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勇者の従者は泣き虫アサシン  作者: SHO-DA
13/18

第11章 前哨戦2

          -------------------- 

 ここ、北方領のザラウツェス城近辺は、本来温暖な気候で、低地が広がっている。大河こそないものの、降水量もまず充分。本来ならば、恵まれた農業地帯である。いや、30年ほど前までは確かにそうだったのだ。しかし幾多の争いが、ここをただの荒野に変えていた。

 今は戦場に最適な、ただの平地。森林が茂ることはなく、草むらが随所にあるだけだ。危険な野獣や魔獣は、ここよりも南の、ホルゴスから伸びる大道中心にいて、ここに来る途中の難民、移民、流民を襲っている。

 ・・・だから、ここまで来れる一般人は多くない。来ても途中で数は激減するか全滅だ。

          --------------------

第11章 前哨戦2


 そんなこんなで、難民に偽装した俺たちは遠回りして西街区から城外に出る。出発前はちょっとした仮装行列だった。コスプレ?それは知らない前世ワードだ。しかも違うって。

勇者様や戦姫様は見るからに髪で目立つので、カツラをかぶってもらった。勇者様はもともと髪が長いのにカツラかぶるとすごいボリュームで変に見える。結局はフードもかぶってもらう。なんかぶうぶう言いたそうだけど。

 護姫様は堂々とし過ぎ。長身の赤毛美人さんでちゃんと通るけど、しかし難民の汚れた服であれだけ風格があるのは何なんだろう。あまり目につかないほうがいいんじゃないか?囮の意味ねえけど。

で、一番それらしいのはミュシファさんと俺の従士&従者コンビ。二人とも庶民だから、もう似合いすぎ。そんな格好のミュシファさんもかわいいな。で、

「パシ公!なんだよ、この格好は!」

「そうだぞ、キミ!これはなんだ!」

 ぷ、ぷぷぷっ・・・。いや、似合ってるぜ。意外に。戦姫様の女装とアルの男装は。

戦姫様は性別的には女だから「女装」はねえだろうって思うけど、日ごろがあれだから、初めてかな、女の服を着てるのを見たのは。いや、髪も俺が整えてやったし、マジ黙ってりゃ美少女だね。あの歩き方でスカートは、違和感あるけど。

 アルは、何となく初対面が男っぽい印象が強かったんで、ついやっちまった。この辺は、囮コーデ主任の俺の裁量だ・・・コーデって何?

 ひとしきりみんなで笑ったところで・・・「何笑ってやがる」とか「ひどいよキミ」とか「ホント?かわいい?」とか「(ぶうぶう)」とか「従者パルシウス、お前は確かに難民にしか見えんな」(グサッ)とか・・・ようやく出発した。偽装難民の指揮官は、かつての101分隊の隊長で、信頼できる。

 で、うまく迂回して、先遣隊の進軍ルートに入った。で、できるだけ自然にノロノロする。なにしろ俺たちは飲まず食わずの難民様である。

「ん!」

 え?勇者様・・・仕方ありませんね。隠れて食べてくださいよ。

「こら、パルシウス、エンを甘やかし過ぎだ。」

「そうだぜ。おやつにクッキーほおばる難民がどこにいるんだよ。全く。」

「・・・その・・・パシリ、難民なめすぎ。」

「やはりキミはエン姉様には態度が変わりすぎだ!」

 って一斉にブーイングの嵐。いいじゃん、どうせオークなんか視力悪いんだし。

「だったらこんな仮装させるな!」

 ・・・そりゃ正論だ。ちょっと甘すぎか。

「すみません勇者様。しばらく我慢してください。今度餡入りドーナツってお菓子作りますから。」

「(ぶうぶう)」

「いや、ホントすみません。」

 なんか謝ってばかりだよなあ。出る前にユニコーンにまたグチグチ言われたし。

『またもわたくしの出番がないとは・・・このまま人族如きに見せ場を全て奪われるのでしょうか・・・。』

 なんて言ってたけど、さすがにユニコーンに乗った避難民は、おやつを食べる避難民の比じゃないくらい怪しいだろう。我慢してくれ!


