第15章 鋼と勇気
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その夜、俺は鋼鉄の王ワルドガルドと話す夢を見た・・・夢だろうか?
「世に生まれた我を、認めてほしい・・・我を祝福してほしい・・・そのために我は、我の力を世に示したい・・・」
姿はない。でも、そんな、悲しそうな、泣きそうな、小さな精霊の声が、目覚めた後も、俺の耳から離れなかった。
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第15章 鋼と勇気
戦いが長引き、ソディのオド・・・生命力そのものが激減していた。おそらくそれがチャンピオンに吸収され、その疲れや傷をいやしているのだろう。自分だけが弱っていく中、次第にソディは焦っていた。隣のエンは一見変わらないように見える。しかし自分より長い時間こんなのと一人で戦っていたエンを助けなければ・・・。それが冷静な判断を狂わせたのだろう。ついにソディは限界を超えて消耗し、ついに敵将の大剣の一撃をその胸に受けた。かろうじて自らの剣で受けてはいたが、どれだけ勢いを止められたか。その小柄な体が大きく飛ばされた!
って考えてたのは、一瞬だ。次の瞬間には、俺はソディの側にいた。
「バカヤロウ!あんだけあぶねえって、引けって言ったのに!」
つい怒鳴ってしまった。胸甲が突き破られ、大けがだ。出血もひどい。
『パルシウス!?そのままその子、連れてって。』
『勇者様!了解です。』
長居は無用。俺はソディを抱きかかえ、いったん下がる。さがり際に牽制で投げナイフを敵将に放ったが、ち。肌にもかすらねえ。物理『防御』か?いや、そんなありきたりなものじゃない・・・この戦いの最初と比べても、ヤツの威容が増している。その頭上に赤く輝く文字のようなものが浮かぶ・・・あれが・・・ルーンなのか?
「大回復!」
下がった場所で、アルからもらった首飾り・・・碧晶の護り・・・の力でソディの傷をいやす。だが、傷が治ったはずのソディの顔色が土気色だ。俺はそのまま抱きかかえる。可愛い妹。昔は、いつも「兄さま」って呼んでついてきた・・・。
『パシリくん?・・・そうね。生命力を消耗したまま戦われても、倒れるだけね。キーシルド師!』
『はい。もうこちらのガーズは・・・今護姫様が倒しました。あと1体は拙僧が・・・』
『うむ。ここはまかせる。』
ミュシファさんからもらったポーションで、セウルギンさんも魔力回復が終わり支援に戻る。
状況を確認していたら、突然、かくっと脱力感・・・なんだ?まさか、たったあれだけの時間で、俺のオドが吸収されたのか・・・どんだけ俺は弱いんだよ。勇者様はまだしも、ソディ・・・戦姫様があれだけ戦っていたっていうのに。
唯一残ったガーズにはキーシルドさんが真っ向からぶつかっている。そこに回復したセウルギンさんの支援魔法『閃光』が光る。すかさずキーシルドさんの凶悪な・・・失礼、神の慈悲あふれる・・・メイスの一撃。それが決定打となり、オークガーズは沈んだ・・・赤く光って。
あとは敵チャンピオンだけ!あと1体だけ!それなのに。護姫様の息が荒い。もう余裕なくなるほど消耗している。
『みんな、総がかりよ。急がないと・・・。』
戦える者がいなくなる。それは、勇者様が、みんなが死ぬことだ。北方領が蹂躙されて、アルも・・・。見渡すと、世界がますます赤くなっている気がする。敵は1体だけ。全体的にはこちらが圧倒的と言っていい。それなのに追い詰められている・・・だめだ、そんな未来が欲しくて、そんな明日を夢見て、俺はここにいるんじゃない。だから、まずは自分のやれることをやる。だから今は・・・。
「ち、パシ公・・・また辛気くせぇ顔してやがる。」
「ソディア様!お気づきになりましたか。」
それでも少し顔に赤みが戻ってきた。俺は思わずソディを強く抱きしめる。子猫のようにおとなしくしていたソディだが、しばらくすると戦いが終わっていないことに気づいた。
「それで、戦況は・・・?」
さすがだな。俺は、悲しいような誇らしいような複雑な気分になった。
「・・・味方の優勢です。敵はチャンピオン1体を残すだけです。」
ウソじゃない。それでも言ってる自分が信じていない。それはすぐに伝わったらしい。
「どうもやばいらしいな・・・エン姉まで肩で息してるぜ。」
おまけに、ガーズを倒し、そのままチャンピオンに向かったキーシルドさんがあっという間に跳ね飛ばされている。
『拙僧では、近づくことすらおぼつきませぬ!』
体勢を立て直そうとしながらも、力が入っていない。さっきの俺よりもひどそうだ。
『もう・・・姫様方でなければ、近寄ることすらできない?』
コルンさんも困惑している。
「それでも、できることはあります。」
セウルギンさんは勇者様に『増強』をかける。各種能力が向上する。キーシルドさんも護姫様に『防御』を上掛けする。まだ、みんなできることがある。そうだ。じゃあ俺は何ができる?
