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勇者の従者は泣き虫アサシン  作者: SHO-DA
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第4章 秘密のアサシンの告白

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 俺は珍しく長い時間、勇者様の折檻?を受け続け、その間、朝食はミュシファさんが用意してくれた。で、みんな、朝食の味についての感想を賢明にも避けた会話を自然に行い・・・

「・・・あの、パシリ・・・やっぱり、おいしくないかなぁ?」

「え・・・あの・・・その・・・ねえ?」

 ち。これじゃ俺がコミュ障だ。二人で後片付けしながら、追及されたけど。そんなにひどくはないのだ。食えないとか、吐き出すとか、毒だぁ!とか、そういうこの手の話にありがちな激マズ飯ではない・・・普通においしくないってだけだ。でも、それを素直に言うとこの子は泣いてしまうのでみんな・・・あの戦姫様でさえ最近は大人な態度でスルーしているっていう・・・正直に言うべきなんだろうか?でも言うと絶対泣くのだ、この娘は。

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第4章 秘密のアサシンの告白

 

「信じられない・・・パシリくんがそんな軽はずみに片方に肩入れした挙句、ここまで状況を悪化させたなんて?北方領がどうなるにしても、ザラウツェス城の城館は最重要地点になるでしょうに・・・。」

 仲間の元に戻った俺は、みんなに急変したザラウツェス城内のことを報告した。かつては主都、今は旧都と言われるザラウツェス城は、荒れ果てた北方領に現存する唯一の都市だ。未だ多くの民衆が生活しているらしいという情報が入った今、その中心部をオーク軍に占領された。ハッキリ言ってつらかった。特にコルンさんは、仲間の中で俺を最初に評価してくれた人だ。俺の情報を扱う能力は、以後もコルンさんのお墨付きだった。冗談でも俺を弟子とさえ呼んでくれる。俺はそんな彼女の信頼を裏切ってしまった。

「やっちまったモンは仕方ねえが・・・おめえ・・・暗殺なんかできるんだ?」

 戦姫様が意外そうに言われた。俺は仕事柄、警戒されにくいように普段から笑顔を絶やさない、軽薄な・・・チャラい、と思われるようにしている。その俺とアサシン・・・結びつかなかったんだろう。この野獣の勘の持ち主にしても。ホントはこのまま隠しておきたかった。

 でも自分の不始末だ。この件に関しては全てを打ち明けた。そして・・・俺は無言で、愛用のイアードダガーを取り出して見せる。戦姫様がそれを一瞥して目を剥いた。

「ち・・・そう言うことかよ・・・ある意味納得いったぜ。」

 かつて二度、俺と戦姫様は戦った。その眼前で俺が振るったのは、まさにこのダガーだった。

「・・・パシリくん・・・これはわたしが預かります・・・よろしいでしょうか、勇者様、護姫様?」

 勇者様は・・・いつもの笑顔ではなく、悲しいお顔でうなずいた。護姫様も・・・。俺はコルンさんにイアードダガー・・・アサシンとしての俺の武器を預けた。

「もう、これは使わせないから・・・。でも、まだ、あるでしょ?」

 それは・・・俺が南街区に一方的に肩入れした理由を聞いている。この人は決して物事の根幹を見落とさない・・・だまされるフリはしても。そして今は俺の問題を俺自身に確認させるために、言わせようとしている。

 だが・・・俺の口は動かなかった。

「・・・セウルギンさん。その、アルって人はどんな人かしら?ひょっとしてミュシファくらいの年恰好・・・とか?」

「・・・言われてみればそうですね・・・13,4歳ほどの少女でした。男装でしたけど。」

 この人は、妹にちょっとだけ似てるミュシファさんへの俺の態度が不自然なことにも気づいてた人だ・・・ち。コルンさんは俺を見るのをやめ護姫様に目を向けた・・・俺の事情は全て護姫様に打ち明けている。そのこと自身はコルンさんも知っている・・・その中身はともかく。