 で、予想会敵時間ちょうどに、予想外に事が発生した。俺は、目がいい。ミュシファさんも。北の大道を南下する先遣隊を探していたら、二人でほぼ同時に見つけ、笑っちゃったね。

「ハハハ・・・あの・・・パシリ、あれ、どうしよ?」

「ヘヘヘ・・・マジに、どうしよ?ミュシファ先輩?」

 ボグワッ。いてえよ非力なはずの盟主様。

「キ、ミ、は、そんな女と何見つめ合って笑ってるんだ!不謹慎だ!」

 だってさあ・・・。痛がる俺の代わりにミュシファさんがみんなに叫ぶ。

「予定外です・・・本物の難民の人たちが、俺たちとオークの隊の中間にいます!」

 100人近い。かなり慌ててるっぽくて、列も何もなく追われている。女子どもに年寄りまでいる。こっちより本物っぽいっていうか、本物の難民か、流民か・・・。

 オーク軍は先遣隊というだけあって、比較的質がいいい。隊列を乱さず、規律を守ったまま行軍速度を速めている。そうなんだよなぁ、こいつら意外に練度が高くて、後二日は足止めしたかったのに無理だったんだ。しかもけっこう対応早くて。いい指揮官なんだろう・・・暗殺しとけば楽なんだけどな。いや、怒られるって。禁止されたから。

「あのままじゃ、ここに来る前に、後ろの群れは捕まっちまうぜ。」

 戦姫様は今にも飛び出しそうってかもう飛び出した。待った!俺はさすがにタックルして足を止める。

「こら、パシ公、離しやがれ!」

娘姿の戦姫様と地べたでもつれ合う。

「いけません。今うかつにあなたが飛び出したら、作戦が台無しです!」

「うるせえ!あいつらを見殺しにしろってのか、こら!」

「違います!でも・・・護姫様!戦姫様をお願いします!」

 護姫様が動いたのを確認した俺は、立ち上がり、そのまま走りだした。

「敵の足止めは、俺がやります!みんなは、自然に難民と合流して、誘導してください!」

 後ろで一斉に俺を非難する声がする。俺の声なんて聞いてくれたかどうかはわからない。だいたい指揮権の無視どころじゃない。アル、護姫様、隊長・・・何より俺の勇者様すら差し置いての作戦指示だ。間違いだらけだ。でも、なにより今、あそこまで走って間に合うのは俺だけ。精霊の加護のない勇者様も間に合わない。だから、全部押し付けて、俺は超高速疾走に入った。多分俺の能力で一番使い出があるのがこれだろう。戦力としては全然だが。

 短距離なら馬より早い俺の足は、それこそ疾風の速さで難民たちの先頭にたどり着く。血相変えて逃げる男どもを見回して怒鳴りつける。なんか、とても腹が立ったんだ。

「バカヤロウ!女子どもを置いて逃げるのか!年寄りを見殺しにするのか!」

 逃げ遅れている人たちとかなり間が空いている。ち。俺は何人か殴り倒して先頭の勢いを止めた。

「だれだか知らないが、きれいごというな!」

「死んだら終わりなんだよ!逃げて何が悪い!」

 非難轟轟・・・。ま、軍隊でも逃げたヤツを立て直すのは大変だ。難民じゃ当たり前。それでも俺をにらむヤツらの中から、比較的落ち着いたヤツに声をかける。30過ぎくらいで、いいガタイしてる。

「敵は俺が足止めする。だから、女や子ども、年寄りをちゃんと連れて逃げろ。」

 俺に言われて、困惑したそいつや、まだ迷っている男たちに、つい言っちまった。

「俺は自分の妹と弟を見殺した・・・自分が死ぬよりつらいぞ。お前らもそうなりたいか!」

 そう。生きることは俺にとってつらいことばかりだ。パーラを、フォグルシスを見殺しにして、たくさんの人を殺して、仲間を裏切って、アイネイアを殺して・・・ち。

 後は知らねえ。こいつらが後悔してでも生きたいなら、或いは後悔もしないようなクズなら俺の言うことは無駄だ。あとは、俺ができるだけのことをするだけだ。

 言い捨てた俺は、最後尾の群れ・・・子連れの女や年寄りが多い・・・にたどり着いた。

「みんな、落ち着いて。向こうに・・・進む向こうには勇者様がいる。北方領の領主様も難民や流民の受け入れをしている。だからすぐに助けが来る。」

 勇者様って聞いて、何人かの表情が明るくなった気がする。俺の近くにいた、6歳くらいの男の子と4歳くらいの女の子を連れた母親が

「助け?勇者様が来てくれるのかい!」

 て言って、子どもたちの手を強く引いて歩きだした。それにつられて、みんなの歩みが力強くなった気がする。俺は笑顔を浮かべながら「そうさ、みんな頑張って歩け!」とか、「ばあさん、まだ元気じゃないか」とかって励ます。

