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勇者の従者は泣き虫アサシン  作者: SHO-DA
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第13章 赤光

          -------------------- 

 人族はじめ、各種族には種族特性がある。あれ?コルンさん、種族特性って、種族によって数に差がありますよね。特性が多いほど種族として強いってことですか?

 少ない順で言えばオーガ族「力」「巨体」で2。

 ゴブリン族「適応力」「繁殖力」「闇」で3。

 オーク族「雑食」「適応力」「繁殖力」は3。

 人族「知性」「技術」「多様性」で3。で、横並び。

 多いのがエルフ族「精霊魔術」「知性」「敏捷」「森」で4。

 トロール族「力」「巨体」「知性」「闇」の4。で二大勢力?

 ・・・人族って普通だな。エルフも特性が多い割には、人口は多くない。

「そうね。一般的にはそう思われている。特性の数が種としての強さじゃないかって。エルフは人数は少ないけど、個体が長命で強力。トロールは個体も強いし数もまあまあ。でも多いからって必ず強い・・・わけでもない。トロールは闇に、エルフも森に縛られて活動範囲や得手不得手がはっきりしすぎている。」

 じゃあ、3つでも人族がかつていろんな種族を支配したのは、縛られてないから?

「それもあるし、特性ごとの強さもある。さらに、特性をその種族が生かせる状態にあるかどうかで、かなり変わるのよ。人族なら、勇気があるかないか、ね。」

「また勇気教の布教ですか。やれやれ。」

 あ、セウルギンさん。前に言ってた種族ルーンって何ですか?

「・・・種族の特性は、それぞれその特性を表したルーンに内包されます。かつてはそれぞれの神が所有していたことになっていました。ですから、神々同士で奪い合って、ルーンも増減したものです。たとえば、神話では、もともとオーガ神とトロウル神は双子の同族でしたが、トロウル神がスキを見て、ゴブリン神から闇を、エルフ神から知性を奪って別の種族になったとか。種族決闘とやらで一度勝てば、種族ルーンをコピーでき、二度勝てば相手のルーンを消せる、とか。まあ、一度勝てば強くなるから、同じ相手と二度決闘するバカはめったにいないそうですが。よほどの自信か、恨みでもない限り・・・。」

 なんか、意味深だな。セウルギンさんの話って。ま、神話時代の話だし、1000年も昔だね。

          --------------------


第13章 赤光


 決戦から、3日たった。北街区のオーク軍は、本陣を失ったことに気づき、翌日撤退に入った。俺たちは特に追撃する気はなかったが・・・なにしろまだ城兵力の2倍以上だし・・・草原の民と山岳民がやる気で、彼らが独自に追撃することになった。ま、同盟軍だからやめろという権利もないし、つぶしてくれれば、それにこしたことはない。草原の民も山岳民も強かったしな。

 で、俺たちは三日目の夜に宴会となった。前哨戦では、なんか俺がケガして水差す形になって、宴会やってなかったので、今回は「大」宴会だって。コルンさんに言わせれば

「たかが前哨戦で宴会なんていらないわ」

 ってことだったらしいだけど、でもみんなは俺のせいだっていうから、仕方なく今回の宴会は、最初から参加することにした。好きじゃないんだけどなあ。

「じゃあ、みんな乾杯だぁ!」

 ・・・こいつ、13の癖に酒が好きだな。まあ、あいさつが短いのはいいことだが。しかし、宴会って言えば城壁って、もうここの定番かね。一部は中庭にもいるけど・・・ああ、あれは街の人たちだ。あの人たちにも酒、配ったんだ。そんなにあったのか、蔵の中に・・・貯めすぎだろ。実は酒ばかりで食べ物や金がないんじゃないか。

