第10章 前哨戦1
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侵攻してきたオーク軍は。屯田兵の効果だろうけど、途方もない大軍だ。
最初の会議があった日、俺はついコルンさんに
「屯田兵なんて、どっから漏れたんですか?」
って聞いてしまった。
「・・・人が嫌がることをするのが大好きな坊主よ。」
あいつか。セウルギンさんの・・・。シンもアイネイアもあいつのせいで。人の弱みに付け込む悪魔のようなえせ救世主。こんど会ったら、またワルサーカンプ食らわせてやる!
「もっと早く・・・教えてもらってもどうにもならなかったっすね。」
「教えてどうにかなるんなら。でも、あの会議では意味があったでしょ。」
確かに。北の平原の民に強い危機感が生まれた。この危機を乗り切るために、そして乗り切った後に、同じ思いが生まれるはずだ。共に戦い、生きる仲間という思いが。
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第10章 前哨戦1
それから、俺たちはこの日に備えて準備を重ねた。俺は、この足を活かして敵の先遣部隊2000体に接近し、一人で足止め的な嫌がらせや時に捕虜をとっての情報収集を行っていた。しっかり体にあいつらの臭いが染みついたようでウンザリしていた。騎兵のいない、術者もほぼいないオーク軍で、俺にとっては楽勝の日々だが、それでも時々しくじって軽傷くらいはちょくちょくあった。貴重なポーションは使わずに済ませたが。で、4日目。ようやくコルンさんから帰投命令がでた。隊章で二回チクって来たら帰投って決めてたんだ。こんな感じで簡単な合図を決めておけば、バカみたいに魔力を使わなくてもいいわけだ。もっとも帰ってすぐに
「臭い!」
「くせえ!」
「お風呂!」
・・・以下略の仕打ちを受けて泣きたくなった。
「で、報告前にお風呂に入ってたの?」
「だって、コルンさん。みんなひでえんだから。」
挙句になんか冷たい目でコルンさんににらまれている俺。ホント、いらない子みたいな扱い。
「で、戦果はチーフ種2、ウォリャー種5、ソルジャー12種、アーチャー種21・・・おそらく2日程度の先遣隊の遅滞・・・近隣の人族84人の避難成功・・・で、本隊は20000体っていう情報を入手。」
・・・ダメ?
「この状況で2000体の先遣隊を、2日遅らせてくれたのはありがたいけど・・・よくやるわね。スーパーレンジャーさん。」
なんか呆れられてる。怒られてるんじゃなさそうだけど。あちこち罠を仕掛けまくった甲斐があったってもんだ。夜中に潜入して食料袋破ったり、ま、悪行の限りを尽くしたね。
「あ、それから・・・敵の予測じゃ、ザラウツェン城内の兵力は5000人ってなってました。」
「え?なんでオーク軍はそんなバカな予想を立てるのよ?」
城内の兵力は総ざらいして、新米民兵込みでやっと2200人である。
「あれじゃないですか?」
「あれ?」
「ほら、城攻め3倍の原則・・・。」
「つまり、2000体のオーク兵がこもる城館を破ったんだからホントはその3倍の5,6000人はいるだろうって?」
自分で言っておいて、その後、コルンさんは机に突っ伏していた。
「そんな感じで。どうもあの時、俺達超迅速に動いて、相手に数を悟らせなかったじゃないですか?」
「それで、わかんないもんだから、原則論の城攻め3倍則を出して・・・まさか!」
「そうみたい・・・。」
つまり、こっちが6000くらいで城に籠るからその3倍以上・・・それで本来1万体のオーク軍が2万体になった・・・。
「なんてことなの!城館攻めがうまくいきすぎて、結果次の相手が倍になっちゃったなんて・・・パシリくん!あなたが訓練とか、部隊指揮とか、アル様の近侍とか頑張りすぎたからよ!」
「えっ!俺のせいですか?違いますよ。コルンさんの指揮が早すぎて巧み過ぎて部隊が鬼がかっていたからですよ!」
「何ですって!わたしのせいだっていうの!」
「だぁって、俺のせいだっていうから!」
にらみ合うこと数秒。そこに雷様が!