 でもゴメン。助けは、すぐには来ない。本当は隊のみんなで助けに来るべきだったか?そんな後悔が生まれる。でも、やはり間に合わなかったはずだ。だから、このまま自然に合流するのが最善だ。そして・・・。

 俺は最後衛のみんなが整然と急き出したのを確認して更に後ろへ、オーク軍へ向かった。先頭から100mちょいまで近づく。量産品の木弓を取り出し、矢をつがえた。矢は精選してある。西寄りの風。無駄にいい天気だ。もう正午近い・・・。

「ここで踏ん張るのは俺ってのが、最適だ。」

 ひょう。先頭部隊の隊長らしいチーフ種を射抜く。行軍の最前列が乱れだす。いいぞ。

しかし偽装した服装だから矢筒は小さいヤツだ。いつもの半分の10本しか入らない。

「親父ならなあ・・・。」

 矢がなくても気力を込めて矢にできる。今さらながら、親父は化け物だった。

ひょう。ひょう。

 めぼしいヤツらを射抜く。できるだけ隊長格・・・チーフ種。でも射程距離に入ってるのはあと4人くらい?距離が近づく。俺は自分の位置を右側・・・方位で言えば東・・・にずらしていく。

 ひょう。ひょう。ひょう。

 距離は50mほど。もう、すぐそこだ。弓を片手に、さらに位置をずらす。敵の進路は、ち。まだ変わんねえか?先頭はかなり行軍速度を落とし、結果後ろに兵が横に広がり始め、軍としては良くない状況なんだが、俺を目の敵にして弓兵を出したり、別動隊を出したりとか、そういう無駄なことはしてくれない。個々の部隊で見れば、死んだ仲間を後で食料にするために運んだりとかはあるんだけど。ち。当然か。2000体の指揮官の対応することじゃない。せめて先頭の100人隊くらいはもっと混乱させたいが。

 思わず自分の左手を見る。鋼の精霊ワルドガルドの力を借りたくなる。しかし・・・勇者様のお顔が浮かんだ。ここで、俺がまた鋼の精霊の力を示しては、勇者様がさらに六大精霊から遠ざかることにならないだろうか・・・。

 結局やり過ぎたら囮にならないかって自分でも負け惜しみなことを考えた。で、ありったけの矢で狙撃を再開した。

 行軍速度は一時的にだが、落ちた。もう一息ってとこだが、矢も尽きる。総指揮官の狙撃はさすがにムリだった。ジェネラルクラスを矢の一本でやれるかは微妙だし、そこまで近づくのがこの状況じゃ、まず不可能なんだが。

 後ろを見る。みんな、難民と合流できそうだろうか?さっきの親子連れが目に浮かぶ・・・ちゃんと逃がしてやんなきゃな。作戦もうまくやって、みんなも助けて、勇者様やコルンさんや・・・アルのためになれるだろうか。みんなの、勇者様のお役にたてるなら、俺の命なんか。それに・・・死は俺にとって近しい。無自覚に散々振りまいて。今となっては救いですらある。

 考えれば他にやりようもあったかもしれないが、俺は「その時はその時」ってあっさり覚悟した。矢と空になった矢筒を捨て、両手にダガーを持つ。ソードブレイカーとメイルブレイカーは持って来てないし、白兵戦で押しとどめようなんて考えていない。あくまで、足止め。時間稼ぎ。ちょいとやりあったら逃走。これを何回かくりかえせば、何とかなるかなっていうだけだ。数日前にも足止めした連中だし、手ごわいのはわかっているが、まあ、なんとなったし。