 街の人たちは明日からまた南街区に戻り、もとの暮らしを再開することになっている。南街区、持ちこたえて被害なし、か。よかった。

「パシ公・・・暗い!辛気臭い!酒くらいが~っつと飲めよ!」

 こいつも酒好きだね。蒸留酒なんて飲んでるし。ウイスキーじゃなくて焼きワイン・・・ブランデーだっけ、前世ワードじゃ。

「ソディア様、若いうちからあまり強い酒を飲むと、背が伸びませんよ。」

「マジか!?そりゃ!」

 確か、そう聞いた気がする。こいつも多分俺と同じとこからきた転生者のハズだけど、そういうことは覚えちゃいないのか。

「後、頭が悪くなるとか、健康に悪いとか・・・。」

 言ってはみたが、

「それはどうでもいい。」

そう言うと思った。

「でも、背が伸びねえのか!そりゃ・・・困ったな。」

 「ええ!キミ、それ、ホントかい!?」

 またうるさいのが来やがった。こいつは13歳、戦姫ことソディは15歳。まだまだ成長期だろ。

「まあ、ワインなら薄めるとか、ビールくらいなら、それほどでもないかもしれませんが。」

 もともとワインなんか水で割って飲むもののはずだし、ブランデーストレート、ノゥチェイサーなんて、論外。

 ふと隣を見ると、ほっぺたをほんのりピンクに染めたミュシファさんがいた。ちゃんとワイン、薄めてる・・・エライな。かわいいし。

 最近、俺はこの子への苦手意識がなくなった。きっともっと苦手なヤツが・・・って妹のそっくりさんだけど・・・いるおかげで、そいつ以外の思春期年代への抵抗が随分減ったと思う。昨日、普通に街でもあのくらいの子と話して、終わってから、自分でも「あれ」って。前はあそこで逃げてたんだな・・・。

「キ、ミ、は、今、ボクと話しているんだろう!そんな女、見なくていい!」

 ・・・一番苦手なはずのこいつも、結構普通に扱ってるしな。おんぶしたり抱っこしたり。治ったのかな?思春期嫌い・・・だったらリュイが思春期になっても・・・。ち。もう手遅れだったか。

「パシリは、あたしと話したいんです。アル様。身分じゃ人の気持ちは縛れませんよ。」

 うわっつ!誰、この人?時々出てくるこの強気キャラ。あのコミュ障のミュシファさんが、北の盟主(俺、命名)にちゃんと反論してるし・・・てか、これ、ケンカ売ってない?

 案の定、アルは真っ赤になって怒った。アルとミュシファさんがにらみ合う。俺は逃げたくなった。いや、逃げた・・・。

「おい、逃げんなよ、おめえのせいだろう?」

 いや、絶対違います。俺に無関係で勝手に怒ってるんです、二人とも。でも、俺はソディに首根っこを捕まえられた。ちゃんと気配消してゴーストウォークで逃げりゃよかった。

「青春ね。」

 コルンさん。そんな、そこで悟ってないで助けてください。って、そう言えば。

「コルンさん、なんか調子悪いって言ってませんでしたか?」

 コルンさんは、戦いが終わっても、その処理で忙しかった。それに加えて、ザラウツェス城に、いや、北方領に人材が全然足りなくて、結局その負担をほぼ一人で支えている。だからかなりお疲れ気味・・・。今日も宴会には参加しないって思ってた。

「ふふ。心配してくれてありがと。でも、まあ、こういう時に人脈を作ったり、人材を見つけたり、できることもあるのよ。」

 うわぁ・・・コルンさん、過労死しそう。この世界で過労死認定第一号なんて認められない。

「そんなのいいですから、休んでくださいよ!」

 けっこうマジで俺は心配だ。

「キ、ミ、は、今度はコルン師かい。ホントに女好きだな。特にエン姉様とコルン師にかまいすぎだぞ。態度が全然違う!」

 またお前か!しかも俺って女好き!?そこまでじゃぁ・・・って、コルンさん?なんでそこで笑うの?

「だって、おかしいじゃない。」

 何が?

「わたしから見て、パシリくんが一番態度を変えてる相手はアル様ですから。」

 はぁ?コルンさん何言ってるの?やはり休んだ方がいいんじゃ・・・。

「だって、わたしやミュシファにすら敬語で話してるパシリくんが、族長会議の盟主であるアルテアさまに、タメグチ!いいえ、むしろ目上の立場で話してる・・・ね。おかしいでしょう?」

 図星です。いや、それは・・・そう、こいつがそうしろって・・・。でも、確かに意表を突かれた。タメグチ以上。目上の立場・・・。しかも俺自身、違和感あまりなかった。

アルも、近くにいたミュシファさんも、近くにいた戦姫様もなぜか一斉に黙って俺を見た。いや、見られても・・・。気まずい。何も浮かばない。なに、この緊張感。

「・・・ええっと・・・そう言えば、勇者様、どこにいらっしゃるのかな?」

 俺は勇者様を探しに・・・そうだよ、逃げますよ!大急ぎでこの場をはなれた。なんか戦姫様の馬鹿笑いが聞こえた。ふん、気にしない。


 ところが、次の瞬間・・・グラッ!?何か・・・今、揺れた?

