第12章 決戦
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これは、この時の俺たちが知りようもない話だ。
オーク族は、屯田兵の技術を手に入れ、急速に進化した。その一つがクラスの増加である。
それまではジェネラルというクラス・・・将軍・・・が統率する兵力を超える場合、ロード・・・王族・・・が率いるしかなかった。しかし、屯田が設営されたわずか2年後、屯田を管理、運営していたジェネラルがクラスアップ・・・進化した。進化したマーシャル・・・元帥・・・は、複数のジェネラルを従えることで、ロードに匹敵する大軍を指揮できるようになった。屯田が設営されると、有能なジェネラルがマーシャルに進化する。
それ以外にも、以前より高い頻度でチーフ種やガーズ種といった専門種が出現するようになった。種族としての急速な発展期に入ったのだろう。
このような、人型種族の大きな変化はここ数百年はなかった。神話の時代ならいざ知らず。
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第12章 決戦
数日たった。俺は、戦場斥候として城外で単独行動をしていた。俺はみんなにものすごくクドクドと注意され、それでも結局、最も適任と言うコルンさんの判断と勇者様の推薦を得て、出立した。大丈夫。もう死に急いだりしない。みんなに何度も約束した。
それでもアルは心配して、こっそりと俺に回復アイテム・・・青い魔宝石の飾りがついた首飾り・・・を渡しに来た。地下の蔵に会った宝物の中でもかなり貴重な部類のはずだ。返そうと思ったが、泣きそうな顔で見つめられて・・・ち、パーラにもあんな顔されたことはない・・・つい受け取っちまった。もっとも「必ず返すから」って言っておいたが。
そして数日たった。明日、敵の本隊が到着だろう。オーク軍は比較的軍制は亜人なのかではしっかりした方だ。軍旗が翻り、各隊ごとに整然と動き、配置を終える。味方は最初から籠城戦なので、ここまでは、敵に自由がある。それでも、東の山際に陣取った山岳民が気になるらしい。1000人弱の山岳民の部隊に対して、2000体程度の部隊が、備えている。ちなみに山岳民の部隊には、先に交渉を行った護姫様が参陣している。
西にざっと5000体、南に5000体・・・後続に更に西と南に1000体ずつ・・・。
おそらく西に向かった部隊は、北街区から侵入する部隊、その後続1000体は回り込んで西街区を偵察に行くのだろう。南に向かった5000体は東街区に侵入する部隊、その後続1000体は南門の封鎖部隊・・・。残る6000体が、戦況によって投入される予備兵力と本陣。あれが本陣の旗か。ここまでの大軍。おそらく率いるのはジェネラル(将軍種)以上のクラス・・・。マーシャル種(元帥)かロード(王族)の可能性が高い。コルンさんはおそらくマーシャルって思ってる。複数のジェネラルを統率する元帥種。統率力に優れ、カリスマ性が高いクラスだ。
このクラスがいると、ソルジャー(一般兵種)でもそれなり以上に士気と練度が上がる。つまり軍として手強くなる。軍の指揮官としては、マーシャルはロードとほぼそん色がないそうだ。で、さすがに外征にロードは出ない・・・かな?で、マーシャルって予測らしい。
俺は戦場付近を動き回り、コルンさんから預かった呪符アイテムの仏像には、彼女が毎日少しずつ込めた魔力がある。コルンさんはいつもバカでかい荷物を抱えたまま騎乗していたが、どうもこの仏像だったらしい。それを消費して隊章を使い、一日一回の定期報告で戦場の詳細な情報を伝えた。敵の布陣、指揮、練度。可能な限り調べて送る。