 ところが・・・やつらは俺が先日散々嫌がらせをしたことを覚えていたらしく、対策を立てていやがった。俺が近づくのを見極めると、長槍を構えた一隊が立ちふさがる。弓での嫌がらせは、耐えきって、接近してから対処する。ち。読まれてたか。

 10人ほどの長槍隊が・・・スピアにラウンドシールド、革ヨロイの装備・・・いや、槍じゃない。バトルフックだ。フック、つまり先端が槍じゃなく、敵のヨロイや服などをひっかけたり倒したりする鉤爪状になった長柄兵器だ。ハルバードと違い殺傷力は低いが、練度の低い兵に持たせるには最適で、しかもリーチが短く紙装甲の俺の動きを止めるには十分な武器だ・・・やられた。甘く見ていたつもりはなかったが、やはり何度か成功していてうぬぼれていた。

 一斉に繰り出されたバトルフックに、慌てて俺は飛びのこうとした。槍と思い込んでいたせいもあって、完全に反応が遅れる。右足に、左手にフックが引っかかり、転倒させられる。しかも、よけたつもりの何本かは、フックをひく時に俺の背中や腕の裏に突き刺さった。こんなに裏をかかれたことは、多分初めてだ。足に絡まったフックはダガーで押しのけたいが、その腕に一本絡まっている。俺はフックを外すために転がる。そのせいで、フックの先端が体のあちこちに刺さる。重傷には至らないが、けっこう出血はした。しかも、またフックで吹き寄せられる。外れない。いや、三本目、四本目とさらにフックが伸びてますます俺の動きは封じられる。

 この態勢じゃ、得意の遁走術もどこまで役に立つか・・・主導権をとられっぱなしで、後手後手に回る。引き寄せられた挙句、奴らの何体かが小剣を抜き俺にとどめを刺しに来た。さすがに全力で防ごうと両手のダガーを上げ・・・そこをさらにフックで引かれる。ザクッ!左手に激痛が走る。受けようとしたダガーが腕ごとフックに引かれ、受けるポイントがずれて、俺の左手、詳しく言えば・・・言いたくもないが中指と薬指・・・に刺さった。ポロリ。俺の二本の指が落ちた。血が噴き出る。さらに、それた剣先が俺の頬をえぐった。

 ぐわぁっ。一瞬漏れ出た叫びをすぐに噛み殺す。でも「これで終わりかな」って思った。ま、時間は稼いだし、「まあまあだ」・・・ちと痛いけど。だけど、なぜか俺の右手が勝手に動いた。無意識に動く、いつもの段取り通りに。右手は閃光弾、白煙幕と、立て続けに作動させる。周りのオーク兵がセキやクシャミで動きを止める。使うんなら最初から使えばよかった。使わなかったのは、単に敵を甘く見たわけじゃない。俺が、自分のリスクを顧みなかったからだろう。なぜか・・・わかってるけどね。ま、ここまで来たら、大盤振る舞いだ。俺は本隊の先頭にも閃光弾と白煙幕を投擲し、混乱させる。

 俺は痛みをこらえ、難民の群れを見る。また距離は稼いだ。勇者様やアルたちがいる衛兵隊が、難民の先頭と接触しているようだ。もう・・・充分だ。俺は走りだした。全身、特になくした指が痛む。出血が止まらない。走りながら、布で指の根元を強く巻いて止血する。普段よりはるかに遅い速度で走り続ける。まあ、でも難民は助けたし、作戦は変更しないでよさそうだ。俺の指二本で済んだのなら、上出来だ・・・失った指がさすがに気にならないと言えばウソだけど。キーシルドさん、『再生』って使えたかなぁ?

