第9章 族長会議
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オーク軍に限らず、人型種族は、それぞれが持っている種族特性というものに極めて左右される。種族特性とは単に各種族の特徴と言うにはとどまらない、一種の業のようなものですらある。多分に個人差は認められるが、種族としての行動原理は大きくこの特性に沿ったものになりがちだ。セウルギンさんは種族的なルーンがどうのとか言ってたけど?
例えばオーガ族であれば、は「力」「巨体」。エルフ族は「精霊魔術」「知性」「敏捷」「森」。ゴブリン族は「適応力」「繁殖力」「闇」、トロール族は「力」「巨体」「知性」「闇」。
そして、今回の俺たちの敵、オーク族は「雑食」「適応力」「繁殖力」。で、どうも種族として、この特性がいい方向に働くと発展するし、そうでない場合は・・・衰える。今の人族のように。コルンさんが言うには、人族の特性「知性」「技術」「多様性」をうまく生かすには
「勇気」が要だってことになるんだけど、この前、セウルギンさんに「『勇気』教の布教ですか?」って言われて、むくれてたっけ。むくれた顔はレアだけど、子どもみたいでかわいい。年上のくせに。
しかしセウルギンさん、ホント宗教的なものには屈折してるね。
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第9章 族長会議
あれから数日が過ぎた。明日は北方領族長会議の初日である。アルの奴、夕べから緊張しやがって、俺を私室に呼びつけやがった。そんなたいした部屋じゃねえし、毎朝勇者様の朝の支度をしてる俺が気にすることもないかって思って、まあ、行くことにした。まだ俺は近侍らしいし。正直、ザラウツェス城が人材不足なのはわかるし、わずか13歳のこいつがいかに早熟で優秀かも俺はわかったけどトップを支える人材がいない組織は、いろいろ危険だ。現時点ではこいつがリーダーシップをとって認めさせちゃいるし、トップダウンって考えればありだけど、13歳にトッププダウンされてるあんたら、何なの?て言いたくなる。そう思うと、ついこいつの愚痴も聞いてやんなきゃって思っちまった。ま、俺は年も近いし、その割に経験だけは豊富だしな。
「キミ!聞いているかい!」
「へいへい・・・西街区の代表さんね・・・ムリさせないで、南街区に吸収して、お前の補佐くらいにしといた方が無難じゃね?」
「やはりそうか・・・できれば自立してほしかったんだが。」
西街区の代表で来たおじさんはいい人だけど、単独で2000人をまとめる力はなさそうだ。南街区にまだ人を受け入れられるうちは、そうして、南街区の一部にしちゃった方がいい。西街区は、外門が破壊されているし、守城戦には耐えられない。オーク本軍が来る前に城館と南街区以外は放棄した方がいい。戦いが終わってもそのまま南街区で暮らさせた方がいいし。
「そして、その時は各街区は北の平原からの希望者の移住を受け入れる、で、そのまま街区を再建してもらう・・・で、いいのかな?」
「ああ、自分たちが暮らす街だ。自分たちにやらせるべきだ。」
実は、移住者の受け入れは既に行っているが、なにせ、この後戦闘に入る都市である。都市周辺で生活して、戦いに巻き込まれそうな人たちを中心にしているので、それほど多くはない。
「・・・しかし、700とは・・・。700人で予想戦力1万体と戦う・・・ああ、ボクは逃げ出したいよ!」
ふ。わかってるくせに。まあ、こういう甘えも今だけ言わせてやろう。城館奪回戦の損害、西街区や新たに吸収した人からの志願で、城兵の総数はようやく700人。せめて1000人は欲しかったけどなあ。・・・なんだ、アル?そのジトって視線は?