それに基づいて既に味方の軍勢も配置を終えている。俺達勇者の一行も、任務を振り分けられ、コルンさんの指示に従って各自別れて行動している。
一日目の大きな戦闘の主役は、西に向かったオーク5000体を素通りさせ、後続の1000体を叩く1000騎の草原の民だ。予定では北街区に侵入する5000体に対して騎射・・・騎乗射撃を徹底的に行い消耗させる予定だった。オーク軍は騎馬がないため、射程距離と移動力で勝る弓騎兵には抵抗力が弱い。それでも盾兵と弓兵の組み合わせで防御ができるし、そうすると草原の民も被害が出る。そこで予定を変更して、まず北街区は侵入させ、後続の歩兵1000体を軽騎兵1000騎で殲滅することにしたようだ。さすが、軍慣れしておる。草原の民には戦姫様が参戦しているはずだが、ほとんど出る幕はなかったようだ。確か指揮はテギリウス・ガアンさん・・・かなりの指揮能力と戦術眼だ。目つきが悪かった気はするけど。
油断していた西街区侵入軍1000体は、突如後背から出現した軽騎兵に、まず騎射によって散々射すくめられ、続いて隊形が乱れたところを騎馬突撃された。組織的な動きを全く封じられたまま西街区軍は撤退した。ちなみに草原の民はオーク軍の死体はちゃんと回収してくれた。死体もだが、その装備を回収できたのは大きい。なにしろ味方が装備不足だ。
城内に侵入した敵軍は順次後退して自陣から食料その他を移動し、東街区、北街区にそれぞれ新たな陣を築いた。しかし、さらに北街区に再侵入しようとした隊は、再び活動した草原の民に襲撃された。先ほどとは違い、様々な荷物を抱え戦闘力が低下した北街区軍は、これも騎射によって損害を被った。もっとも草原の民も本日二戦目なので突撃などは避け、今度は一定の戦果で収めた。
南街区、城館の首尾は、城の防衛設備を充分に生かした味方が優勢だ。被害数が全く違う。本格的な攻城兵器がないオーク軍では、兵糧攻めが最も有効な手段だが、今は犠牲を出しながらの突撃を繰り返している。城側は、城壁や矢狭間で応戦し、はしごをかけてくる敵兵は、城壁の外側に据え付けられた張り出し歩廊などで、真上から矢、石、油、お湯などが投じられる。それでも攻城槌が用意され、城門に接近したらしいが、意外に目立ちたがりの魔術師が「魔光砲」などと叫んで、粉砕したそうだ。あれを見れば、虎の子の攻城兵器を繰り出すのを控えるだろう。梯子くらいなら、油断しなければまあ、大丈夫のはず。城館の守備はガレデウスさん。さすがに手慣れている。堅実だ。
じつは、城内の住民は全て中央区の城館内に避難させている。だから、南街区の守備は最低限の数しか配備していない。それでも城門外の兵1000体は、ほぼ牽制用で攻城戦は格好だけなので余裕で対処していた。
そして、一日目の戦闘が終わり・・・。
「という感じですコルンさん。」
城外の敵軍の近くで見る戦況や敵情を伝え、コルンさんからも情報が伝えられる。
どうも、城館に避難した住民たちが不安がってるらしい。特に南街区の住民は、もともとの自分の住居がまだちゃんとあるのに避難したことで、最初から不満があった。ま、それはアルに出向いて説得してもらうしかない。兵の数が少ない俺たちは、城館も南街区も守るには難しい。今は敵を分散するために、南街区にも守備兵を出しているが、もしも不利になったらすぐに逃げてくるように指示している。運よく最後まで守れるかどうかは微妙なところだ。
さて、主戦場にいない俺は、二日目以降も嫌がらせと情報収集にいそしんだ。嫌がらせと言っても、残念ながらオーク軍の食料はキホン自己管理なので、まとめて焼き払うとかができないのだが、時々陣に忍び込んでは、見つけた食料をばらまいたり、陣に放火したりくらいはした・・・地味だ。