 今まで油断してる人々を一方的に暗殺した俺である。戦場で対等に戦って手足が・・・指だけど・・・失うくらいですんだのだ。気にしちゃいけない。俺はそう自分に言い聞かせながらみんなの所にたどり着いた。疲れたせいか、安心したせいか、めまいがする。

 さっき最後尾にいた、母親と男の子、女の子の三人連れも無事だった。が、近づくと俺の無様な姿を見せて怖がらせるかも。そう思って、もう少し離れてついて行くことにした。

「パシリ!どうしたの?」

 どうしたもないだろう、ミュシファさん・・・そう言いたかったが次々と知り合いがやってきた。あまり騒がないでほしいんだけど。別に支えなくても大丈夫だって。ホラ、服に血が着いちゃうよ。護姫様を見つけ、俺は報告する。膝まずくと逆に倒れそうだ。結局ミュシファさんに支えてもらったままだ。普段ならいいにおいがするミュシファさんも、今は血の臭いって、それは俺の血だろ。

「とりあえず、作戦は、変更なしで。このまま、ザラウツェス城、に、行けば、後は・・・段取りの通りに、うまく、いきます、よ。」

 口がうまく動かない。口の中も血の味がする。

「ひ・・・キミ・・・。」

 ち。アルか。まあ四の五の言わないのは上出来だが・・・絶句してるだけか?

「てめえは!俺を引き留めておいて、なにしてやがんだ!」

 ライオンの女王様は自分の獲物を横取りされたと勘違いしているのかお怒りだ。

「ソディ・・・お前はこの大バカ者をかついで先に城に行け。」

 護姫様・・・大バカ者はひどくないすか?

「おめえは大バカ者でも足んねよ!シル姉了解だ・・・ってエン姉?」

 勇者様?あれ、どこですか?俺は勇者様の姿を探した。勇者様・・・いた。さすがだ。難民の人たちの前で、カツラをとって、みんなを勇気づけていらっしゃった。日の光を受けて輝く虹色の髪。優しい微笑み。きれいだなぁ。

「キ、ミ、は!何を見て笑ってるんだ!自分の心配をしろ!・・・エン姉様もエン姉様だ!キミをほっといて何をしてるんだ!」

 何を怒ってる?バカだな。

「アル。あれが、正解だ。俺なんか、どうでもいい。でも、今は難民の、みんなを勇気づけること、が、大切なんだ。・・・お前も、行くべきだ。北の盟主、だろう。」

 作戦のためにも、この後、民を治めるためにも。俺がちょっと寂しいくらい、どうでもいい。

「お前は、わかるはずだ。そして、できるはずだ。だから、勇者様と一緒に、ホラ。」

 それでも動かないアルに護姫様も言ってくれた。

「アル。この大バカ者の言うことを聞いてやれ・・・ソディ、早く連れていけ。」


 俺は振り返って、遠くでアルが動いたのを見た。少し遅いって。心配させやがって。

「・・・すみません。戦姫様。俺なんかほっといても大丈夫なのに。」

「黙ってろ。大バカ野郎。」

 なんか、まだ怒ってる。

「そんなに怒んなくても。これが作戦の変更なしで続行する一番いい手だと思いますよ?」

「うるせえから、黙ってろ。」

 ち。薄情だな。それでも戦姫様は俺をおぶったまま軽々と走り続ける・・・この小柄な体で、すごい体力だ。疲労回復薬を飲まされ・・・貴重品、もったいない・・・おかげで多少は動けるようになった。体力回復薬は、指が治る前に飲んじゃうと、『再生』しなくなるからって飲んでない。だからあちこち痛いままだ。でも、そっか。治せるんだ、ラッキー。なら、まだ俺の左手はお役にたてる。勇者様やみんなのために戦える。死ぬのはまた次の機会だが、死ぬ前にちゃんと暴れられる。

「戦姫様・・・俺、重くないですか?」

「黙れ!」

 ご機嫌、最悪。


 結局その後も戦姫様は一言も口を利かず、俺たちはザラウツェス城に入った。でも残留部隊のみんなは戦闘開始直前で、俺なんかにかまう暇はない、当然だ。が、作戦の経過も伝えなきゃいけない。戦姫様は俺をおぶったまま半ば強引に本陣に向かった。これはハズイ。羞恥プレイだ。勘弁してほしい。小柄な美少女にオンブだよ、しかも血まみれで。

 で、コルンさんに難民のこととその後の経過と、俺がケガした経緯を戦姫様がお話した。幸いコルンさんは俺の行動を非難したりしなかった。そして俺はキーシルドさんに『再生』をかけてもらい・・・今日最初の負傷者だってさ、まったく・・・で、その後セウルギンさんに『眠りの霧』って・・・え?何で?その方が早く回復するって・・・ええ!?みんなの戦い、これからなのに・・・。