「やかましい!」
って、やってきた護姫様の一喝で俺たちは黙り込んだ。
「聞いておれば、互いに相手の見事なところを認めているではないか!何をその長所をわざわざ災いを招いたかのように騒ぎ立てねばならぬ!・・・全く、化け物同士、困ったものだ。」
は?何を・・・俺はダメで、今回ももっと敵を引きずり回そうって・・でも全然だめで
「やかましい!従者パルシウス!お前の、その自己評価は、何とかならんのか!?」
・・・やっぱ、俺のせい?
まぁ、頭が冷えた俺は、例によって甘いもの・・・手作りドーナツ・・・を持ってコルンさんの執務室を訪ねた。この辺の気配りが俺のウリかな。で、得意の軽~イ感じで。
「コルンさぁんっ!・・・お茶と甘いもの、いかがですかぁ。」
コルンさんも、笑って部屋に招いてくれた。大人だ。
「さっきはすみません。全軍の手配を手掛けてお忙しい所、つまらない報告しちゃって。」
ま、下っぱらしく、頭を下げる。
「ふう。こちらこそ、八つ当たりして、ごめんなさい。」
なんか、疲れてません?
「そうね・・・たかが、一介の陣法師が扱う領域からは随分手に余ってるわ。」
その時、俺は初めて気づいたんだ。ちょっと前まで勇者様たちのことを中心に仕切っていればよかったのに、いつの間にか一国を興すような立場にコルンさんが追い込まれてたってことに。確かに彼女の才能なら可能だろうけど、それにしても急変過ぎた。何より準備不足。
さらに言えば、コルンさんはこの前のホルゴスの決戦で、念願の『勇者戦』を実現してしまった。時代遅れの決戦兵器とまで言われていた勇者様を、見事に復活させて、戦いの主軸において、まだ一部とは言え人族に『勇気』を取り戻すことに成功したばかり。
それがすんで、ちょっと空いた時間の偵察、下調べで来ただけの北方領で、こんなことに巻き込まれて・・・。
「そうね。正直、戸惑ってるし、調子出てないかも。」
東京ドームライブに成功したばかりなのに、ちょっと出かけた地方遠征が実はラスベガスだったみたいな・・・わりぃ、なんか変なたとえで自分でもわかんねえ。
でも、しかし、だ。
「すごいですよねえ・・・調子出なくてこれだけやれるんですから。」
そう。確かに今回は彼女らしくない部分があったかもしれない。普段はもっと楽しそうにやってた。事態が急変しても、そこからどう巻き返すかを楽しんで手を打ってた。今は余裕がないかな。それでも、この北方領の族長会議を実務面で取りまとめつつ、敵の襲来に備えているのだ。やはり尋常な眼鏡美人ではない・・・でも。
「仕事、分担しませんか?セウルギンさんとキーシルドさん、明日帰ってくるって。少し押し付けてもいいんじゃないかな。」
一瞬、とてもうれしそうに笑ったコルンさんだったけど、すぐに渋面になり、再び
「それじゃ、パシリくん。あの人たちがやらかす失敗の後始末は全てあなたにまわしても大丈夫かしら?」
そういたずらっぽく微笑むコルンさんはいつもの彼女だった。もちろん俺は自分の発言を即座に撤回した。あの二人は自分の領域内ではこの上なく優秀である。でもね。変な場面で『迷語』をつぶやくセウルギンさん、怒って金棒を振り回すキーシルドさん・・・やめよう。世の中は、失敗よりもその後始末の方が面倒くさいことが多いのである。
「あなたを偵察と足止めにやったら、随分あちこちから非難轟轟・・・勇者様は髪型がどうこう言ってらしたし、アル様が近侍をとられて仕事が進まないって泣きついてきたわ・・・私も相談相手がいなくて困ったし・・・何でもできる子は、何に使えばいいのか、ホント難しいわね。」
・・・これって、俺が『いらない子』じゃないってことなんだろうか?