「ユ・・・従者パルシウス・・・話してよいか?」

 護姫様が俺に同意を求め・・・俺は同意も否定もできず、うずくまったままでいた。

「ふむ・・・こいつは一年ほど前まで、村の猟師の息子で・・・これはみんな知っておるな。」

 ホルゴスをめぐる争いの中、かつて俺の村があった場所に、敵の砦がつくられ、その時俺が案内人としてみんなの仲間になった・・・。

「こいつは、村がオーガの一団に襲撃された時、妹と弟を殺された・・・自分の目の前で。妹のとどめはこいつ自身がさした。そう聞いている。」

 護姫様の声とともに、話の内容とともに、一年前のことがまざまざとよみがえる・・・。

 俺の耳に、弟が殺された時の悲鳴が響く。俺の眼には、俺が吹っ飛ばした妹の顔が浮かぶ。俺の鼻には、あの日焼いた村人の肉の臭いが・・・。たまらず俺はその場を飛び出して草むらに飛び込み・・・吐きながら泣いた。畜生・・・これはどうにもならねえ。畜生・・・。

「あ・・・あの、その・・・昔のことを思い出すと、パシリはこうなるって・・・あたしパシリの友達って子に言われてました!」

「遅い!」

 みんなに突っ込まれながらミュシファさんが俺のそばに来て、あの日のリュイのように俺を抱きしめてくれた・・・。この子はバカだ。そんなに正面に来ると俺の吐いたものが・・・ほら、ほおや服についちまった。それでもミュシファさんはそれを気にもしないで・・・。

「・・・えっと・・・こうだっけ?・・・パシリ・・・大丈夫だよ。あたしも、みんなもいるから・・・一人にしないから・・・お馬さんは・・・なんなくていいから。」

 かつて俺の幼い親友が俺にしてくれたことを、ミュシファさんは懸命にまねて、俺を抱きしめてくれたんだ。ホント、情けないけど、俺はただ抱きしめてもらうしかなかった。


「・・・すみません。とにかく今回の件は俺の不始末です。いかようにもなさってください。」

 ようやく落ち着いた俺は、あらためてみんなの前で事態を悪化させた件を謝罪した。ミュシファさんはまだ俺の隣にいてくれて、ちょっと心配そうだった。

 勇者様は、固い表情を崩さなかった。かつて密偵をしていた俺を、彼女は何も聞かずに赦してくれた。そして決戦のときにただ一人の随行者として選んでくれた。でも、無条件の信頼に

俺は応えられなかったのだ。当然・・・。

 ポカ・・・って勇者様?え?その「メッ」ってなんですか。そんな子どもを叱るみたいな・・・そんなんじゃだめですよ。もっとちゃんと叱って、怒って、罰してください!

「妹と弟にそっくりな子。その子のために目が曇った・・・ま、ただ女の子に甘いとか、色仕掛けに屈したとか、じゃないし、ね・・・自覚できれば、それはそれでよし。青春よね。」

「ワタシは、何も知りません。少し夜風に当たってきます。」

「ま。誰んでも、こんなことぐらいあるさ。な、パシ公。しっかし意外というか・・・。」

「やれやれ、従者パルシウス、エンの折檻が一段落したら茶でも淹れてくれ。」

「・・・勇者様に叱られてるパシリって、子どもみたい・・・え?本職ってアサシンなの!?」

 なんだよぉ・・・みんな、そんないい加減な・・・ぐすっ。ちゃんと叱ってくれよぉ・・・。

それは、この日の、まだ、朝食前のことだったんだ。朝!セウルギンさん!まだ朝ですよ!


「では、今後の方針を決める。」

 朝食後、護姫様が進行役、コルンさんが提案者になって作戦会議である。俺もちゃんと呼ばれた・・・ま、悪い意味で一番情勢に詳しいし・・・ただの当事者だけど。

「セウルギンさんの報告によれば、今ザラウツェス中心部を占拠しているオーク軍2000体は、もともとは、以前ホルゴスを包囲にきた軍の一部です。」

「ですが、ワタシの捕えた捕虜によれば、ホルゴスに備蓄食料がないことを確認した今、再び攻め寄せるため、本隊は撤退せずに国境周辺で再編成をしている、とのことでした。」