 

 ガバッ!目が覚めた・・・俺の部屋だ。厳密にいうと、ザラウツェス城の城館内に用意された勇者様一行の空間の、俺に割り当てられた部屋だ。何日も使っちゃいないけど。

「パシリ・・・どこか痛くない?大丈夫?」

 ・・・ミュシファさん?ああ、なんか心配そうに俺を見ている。

「ゴメンね。俺なんかのために、また・・・」

 ホント。申し訳ない・・・。

「ううん。でも、ちゃんと動く?・・・指とか?」

「指?・・・忘れてた!・・・ああ、ちゃんと動くってか、ちゃんと生えてる。」

「・・・普通忘れないよ、あんな目に遭ったのに・・・バカ。」

 バカ。そう言ってミュシファさんは泣き出してしまった。ああ、もうどうしよ・・・でも・・・こんな俺のために、泣かなくていいのに。


 俺が目を覚ました時、ザラウツェス戦役における二つ目の前哨戦にあたる先遣隊2000体との戦いは終わっていた。最初こそ難民の登場で囮部隊・・・って俺たちだけど・・・が対処に追われたが、難民と囮が合流したことで、オーク先遣隊をより自然に城内に誘導できたそうだ。まあ、勇者様が難民を勇気づけていたし、アルもちゃんと領主らしくしたってことだ。先に逃げていた難民の男たちも、あの後戻って女子どもやお年寄りを守りながら一緒に行動したらしい。おかげで先遣隊を東街区に誘導するまではうまくいった。

 ところが、やはり敵将はなかなか優秀で、東街区に入り、囮と難民がスムーズに城内に入ったのを見て危険と判断したのか、即座に城外に脱出しようと動いた。ガレデウスさんの主力部隊が危うく突破されそうだった。これを援護したのが俺を運んで場内で待機していた戦姫様。もういつものフル武装で、衛兵隊に飛び込み、叱咤激励&勇戦・・・本人曰く本気の5割・・・で、なんとか支え切った。

 しかし、城壁に控えた新兵たちが弓を撃ち始めると、今度はオーク軍は城壁から遠のき、射程外で方陣を組みながら、守りに入り、更に市街戦に持ち込もうとしていた。この辺の動きは実に手早く、コルンさんも後でほめていた。

 ただ、中央部には、敵のそういう動きに備えて、あらかじめ燃えやすい草を用意していた。と言っても燃やすよりは燻す。つまり煙で敵の目やのどを痛めつけるっていう、性格の悪い罠だけど。で、弱って混乱している敵に、城壁から降りて来た新兵が遠巻きに矢を射かけ、その後衛兵隊が強襲。統一した行動がとれないうちに殲滅した。オークジェネラルは、衛兵隊の使い手・・・俺が手合わせした三人目の人・・・が討ち取った。ま、いいとこまで護姫様が支援してたらしいけど。

 

 なんとか、想定内で終りましたね、コルンさんの。犠牲者はかなり少なかったって・・・の割に、妙に静かだね?俺は、戦いの概略を教えてくれてたミュシファさんに聞いた。

「ミュシファさん、宴会やってないの?」

 もう夜なのに、戦勝の宴会の声が聞こえない。どうしたんだろ?ま、どうせ俺は参加する気ないけどね。

「・・・みんな怒ってて・・・それどこじゃないって。」

「え?なにかあったの?まさか、誰か怪我でもしちゃった!?」

 あれ?なんで、そんなかわいそうな生き物を見る目で俺を見るの、ミュシファさん?いや、俺もそんな目でキミを見たことはあったけど、でも、何で今俺が?

 

 バタァン!そこで急にドアが開けられたって、だからノックくらいしろよ、アル?

「キ、ミ、は、バカだぁ~!」

 さっき散々言われたよ。なに怒ってるんだよ、まったく。

「なんで宴会やらねえんだって聞いてるだけなんだけど?」

「だ、か、ら、いい加減にしろ!なんでそこまでバカになれるんだ!?」

 うまくやって勝ったんだから、やればいいのにって、あれ、また来客?

「全くだ。我もあきれ果てている。」

 護姫様?