「ホント・・・基準がずれてるのね、あなたって。」
なんか言われたけど聞き流す。いろいろ悩んでいるコルンさんだ。俺はお茶を淹れながら、もうしばらく話を続ける。
今回の戦いを更に難しくしているのは、勇者様だ。今のままでも充分お強いのだけれど、本来のチートレベルのことはできない。
そして、「勇者の旗」だ。コルンさんの秘術である、勇者様の勇気を旗を見上げる有志に与えるこの陣法を、どこでどう使うか、だ。もともとセウルギンさんが言ってたように、ここじゃ使わないって手もあったけど、この不利な状況では使いたいし、かつ例の姉妹宣言で使いやすくなったのも事実。
「いっそのこと、使いどころは、勇者様に一任ってのはどうでしょう?」
「・・・そうね。勇者エンノは、肝心なところでは必ず正しい判断をなさる・・・でも、もちろん盲従はダメよ。私たちなりに血反吐を吐いてお支えする覚悟を忘れないで。」
その後しばらく、俺は敵情視察の詳細を改めて報告していて・・・急にゾクってきた。
「・・・ところで、パシリくん、あなたの潜伏能力と、探索能力なんだけど?」
久々の、悪い笑顔のコルンさんがそこにいた。また、戦場斥候ですかぁ?
次の日。セウルギンさんとキーシルドさんが戻ってきた、キーシルドさんの仲間、天界主教の僧侶10名と共に。彼らは教会内での階梯は高くないけれど、キーシルドさんに好意的な人が多く、城館に入城して籠城戦の中、回復や支援を行ってくれる。他にも10名以上いたのだけれど、それは修復した教会の周りで、信者たちを集め、その手助けをするという。セウルギンさんによれば、階梯がキーシルドさんより高く、かつ自分の教会の勢力回復を先と考える司祭が配下を連れて信者集めにいそしんでいる、と言うことらしい。それに、本当はキーシルドさんは今回の働きでまた前の階梯に戻ることが許されたのにそれを固辞してきたのだ、と言っていた。セウルギンさんにしては珍しく素で怒っているような気がした。
俺はこっそりとキーシルドさん一人の時に聞いてみることにした。
「教会の者がわざわざこのような危険な場所に来たのです。自分たちの信者を心配し、その助けを行うのに何の不満がありましょう。彼らは彼らのなすべきことを、我らは我らのなすべきことをなすのみ。拙僧も彼ら同様、行いをなしに来たものです。踏み出した一歩目がたまたまたがえたからと言って、再びまみえぬ道理でもありますまい。」
彼自身も目の前の信者を助けたい思いと、人族全体を考えて戦わなければならない思いに苦しんでいたのだろう。結果、それを優先する者がいれば、自分はこちらを。それだけ、と言うことらしい。階梯については
「今ここで元に戻されても、拙僧は全ての人のため、力を振るう者。信仰が異なるからと言って目の前の助けを拒むことは出来ません。であれば、どうせすぐにまた下げられる階梯など無用です。」
と言っていた・・・ホントにお人よしと言うか、何と言うか・・・バカでしょ!立派な大バカ!セウルギンさんが怒るのも当たり前!・・・彼が心配してるのも、当たり前だ。でもそんな彼を慕ってついてきた僧侶が10人もいる。天界主教会も変わってゆくのかもしれない。もちろん一番の変り者は、この大男なのだろうけど。
「キ、ミ、は、ボクの許可なしで何日もいなくなって、しかも昨日戻ってきたんなら昨日のうちに会いに来るべきだろう!」
だって、昨日は仲間にも臭い臭いって言われて・・・。
「言い訳しないで!」
やれやれ。この強引さ、戦姫様の凶暴さといい勝負だね。
「じゃあさ・・・今日は仕事つきあうから、あとは当分暇をくれ。」
わざわざ執務室に来たんだから手伝うぞって俺は軽く言っただけなんだが
「何だって!ボクのもとを去るのか・・・ボクを見捨てるのかい!?」
急にそんな泣きそうな顔しないでくれ・・・。そもそもお前の家臣じゃないんだし。
「っていうか・・・秘密任務だ。次は長くなる。戦いが終わるまで、戻れない。」
アルはしばらく何も言わずうつむいちまった。なんか、俺、悪いことでもしたか?
「キミ・・・パルシウス・・・。戦いが終わったら戻ってくる?」
・・・すがる目で俺を見つめるアル。どうすればいい?何が正解だ?わからない。だから事実だけを話す。
「・・・敵の先遣隊が動いている。もうすぐ本隊が来て、この城は包囲される・・・俺はその前にこの城を出て、秘密の任務に就く。それが終わるのは、俺たちが勝った時だ。」
変わらない表情・・・アルが聞きたいのは・・・ここからなのか?