「おい・・・パシ公。そろそろ放してくれ。・・・ち。そういうことか?」
俺の右拳に微かに輝く隊章に気づいたらしい。
「まあ・・・ご無礼すみません。」
そう、さっきから俺がソディを抱きかかえているのは、オドの回復のためだ。心配もあるけど。今、俺ごときが確実にできることは、こんなことだけ・・・。
「道理でいつになく馴れ馴れしいわけだ。誤解するとこだったぜ。」
「誤解?・・・ホントに心配ですよ。」
誤解が何かは知らない。が、俺の手を振り払って、ソディ・・・戦姫様はにやっと笑う。ライオンの女王様、復活か。でも・・・。
「心配すんな。二度も不覚は取らねえ。」
「・・・はい。」
って言ってるそばから、
『グッ!』
護姫様がその長剣を大きく飛ばされる。もう握力もやばいんじゃないか?
『閃光!』
そこにセウルギンさんの目つぶし。護姫様は一度武器を取りに・・・。
『護姫様、一度お下がりを!』
俺が高速で疾走し、その長剣を拾う。重い。さすが、業物だ。あらためて見ると、ミスリルを鍛えた名剣だ。これでもヤツに与えるダメージがわずかだけとは・・・。
少し離れたところで戦姫様と入れ替わり下がる護姫様。足元が少しおぼつかない。俺はその隣に行き体を支えながら、オドの補充をする。
「・・・すまぬ。」
俺は、ふと護姫様の長剣を、続いて、勇者様を見る。
「そうだな。もし我が倒れたら、エンノに渡してくれ。ヤツは今、本来の戦い方ができずにいる。だから攻めあぐんでいる。」
「そんな。縁起でもない!」
勇者様は、左手に今も先代世界樹の芯核の刀を振るっている。しかし本来は右手にも光の精霊層・・・異常に精霊力を駆使する魔術武器・・・を持つ、両手使いだ。しかし今は精霊槍が使えず、彼女に見合った武器がない。並みの武器では一撃で壊れる。
「ヤツに見合った武器があれば・・・まだしもここまで苦戦することはないものを・・・。」
そう。戦士としては、勇者エンノは敵のオークチャンピオンを圧倒している。しかしダメージがなかなか通らない。通ってもすぐに回復される。これが本来の両手に武器を持ったスタイルなら、倍以上のダメージを与えられるのに・・・。
「もっとも、この業物でもエンの力では長くはもたんがな。」
勇者様にふさわしい武器・・・助けになる何か・・・何か?
『護姫様・・・。』
『うむ。もう充分だ。行くぞ。』
・・・充分じゃない。まだ全然・・・。でも勇者様、護姫様、戦姫様の三人しか既に近寄ることすらできない。三人が、俺の姉妹たちが戦っている・・・俺はもう何もできない。同じ転生者だったのに、俺は役立たずで・・・。
そして、世界は更に赤く、その空を、地平を覆う・・・。
俺に何ができる?俺たちに今、何が足りない?