敵は、西街区に、北街区を占領した部隊が内部の城壁を伝って少数の移動があったくらいで、その後大きな動きもなかった。だから、二日目以降も、基本的な攻城戦が続いた。
味方にしても、草原の民も城内に籠った敵に手は出せず、かといって予備隊や本陣に手を出すには危険が大きく・・・と決め手を欠いた。まあこれは打ち合わせ通りなのだが。
城内の街区戦は、攻城兵器や魔術の援護が少ない亜人の軍に対して、充分に訓練された人族は圧倒的に有利である。最初から守備区画を小さく絞ったのが生きている。このままならば、食料でも充分余裕がある味方の優位が当分続く。とは言え、もともとの数が少なすぎる味方は、守備区画を城館中心に絞っても人手不足であることに限りはない。長期戦になれば、敵の食糧か味方の体力か、という消耗戦になることは必至だ。
そして・・・打ち合わせの決戦の日。五日目の夜がきた。前夜、戦姫様と護姫様から、それぞれ信号・・・隊章に3回チクって・・・がきた。どっちも成功だ。
そして、なんとか今日も城を守り切って・・・今、キーシルドさんとミュシファさんからも信号が来た。
俺は打ち合わせに従って、南の城門の外に布陣するオーク軍に近づく。暗い中、感心に歩哨がいる。まだ士気は下がっていないようだ。
さらに南下する。
そして・・・見えた。
北の平原の方にともった松明。
それが一気に大きく広がって、暗闇を追い払う。
それは、ついには万を超えたように見えた。
それに気づいたオークの南軍の陣が慌てだした。食事を中断したり、武器や鎧を準備したり大騒動だ。それを確認した俺も、信号を送った。強く三回、隊章に念を込める。
『パシリ!』『パルシウス殿!』
ミュシファさんとキーシルドさんは比較的距離が近かったようだ。隊章を使った念話ができる。
『キーシルドさん、協力者の手配と引率、お疲れさまでした。ミュシファさんも頑張ったね。偉いぞ・・・おかげで、オーク南軍は今混乱してます!』
『なんの。拙僧は皆に伝えただけ。勇者様やアル殿の心が皆に伝わっただけです。』
『うん!みんな、すごいやる気になってくれた!』
『・・・それでもですよ。気持ちを伝えた二人が、立派だから、みんな信じて動いてくれたんです。』
そう。これは偽兵。ただ、松明や灯りをもっただけの、平原の民人たち。五日目の夜に、多くの人に松明を持って、城の近くに帰てもらう。それだけだけど、危険が全くないわけじゃない。それなのに、キーシルドさんとミュシファさんの呼びかけで、平原の民人がこんなに集まってくれた。この北方を、みんなが暮らす場所を守るために、こんなにたくさんの人が集まってくれた。
『あ?それね。・・・背中に横長の木をしょって、それに何本も松明つけてるから・・・そんな多くの人が来たってわけじゃないの。』
『まぁ・・・それでも三千人くらいは集まってくれたでしょうか?』
『それでも、ですよ!お二人の人徳です。』
『そう!キーシルド師。ありがとう。ミュシファ、すごいね。そして、そこにいる人たちに伝えて・・・必ず勝つって!』
勇者様だ!俺は遠くにユニコーンに乗った勇者様と、衛兵隊を見つけた。
『私の従者!出番よ!』
『はい!お伴します!!』
俺は高速疾走に入った。ユニコーンを見つけ・・・ってか、目立ちすぎ・・・その隣に並びそこで速度を落とす。なにしろ衛兵隊と一緒だ。ユニコーンの速度じゃ一騎駆けになってしまう。ま、それでもあの慌てた1000体なら蹴散らせるけど、あくまで主役は北方の民と兵だ。
『あまり目立っちゃだめ。あなたは女の子の前でいい顔し過ぎ。』
これは俺に、じゃない。ユニコーンに勇者様が言い聞かせているのだ。女の子?衛兵隊には女の子なんて・・・いたな。少ないけど・・・、そう言えば。よく見つけたな、こいつ。油断できねえというべきか、たいしたもんだというべきか?