「んじゃあ、ザラウツェス始め北方領は今度こそ露払いで占領かよ。まあ、昨日の手ごたえじゃ、ただの残党じゃあねえとは思ったけどよ。」

 『威力偵察』でそれなりの練度のある軍勢と判断されたようだ・・・なんか戦姫様の機嫌悪いな。

「そんなところであろう。そして現在の族長連合には北方領を再奪還する余力はない・・・ホルゴスの維持ですら、食料の問題で困難だ。」

「はい。ですから、北方領は完全に放棄するか、または可能ならば、北方領独自で防衛するか、いずれかです。」

 無情にもコルンさんが二択にまとめた。的確だとは思う・・・でも。

「コルンさん・・・ここで暮らしている人たちにとって『可能ならば』」っていう言葉は残酷で、無意味だと思います。」

「・・・そうよ。パシリくん。私たちが何をしようとも、本国が何もしなくても、ここに暮らす人たちは自分たちの土地を守ろうとするでしょう。他に行くところがないから、ここにいるわけだし。」

 しばらく、俺たちの間に沈黙が続く。が。

 ここで勇者様が立ち上がった。その髪は陽光を反射し、周囲に七色の光を振りまいた、

 そして、勇者様は、腰の小剣を掲げて、俺たちをしっかりと見渡す。

 その口元には凛々しい笑みを浮かべている。

「あ!勇者様!それって、俺達も!」

 すぐにコルンさんも反応した。そして。

「そういうお覚悟なんですね・・・はい。承りました。」

 勇者様が防衛戦を決意し、コルンさんがあっさりうなずく。そして、全員やる気だ。これで、俺たち、勇者エンノの仲間たちが、この北方領でオーク軍・・・本軍はおそらく一万体・・・と戦う決定がなされた。ただ

「ワタシはお聞きしたいのです。勝算はあるのですか?それに、前のような勇者様に頼る戦いでは、この地はまとまりませんよ?」

 セウルギンさんは、反対こそしなかったが、別な視点から北方領防衛戦を見直すことを求めたんだ。

「・・・パシリ・・・それってどういうこと?」

「ち、あいつがからむ話は面倒でいけねえや・・・俺にも説明しろよ。」 

ああ、それは・・・思春期の考えなし二人のために、俺は小さい声で説明することにした。

 半月ほど前、俺たち勇者エンノの一行は人族最強の決戦用城郭都市といえるホルゴスを守るため、参戦し、勝利した。その薄氷の勝利は、勇者様がほぼ単独で敵の本陣を陥落させるという無謀極まりない作戦の成功でもあったが、今にして思えば、それなりの勝算があった。

 当時、城内には多数の内通者がおり、そのせいもあって城主との連絡すらろくに取れず、いつどこで内応が起こるかわからない。加えて内通者に城の食料のほとんどを計画的に盗み出されていて長期の籠城戦は不可能だった。

 この状況に対し、コルンさんは、勇者様以外の仲間と信頼できる北門の衛兵隊に城郭の城外にあるバービカン(城外門楼)を占拠させ、城内の内通者が内応しても敵の侵入を死守できるようにした。また、バービカンでは思いっきり派手に抗戦させ、敵の前衛をひきつけさせた。

 ついで、勇者様と俺が、川の中を精霊の加護により長時間の高速を移動して、敵の警戒の薄い地点に上陸した。そこで、俺は、コルンさんが祖父の大軍師から引き継いだ『旗』を展開した。勇者様の持つ『勇気』を、人に見える形で顕現したその『旗』は、隊章をもつ俺たちに戦う闘志と判断力を与え、かつ体力に魔力、疲労を回復させる力があった。これは、小さいながらも『旗』を仰いだ人族すべてにまで効力を与え、更に、彼らが勇者様に送る声や思いが『旗』に戻り、それがまた勇者様や俺たちの力になる、そういう流れをつくる大魔術だった。 

 それはコルンさんが夢見ていた景色。時代遅れの決戦兵器と言われた勇者が、『旗』を媒介に新たな形で復活し、人族に『勇気』を取り戻させた、時代の流れを巻き戻した一瞬だった。

 『旗』によって、勇者様の通気を受けた兵たちは、自ら城壁に昇り防戦を始め、バービカンを援護した。城内の民衆は抗戦を誓い、内応者を出さなかった。その流れは勇者様一行に個人的な確執を(一方的に)持っていた城主ギルシウスを動かし、城内随一の打撃力を持つ装甲騎兵隊の出陣を決意させた。

 おまけを言えば、俺と勇者様は、おそらく人族最速の移動能力を持ち、バービカンにひきつけられた敵軍がほぼ対応できないまま、その軍をすり抜け、本陣に突入した。ま、まだいろいろあったけど。