「てめえ・・・マジで殺すぞ!」

 戦姫様まで。もう、みんな何なんだろ。文句言いにわざわざ俺の部屋に来るなんて。

「あのですね!」

 さすがに俺もそろそろ何か言いたくなってきた。

「それは、護姫様やアルの指揮を待たずに、戦姫様を差し置いて勝手に動いたのは軍律違反で、謝りますけど、でも、あそこは俺以外に間に合わないし、結果的にも、俺がちょっとケガしたくらいでみんなうまくいったんだから、そこまで怒らなくても・・・」

「「「「バカ!」」」」

 ミュシファさんまで混じって、みんなが一斉に俺を罵倒する。

 その大きな声を聞きつけたのか、勇者様まで俺の部屋に入ってきてしまった。

「勇者様!?すみません。むさくるしい部屋で。今お茶でも・・・」

「だからキミはエン姉様に態度が・・・?」

 どうしたんだろ?なんか言いかけたアルを護姫様と戦姫様が慌てて連れ出して、ミュシファさんまで急に出て行って?し~んって、ま、やっと静かにはなったけど。

「みんな、怒りすぎですよね。ホント。俺が悪いのもわかるんですけど。でも俺がケガしたくらいでみんなうまくいったんですからよかったですよね。勇者様はちゃんとわかってくださってるから、あの時も俺にかまわず難民を勇気づけてくれて・・・さすがは勇者様・・・?」

 あれ?うつむいて・・・どうなさったんですか?なんかワナワナ震えてる?

「勇者様?あの・・・俺・・・何かしました?」

 バギイイイッツ!

 首が飛んだかと思った。いや、俺ごと景色が飛んだ。俺は寝台から反対側の壁に叩きつけられていたらしい。すごい衝撃で・・・訳が分からない。

 勇者様が壁から崩れ落ちる俺の前に立ちふさがる。ひょっとして、俺、勇者様に殴られたの?全然拳が見えなかった。

 俺に馬乗りになって、首を絞め揚げる勇者様。うわっ、髪が逆立ってる!なんかばちばち火花が飛んでるみたい?

 きっと俺は勇者様のご機嫌を損ねたんだな。やはり軍律違反は死罪なんだろうか?前にも思ったけど、勇者様に殺されるんなら本望だ。いや、理想の最後・・・もう少しお役にたちたかったけど、やはり俺なんかじゃ従者失格だったか。やはり一番なりたいものにはなれないんだな、俺って・・・。死ぬのは仕方ないけど、もっと・・・お仕えしたかったな。

「・・・ひくっつ・・・ひ・・・ひく・・・」

 ゆう・・・しゃさま?次第に髪が収まりっていく。でも?

「勇者様、どうして泣いてるんですか?」

 ポカ。いつもの、力のないパンチ。うつむいたまま泣いている勇者様・・・。

「どうしたんですか!何があったんですか!?」

 ポカ。またパンチ。勇者様が泣いている。俺の勇者様が・・・。

「・・・俺、そんなに間違えてますか?」

 コク。・・・俺のせいなのか?胸が苦しい。勇者様が泣いていると思うと、死にたい。

「・・・俺が何かやったんですか?」

 一瞬、パンチが飛びそうになって、こらえて、またコクっとうなずく勇者様。その目から涙がこぼれる。俺のせいなのか・・・まさか?

「俺が、命令違反したからですか?」

 ポカ・・・じゃ、なんだ?

「すみません・・・わかりません。」

 ポカ。たたかれても、分からない。

「わかりません。」

 ポカ。

「すみません。」

 ポカ。勇者様の涙は止まらない。見ているのがツライ。どうしたらいい?