 確かに揺れてる。城壁の痛んだ場所が異音を立てている。城壁の上にいる者・・・いや中庭にいる者も悲鳴を上げる。かなり揺れてる。

「慌てるな!揺れが収まるまで、動いてはならん!」

 少し離れたところから護姫様の叱咤が聞こえる。確かに慌てて城壁から降りる階段とかに殺到したりしたら大変だ。

「そうだ!みんな、落ち着いて。動かないで。」

 アルも叫ぶ。そのうち、それぞれの隊長格も声を上げ、みんなを落ち着かせていく。

 まだ揺れは続いているが、次第に弱まっているような気がする。

 ようやく頭が働き出す・・・これって地震?

「アル・・・大丈夫か?」

「キミ!ボクは大丈夫だ・・・でも、こんなの初めてだよ。」

 ふむ・・・やはり地震は珍しいようだ。

ミュシファさんは酒に酔ったのか地震で揺れてるのかわからない戦姫様を支えている。

「グッジョブ!ミュシファさん!」

「ぐっじょぶ?」

 きょとんとされたが、しかたない。

「コルンさん。これって・・・地震ですか?」

「地震・・・地揺れとも言うわね・・・でも、こんな平地じゃ、珍しいわね。」

 ここは平原地帯で海岸からも、火山からも離れた場所。敢えて言えば東の山岳地帯の方が近い・・・噴火でもしなけりゃ地震なんて起きないんだって。さすが。物知り。

「もともと北方には、変な相が集まって、入り乱れていて、情勢が読めなかったから直接来たんだけど・・・こんなのも、全然予測ができなかったわ。」

 そう。占いをしたり、地相を読んだり、そんなのも陣法師、正確には軍師の仕事らしいが、特にコルンさんは自然災害については注意喚起していなかった。ちなみに天文を読むにはレベルが足りないそうだが。

 揺れが収まり、周囲も落ち着きを取り戻す。一応、各隊が中心になって、参加者の無事を確認するよう、アルが指示をだす。

「アルテア様!北が、北の地が真っ赤になって・・・」

「何だって?火事かい!」

 衛兵の一人が報告に来た。

 俺たちは北側の城壁にそびえる塔に昇った。しかし、昇るまでもなく、確かにザラウツェス城から見て北、正確には北北東の方角が赤い。近くの衛兵たちがざわついている。

「あれは・・・火事じゃないな。」

 アルがつぶやく。

「空と地の間が、怪しく赤く光る・・・薄いカーテンのよう・・・」

「コルンさん、あの方角は・・・確か!」

 オーク北街区占領軍が立ち去った方角じゃ・・・。

「多分ね・・・関係あるか、どうか・・・」

 俺は、コルンさんがそう呟くのを聞くと、塔を駆け降りた。

「キミ?」

「パシリ!?」

「パシ公!」

 年少組三人の声が俺を後ろから追うが、振り払う。

「コルンさん、勇者様にうまく言い訳しておいてください!」

 俺はすぐさま装備を整え、東門から単騎で駆け出した。イヤナヨカンしかしない、そういう気分だった。


 北の大道までまっすぐ東進、大道に着いたら北上、の予定だった。しかし、騎上で違和感を感じた。門を抜けて、しばらく疾駆して・・・何もない。オーク族の死体が。

 この三日間の俺たちは、戦死した敵味方の死体の埋葬に追われていた。むろん敵の死体の方が多かった。夏なので、敵とはいえ死体の放置はできず、勇者様のご意向もあって、それなりに丁寧に処理していたせいか、まだ全ての埋葬は終わっていないはず・・・。が、一体も残っていない。予定より早く終わったのか?なにかスッキリしない。

 が、馬を止めるほどのこともなく、ほどなく見えた北の大道に向かう。暗闇で、馬は不安そうだが、俺は時々なだめてやる。こいつは賢い馬だから、言い聞かせれば大丈夫だ。

 本来、馬は臆病で繊細だ。ムリをさせたら、そのまま死ぬまで走るくらい素直だ。普通の馬の一日の移動距離は50~60km程度。長距離レースに出る馬だと一日80~160km。瞬間的には時速60km以上で、競馬だと瞬間で時速70~90km走るそうだが・・・。俺の馬は、俺より身長が低い、このへんじゃありきたりな馬だ。賢そうな目と短い鬣がかわいい奴だけど、特に名馬ってわけじゃない。やばくなったら自分で走ろっと。短距離なら俺は馬より速い。

 そう思いながら、一晩かけて進み、夜が明けた。怪しい光はとっくに消えていた。馬を休ませる。馬は草をうまそうに食べている。馬具も外してやりたかったが、そこまで余裕がない。