「もちろん、勝てば、一度は城に戻る。」
「一度・・・。」
「ああ、でもいつかは、いや、すぐにでもここを去る。」
「・・・どうして?」
「俺は勇者エンノ様の従者だから。」
ち。それからどれくらい時間がたったやら。こいつ、全然動かなくなって。なんで事実を言っただけなのにこんなになるかね?
それでも。ようやくアルは顔を上げて、俺に微笑んだ。なぜか奇妙にはかなげだった。そんな表情されると、パーラにもフォグルシスにも似ていない。不思議な感じだった。
「キミは・・・ぶれないね。」
「それだけが俺の存在意義だから。」
「聞いていい?エン姉様の、どこがそんなに好き?」
好き嫌いじゃない。そんな感情じゃない気がする。
「ただ・・・俺の全部だ。俺の運命も罪も、もう会えない親友も、全部あのお方に仕えるためにあった。きっとこれからも、俺はあの方に仕えるためだけに生きる。」
誰かに理由を聞かれるのは初めてだった。仕えるのが当たり前すぎて、言葉にしたことがなかった。あの日、親友と別れその日に会った勇者様。その親友が夢見た、俺の未来が、今ここに在って、あんなに罪深い俺を全部赦してもらって。だから、今はもう、信じて支えるだけ。
「・・・じゃあ・・・ボクは?ボクを助けたのは?あれも勇者様のため?」
虚を突かれた。なるほど。俺の全部ってなると、たまたま会ったこいつを助けたのも勇者様のためってなるのか。もちろん勇者様がその場にいたら必ずお助けになったはずだし、間違いなく勇者様の御心に適った行動だったが、そこまで俺は束縛されてるのか?俺に意志はないのか?
「う~ん・・・ちょっと言い過ぎたかも・・・俺の99%は勇者様に捧げている。後の1%は個人的な人助けだな。趣味でやってるヤツ。」
アルはそれを聞いて笑い出した。ちょっと無理に笑ってる気がした。
「ハハハ。じゃあ、キミが、ボクを助けたのは1%の力なんだね。エン姉様にはその100倍の力でお助けするんだ。すごいね。あれが1%で!なんてすごい1%!そしてエン姉様は無敵だね。ボクの100倍で支えられてるんだから!」
「そうさ。だって勇者エンノ様は「無垢」で「無邪気」で「無敵」の勇者様で、ついでに「不屈」で「不敗」で「不退転」なんだから!」
「・・・そうか。でも覚えておいて、キミ。ボクはキミに、キミの1%に助けられたことをずっと忘れない。キミの1%が、この北方を救うきっかけになったって、ずっと信じてるから。」
過大評価だな、どうも。俺は、コルンさん発案の北方探索に勇者様に同行してきただけで、そういう意味では、巻き込まれてばかりで何もやっちゃいないんだが。
結局この日の午前中はアルの溜まった政務を補佐し、午後は急にまた街の巡回を始めたアルを警護することになった。
「ホント、お前んとこ、人手不足だな。警護の兵くらい準備しろよ。そうすれば俺がお前の留守中に政務を片付けてやれるのに。」
なんか、今、すんげえ目でにらまれて、足踏まれた。俺の合理的な提案のどこがそんなに間違ってたんだろう?あとで聞いてみよう。誰に聞けばいいかな?
「・・・なるほど。コルン師が言う通りだ。世慣れているのはフリだけか。」
しかも、今、なんかすげえバカにされた?4つも年下の世間知らずのお嬢様に。
「キミの基準は、いろんなところがおかしいよ。今度一度じっくりと世間の常識を教えてあげる。ボク直々にね。だから、また来たまえ。空きの1%でも構わないよ。」
それでも、その時以外は概ねアルは楽しそうに過ごしていて、積極的に俺に話しかけて来たから、機嫌も直ったんだろう。夕方、二人で城壁に上がり、西街区を眺める。ところが、
「西街区の住民の避難も大変だったけど、なんとか終わってよかったな。」
って、俺が言ったら
「それ?ここで出るセリフがそれなの?今日一緒に過ごして、最後に夕日を見て、それ!?」
すいません・・・何が正解か、全くわかりません・・・。それでも俺を非難するアルの口調は、すこし楽しそうだった。
もっとも城館に帰ってきた俺を迎えるコルンさんの声は楽しそうじゃなかった。
「せっかく政務を補佐にっていうから、私の手伝いより優先してアル様の所に送り出したのに、またデエト!?危機感がないんじゃない、パシリくん!」
「え・・・デエトって・・・デートのこと?・・・なんで?どうして?」
俺、何でキミにまで非難されてるっぽいの?ミュシファさん?