「・・・キミ、ボクになにか言うべき言葉がないかい?」
いいや?弱音くらい誰だって吐くし、どうせお前、わかってるし。
「それでもだ!それでも近侍たるもの、主に優しくかけるべき言葉があるだろう!」
・・・全く、こいつはメンドくさい。最近ミュシファさんがメンドくさくなくなってきたな
ってホッとしてたのに。やはり思春期年代は、俺の鬼門だ。しかも段々、パーラみたいに生意気になるし。
「そんなの、ねえよ・・・でも、お茶くらいは淹れてやる。」
「わかってない!キミはわかってないぞ!」
何をだよ?全く。それでも淹れなおしたお茶は気に入ったらしく、すこし大人しくなった。
「・・・このお茶うけは、キミが焼いたクッキーか・・・ホントに器用だな。」
「そりゃどうも。」
無駄な器用さである。主である勇者様のお役にたてない無能な従者の器用さなんて、無駄無駄無駄ぁ!ふん。
「・・・またキミはなんか拗らせてるのかい?エン姉様のこと、気にしてるんだな?」
どうして俺の周りの人は、察しが良すぎるんだろう?もと密偵の俺の考えが駄々洩れだ。
「あれも仕方ないだろう。もちろんコルン師が考えていた、エン姉様の土精霊魔術による城郭改修プランの実現をこの目で見たかったが。」
そう。勇者様が精霊の加護使い放題的なチートな時なら、大規模な城郭都市の改修も夢じゃなかった・・・。だったらこんなポンコツ城郭都市で籠城なんかしなくていいのにな。南以外の外城門は破壊されてるし、城壁も穴だらけ。結局、人力じゃ、城館の修理で精いっぱい。
「すまねえ。かえってお前に気を遣わせちまった。」
全く、北方領を支える「北の盟主」様(俺、命名)が、13歳の小さい肩にいろいろのっけて苦労してるのに。なんか最近こいつに元気づけられてばっかだな・・・。ああ、そうか。
「そうだな。手持ちのもので、やり切るだけだ。・・・大丈夫、アル。お前は大丈夫だ。明日もちゃんと乗り切れる・・・俺も、俺たちもついている。」
アルは、急に話を振られてびっくりし・・・そして恥ずかしくなって照れやがった。こんな時のこいつの笑顔は、なかなかかわいい。言ってほしかったこと、これでよかったみたいだ。
翌朝。俺は戦姫様の私室に向かう。さっき会ったミュシファ先輩は朝限定の鬼軍曹モードだ。あんだけ気合入らないと護姫様のお世話に耐えられないらしい。俺は幸いにも三姉妹最強の朝の悪魔?には会っていないから想像もできないけど。
で、もう無駄と悟ったノックは省略。いきなり部屋に入る。女の子の部屋に!って思うヤツもいるかもしれないけど、育ちだけなら上流階級のこいつら、羞恥心皆無だし・・・ホラ!今朝も勝負パンツの赤パン一丁で、毛布も何も放り出して大の字で寝てる15歳成人女子・・・見た目せいぜい13歳・・・だ。ため息をつきながら、それでも一応そのほぼ平らなふくらみからは目は背けて、毛布をかけてやる。さすがに戦姫様相手の鼻血は出なくなった。これが進歩か堕落かは難しいところだ。
で、静かにささやきながら遠ざかる・・・「このちっぱい」って。するとムクッと起き上がった戦姫様が、「ちっぱい言うなぁ」って言いながら強烈なケリを放つ。あれで人は死にます、普通。俺はさすがに警戒していたし、体術だけならなんとか互角以上なので、ひたすら逃げ回る。こうして、俺の回避能力は更に上がる・・・のかねえ?これも一種の修行か、命がけの?
「ち・・・今日も当てられなかったか・・・どんな反射神経してやがるんだ、てめえは!」
だって、当たったら死ぬもん。俺だって毎朝命懸けだよ。女の子起こすのに命懸けって、もっと別なシチュエーション期待したいよ!全く。
それでも戦姫様は、その後は、まあ、大人しく着替えてくれる。平気でパンツ脱いで、下着は俺から手渡しで受け取るけど・・・これはまだハズイ。慣れない。でも俺は平然として見せる。さもないと、コイツにからかわれる。で、仕上げだ。姿見の鏡の前に座らせて、手でその髪を整える。最初はブラシを使ってたんだけど、なんかこいつら、俺の手のほうがいいって言うから・・・でも、時々・・・。
「パシ公?」
「すみません。続けます・・・。もうしばらくお待ちになってください。」
手が止まってしまう。こんなきれいな紅金の髪・・・俺の汚れた手で触れちゃいけないって思っちまう。
「・・・俺の髪、なんかギラギラして、イヤだろ?」
はい?全然、すごいきれい。勇者様は別格だけど・・・。
「戦姫様。とてもおきれいな御髪ですよ・・・どうなさなったのですか?」
「・・・なんか、おめえ、時々辛そうに触ってるだろ?だから、ちょっとな。」
ち。ホントに柄にもなく気を遣いやがって。ふっと昨日こいつに慰められて抱きつかれたことを思い出した・・・ハズカシヌ・・・黒歴史だ。残り少ない人類史にあんなもん残しちゃいけない。挽回だ!でも、今はこの子の誤解を解かなきゃな。
「戦姫様・・・いえ、ソディア様。すみません。俺、時々ボ~ッとしちまって。それは、まあ、俺の病気みたいなもんです・・・。ま、いろいろつまらないことを思い出すと、ちょっと。」
「おめえも、ホンットにめんどくせぇっていうか、辛気くせえっていうか・・・。」
うわ!思春期全開のこいつに面倒くさいなんて言われた!