『コルンさん、セウルギンさん・・・何が足りないんですか!?ここまで優勢なのに、なぜこっちが追い詰められるんですか!?』
キーシルドさんは、『回復』や『防御』を重ね掛けし、もう魔力も枯渇している。
セウルギンさんもだ。しかし、彼は今考えている。
『敵は、あの『雑食』のルーンで敵味方の力や損傷を自らに取り込んでいます。このままでは我々の存在すらも吸収されていく・・・。我々では、今の勇者エンノでは、それを防げない。ルーンをふるう決闘者には及ばない・・・。』
ルーンをふるう決闘者。それがチャンピオンの力。あの頭上の赤い文字が。
『護姫様も言ってらしたわ。勇者様本来の戦い方も今はできない。精霊の加護も、右手の武器も。護姫様、戦姫様に補っていただくしか・・・いえ、わたしたちが・・・でも・・・。』
でも、の後は聞きたくない。コルンさんもセウルギンさんも今その知識を、頭脳を総動員しているんだ・・・。
ルーンの力・・・勇者様の武器・・・。
俺は、いや、近寄ることすらできない俺たちは、遠くから3対1の戦いを見守りながら、自分たちにできる手を考え続ける・・・って、ミュシファさん!?バカ!
『さっき見たから、やってみる!あたしが一番余力があるんだから!』
ミュシファさんは、俺が見せた、敵への接近と背後からの一撃をまねるつもりだ。もちろん彼女に教えるために見せたんだけど、それをここでやる!?
『ダメだって!』
『やる!あたしだって、勇者様の、みんなの仲間なの!』
『ミュシファ!』
ミュシファさんは、確かに才能がある。俺の動きを・・・アサシンの・・・よくまねている。でも。
勇者様も護姫様、戦姫様も彼女に危険なことはさせたくはなかったようが、彼女の決意が固いと見るや、その動きに合わせて自分たちが攻めかかる。そして、一斉に三人が身を引き、オークが気を抜いた瞬間、ミュシファさんの背後からの一撃はヤツに届き、血をまき散らす。
しかし。
「小娘!こそこそと!」
ミュシファさんは、オークチャンピオンに近づき体力までも奪われ始めていた。だから、その一撃は、ヤツの首筋に傷をつけるにとどまり・・・。
「ミュシファさん!」
オークの大剣が彼女の胸を貫いた。そして、そのまま剣をふるい、遠くにその小さな体を放り投げる。血が、ミュシファさんの血が宙に飛び散る。その血は地に着く前に消え、おそらくオークの傷をいやした。
俺は彼女が投げ捨てられた瞬間に猛然とダッシュし、その体を受け止めようとしたが、間に合わなかった。地面に叩きつけられ、二度、三度と跳ねるミュシファさん。でも四度めの前には追いつき抱きとめる。
「大回復!!」
・・・間に合うか・・・間に合ってくれ!!血だらけのミュシファさんを俺は凝視する。
「・・・あ?パシリ・・・やっぱりダメだった・・・言うこと聞かなくてゴメン・・・。」
・・・間に合った!よかった!だけど!
「バカ!ミュシファさんの大バカ!」
「・・・バカ?ひどい、パシリ。あたし、頑張ったのに。何かしなきゃって、頑張ったのに。」
そうだ。バカでも・・・でも、できることをやんなきゃ。失敗したってやらなきゃ終わりだ。
「そうだね。ゴメン。やんなきゃ終わりだ。だから、次は俺の番だ!見てて!」
ルーン・・・勇者エンノの力は勇気の力。そして、今、足りないのは彼女の武器。だったら!おぼろげに考えていたことが、結びついた。
ばかばかしいかもしれない。できないかもしれない。でも、やってみせる。やらないと、エンが、シル姉が、ソディが・・・みんなが!
だったらやらずにはいられない。
『勇者様!一度退いて、俺のところへ!護姫様、戦姫様・・・しばらく支えてください!』
俺はそう念話で告げ、左拳の族章に力を込める。もう、みんなに見られたっていいや!