どうも胸騒ぎがする。残念ながら、俺はこの職業のわりに予感ってやつがしない方だ。信じないわけじゃない。そもそもそういう勘が悪い・・・よくやってられたな、アサシンなんて。ま、俺はアサシンとしては、情報第一で計画性重視だ。直感で仕事はしてなかった。

 しかし、その俺が、とっても嫌な気分になった。ひょっとしたらそんなに遠くでない場所にやばい奴がいるのか?馬は、普通にくつろいでいる。気のせいかもしれないが、少し先行する・・・。大道を北上すること、わずかに数分。一層のイヤな気配がする。背筋がザワザワする。予感じゃない。悪寒だ。近寄っちゃいけないっていう感覚。しかしこれで帰ったら子どもの使い以下だ。俺は潜伏スキルを使い、道端の岩陰に隠れることにした。

 さらに待つこと数分。

奴らが来た。

 異様に大きなオークが8体。ガーズ種4体とウォリァー種4体のように見えるが、身にまとう威風は別ものだ。外見や武装そのものは大きいガーズとウォリァーだとしても、本当にオーク族かって思うほど、風格があった。ヤバイ連中だ。

 しかし、更に驚くべきなのが、その8体に囲まれるように歩く1体だ。周りよりは小柄だが、オーク族にしては大柄と言える。しかし、その威容は、完全に8体を圧していた。野性的な風貌ながら、ある種の高貴さすら感じさせる大きな牙。そして俺の背中に氷が張りついたような寒さ。つまり、こいつが中心・・・その目を見た時、俺は昨夜の赤い光を連想した。おそらくこいつの眼光と同じだ。ということは、昨夜の赤光は、こいつが発したのだろう。オークのマーシャル種・・・元帥ってやつか?だが、コイツの姿を見ると、そんなジェネラル種とマーシャル種なんていう、クラスアップでは済まないほどの根源的な差異を感じる。当然、王族・・・ロード種でもないように思える。

 その時、俺の聴覚がこの場所に近づく音・・・馬蹄を聞き取った・・・いけね!俺の馬だ。俺を探してついて来ちまったのか・・・すぐ戻る気だったから、待ってろって言わなかった。

 このままじゃ食われちまう。たかが馬じゃない。あんなに素直でかわいいヤツだ。

 俺は思わず立ち上がって、そして次の瞬間己を激しく罵ることになる。8体のオークが一斉にジャベリン向けて、こちらを見たのだ。体長2m以上のガーズが、全身を隠すほどのタワーシールド・・・大楯を構える・・・いまにも鉄壁の守りって感じだ。また、同じ大きさのウォリアーは小型のバックラー・・・円盾で、軽快な動きを見せる。

 俺、うかつすぎ。すぐにその場から飛びさがる。そこに突き刺さる8本のジャベリン。あぶねえ。岩もろとも粉砕してやがる。

「離れてろ!」

 俺の馬は、賢い。ふっと遠くで動く気配がする。ふう。しかし、その間にオークたちはスピアとロングソードを構え、俺を取り囲もうと動く。逃げるか?

 が、俺の出足を封じるように、中央のオークがゆっくりと近づいてくる。その赤い眼光ににらまれると、俺の体が震えた。おそらくは左右に逃れた瞬間その巨大な矛をふるうだろう。

 これじゃ、蛇ににらまれたカエル・・・いや、ミュシファさんか。そう思ったらふっと笑えて、体の震えが収まった。

 俺はそのオークの視線を受けとめる。ヨロイカブトは身に着けていないが、俺ごときの半端な攻撃を許さない、悔しいが、そんな格の違いを感じる。

 そいつが持っている巨大な矛は、おそらく4mほどの長さだろう。その矛が、俺に振り下ろされた。ガキン。ソードブレイカーでへし折ってやろうと半ば狙っていたが、とんでもない。俺は受け損なって、そのまま吹き飛ばされた。なんて威力だ!が、飛ばされて、むしろ逆にそれを利用して距離をとる。しかし勢いに負けた俺はまだ体勢くずれたままだ。その間に取り巻きのオークらが、追いかけ、逃げ道を塞ごうとする。まずったな・・・。

 その時、中央のオークが、声を発した。濁った、そのくせ心の奥にまで響くような声だ。

「我が一撃を受けるとは・・・きさまは、人族の勇者の眷属か?」

 眷属?違和感がある言われ方だが、間違いじゃない。ただの従者っていうよりは、この隊章によるつながりはかなり深い。俺は肯定した。

「そうだ。俺は勇者エンノ様の従者だ。」

 ま、うかつに逃げられなくなっちまったか?でも、生き延びてやるさ。

「そうか、それは運がいい。早速お前を食って、人族の力を得てやろう。」

 何て言った、こいつ?

