで加工したこのヨロイは軽くて固い。髪には銀色のティアラ。悠然と南街区の兵の前衛・・・第一小隊の前に出る。その姿に味方全員が注目する。

 ・・・目立ちすぎ!どうしたんだろう。普段でもここまで目立つことはしない。まあ、ホルゴスの決戦は別だったけど、でも、それに近いくらい目立ってる。何で?

 しかし、戦場で見る勇者様は本当に凛々しくおきれいだ。この世ならざるものを見ているようだ・・・あんだけ悪口言ってたアルですら、今は見とれている。

 って、あち!俺の右の拳がすごい熱くなって痛いくらいだ。隊章が、勇者エンノの印、勇気の虹の輪が拳に浮かぶ。全軍を見回し、その視線を・・・賞賛と憧憬・・・受けた勇者様は、今、俺を見ている。言葉にならない何かが、勇者様の想いが右拳から伝わり・・・俺は叫んだ。

「勇者様の従者として、主に成り代わり全軍に申し伝える!」

 勇者様が俺に言えって。きっとそういうことだ。

「勇者エンノは、此度北方領を守り治めんとするアル殿に助太刀する。今日の戦いはアル殿を守り、その願いをかなえ、北方領の民を救うための戦い、その第一歩である!」

 もう周りがどう思おうが、当初の予定がどうにかなってコルンさんが頭を抱えようが、知ったこっちゃない!勇者様のために、従者の俺はひたすら声を張り上げ続けた。

「故に初戦で倒れることは許さぬ!最後まで戦い、この北方領を守りぬいた時、初めて誇るがよい。この日、この戦場にいた己の身を!」

 不思議なことに、叫んでいる俺を誰も見なかった。俺の声は勇者様の声、だから勇者様を見ながら聞くのが当たり前・・・そんな感じだった。

「その時にこそ、己らが守る民や、仲間や、家族に存分に誇れ。故に、その日まで倒れることは許さぬ・・・もしも約束をたがえた者は・・・いつの日か、天界で我に、仲間に・・・アル殿に詫びるがよい!」

 いつか天界で会おう・・・勇者様にそう言われたんだ。味方の血が沸騰した。それまでも真剣だったし、即席の兵が不利な戦いに向かうのに充分以上の士気の高さだったが、もう、手が付けられない勢いって感じで。そして。

「アル殿!開戦の合図を!!」

 勇者様は、アルの傍らにいた俺に向け小剣を投げた・・・ちょっと危ないって。キャッチっと。みんなが虚をつかれ、鎮まり、そして、剣が投げられた方、つまりアルを見つめる。

 俺は静寂の中、小剣を恭しくアルにさし出す。アルは微かに渋面だった。きっと勇者様に持っていかれたって怒ってたんだろう。やれやれ。俺は今日も子守らしい。子連れアサシンか?

「ば~か。お前の番だよ。一番おいしいところは、ここだ。」

 俺が小声でささやくと、アルもようやく勇者様の意図を理解し、ゆっくりと不敵に微笑む。

「・・・この場にいるみんな。勇者エンノがボクに剣を授けてくれた。ボクたちには、勇者が力を貸してくれる。とても、そう、とても心強いよ・・・だが、忘れるな。これはボクたちの戦いだ!そして何よりも、この北方領のための戦いだ!いくぞ、北方領のために!みんな、勇者様の攻撃に続いて!!」

 アルが小剣をふるい、味方の士気が最高潮になった。同じ時、勇者様のふるう刀が、ひときわ強く黄金の輝きを発し、そして、巨大な城門を一瞬で破壊した。

 ガレデウスさん率いる第一小隊は、図ったかのようなタイミングで飛び出し、敵の矢を恐れることなく突撃、城門内に拠点を確保する。その精鋭分隊は階段を開け上がり、上の階へ侵入する。手はず通りだ。守城戦に不慣れなオーク兵は完全に軍としての動きが止まっている。

 門を突破しても、守城側には二階からの落とし格子があり、これによって攻城側を門から外に出さず、更に殺人孔で二階から矢を浴びせるなど、まだまだ防衛設備が残っている。しかし、一瞬で城門を突破され、次の防衛手段に移る決断が付かないまま第一小隊が攻めあがった。後続の第二小隊が突入すると、間も無く城館のツインタワーゲイト(双塔楼門)は制圧される。

 疲労した第一小隊の兵に、キーシルドさんが回復の魔法を唱えているようだ。セウルギンさんは城内に突入する第三小隊の援護にまわっている。戦姫様のお姿が・・・ああ!いつの間にあんなところに・・・しかも衛兵の格好してるし、きったねえ。