「キミ・・・キミにボクは見えていないんだね?」
勇者様に並走していた騎馬・・・げ・・・アル?総大将が来るか・・・来るよな、こいつ。前哨戦でも出張ってきたし。マジ見えてなかった。いっちょ前にプレートアーマーを着て馬に乗るアルだけど、旗本っぽいのがいないし。
「馬も、馬に乗れる兵も少ないんだよ、ウチは。」
ホントだ。よくみりゃ・・・俺が乗ってた馬だし。やれやれ。その間も、勇者様は
『妹にいいとこ見せようって、ホント油断できない。』
って、ユニコーンに話してた。ユニコーンは反論できずにいる。こいつもいい気味だ。
『人族の従者、何か言いたそうですね。』
『べっつにぃ』
だいたい、ここ数日、俺が一人寂しく戦場斥候・・・兼嫌がらせ・・・なんてやってたのに、こいつは城内でのうのうとしていたんだし。いい身分じゃねえか。
『あなたも、私の従者!あなたは北方に来てから、私の世話、手抜きしてた。』
してません!絶対してないから!
『だって・・・何日もいなくなって、すぐ私を放置して。』
・・・。
『すみません。勇者様。』
『あら。いさぎいいのね。』
任務ってのは、言い訳にならない。俺の最大の任務は勇者様のお世話なんだから。
『なら、許しちゃう。』
『それは、人族の従者に甘すぎなのでは?』
『あなたと違って、パルシウスは忙し過ぎ。それくらいは、ね。』
ありがとうございます。以後、離れません!・・・なるべく?いや、コルンさんに頼まれるとさすがになぁ・・・。
『パルシウス!』
はい、ごめんなさい!
「キミ・・・エン姉様、近侍として、こいつをボクに貸してよ。お願い!」
なに言いやがる、コイツ。でも無理無理。たった今離れないって約束したばかりだし。
『・・・アルなら仕方ないな。私の従者。アルを守って。』
・・・そりゃないっすよ、勇者様。
「キミ・・・なんか不服そう。」
べっつにぃ。ふん。
勇者様は、アルに率いられた衛兵隊を先導し、そのまま慌てふためいているオーク南軍に突入した。敵はおよそ1000体に対し、味方衛兵隊主力は約2000人。実は城内兵力のほぼ全軍である。混乱している敵に2倍で突撃。一当てで敵を潰走させる。
そして、そのまま敵を、敵本隊に向かって追いやっていく。俺達が、敵の東側を塞ぎ、南からは平原の人たちが掲げる松明もそのまま進み、本陣に向かうように見せかける。西には、ザラウツェス城がある。敗走できるのは北の敵本陣方向のみ。逃げる側の心理からしても味方の大軍のいる明かりの方向に進むのが自然だ。それでも敵のチーフ種の中に味方を立て直そうという動きが時々見える。俺が伝えると、勇者様がユニコーンを駆って蹴散らしてくる。順調だ。
そして・・・。
きたっ!護姫様から、今日の信号。そして、北からの味方!
夜の戦い。大軍では禁じ手である。通信機もない、まともな地図もないこの世界で、1000を超える味方を一斉に動かすのは自殺行為、これが常識。もしもやったらどうなるか?