なんか、オークの先遣隊2000体を相手にしていた方がよっぽど楽だよ。臭いけど。
そんな妙に非難されてばかりの生活もようやく山場に来た。先遣隊2000体を要撃する前哨戦である。たかが先遣隊と言っても、こっちの本隊とほぼ同数。できれば敵本隊と合流させずに叩いておきたい。もちろん味方の犠牲は最小限にして。
そこで、この前哨戦に関しては、勇者様一行の力に頼らざるを得ない。何と言っても味方の半分以上は戦闘経験がない。できれば新兵の初陣は負担の少ない守城戦にしたかったのだが、そこまでの余裕はない。だから実戦に放り込み、雰囲気はたたきこんで、かつ要所は勇者様たちとザラウツェス衛兵隊(自称騎士団)に任せる。安全度と実戦経験のバランスが難しいが仕方がない。お客様のまま初戦を終えるわけにはいかない。
なにしろ北方での戦いは「苦戦の上の勝利」が主題である。
このバラバラな北方領が一つにまとまるためには、ともに苦難を経験し、乗り越えるという経緯が不可欠。ある意味確信犯的な開き直りだが、戦後のことを考えると避けては通れない政治ってやつがかかわってくる。もちろんこれは一部の者しか知らない。知ってるのは俺達勇者様の仲間たちと、アルくらいだ。
しかし、こんな「犠牲は少なく」「新兵に実戦を経験させ」「ほぼ同数の敵に」「圧勝する」っていう、無理な戦い、コルンさん以外には考えたくもないだろうね。だいたい新兵が全軍の7割っていうのがまた笑うしかないんだけど。
「作戦の要は敵の殲滅。つまり逃げられない状況に敵を追い込むわけです。ですから、まず囮が必要になります。」
族長会議の、さらに軍事部門の打ち合わせである。もっとも前哨戦はザラウツェス城の戦力でカタをつけると宣言しているので、三異族の同盟軍も、その他の参加勢力も「お手並み拝見」的なポーズでいる。
よって、話し合いの中心は、実はうちのメンバーだったりする・・・いつもか?でもな。他人も入ってもらわないと・・・で、俺はまたもアルの隣。アルを挟んでガレデウスさんもいる。
議長の護姫様が進め、作戦案はコルンさんが話している。
「キミ・・・囮とは?」
アルが小声で俺に解説を求める。
まあ、戦国最強島津軍の釣り野伏的なイメージに近いかな。少数の部隊が敗走を装って敵を味方の包囲網におびき寄せるっていう。ただ、コルンさんの作戦は・・・。
「避難民を装って、東街区内におびき寄せる?」
そういうこと。俺が先行して偵察したけど、まだ平原の民があちこちに散在していて、今頃になってザラウツェス城に避難してきたことがあった。しかも敵に見つかったりして、あわてて俺が先遣隊を引き付けたり、敵の偵察隊の隊長のチーフ種を射殺したりと、大変だった。で、もちろん人族が捕まると・・・敵のパーティー食材になってしまう。オエッ。
だから食い意地のはったオーク族にとって非武装の民間人はごちそうだ。武装していてもごちそうだけど。見つけたらまず追いかけてくる。それが、彼らの目標地点、つまりザラウツェス城に逃げ込もうとするんなら、もう軍の目標も個人の食い意地も両方が追いかけろって命令するね。
「しかし、民を装うとなると、武装はあまり身につけられないし、女子どもがいなければ不自然だぞ?」
「ま。そうなんですけど・・・なんか忘れちゃいませんか?盟主様?」
けげんな顔で首をかしげるアル。そう言う顔をすると、年相応でちょっとかわいいって思っちまう。ち。これがシスコンてやつか?妹じゃねえけど。いや、元妹の義理の妹か・・・ややこしい!