「順調ですね、コルンさん」

 俺は一緒に本陣にいたコルンさんにそう呼びかけたが、

「まだ何も終わってないわ。」

 とすげなく返された。

 それでも城門を突破した兵たちは順調に本殿への攻撃を始めた。だが、本殿もなかなか頑強で、上の矢狭間からの弓矢がなかなか激しい。オーク族のアーチャーは、それほど優秀じゃないけど、なにしろ数が多い・・・。少し犠牲の報告が目立ってきた。

「各小隊へ。一旦城門内に退避。盾になるもの、何か身を隠せるもの、そんなものを用意して、本殿の門の破壊が済んでから再突入。小隊所属の弓兵を城壁に!上から敵を攻撃します・・・戦姫様かセウルギンさん・・・勇者様・・・勇者様、本殿の門の破壊をお願します。」

 コルンさんの判断は早いが・・・伝令が遅い!間に合わない!へへ。ついでだ。

「コルンさん、急ぐんでしょ。伝令ならお任せ!ついでに勇者様の護衛をしてくる。」

「このタイミング狙ってたわね・・・まあ、仕方ないわ。でも本殿の門の破壊が終わったら、勇者様と一緒に戻ってきて!」

「陣法師殿。こいつは今、ボクが借りているんだが。」

「・・・すみません。でも彼は伝令としても、この上なく優秀でして。」

 なんかもめてる。ま、俺の本分は使いっパシリなんだし。でもアルにも気は使わないとな。

「すまねえ。アル。今大事なとこで、一分一秒で犠牲の数が全然違うんだ。すぐ戻るから・・・あとコルンさん、そろそろ本陣をキープ(門楼)内に移してもいいんじゃないかな。」

 と言い捨てて、俺は超高速疾走に入る。本陣と前線との間が少し開いてきた。少数で大軍の相手をするんだから、今の士気と勢い以外に緊密な連携が必要だ。なら前に出るべきだ。生意気にも言ってしまったけど。


 いた!勇者様!城門を通り抜け、中庭に入ると悠然と本殿に向かう勇者様の姿があった。周りにいた兵たちも勇者様のお姿を見て歓声を上げている・・・これ、素で「勇者の旗」の効果出てるんじゃないかって思うくらい、みんなすげえやる気。

 俺はその安全を見届けて、周囲の小隊に伝令して回る。粗末な旗のおかげで、すぐに隊の場所がわかる・・・と、勇者様!俺は瞬間的な速度を上限まで上げて勇者様の前に立ち、飛んできた矢をつい

「矢止め!」

と言ってつかみ

「矢返し!」

 って背中の弓を抜き放ちそのまま撃って来たやつに打ち返した。ふん。勇者様を狙うとはふてえ野郎だ。眉間を貫かれたオーク兵が矢狭間の奥で倒れた。

『フフフ。私の従者パルシウス。少し過保護?』

『とぉんでもない。もしもってことはいつもあるんです!』

 久しぶりの勇者様との隊章を使った会話だ。緊張するけど、楽しい。

『さっきの声、ありがと。私の意図を完全に理解して、あの子にフォローまでいれて。ちょっと気が利きすぎるけど、気が多いよりはマシ。』

「それはもう。俺は勇者様ルート一筋ですから!」

「私の従者。そのルートって、なんか違う意味混じってる気がする。」

 そんな会話をしながら、勇者様は悠然と門の前まで進み、俺は勇者様に近づいた矢を全て「矢止め」「矢返し」の『弓術』コンポで討ち返した。

『・・・パシ公。おめえ、目立ちすぎじゃねえか?』

 戦姫様だ。隊章で念を送ってきた。

『そうですか?こんな地味で役に立たない技・・・。』

 何しろこの技はトラウマ量産自爆技でもある。すでに三つのトラウマを俺に植え付けている。四つかも・・・自分一人なら絶対使わないね。

 それでも俺の護衛のためか、勇者様を狙う矢も少なくなってきて・・・

『それは、オーク兵にも学習能力はあるでしょう・・・人を狙わば穴一つ。』

『ああ・・・エン姉を狙ったヤツが次々と死んでくんだからな。眉間に穴あけて。』

『何やら新手の呪いのように拙僧には聞こえますぞ。』

『みんな。私の従者がなぜか落ち込んでる。そのくらいで。』

 そんなこんなで、とりあえずトラウマまで行く前に勇者様が先代世界樹の芯核の刀を再び振るって、本殿の門を破壊した。

 盾やら板やら、弓を防ぐものを構えつつ再び突入する各中隊。でもやはり第一小隊の突進力は抜けている。ここも一番手だ。しかも門の周囲の防衛設備を素早く見極め無効にしている。続いて、そのほかの部隊も突入した。あちこちで人族とオーク兵の白兵戦が展開されている。

 通常なら、一対一だと人族に分がある。オークよりは体格が恵まれ、訓練されている場合が多いからだ。今回は士気と体格で人族。武器と数でオーク。練度はどっちもどっちかな・・・いや、訓練した城郭での戦闘なら有利かも。で、要所で援護があれば・・・いけるか? 