味方が迷子になる。または、同士討ちが起きる。
それでも少数側の軍が夜襲を決行するのは、数が少ない軍の方が、大軍よりも上記のリスクが少なく、かつ、襲撃する側には敵陣と言う目印があるから。
しかし、今回、敵陣は何重もの警戒網を作っていて、おそらく兵員の三割以上は夜の警固専門に割り当てられていた。相当、夜襲を警戒していた。
だが、今夜、その警戒網に引っかかるのは、敗走した味方の軍勢。しかも南と北から。
前日の夜。
戦姫様が参陣している草原の民は、実は数日前から主戦場をはなれ、山岳民と示し合わせて、敵の北軍2000体に襲い掛かっていた。後方から軽騎兵1000騎、前方から、山岳民部隊1000人。同数とは言え、前後から奇襲され、オーク北軍は潰走。そのまま本陣に合流すべく南下した。
一方、俺たちは、勇者様一行が主要部隊に配置されており、隊章を使って遠くでは信号で、近づいたら念話で連絡し、各部隊ごとの連携は完璧であった。そして、同士討ちを防ぐため、兵たちはどの部隊も夜でも見分けやすい白い布を巻いている。
さらに、
「勇者様、今東街区のオーク軍にも動きが見られました。異変に気付いたようです。城外に出て参戦するにはまだ間がありますけど。」
大きな変化は、本陣のコルンさんかセウルギンさんが連絡をくれる。
今回は、勇者の一行は隊章を使った通信兵的な役割だ。でも、この世界の戦いでは、これは大きなアドバンテージだ。加えて、戦場全体を見渡すコルンさんの的確な指示・・・。
敵の北軍と南軍は敗走して、本陣の警戒網にあたり、俺たちはそれを追って本陣に突入する。
オーク軍は大軍だ。本陣の兵だけでも6000体ほどのはずだ。しかしそれが仲間の数千の兵が混乱したまま流れ込んだため、混乱が拡大し、指揮系統が寸断される。そこに俺たちが夜襲をかける。
勇者の一行は、南から勇者様、北から護姫様と戦姫様だ。できるだけチーフ種やジェネラル種を狙って刈っていく。
まあ、俺はアルの近侍っていうか、護衛だからやってないし、そういう仕事は苦手だけど。
「しかし・・・キミ。馬と一緒に走れるって、やはり君もヒジョウシキだね。」
ウルせえよ。それくらいしか取り柄はないんだよ。
「・・・ガレデウスさんは?」
「ガレデウスは、騎士団の総指揮だ。ま、もう騎士って言っても衛兵っていう歩兵だけどね。」
「あの人も、馬には乗れないのか?」
「彼は30年前の戦争で大けがしてね。それ以来、馬上が怖いらしい。」
・・・人の過去は笑っちゃいけない。俺の過去だって、そんなことばかりだ。・・・あれ?
「・・・んじゃ、お前、何しに来たんだ。指揮してないんだろ。・・・また人気取りか?」
「そうさ。すこしでも武名を上げて、盟主の座を確固としたものにしないとね。本陣はコルン師がいれば十分だし、ボクは前線で、姉さま方のおこぼれを頂戴するだけさ。」
・・・ちゃっかりしてやがる。こいつ、末っ子キャラの活かし方を知ってるな。さっきの俺の借り方も狙ってたし。腹黒め。
ま、仕方ない。南軍のオークジェネラル、マーキングしといたし、やっちまうか。南軍の誘導ももう終わったし。でも、一人じゃなぁ。俺、乱戦弱いし、野外苦手。夜戦向きだけど。
「お前、護衛は全然いないのか?」
「いや、そう言えば101分隊がそのままいるはずだけど・・・」
「馬に乗って、いい気なって、置いてったな。」
「・・・ゴメン。」
だからお嬢様だってえの、全く。・・・馬はこうなると目立っちゃうな。ふむ・・・。
俺は馬に、遅れてついてくるよう言い聞かせ・・・
「キ・・・キミ?馬と話しできるのかい?」
「ん・・・まあ。だってこいつ、賢いし。俺、猟師の子どもだし。」
驚き過ぎだろ、こんなので。簡単なことしか伝わらないけど。
「キミ・・・その理屈でいけば、世の中の猟師はみんな驚異なんだが。」
そうかな。ふつうじゃね?