「囮には、衛兵隊の一部、それに勇者様ご一行が参加します。」
「ええ?」
コルンさんの説明を聞いて、アルが驚いている。
でも、そういうこと。なにしろうちの一行は女子どもが何人もいる。っていうか、そうじゃない方が少ないくらい。しかし、この女子どもの凶悪なことといったら・・・。
「まあ、トカゲの皮をかぶったドラゴンですね。」
それ、皮かぶる意味あるんすか?セウルギンさん?羽がないだけじゃ?あ!「能あるドラゴンは羽、隠す!」ていったら、なんかセウルギンさんに落ち込まれた。すみません。
「・・・ねえ、パシリ。あたしもドラゴンなの?」
給仕兼護衛のミュシファさんがお茶を淹れるふりをして、俺に話しかけてきた。
「先輩は、爬虫類系、みんなダメでしたっけ?」
「・・・ううん。ヘビだけ。」
「じゃ、ベビードラゴンで。」
「・・・なんか、かわいい。やった!」
そんな会話をしていると、アルが何やら不機嫌である。
「キミは、だから何でそんな女の機嫌をとるんだ!もっと毅然としろ!」
「え?俺っすか?」
そんなに俺、下っ端ポイ?でも今は近侍だから、ってことか?とか思ってたら
「そこ!ちゃんと聞いてます?アル様も!」
コルンさん、北の盟主様にまで容赦ねえな。こんな時は。
「囮は衛兵隊から50名。他に勇者様、護姫様、戦姫様、従士ミュシファ、従者パルシウスが参加します。」
やっぱし。
「アル様は本陣で総指揮を行います。わたしは指揮の補佐を。キーシルド師、セウルギン師は本陣で待機。」
で、主力の衛兵隊はガレデウスさんが指揮して、敵軍が東街区に入ったら、城門や城壁の穴に配置して逃げ道を塞ぐ。残った兵の大部分は城壁に伏せて、合図の後、まず敵に矢を射かける。充分に混乱したら、城館にいる伏兵が討って出る。後は、城壁の兵も加勢する・・・。こんな流れだ。
木材とか油とかが余ってりゃ、東街区ごと焼いちまえばいいんだろうけどな。
「待って。コルン師・・・ボクも出るぞ。」
は?何言ってるんだ、お前?
「出るとは、城壁の兵の指揮を・・・」
さすがにコルンさんも、よくわかってない。
「違う。囮に入る。そう言っている。」
マジか?いや。ダメだって。俺は小声でたしなめた。
「ちょっと待て。お前、いくら何でもヒジョウシキだろ。」
「だって、姉さま方が囮になるのに、しかも・・・も。だったらボクも出ないと!」
わけわかんねえ。
「だいたい女で子どもなら、ボクはこの中じゃ一番の該当者だ。」
ああ、もう。なにが該当者だ!なに熱くなってやがる?今さら武功じゃないだろう。
「休憩をいれましょう!護姫様!コルン師!お茶淹れますから!アル様もお疲れですし!」
俺はそう連呼して、強引にアルを会場から連れ出した。列席者の目は気にしてられない。アルの奴は抵抗するかと思っていたが、意外に素直についてきた。これもわけわかんねえ?
「お前なあ・・・どういうつもりだ!盟主様が民のふりして囮役なんて!」
「言った通りだ!ボクが適役だ!」
「どこがだ!阿呆!」
「キミこそ、ボクの気も知らないで。バカ!バカバカ!」
控室に連れ込みカギをかける。で、話も何も、怒鳴りあいである。こりゃ他人にゃ見せられない。冷静に考えりゃ、ホントは近侍ですらない者が、北の盟主様相手にため口どころか怒鳴りつけているっていう、いくら本人が許可してるからってダメだろうってことをやらかしている。
・・・ちょっと頭を冷やす。俺は大人である。こいつより世間を知っている。まずは俺が落ち着こう。俺は控室の水差しを見つけ、口をつけてあおった。その甲斐あって一息つけた。全く、これだから思春期症候群め。まあ、しかし、こいつも落ち着かせよう。
「・・・おっと。」
コイツにも水を飲ませようと思いついて、コップか何かを探してると。
「それでいい。よこせ。」
って、アルのヤツ、俺が直接飲んでた水差しをふんだくって、一瞬ためらって、そして口をつけてコクコクと飲み始めた。ためらうくらいならやめりゃいいのに。
「それ、戦場じゃともかく、人前じゃやめておけ。変な噂になるぞ。」
「変な噂?ふふっ。」