「あの・・・それで?」

「ああ。どうなんだよ?」

 はいはい・・・。ホルゴスの戦いは大変だったけど、でも、北方より恵まれた条件がいくつもあった。まずホルゴス自身が30年間敵の攻撃を支え続けた、戦闘力の高い城であり部隊であった。だから、内通者がいたものの、いったん城内の兵や民衆が防戦に燃え士気を高揚させると、内応が起きたとしてもそれが広がるどころかすぐにも鎮圧される。それがわかっているので、決戦当日に致命的な内意は起こせなくなった。また、基本的に族長連合、特にゴウンフォルド族の影響が強く、勇者エンノ様はその族姫で、2年前の戦いでも武名を轟かせている。 

 人々を結集させる『旗印』として最適と言えた。

「いやあ、あらためて聞くと、エン姉ってすげえな。」

「・・・ホントです・・・でも戦姫様も北門でご活躍でした・・・。」

 キミもね。ミュシファさん。城内の兵や民衆によく働きかけてくれて・・・すんごく意外なことに。

で、本題だ。

「ここじゃ旗印がいないんだ。勇者様もほとんど知られていないし、ゴウンフォルド家なんか、30年前にこの地を見捨てたって思われてる。」

「あ~あ・・・。」

「それに加えて、ここの住人は・・・」

 もともとの北方領の住民に、ここ30年で滅んだ国の流民、他の地域からの難民・・・ゴチャゴチャで、それぞれ利害やら恩讐やらからんで、団結が難しい。

「・・・そうか・・・たいへんそう・・・」

 どこまでわかってるの、先輩?・・・で、戦う手段も乏しい。城内の南街区の兵が竹槍だよ!

城壁も穴だらけ・・・食糧だってどこにどれだけあるやら・・・。

「さて、パシリくん。子守ついでに情勢をまとめてくれたあなたなら、次の一手がわかるはずよ・・・行ってきなさい!」

 ち。俺の子ども向け解説聞いてたのかよ・・・って俺!?行くって・・・あ!?

「そういうことですか・・・でも。」

「デモもストもないの。これはあなたが最も適任・・・挽回してきなさい!挽回よ!」

 コルンさんに言われて、俺の背骨は俺の意志を無視してしゃんと伸びやがったんだ。ち。

「わかりました・・・では、この一命に懸けて!」

 決然と立ち上がって叫んだ俺の死角から、渾身の右ストレートが放たれた。

ぐえええ!と吹っ飛んだ俺に、反対側から左フックが飛んだ。ひえええ!

 その後、俺は右から勇者様にポカポカと、左から護姫様からポクリポクリと殴られ続けた。

「ん!んん!!」

「この愚か者!なんで、勘単に命を懸けるのだ!生きて償えぃ!」

 その様子を見たコルンさんがつぶやいた。

「あの・・・その辺りで。あまり殴ると、行動に支障が出ますので・・・まるで本当の兄弟ね。」

 ス、スルドイ。「元」だけど・・・この人、また何か感づいたかな?

「・・・楽しそうだな。パシ公、俺も入っていいか?」

 やめて。マジで死ぬから・・・セウルギンさん?どうしました?

「それでなのですが、実はザラウツェス城館の地下に・・・」


 いくつかの確認を終えて、俺とセウルギンさんは再びザラウツェス城の南街区を訪れた。今度はちゃんと城門からだけど。そして、アルとガレデウスさんに面会を求めた。

「キミ・・・それに魔術師さんまで。律儀に戻る必要なんて、もうないんじゃないかな?」

 力なく、それでも微笑むアル。ち。元気出せって言いたくなっちまう。柄じゃない。

「今回はワタシタチの方がアナタ方にお話があるんです。」

 それでもイケメンの効果か、セウルギンさんが話しだすとアルも少しはしゃんとなった。ち。

「昨日、アナタから受けたお話しですが、もっと大きくしませんか?それなら協力します。」

 そう。昨日の段階ではアルは、こう言っていた。


「盗賊団をやっつけて、城館を取り戻す。そして城内の、いや、北方領の人族を糾合して、オーク族を追い払い、北方領をザラウツェン族が取り返すんだ。それに協力してほしい。」