「・・・なるほど。キミの基準は本当におかしいようだ。」
・・・なんか、コイツにまで呆れられた。何なんだろ。
で、俺はアルをおんぶして走りだした。さすがにアルも嫌なのか、随分顔を真っ赤にしていたが・・・夜目が効くんで丸見え・・・それでも素直におぶさった。
「大丈夫。重くなんてないから。重いのはアーマーだから。」
「・・・重いんじゃないか。」
で、超高速疾走に入る。気配は消す。足音も消す。こいつのアーマーの音も消える。
「キミ!早すぎ!」
阿呆!大声だすな。何のために気配消してるんだよ。
「だって・・・すごいから。」
アルの腕が俺の首に強く巻き付く。怖いのか。
「ち・・・小声で話せ。俺は耳がいい。この喧噪でも聞こえる。」
「うん。知ってるよ、ボクのアサシン。」
それは止めろ。俺にとって褒め言葉じゃない。俺は馬なみの速さで、かつ、ほぼ無音で疾走する。遅れて俺の馬が追走してくる。マーキングしたオークジェネラルにかなり近づいたが、ヤツも、周りのオークガーズたちも俺たちにまだ気付かない。
アルに文句言ったワリに、なんかアサシン流で悪いが、俺はそのまま勢いをつけ、ガーズの間を潜り抜け、接近する。星明りだけで、敗走中のためか明かりもつけないオーク種は、もともと視力が弱いこともあって、かなり警戒していても音を立てなければ不意を打てそうだ。
「おい、そろそろだ。」
ガーズが、俺たちの後ろの馬に気づいて慌てて備えた時には、俺たちはその壁の内側に入り込んでいて、ジェネラルは単体だった。タイミング、ばっちり。
「いくぞ。」
「うん。」
俺は右手のメイルブレイカーを出した。左手でアルのお尻を押し上げた時は、びくっとされが、意図がわかってるのか、何も言われなかった。そして俺自身の姿勢を前のめりにする。俺に押し上げられたアルは、俺の背中から少し上に乗り出しようになった。
そして疾走する俺は、逆手でジェネラルの胸甲にメイルブレイカーを突き立てる。アルが遅れて、勇者様からもらった小剣でジェネラルの首を跳ね飛ばす。ジェネラルの悲鳴が響き、途切れる。やった。
「北の盟主、アルテア・オン・ザラウツェス、オーク軍南軍の将を討ち取ったぁ!」
期せずして、俺とアルは全く同じセリフを叫んでいた。へへ。こいつもわかってきたな。
後ろでガーズたちが騒ぎ、慌てて、その間隙を潜り抜け俺たちの馬がやってくる。
「アル!」
「わかった!」
アルは俺の背中から並走する馬に飛び乗る・・・っとあぶねえ、思わず手を貸す。
「キミ・・・さっきもお尻触ったろう。スケベ!責任取って!」
「そりゃどんな責任だよ、盟主様!そのまま馬から落ちたかったのかよ!」
「二回もお尻触ったんだから、責任くらいとってよ!」
「だから、責任って何だよ?」
俺とアルがこんなバカな言い合いをしているうちに、あちこちから仲間の連絡がきた。
『パシリくん、ちゃんとアル様に手柄取らせたのね。さすが、できる子ね。』
『戦姫ソディアだ!北軍の将を討ち取ったぜ!』
『我はシルディアだ。北軍は壊滅。山岳騎兵はこのまま敵本陣を攻撃する。』
『エンノ。今東街区から出て来たオーク軍の先鋒を叩いたところ。ジェエラル?何それ?』
『先ほどわが主であらせられる人族の勇者様が討ち取られた、とても大きなモール(木槌)を持っていたオークのことだと愚考いたします。』
『いたかな。そんなの?』
・・・さすが、勇者様。でもユニコーンもナイスフォローっていうべきか?