「大いなる精霊ワルドガルドよ・・・」
俺は暗闇に包まれる。族章が白銀の輝きを放ち、ゴウンフォルド族の紋章を空に形作る。
「その御名のもと、我に力を示したまえ。エン・ゲイル・アズ・ゴウンフォルド・・・武具召喚!我が名はユシウス。我が武具よ。我が元へ来たれ!」
まずは、こいつだ。俺の左手にワルサーカンプピストルが握られる。
『みんな、目をつぶって!』
念を放つと同時にオークチャンピオンに銃口を向け、引き金を引く。
ひゅうううう。
着弾のしばらく後、ヤツの目の前で強い光。
もともとこいつは第二次世界大戦時の信号弾用の拳銃だ。オークは一度成形炸薬弾を見て警戒しているだろうが、今度は最初から普通の発光弾・・・目くらましだ。ただし、さっきのセウルギンさんの『閃光』より持続時間は長いし、前と同じと思ったヤツが騙されていればモロにくらってかなり時間が稼げる。
そして、勇者様はもう俺の前にいる。どんな場面でも、どんなにばかばかしくても勇者様はいつも俺の言うことを無条件に信じてくれる。今だってそれどころじゃないって言われてもおかしくない場面なのに・・・。
『私の従者。当たり前よ。あなたはわたしが選んだ従者。私自身より信頼してる。』
って。こんな場面でなきゃ泣きたい。
『俺の勇者様・・・右手の隊章に勇気を!』
『うん。そして、その勇気をあなたに!』
俺は勇者様に近づいた。
俺は右手の籠手を外し勇者様の右手を求める。勇者様も俺の手を握り返してくれた。しっかりと。かなり近い距離で、勇者様と見つめ合う・・・握りあった右手を眼前にかざし、そして俺は唱える。陣法師コルン師が、俺たちに託した大魔術!いや、それだけじゃない。
「それは人の誓いの証、それは人の絆の証、そしてそれは・・・我ら人の勇気の証!ここに在れ!」
俺が唱えた言葉を聞いて、コルンさんは首をかしげる。
『旗の生成?でも、ここじゃ・・・閉鎖された空間で・・・見てる人もいない・・・』
大丈夫です・・・でもうまくいくか・・いや、いかせて見せる!
俺の右手に、エン・・・人族の勇者エンノの勇気が、そして俺に向けられる信頼が集まってくる。
『みんな!俺たちに、力を・・・勇気を送ってくれ!』
みんな・・・仲間は意味不明なことをする俺を信じてくれるか?説明する時間がない今、みんなは・・・
『バカ者め!』
ありがたい、シル姉。
『なんかしんねえけどよ!』
理由はいらないって?ソディ。
『人を信じるのが拙僧の役割!まして友ならば!』
キーシルドさん、やっぱ人良過ぎ!
『信じる者は、すくわれるんですがねえ・・・足元を。』
一言多いよ、セウルギンさん。
『こら、弟子のくせに、生意気よ。』
へへへ、コルンさん。すみません。
『やっぱりバカ・・・は、パシリの方。』
ミュシファさん?そんな体で・・・ち。バカで悪かったね。
でも、みんな、ありがとう。だから、その気持ちを込めて、更に大きく俺は叫ぶ!
「勇気よ・・・今こそ、その形を示せ!」
ドックン!勇者様と俺、二人の隊章が脈打って強く大きく輝きだす。
勇者様から俺に託され、みんなが念を込めて、俺の右拳に集まった『勇気』。それが、形を求めて暴れている。
そして、俺はワルサーカンプを捨て、再び唱える。左拳の族章を掲げて!