 勇者様は味方の歓声を浴びながら、俺と一緒に本陣へ戻った。

 ただ、俺は、この戦いに入って、ようやくある違和感を持った。

「勇者様・・・あの・・・。」

 ち。うまく言えねえ・・・。コミュ障かって。

『私の従者、気づいた?』

 それは勇者様が、半月前のホルゴス戦役以来、精霊魔術を使っていないということ。勇者様と長旅するのは初めてだったから気がつかったけど、普段ならご自分で出せる水を、何でミュシファさんが汲みに行って「ヘビ」って慌てて川に落ちる羽目になったんだ?岩竜とか、ヤバイ奴が出ても自分じゃ戦おうともしなかった。今だって、右手には何も構えていない・・・いつもは左手に先代世界樹の芯核の刀で、右手には光の精霊槍・・・。そして何よりも傷ついている仲間に『治癒』を唱えることすらしていない・・・。

『ちょっと精霊とケンカ。』

 全ての精霊の加護を受けた『行者』であるエンノ様が・・・精霊とケンカ?

 コルンさんは知っていたのだろう。だから俺に勇者様を本陣まで連れて来いって言ったんだ。俺の表情から、コルンさんは何か読み取ったようだが、何も言わなかった。

「・・・勇者エンノ殿。昨日の無礼を詫びさせて。そして、先ほどの激、何よりボクに攻撃の指示を譲ってくれて・・・ありがとう。」

 ほお。アルのヤツ、随分殊勝になったし。勇者様も二コリとうなずいている・・・昨日あんなに不機嫌だったのにね。ぷんすか、ぶうぶうって。

『私の従者、何か?』

「いいえ、なんにも。」

 一見、無言の勇者様と俺のやり取りを、アルが不思議そうに見ていた。

 で、俺が行ってくる間に、本陣は占領したタワーゲイト内に前進する準備を終えていた。

「よく気づいてくれたわ・・・さすが、わたしの弟子ね。」

 もう確定かよ。でも進言が通って、コルンさんに褒めてもらってうれしかった。勇者様も頭を撫でてくれた。でも、勇者様は普段会話できないからこうやって身振りで感情を示しているけど、今は隊章で、念話できるのに頭撫でられると、なんか恥ずかしさが倍増する。

しかもアルに

「キミ!本陣で不謹慎なことはヤメテ!」

 て怒られたし。ま、確かに戦闘中で正論だ。もっとも本陣の兵たちはむしろその様子を見て笑っていたけど。俺はともかく、なぜかアルまで赤くなってた。

 その後、視界を優先して塔の一つに本陣を置くことにした。みんなは入れないから、むしろツインタワーゲイトを第10小隊で守るんで、他の小隊も攻撃にまわすことにした。最も第9小隊は予備戦力。ここぞで投入されるまで待機だ。ま、下手すりゃ本陣もだけどね。

 何しろここからは消耗戦。狭い城内での陣取り合戦だ。ただ、向こうは占領して二日目かそこら。まだ城内の地理に暗い。攻め手のこっちの方が5年前まで住んでたし、俺がつくった地図もある。コルンさんに渡したけど。右往左往して各個にやられてるのはオーク軍のほうだ。更に攻撃開始でそく突入されて、向こうは戦況どころかこっちの数すらわかってない可能性が高い・・・。

 それでも、回復担当のキーシルドさんの魔力がもう尽きてきた。攻撃支援のセウルギンさんはまだ余力があるけど・・・戦姫様が、敵将を見つけて・・・第4小隊が交戦中・・・。

 結局第4小隊は消耗が激しく、第1小隊が交代・・・南ルートで戦闘中。

「はい・・・では、第9小隊、および本陣も予備戦力として・・・1個分隊のみ、ここに残り・・・」

「待て、ボクも行くぞ。」

 マジかよ・・・アルなら言いそうだったけど。で、

「勇者様はダメです。この場で待機。」

  ぶうぶう言わないでください・・・かわいいけど。一緒にお留守番ですよ、勇者様。

「キミは、ついてきて。ボクの近侍だから。」

 まてよ、アル!いや、俺、勇者様の従者で、ホラ、勇者様も、ええ~って顔してるし。

「・・・仕方ない。お貸しします。」

 ちょっと、コルンさん・・・俺、ホントに身売りされたの?