「お前の昔のことを気にしてるのは、お前だけだ・・・いや、気にならねえってのはウソだが。」
何が言いたいだろ?
「気に病んでるのはお前だけだ・・・もういいんじゃねえか?」
たったその「もういいんんじゃないか」って言葉が、なんか、すごく・・・そう、俺を解放してくれたみたいだった。うまくは言えない。でも、アルといたせいか、パーラとフォグルシスも笑ってるようになった。そして、元「妹」のソディから昨日、今日って言われたことが、俺の心をまた少し軽くしてくれたんだって感じた。
「・・・ありがとうございます。ソディア様・・・。」
「ち。パシ公、お前最近泣き過ぎだ。」
「泣いてません!」
誰が泣くか!昨日は・・・気の迷いだ!全く。・・・ち、挽回してやるぜ!
「・・・ところで、戦姫様。体術の訓練のことですが・・・少しイメージトレーニングを・・・。」
俺は手は休めず、一方、戦姫様には一度目をつぶらせ、仮定した条件での対処法をいくつか出題し、シミュレーションさせた。室内戦、森林戦、山岳戦・・・もういいか。終わりっと。
「なるほど・・・あの場面はこうするべきか・・・って、てめえ!またやりやがったな!」
俺は珍しく部屋の片付けを後回しにして脱兎のごとく逃げ出した。
「お似合いですよ!ソディア様。」
目をつぶってる間に、白銀の花の髪飾りをつけてやった。いや、マジでかわいいぜ。見てくれだけなら。で、そのまま俺は勇者様の部屋に突入した。戦姫様は追っては来られないし、髪をほどきはしない・・・あれで、前回けっこう気にいってたし。
やってやった。ま、ささやかな仕返し・・・いやいやお返しだ。随分世話になっちまった。
さて、と。今日もワールドクエストはなし、か。勇者様のお部屋は普通だった。つまり、以前がそうだったようなカオスじゃない。部屋中に、何か小さい炎とか、水滴とか、動く石とか・・・風の音も聞こえたな。で明るくなったり暗くなったり・・・なんか、こう・・・原初の世界、みたいな、そんな精霊界にでもつながっているかのような怪しい空間ではない。やはり精霊たちが勇者様から離れている今、精霊界とのつながりも途絶えているのだろう。朝に起こす身からすればとてもありがたいんだけど・・・ミュシファさんなんか俺が来る前は毎日精霊たちに遊ばれて主観時間で五日間くらい向こうに行ってたっていうし、俺も二日くらいならそっちに連れていかれた。
が、それも勇者様が『行者』として加護を受けていればこそ。今はその加護がない。それゆえの日常だ。勇者様は既にお目覚めになっていらした。俺は後ろを向いて、声をかける。
「勇者様。おはようございます。今日もいい朝ですよ。」
美しい精霊語の旋律に続いて、衣擦れの音がする。起き上がった勇者様から、毛布がおちたのだろう。そして、今は何も身に着けておられない・・・想像だけで鼻血出そう。実際何度か目にしたことがあって・・・。いかん。顔が赤くなる。
俺はなるべく事務的にお着換えを用意し・・・今日も残念ながら自分では着替えようとしない勇者様のお着換えを手伝った・・・ていうか、はっきり言うと服を着せた。下着から何から!