そこ、笑うとこ?ほんと、わけわかんねえ。
「そんなウワサなら本望だ。」
怒ってるせいで、耳まで赤くなってやがる。
「盟主様は野蛮だってウワサがか?」
「違う!そうじゃない!」
コラ!水差しを投げつけるな!慌ててキャッチっと。
「やっぱり野蛮じゃねえか!」
おっと。いけない。落ち着くためには、言葉遣いだ。少々雑にしていたけど、ちゃんと距離をおいた方がいいかもしれない。深呼吸っと。
「コホン・・・すみません。アル様。ついお言葉に甘えて、人の目がないとはいえ、盟主様を怒鳴りつけてしまいました。」
まずは、冷静になるために、マナーをしっかりと。親しき中にも礼儀あり。なんか弟妹に似てるからつい上から兄貴面してる俺がいる。立場は守らなきゃ。処世術ってやつだな、今更だけど、特に感情的な時にはって思ったんだ。
「何だ、今さら気味が悪い。いつも通りでいいって言ったろう。」
それでも、口調が少しトーンダウンした。よしよし。
「しかし、お互い感情的になってはいけません。アル様のお考えもお聞きできませんし。」
「考え?そんなものはない。気持ちは・・・聞いてほしいけど。」
考えがない?気持ち・・・要は我がままか!って待て待て。俺は大人だ。落ち着こう。
「お気持ちですか。お聞きしてよろしいですか?」
って、まあ、俺、大人だし。ちゃんと子どものわがままくらい聞いてやろうと思ったんだ。それなのに、こいつ。
「い、や、だ。」
はあ!?何だって!
「そんな気味の悪い話し方のキミになんか、話したくないね。」
・・・下手に出てりゃ・・・が、ぐっとこらえる。こめかみがピキピキしてる自覚がある。
「じゃあ、話してくれよ。聞きたい。」
俺は大人だ。そう自分に言い聞かせて、話し始めるまで待った。結構待った。相当待った。
で、かなり待って・・・やっと口を開いた。開いたが・・・
「自分だけ待つのがイヤだ。何もしないで待っているのがイヤなんだ。姉様方も・・・キミも危険な場所に行くのに、ボクだけ・・・安全なところで待ってるなんて・・・イヤだ・・・。」
ち。ようやく話し始めたアルは、うつむいている。そして話し終わったアルは、元気がない。わがままを言ったという自覚が出て来たのだろう。やっぱりわかってるんじゃないか。
「アル。」
そう呼びかけたものの、俺も今さら怒る気なんかどっかに飛んでった。それでも俺に呼ばれたアルは、顔を上げて俺を見つめている。何かを言ってほしそうだ。
俺は、こういう場面で、相手が望んだことを言えた試しがない気がする。ただ、この後、一番言ってはいけないことを言ってしまったらしい。いや、その自覚はあるぞ。
「ちょっと待ってくれ。」
って。途端にアルはむくれて、俺をにらみつける。わかるけど、仕方ないんだ。隊章が呼んでる。
「いや、すぐ終わるから。」
俺は少しアルから離れて、隊章を通して伝わるコルンさんのメッセージを読み取った。
「まったくパシリくん、アル様のこと、ちゃんと補佐して差し上げないと。しっかりしてるようでまだ13歳の女の子なんだから。あなたの管轄よ。」
「うげっ。すみません・・・じゃ、ミュシファさんに代わってもらった方がいいですかね?」
真面目に言ったんだけど、すげえ呆れられた。
「なんでそんな、最悪の代案を出すのかな?ほんとに何もわかってないのね!」
確かに、この二人は相性悪そうだけど、でも勇者様も最初はスンゴクダメダメだったし。
「もう、それはいいから。で、どんな様子?」
俺は少しだけ悩んで、でも覚悟を決めた。
「・・・すみません。アルのわがまま、聞いてやってもいいですか?」
「はい?」
この後コルンさんから、散々文句を言われ、それでも説得した。そして、ようやくアルに目を向けた時には・・・そこには、もう思いっきりヤサぐれたアルがいた。やばっ。
「ええ・・・っと・・・アル?」
ブスッとしたふくれっ面で俺をにらむアル。この顔も他人には見せられないな。
「アル様ぁ?」
返事をもらうまで、これもけっこうな時間がかかった。今回の俺は子守ばかりだ。
ようやく会議再開。俺は早速お茶を淹れて回ろうとしたが、