「かなり城内も混戦で・・・仲間も近くの友軍の支援で手が離せない。あなたが適任よ。何でもできるその器用さを誇りなさい・・・だけど、ちゃんと手柄は譲るのよ。」

 誇れねえよ!だっていっつも一番大事なことは出来ねえんだから。今だって勇者様のお側にいたいのにさぁ。

「行くよ、キミ!」

「・・・はぁい・・・。」

 とは言え、実際に戦闘に入るとなると不貞腐れてもいられない。ムダに犠牲はだしたくない。

「ち・・・アル、第1分隊を貸してくれ。これも精鋭分隊だ。俺とそいつらが先導するから第9と第10小隊の残りはついてきてくれ。」

「キミが先導するのかい。ボクの近侍として・・・そばで助言とかしてほしいんだけど。」

「後ろでやることは今はない。ついていくだけだ。それでも、なんかあったら俺を呼べ。俺は耳もいいし足も速い。この程度なら伝令出すよりもすぐに駆け付ける。」

 って言い捨てて、俺はさっさと前に出た。だいたいアルの側近が、また怖い顔になっている。

こんなところで手柄争いなんてやってられない。俺が露払いに徹し、敵の大将に近づいたらとっとと譲ろうっと。

「・・・何をどうやって呼べっていうんだい!あのバカ!」

 なんか不思議なことを言ってたアルの声はもう聞こえない。聞こえるけど。


 第10小隊の第1分隊通称その名は101分隊は、本陣をまもる最後の砦としての精鋭部隊だ。おっと、昨日の木槌のおっさんが俺にニヤって笑いかけて来た。あの竹槍少年もいた。さすがにちゃんとした槍・・・スピアになってたけど。

「すまないな、みんな。アルの前でいい格好したいとこだったろうけど、敵の大将にたどり着くまで、できるだけ早くしないと、全軍の犠牲が大きくなるんだ。」

「なあに、わかってますよ。近侍殿。」

「あんた、ひょっとして姫さんのいい人なのか?」

 前者は竹槍少年、後者は木槌おっさんだが・・・おっさん、見る目なさすぎ。

「俺は究極の雑用係・・・使いべりしないだけが取り柄の、モテナイ男の子さ。」

 分隊一同、大笑いしやがった。控えめに笑ってる分隊長は謹厳そうな40男だ。腕もまあまあだが、粘り強い、いい指揮をしそうだ。

「分隊長、そんなわけで申し訳ないが、一時的に指揮権を預かる。補佐してくれ。」

「了解です、近侍殿。」

 オッケーだ。俺は頭の中の地図と、時々伝わる仲間たちの念話から、最適なルートを考える。

とは言え、別に本殿内は迷路じゃねえし、敵味方の配置が多少考慮されるってくらいで・・・

 本殿の中心部へは大きく東西南北の4つのルートがある。ちなみにこの世界の現代では本殿は、本丸とでもいうべき最終防衛設備でもある。が、内部に突入した今、気を付けるのは・・・ホラ、隠し通路から出て来た槍のオーク兵だ。とっさに突き出された槍の柄をソードブレイカーでへし折る。後は竹槍少年もうスピアだけどと何人かで逆撃、一掃する・・・こんな感じの奇襲の対応だ。そのために先日侵入して構造を知り、五感も鋭く、敵検知のスキルまである俺が先導している。

「近侍殿ぉ・・・できれば武器は破壊しないでもらえます?」

 この分隊にも武器に恵まれない兵がいたな、ち。まあ、できれば、ね。

 さて、本殿最奥部へのルートは、北を空けている。これは戦意を失った敵を逃がすための、『三面包囲』ってやつだ。で、正面の南ルートは主力の第1小隊が、東ルートはセウルギンさんも引っ付いてる第3小隊、西ルートが第6小隊・・・だけど、現在敵味方消耗戦・・・。

 ちなみに戦姫様は今第2小隊に同道、敵の先鋒と楽しくバトル中、逆襲を防いでいる。

「よし、西ルートに向かい、第6小隊と交代。消耗した敵を一気に抜いて、中央階段を制圧するぞ!」

 俺たちは西ルートに急行した・・・。


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