で、味方も一斉に本陣の総大将を討ち取ろうと、攻めかかった。
敗走してなだれ込んだ味方に加え、北西から草原の民の軽騎兵、北東から山岳騎兵、南から衛兵隊の総攻撃。本陣は頑強に抵抗したが、ついに俺たちは突入する。
そこにガーズが前に立ちふさがる。あの大楯は厄介だ。アルも馬上で小剣じゃ、間合い短すぎ。が、反対側から、喧噪が伝わる。なんかすげえ獰猛な吠え声・・・戦姫様みたい。おっと、怒られるって・・・。
『シルディアだ、今、山岳騎兵も本陣に突入した。気をつけろ。うかつに近寄れば味方も危ないぞ。』
そりゃ、どんな友軍だ、護姫様・・・。あれかな?変わった騎影だな・・・?見えた!え?
そこで、アルが乗った馬が暴れだして、俺は鎮めるのに大わらわだ。それほど馬術が得意でないアルは放り出されそうになって、俺は馬から引きずり下ろし、抱きかかえる形になった。左手でアルを抱え、右手で馬の手綱をとって落ち着かせる・・・どうどうどう・・・。
馬が落ち着いたので、頬を撫でてやる。
「よ~し、いい子だ。」
「・・・。」
なんだかアルが不満なのか、無口だ。そう言えばまだ抱きかかえたままか・・・これってお姫様だっこってやつか。アルの両腕は俺の首にまわっている。プレートアーマーで抱きつかれてもなぁ・・・いや、別に何ともないけど。アルだし。でも、総大将がこれじゃ、不味くね?
「そろそろ降りろよ。」
「キミは、ボクより馬がいいのか?」
そりゃ、どういう意味だ、アル?
いや、それよりも・・・そのガオォ~って味方騎兵・・・。
「護姫様・・・それ、なんですか!?」
「うむ。山岳騎兵の騎虎だ。」
マジでっけえ虎・・・4m近くありそう・・・って、山岳騎兵って虎に乗んの!?
「うむ。山野を自由に駆け抜ける、見事な騎兵だ・・・異国では空を翔ける騎竜兵もおるわけだし、山には騎虎兵があってもよいだろう。」
ま、竜よりは、分かり易いか。ちゃんと鞍もあるし。よく見りゃ、護姫様になついてる。山岳民でも騎兵・・・騎虎兵は50騎ほどしかいないそうだ。あとは普通の馬を山地で慣らして・・・それが100騎。てか、護姫様、すごい。さすが、武芸百般。これは、オークもびびるかも。味方もだけど。
ちなみにこの会話の合間も、護姫様とその騎虎は縦横無尽に敵本陣を暴れまわり、ついに敵の大将格に肉薄した。やば、こっちは茫然としたままだ。
「おい、さすがにもう降りろ!」
って手を離す。どさっ。
「薄情者!」
「何が薄情だ、こんなところ見られたら、お前に悪いうわさが立つぞ。」
立ち上がりながら、ブスッと俺をにらむアル。なに怒ってるのか、わかんねえ。
「ホラ、俺の馬も呆れてる。とっとと乗った乗った。」
「馬が呆れるもんか。それはどんな賢い馬だ?」
そう言いながらも、アルは俺の手を借りて馬に乗る。
ちなみに、俺の馬はホントに呆れてた。こいつホントに賢いんだぜ。って、やってるうちに、
『シルディアだ!本陣でジェネラルを討ち取った。』
あらら、取られちゃったま、いっか。
『・・・総大将であろうか?もっと上級種かと思っていたのだが・・・。』
・・・マーシャルかあるいはロード。そういう予想だった。俺も不審に思って捜索した。が、それ以上の大物が見つからなかった。
『すみません。俺がそこまで突き止められなくて。』
そこ、ちゃんと調べられりゃな・・・戦場斥候の俺の不手際だ。だけど、前みたいな無茶するなって言われて、どうもやりにくくて・・・。本陣が妙に警戒厳しかったし。
『ま、仕方ない。釘を刺した我本人が文句も言えぬ。』
こんな感じで、なんとなく、敵将は討ち取ったことで終った。もちろん、念のため捜索は続けるし、まだ北街区の5000体は残ってる。何しろ城内に陣を構えているから、ちと手ごわい。そのまま帰ってくれないかな。