「キミはボクの近侍。ボク以外にお茶なんか淹れなくていい。」
って上機嫌で言われた・・・現金な奴。ガレデウスさんにも休憩時間に了解をとってある。いろいろ言われたけど。
「会議を再開するにあたって、アルテア様からの先ほどのご提案を再度ご検討いただきたい。」
って、近侍としての俺のセリフ。まあこのへんは出来レースだ。もちろんちゃんと合理的な理由を考えた。ここからはアル本人に言わせる。
「近侍パシコーから意見があった。我が族長会議は成立以来未だ日が浅く、互いの結束に不安がある。また、盟主たるボクについても評価が定かではない・・・ありていに言えば、城館を奪回した戦いだけでは、ボクが盟主であるとは思えない、そう考える者が少なからずいるだろう・・・だから、ボクは盟主たる資格を示そうと思う。」
で、まあ、当然異を唱える者が出る。出なきゃコルンさんにでも言ってもらうつもりだったけど、ちゃんと草原の民の代表テギリウス・ガアン・・・30代の野性的で、目は理知的っていうより目つき悪いっていうくらい鋭い、戦上手って感じの人・・・が言ってくれた。
「囮となって敵を呼び寄せる役目の、どこが盟主の資格なのか?まだ兵を率いるというのならわかるが、危険なだけで盟主としての役割を果たすことにはならんのではないか?」
まさに、言ってくれた。わかってる人がいると話って進みやすいね。
アルやコルンさんも全く同感の様で、ニヤッと悪い笑顔を浮かべている。テギリウスさんがびっくりしてひいちゃったくらいだ。
「よくぞ聞いてくれた・・・この戦いでボクはみんなに助けてもらおうと思う。」
そう。盟主の資格とは、一つはリーダーとしてふるまうことだが、あくまで、盟主である。味方であっても部下ではない人たちをまとめるには、みんなが力を貸してくれることが大切だ。
「だから、ボクを助けてくれ。みんながボクに、ザラウツェス城に、北方領のために力を貸してくれなければ、ボクは殺されるし、みんなもいずれそうなる。この戦いは、みんながボクを、北方領を救うための戦い、それを確認するためのものだ。皆さんは、それぞれの勢力の代表として来られた方々。当然戦いの意義はお分かりだ。しかし、兵はどうか?民たちは?場合によっては不平も不満もあるだろう。」
そう。昨日西街区を回って、やはり不満があった。いくら危険でも引っ越しはしたくない、ここから離れたくない・・・。人々には日々の生活があって、そこから離れて考えることは難しい。でも目先じゃないところに考えが及ばない彼らに、目に見える形で、わかってほしいことがある。
「だから、かれらに気づいてほしい。皆がボクに力を貸してくれなければ、ボクたちの勝利はない。兵こそが、民こそがボクたちを救ってくれる存在だ。そのことを知ってほしい。そのために、ボクは囮として前に出る。そして、皆に助けてもらう。皆に支えられることこそが、盟主の資格だ。わが族長会議では、そう考える。いかがだろうか。」
青臭い理想論だ。俺が考えたのはこの程度。でも・・・。
満場一致ではなかった。でも多くの代表が賛成した。もちろん賛成した者の中には、アルが死んじまうことを願ってる底の浅いバカもいたかもしれない。それでもアルの参加は認められた。後で、コルンさんにはこう言われた。
「ま、アル様がお飾りじゃなくて、兵や民にちゃんと好かれるにはいいチャンスよね。武功じゃないところでアピールもできて・・・パシリくん、いつからそんなに腹黒くなったの?」
って誤解された。そこまでは考えてなかった。考えてオッケー出したあんたが腹黒って言うセリフは、腹の中にしまったけど、これは自己防衛だから。黒くないから。
「いいかい、キミ。ちゃんとボクを守るんだぞ。」
ってアルは楽しそうにそう言うけど、あの面子を見て、俺の出番があるって思える方が不思議だ。ま、いざとなったらおぶって逃げるくらいはできそうだが。
「そうじゃない。ここはちゃんと守るって言う場面だろ!キミはわかってない!」
へいへい。俺はホントにわかってない男ですよ、フンだ。