 ・・・だけど、ザラウツェン族単独に、北方領をまとめる力はないんだ。だから、

「北方の人族の族長会議をつくる?」

 そう。この国の政体である族長連合を小規模にして、でもできるだけ多くの勢力が入りやすく、協力できる・・・敢えて言えば族長会議。参加条件は「過去は不問」。それまでどんな確執があろうと、この会議に属する限り、過去を理由にしたトラブルは許さない。実際それ以外でまとめるのは難しい・・・が、これこそが人族の限界だった。人族は常に同族で争い、戦い、裏切る。でも、今、過去にとらわれずに共に戦う組織を作らないと、北方領の人族は、オーク族やオーガ族の奴隷種族や家畜にされ、或いは絶滅してしまうだろう。

「・・・キミの提案かい。『過去は不問』って。」

 アルは初めて俺に目を向けた。今まで俺を見てなかった。ヤレヤレ。そんなにメンクイかよ。

「いや。仲間の賢い眼鏡のお姉さん。でも、俺は大賛成だよ。」

 ほんと。これを前面に出さないとどうにもならない。だから最初からドオンと出す。

「バカな・・・昨日打ち漏らした盗賊が西街区に逃げのびている。奴らを見逃せだと!」

「ガレデウスさん。そうです・・・もし彼らが盗賊をやめ、会議に参加するならば。」

「赦せるわけがなかろう!」

「・・・では、ザラウツェン族は不参加、で、よろしいですね。ワタシたちは他の人族に当たるだけです・・・参加しないとどうなるか?お嬢さん、お分かりですね?」

 ・・・お嬢さんって言われてアルの奴、顔を赤くしやがった・・・ま、いいんだけど。他人だし。他人なんだけど、腹ただしい・・・非イケメンのひがみだな、自覚はある。

「・・・待って。魔術師さん。それに・・・キミ。」

 何ですか?メンクイで他人のお嬢さん。

「ボクの復讐は終わった。キミがムリヤリ終わらせてくれた・・・望んだ結果じゃなかったけど、でも、ボクは、もう・・・復讐は終わったことに・・・明日生きのびるために戦うことができるよ。」

 アルは、まだちょっと吹っ切れてない顔で、それでもはっきりした声でそう言った。

「アル・・・いいのか?」

「・・・大丈夫。ねえガレデウス。今ここで、この人たちの期待を裏切ると、とてもまずいとボクは思うよ。なんたって、難なく城館に侵入して頭を暗殺しちゃうスカウト・・・アサシンかな?そんな人がいる冒険者の隊だよ。この後何ができるか、楽しみじゃないか?」

 アルに悪気はないだろうけど、なんか都合わりい・・・アサシン、ま、バレバレだよな。

「ええと、お嬢さん。それは誤解です。この少年はアサシンではありません。勇者様の従者です。ちょっと器用で何でもできるだけで、一番、勇者様に信頼されている少年です。」

 ・・・セウルギンさん・・・ナイスフォロー・・・になってないけど。でもうれしい・・・。

 つい鼻をグスってやっちまった俺を、アルは不思議なものを見るように見つめて・・・笑った。


「でも、その『族長会議』?他の人族が集まる魅力がとぼしいかなぁ?誰も来ないんじゃ?」

 さすがだ・・・13歳かそこらで曲がりなりにも一地区を治めるだけのことはある。俺とセウルギンさんはちょっと悪い笑顔を浮かべて見つめ合った。

「あれぇ・・・キミ・・・まさかそっちだったんだ。道理でボクになびかないわけだ・・・。」

 誤解だ、阿呆!

「それは、一番最初にアナタ方へこの話を持って来た理由でもあります。」

「ああ・・・城館の地下に、多分でっかい食糧庫と宝物庫が封印されたまま残ってるはずだ・」


 そう。セウルギンさんの『魔力探知』・・・かなり凶悪・・・によると、魔術的に封印されたままの蔵が城館の地下にあるそうだ・それを聞いたコルンさんが、30年前の記録やら近隣で聞いてきた話と照合して・・・。

「あの時の戦いでは、逃げるのが精いっぱいで、城内から持ち出せた宝物はかなり限られてたみたいね・・・加えて外の城壁が破られ、当初予定していた籠城戦はかなり短期間で終わってる・・・でも蔵があった城館そのものは落城していない・・・少なくても5年前までは。」