「大いなる鋼鉄の王・・・闇の眷属にして、鋼の精霊ワルドガルドよ・・・我が名はユシウス。武具召喚・・・勇者の武具よ、ここに来たれ!」
俺は勇者様の手を離し、自分の右手を左手に重ねる。自分の体の中をマグマが通り抜ける。その激痛に耐える、無限の、しかし本当は一瞬の時をやり過ごし・・・。
俺は左手の輝きを見つめる。
輝きは収まり、そこには銀色に輝く長剣がある。ふ。さっきみた護姫様の長剣そっくりだ。しかし、その長剣にははっきりと勇者エンノの旗印、虹の輪が刻まれている。
俺が右手に持ち替えると、俺の拳の隊章に呼応して、淡く、しかしはっきりと剣が虹の輝きを帯びる・・・。
「俺の勇者様。・・・お受け取り下さい。」
俺はひざまずいて、両手で、俺の勇者様に剣をささげた。
『ありがとう。・・・私の従者。』
その剣を勇者様がつかんだ瞬間、剣はそれまでとは比べ物にならないくらい大きく、強く輝いた。そして、その虹の輝きが広がり、世界を覆っていた赤い光を駆逐していく。
『勇気の・・・ルーン・・・。』
セウルギンさんがうめく。どうやら成功したらしい。
『・・・あれはルーン鋼を鍛えた武器!?どうやってあんなものが?』
すみません。企業秘密です。できるどうかは、途中まで半信半疑で、でも途中からはワルドガルドが教えてくれて。こいつ、いつも教えるのが直前で、困ったチャンです。
『旗じゃない・・・でも、勇気が顕現してる・・・』
すみません。コルンさん。ほとんど『旗』のパクリです。特許料払います・・・って特許って何だっけ。また前世ワードかよ。
向こうでは、護姫様と戦姫様が、視力を回復したオークチャンピオンと戦っている。種族を代表する強者、決闘士。その存在の強さは、俺たち勇者の一行をほとんど1体で圧倒する直前だった。
しかし、勇者エンノが、その武器を手にした。その右手に勇気の根源たる『勇気の剣』。その左手にエルフ族から託された先代世界樹の芯核の刀。もう、俺の、俺達の勇者の勝利は揺るがない。そして、それはその通りになった。
幾度かの剣戟の後、オークの族の決闘者は武器を砕かれ、ついに地に伏したのだ。勇者様の、そして人族の勝利。
それが、おそらくは1000年ぶりに行われた種族決闘の決着だった。
・・・しかし、勝敗の後。
勇者様は、倒したオークチャンピオンにとどめを刺さなかった。しかもルーンを奪いもしなかった。セウルギンさんは血相変えて勇者様に迫った・・・これは珍しい。
「ルーンを、互いの種族の命運をかけて戦ったのですよ!このままみすみす・・・。」
って、勢いで。で、勇者様が答えるには
「ええっと・・・。」
もっとも、俺が勇者様の意志を忖度して・・・いやいや、翻訳するところによれば
「そんなの、いらない。」
だって。
泡を吹きそうなセウルギンさん・・・ホントに珍しい・・・に対してコルンさんも
「まあ、ここでまたルーンとやらが増えても、ちょっと私たちには荷が重いかな。」
って言ってたし、護姫様も賛同する。
「互いの勢力が大きく均衡を崩すのは、却って危険であろう。自棄になったオーク族がどう出るかわからぬ。今は北方領が安定することを望むべきだ。」
それで、決闘に敗れたオークチャンピオンは、自然に元のオークマーシャルに戻り、帰された。俺は、ヤツに向けてつぶやいた勇者様のお言葉が実現することを祈るばかりだ。
『私たちが望むのは、和解。あなたをこのまま返すのは、あなた方にも事情があったと思うし、ただその事情が私たちに迷惑だってわかってほしいから。力を貸してほしいならそう言って。』
きっとこれも実現しない。でも、いつかは、これに近づくことができるかもしれない。勇者様は、そのための種をまいたのだ、今回も。
『・・・まぁ、わかりました。確かに我々には勇気のルーンの具現化が先でしょうから。』
セウルギンさんは最後にはそう言って納得した。それはまるで「どうせあのブドウはすっぱいに違いない」って言ってるようだったけど。でも、実際、勇者様に渡した勇気の剣は、戦いの後あっさりと消えた。「旗」の時のように、虹になるとかそんな格好のいい消え方じゃなくていきなりなくなった。もう一回作れるかって?・・・さぁ?
「パシリ・・・髪、黒かった・・・なんか怖い。」
・・・すみませんね。変装ですよ。ヘンソー!
勇者様・・・何ですかその口をとがらせてぶうぶう・・・。俺の正体?ユシウス?パリュシウスですよ、パリュって、また舌かんじゃって。ポカって、殴らないで。痛くないけど・・・。
長い戦いが終わって。
不気味な赤い幕が全て無くなって。
きれいな青空が、地平線が広がるようになって。
衛兵たちが俺たちを見つけて、叫んでくれて。
アルが俺を見つけて、殴りかかってきて・・・なんでだ?
俺は泣きじゃくるアルを抱きかかえて。
気が付くと、城内からも大きな声がして。
勇者様を讃える声が。
北方領を祝福する声が。
北の盟主アルテアを呼ぶ声が。
そして、平原には、勇者エンノと、北の盟主アルテアを讃える声が交互に鳴り響いた。