「まあ、食い甲斐のない小者のようだが、敵を食って力にするのが、我が種族のルーンの性だ。」

 食う?食って力にする?ルーンの性?・・・それまでの間もずっと凍りっぱなしだった俺の背中は、ついに限界に達したようだ。食われる!その根源的な恐怖から逃げたくなった。だが・・・ここで怖気づいては、勇者エンノ様の従者と名乗ったことが恥となる。俺の恥じゃない、勇者様の恥だ。それは絶対に認められない。しかも、ここまで来た意味がない。一戦して、情報を得て、そして、もしも敗れるとしても・・・いや、勝てる気がする相手じゃないんだが・・・絶対に逃げ延びてやる。

「コルンさん!勇者様!」

 強く呼びかけ、俺の見ている景色を二人に届ける。この距離だ。俺の魔力じゃ何秒も続かない。でも隊章を通してヤツの力の一端なりとも知らせる。それが俺の役割だ。そして、取り巻きを一匹でも減らしてやる・・・北方に来てから、こんなんばかりだ。俺に女難の相?剣難でしょ、コルンさん。

 頭の中で「逃げて」とか「バカバカ」とか響き渡っているが、気にしちゃいられない。

 おそらく一回だけ可能な武具召喚で、簡易詠唱した俺は、今の時点の最強武具を召喚した。これを撃ったら、俺の魔力はカラ。どうせ、1対9でチャンスは一度。オッケーだ。

「くらえ!ワルサーカンプを!」

 ハンドガンサイズのグレネードランチャーから放たれた成形炸薬弾は、狙い過たず中央にいるオークに・・・命中する前に、まるで俺の射線を読み切ったような動きで立ちふさがったガーズたちに遮られ、その大楯に命中する。

 初見で、この攻撃を見切られた?バカな!?しかもあの連携!

 それでも成形炸薬弾は命中した大盾をぶち破る。燃え広がりながら1体のガーズ種が崩れ落ちた。その体が赤く光って消えたような気がする。何か、一瞬模様が浮かんだような・・・。

 しかし、他の連中はそれを見もせずに俺に向かってくる。ち。もう魔力はない。隊章での接続も限界・・・いや、これ以上接続していれば、セウルギンさんやユニコーンの『転移』で味方がここにきてしまうかも。俺は隊章の接続を切った。最後に「切らないで」って悲鳴が上がったけど、もう魔力ないって。この一連の動きを送れただけで、コルンさんと勇者様なら対処できるだろう。斥候としては、まずまずかな。

 中央の大物はそのまま悠然と俺と取り巻きの戦いを眺めるようだ。いや、悠然でもないか?

赤い目が一層強く妖しく輝いて、俺を凝視した。

「きさま!小者の癖に、よくも我が眷属を!」

 へん、いい気味だ。俺はブレイカーズを構え、1対7の戦闘に入った・・・無謀なのはわかっている。なにしろ、明るくて、乱戦で、野外戦・・・俺の苦手な戦闘条件ばっかりで、加えてこっちは魔力がほぼカラ。ちなみに逃走用の閃光弾はこの前使っちまった。補充する暇がなかった・・・今までは組織で補充できたからうっかりしてた・・・今回の俺ってホント、バカ。

 それでも除ける避ける逃げるは俺の得意技で・・・情けねえ・・・しばらくはブレイカーズで持ちこたえた・・・ま、しばらく、だがな。でも逃げるチャンスがなかなかない。

 なにしろ、このオークたちは、攻撃力も尋常じゃなかった。数度の攻防の後、俺の藤甲革を貫通して剣先が右足に突き刺さり、俺の動きを封じる。一度貫通したら、あっという間に俺の動きが鈍り、あとはもう、一気に畳みかけられる。不幸中の幸いは、図体がでかすぎて一度に俺を攻撃できるのは周りの3~4体っていう・・・たいして、幸いじゃないか?