 で、当時のザラウツェス族の当主が蔵を封印して、きっと後日取り戻すつもりで・・・逃げたとして、じゃ、それを解除できる者はこの30年間いないはず・・・で、魔術的に封印された蔵だから、食糧も腐ってない。

「そんな!じゃ、それを取り戻せば食糧も、ひょっとすれば武器も!」

「正直、武器は数的に期待できないと思うけど・・・でも、金目のものなら金に換えて武器を買ってもいい。余裕があればオークを追い払った後、北方領の開発にまわせるかもな。」

「待て待て。その蔵があったとしてその封印は誰が解くんじゃ?」

「それは、このワタシ、ルーンの使い手魔術師セウルギンにお任せください。」

「あぁ・・・魔術師さん!」

 ち。やっぱ最後はイケメンに持ってかれたか。

「・・・ねえ、キミ。もしもボクたちがこの話を受けなかったら、どうなってたの?」

 げ、それ俺に聞いちゃう?

「・・・引き受けたら、お前らの一族のモノだから、お前の名前を使って・・・まあザラウツェン族を中心に族長会議をまとめる・・・。」

「それ、いいね!ボクの構想に近いじゃん!・・・って、だから引き受けなかったら?」

「・・・無断で借りた。」

「ひどいよ、キミ!」

「だからちゃんと筋を通して最初に話し持って来たじゃねえか!」

「・・・でも、ひどい!」

「悪かったよ・・・ち。」

 何で俺が損な役回りしてるんだ。セウルギンさんが感謝される役で?理不尽だ、メンクイめ。

「まあまあ・・・ザラウツェス城はもともと5万人もの人口を抱える巨大都市。しかも通常半年分の食料は備蓄しているはずですから、一時的ですが周辺の人族をナントカ賄えるかと。」

 かつては主都と言われるくらい栄えていたザラウツェスだ。当時は王国との交易も盛んで、今はどうなったかもわからない国々とも盛んに交流があった。相当に豊かだって聞いている。かなり期待はできるとコルンさんも言ってた。

 ただ、問題はまだ残ってる。

「ところで・・・キミは、勇者の従者なの?じゃあ勇者が復活したっていう噂は本当だったんだ!」

 ・・・ち。その程度の認識か・・・。セウルギンさんが俺に言えって期待してるし。もう。

「ああ・・・数百年ぶりに人族の勇者様が出現した・・・エンノ様と仰る・・・ゴウンフォルド族の族姫様だ。」

「何だって!勇者があのゴウンフォルド族の者なのかい!じゃ、キミもゴウンフォルド族の者なのか?」

 ・・・この質問、俺にはつらいんだが・・・でも俺は追放された身だから・・・

「・・・俺は違う。ただ、勇者様に永遠の忠誠を誓っているだけだ。それに勇者様は確かに族姫様だけど、30年前にキミたちを見捨てたような、そんな奴らとは違う!」

 これは自信を持って言える。そもそも北方領を見捨てないって今回の決断は勇者様が下したものなんだから。

「ゴウンフォルドの奴らなぞ、信用できるものかぁ!それに勇者など時代遅れも甚だしい。

勇者が決戦兵器とされていたのは、いつのことだと思っておる!」

 ガレデウスがそう言う・・・見もしないで、話もしないで、そう言うヤツを説得する舌を俺はもたない。でも。

「・・・キミ。キミはその人を信じてるの?」

 愚問だ。俺にとって世界一の愚問がそれだから、間髪入れずに答える。

「俺自身よりも・・・そして、俺の命に懸けて。」

 エンと同じくらい信じているのは、もう会えない幼い親友だけだ。

「・・・わかったよ・・・キミ。どうせここでボクたちがごねたら蔵の中身は無断で借りちゃうんだろ?」

「ご明察!」

「・・・大丈夫だ。キミ。ボクは『過去は不問』にする。北方領の族長会議を束ねる者として、その度量を見せてやるさ。誰よりも先に。」

 今度こそきっぱりと言い切ったアルは、なかなか大したもんだった。13歳?早熟すぎ。

「・・・まず解より始めよ。答えを得たら、それを為すだけですね。」

  ・・・パクリっぽいけど、なんかフツーに『名言』ぽいね。セウルギンさん。珍しく。


 こうして、北方領族長会議への第一段階が始まった。でもね、ここからも大変だよ。


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