「・・・っく・・・ひく・・・」

「泣かないで・・・」

 ポカ。

「泣かないでください。」

 ポカ・・・。

「勇者様・・・泣くなんて・・・ズルイ・・・ズルイです」

「ひく・・・ひっ・・・ひく」 

ポカ。

「・・・く・・・。」

ポカ。

「・・・く・・・だから・・・泣かないでください・・・。」

「・・・ひく・・・ひく・・・え・・・えっ・・・」

ポカ。・・・くく・・・。だから・・・泣きやんで・・・エンノ。俺の勇者様で、かわいい妹。泣かないで。俺は勇者様・・・エンノを見つめた。よく見ると、泣き声の合間に、勇者様の口が動いている・・・声は出ていない。でも、読み取れそうだ。

「や・・・く・・・そ・・・く?」

俺がそう呟くと、勇者様は眼を大きく見開いて、うなづき、もう一度繰り返す。

「約束・・・・。ち・・・か・・・って・・・くれ・・・・た。」

 約束・・・俺は殴られた時よりも、はるかに衝撃を受けた気分だった。俺は勇者様に誓った。「永遠にあなたの従者です」と。つい先日も、精霊の加護を失った勇者様に「勇者様と一緒の苦労なら俺にとってご褒美」なんて話したばかりで・・・。こんな俺なんかの話を勇者様は信じてくれて・・・その俺が、さっさと死にたがっていた。死ねば、俺は楽になれる。その思いばかりだった。でも、俺の誓いはどうなるんだ?この後も、精霊の加護をとり戻すために一緒に苦労なんてもうできない。

「・・・勇者様・・・俺が間違ってました。俺・・・死に急いでいました。」

 護姫様にいつも言われていた。生きて償えって。俺はわかってるつもりでわかってなかった。キーシルドさんにも言われた。俺にとっては殴られたり殺されたりするよりも、生きていることが償いなんだ、楽をするなって・・・。勇者様も、同じ思いだったんだ。

 俺は、こらえきれなくなって、膝の上で泣いているエンノを抱き締めた。そして髪を撫でる。こんなに泣き虫のお前が勇者やってるのに、俺が泣かせてしまった。もう泣き止んでほしい。それしか考えなかった。

「エンノ様・・・俺、間違ってました。だから・・・泣き止んでください・・・くっ・・・」

「ひく・・・え・・・えっ・・・。」

 エンが、俺を抱きつく。昔みたいだ。お互い子どもだった。二人で抱き合って泣いた。

 勇者様・・・エンの声は全て精霊たちが精霊の言葉に変えてしまう。加護を失った今でもそれは変わらない。だからエンは俺に言葉を伝えられない。そのもどかしさがあるのは間違いないけど。

 でも、泣いているエンを抱いていると、エンがただ俺のこと怒ってるんじゃないってことが伝わってくる。こんなに辛そうに泣いてくれる。だから、ひょっとしたら・・・

「エンノ様・・・俺を心配してくれてるんですか?」

・・・エンが顔を上げ、そして、うなずいた。

「俺のケガ・・・心配してくれてたんですか?」

 こくん。うれしい。髪を一層優しく撫でる。思わず強く抱いてしまう。

「じゃあ、心配してたのに、俺、無神経でしたか?」

 こくこく・・・やはり俺の振る舞いが無神経だった。勇者様は俺を心配しながらそれを隠して難民を勇気づけてくれてた。でもそれは勇者様にとってもつらいことだったんだ。本当は俺を叱ったり案じたりしたかったのを押し殺して、みんなに笑顔を浮かべて。

「エンノ様・・・ありがとうございます。そして、無神経で、すみません。」

こく。でも俺を涙の浮かぶ目で見つめたままだ。まだ何かを待っている。何を言えばいい?何が正解だろう・・・俺はこの手のことで当たったことがない。でも、俺の本心を言うだけだ。

「俺は・・・勇者様の従者として・・・絶対に先に死んだりしません!ずっとお供します!」

 勇者様は、すぐには泣き止まなかったけど、俺の言葉を聞いて、涙ながらにようやく微笑んでくれた。勇者様は、そのまま俺の側にいて、泣き止んで離れたのは、かなり夜も更けてからだった。俺はその間、何度も謝り、ひたすら勇者様の髪を撫でていた。そして、何度も誓いを繰り返した。「決してあなたを一人にしません。いつまでもお仕えします。」そう何度も言い続けた。

 おそらく、それこそが、従者として絶対必要なことなんだ。俺はようやく気づいた。この、無垢で無邪気で無敵な元「妹」の勇者エンノと、ともに生きること。それが従者の使命だってことが。だから、もう死ねない。死にたいって思っても、絶対死なない。

 この、従者の誓いだけは、必ず守ってみせる。俺は、あらためてそう誓った。


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