 かろうじて倒れもせず、まだ抵抗をつづける俺だが、もう限界も近い。俺の動きが鈍ったのを見極めた一体が大振りで切りかかる。かろうじて右手のメイルブレイカーで受けたが、そのまま武器は飛ばされ、俺はバランスを崩す。そこに別の1体が、大きく伸びた俺の右腕を狙いロングソードを振り下ろす。思わず俺は右腕をかばい、左のソードブレイカーをかざした。

 ザクッ!防ぎきれず左腕が切り裂かれる。幸いまだくっついているようだが、握力は失われ、ソードブレイカーは落ちる。これで、武器もなし。

 ホント、バカだな、俺。頭じゃ、利き腕の左腕がまだ武器持ってるんだから武器を飛ばされた右腕くらいくれてやればいいってわかるんだけど、右の拳には、コルンさんが刻んでくれた勇者の紋章・・・虹の輪・・・がある。これをなくしたら、俺の生きてる意味なんてない。そう思っちまった。どうせこいつらに食われるにしても、右の手は、勇者エンノの隊章は、俺の体についていて欲しい・・・。でも・・・待てよ。

「イヤだ!食われたら、この隊章も喰われる。そんなの・・・イヤだ!」

 まだだ。まだ、殺されてやらない。食われたら、この右手も喰われたら、俺には何も残らない。それに・・・ホラ!隊章が光ってる。勇者様が俺に何かを伝えたがってる。もう俺には何も読み取れないけど、でも、まだつながってる。勇者様と、みんなと。

 そして、その輝きが俺に思い出させてくれた。まだだ。まだあきらめない。

 オークの剣が、俺の左腕をさらにえぐっても。

「約束したんだ。」

 オークの盾が、俺の右腕を封じても。

 「俺は、死なないって。」

 オークの足が、俺の右足を蹴り、倒そうとしたけど。

 「俺の忠誠は・・・。」

 オークの剣先が俺の左目を切り裂いても。それでも。

 「永遠だ!」

 まだ、俺は倒れない。俺は輝く右の拳を振り上げ、叫ぶ。

 「俺は、勇者エンノ様の、永遠の従者、パルシウスだ!」

 右腕はまだ動く。左足だって。俺は敵をにらみつける。一瞬だが、敵の動きが止まる。


 そこに、来てくれた!

 俺の馬は先ほどから機をうかがっていた。敵が完全に俺に注意を向け始めてから、静かに接近し、そして、今、全力で疾駆してオークたちに背後から突入する。4体のオークが一旦体勢を崩した。そして俺の目の前を通る馬に、俺は最後の力をふり絞ってしがみついた。

「へへ。ありがとう、な。」

 馬は誇らしげにいななき、そのまま全力で走り、一気に大道を南下する。一度だけジャベリンが何本か飛んできたが、当たらなかったみたいだ。速度は変わらない。

「へへ・・・ホント賢いな、お前。あとは、任せるよ・・・もしも無事城に着いたら、お礼にいいもん食わせてやる・・・ジェーン。そん時、お前をジェーンって呼ぶぜ。」

 その後、俺は意識を失った。

 

 目が覚めた時、俺は勇者様に頭を抱えられていた。膝の上でって膝枕!?・・・うわっ!恐れ多い。二度目だけど・・・。

 ポカッ。いつものような、やさしい拳骨。

「勇者様・・・俺、生きて帰りましたよ。でも、無断で先行してすみません。」

 俺の頬を両手で押さえる勇者様。そのほっぺたが膨れてる。ホントはもっと話したい。だけど。

「敵はまだですか?あと・・・俺の馬は!?」

 勇者様は何か言いたそうだが、うまく伝えられない。そうだよなぁ。

「パルシウス殿。クダンの敵にはまだ遭遇していません。コルン師の判断に従って我々はこのまま一度撤収します。」

「ああ・・・あとてめえの馬は、ギリギリ助かった。危うく死ぬとこだったぜ。」

 同行している戦姫様が補足してくれる。

 俺の馬は、俺を乗せたまま走り続けて、危うく死ぬところを勇者様たちに見つかったらしい。今は手当てされているが・・・こいつの下半身はジャベリンが当たっていたのか、血だらけだった・・・バカ野郎・・・。ケガした体で。誰にも命じられない馬がここまで走るなんて、まずありえないことだ。俺を助けようと、ムリして・・・俺は泣いて、左目からは涙か血か、わかんないものが流れ出た。

「っていうか、てめえも重傷なんだがな。この泣き虫が。」

「アナタの左目は、『再生』でも、少々時間がかかるそうです。しばらく寝てください。」

 セウルギンさんまで・・・うちの一行の半分が俺なんかのために・・・。俺はセウルギンさんに『眠りの霧』をかけられ、意識を失った。「すみません」って言いながら。


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