なんでこんだけ身の廻りのことができないのかミステリーだね。俺は未だに馴染めない。いや、馴染んだら何かが終わっちゃう気がする。
で、髪型を整える。戦姫様に言われたおかげで、今は俺の手が止まることなく、滑らかに勇者様の虹色に髪を撫でる。生まれてから一度も鋏を入れていない、長くて艶やかな、七色に移り変わって輝く髪。本当にきれいだ・・・?
「勇者様、どうなさいました?」
少し落ち込んでいるようだ・・・なるほど。俺はわざと冗談めかして続ける。
「精霊の加護を失ったことを隠していて、今回の戦いに迷惑をかけている・・・とか?」
びくってして、鏡越しに俺を見つめる。上目遣いが、かわいい。
「気が付かない俺が一番いけないんですが、でも、ちゃんと話して・・・教えていただければなんとかなったかもしれませんね。」
すまなそうに身を縮め、口をとがらせる・・・こんな子どもっぽい表情を無防備で見せてくれる。それがたまらなくうれしい。
「ですが、それもこれも済んだことです。」
あれ?
「考えても仕方がないことをクヨクヨしないでください。」
あれれ?
「だから、これから、みんなで、相談して、挽回しましょう!」
そうか・・・これは俺の話だ。ずっとみんなが、ソディが、アルが俺に言ってたことじゃないか。なぁんだ。そうだったのか。
「ハハハハハハ!・・・あ、すいません、勇者様。でもなんか勇者様と一緒に頑張れるんなら、どんな苦労も、俺にとっちゃ、ご褒美です!この従者パルシウスを頼りにしてください!」
久々に俺は声を出して笑った。そしたら、勇者様も笑ってくれた。そうさ、どうせ今さらどうにもならないなら、これから楽しく頑張るだけじゃないか。わかり切ったことだ。でも、やっと分かった気がした。なんか楽しくなった俺は、勇者様と二人で部屋を出た。
「・・・パシ公、随分楽しそうだなぁ。」
おっと、花にまみれたライオンの女王様、いや、いまだけ王女様かな?そんなに赤くなっちゃ怖くないぜ。ホラ、勇者様も抱きついて「いい子いい子」してるし。姉妹二人仲良く朝食に向かってくれた。さて、ミュシファさん・・・ゴメン、俺は今日もキミを手伝えない。育ち過ぎた護姫様と俺の邪念を赦してくれ・・・。胸中でそう呟き。俺も給仕に向かった。疲弊しきったミュシファさんと悠々とした護姫様が来たのは、それから10分後の事だった。
「では、これより族長連合北方領の・・・オーク軍の侵攻を防ぐ人族の代表者会議、通称族長会議を始める。」
ここ数日間の準備期間は瞬く間に過ぎた。なにしろオーク軍の来襲まで時間がないため、最低限のこと以外はかなり後回しになったが、なんとかこぎつけた。
ちなみに参加者はこんな感じ。
まず主催者は、アルテア・オン・ザラウツェス要するにアルだ。会議への参加を望んだ勢力には無条件に、そうでない勢力にも事情に合わせて、城館地下の蔵から物資を提供した。それが、今回集まった連中の一番の理由かもしれないけど、それでもわずか400で、2000の兵が守るザラウツェス城館を奪い、かつての主都を手中にした武名は無視できない。実際のこいつを見て「こんな子どもが?」って顔をしたやつもここ何日かで見たが、ま、コイツの政治手腕はなかなかだし、次第に認められてきたって思う。心服されてるかはまた別問題だけど。
しかし会議に出席する腹心がガレデウスさんだけか・・・深刻な人材不足だ。
それから、同盟者として、山岳民、森人、草原の民の三異族。かつては旧ザラウツェンに従属していたが、今回、同盟勢力ということで礼遇されている。今のところは良好だ。さっそく珍しいお土産をもらい、アルが喜んでいた。
で、ここからが大変だった。北の平原にいる、いろいろな立場の勢力をどうまとめるかで、今まで大もめだった。
で、いくつかのグループに分けて、そこから選ばせることにしたんだ。まず、もともと族長連合の住民だったグループ。ここは平原にずっといた住民を集落ごとにまとめ、さらにその中から代表を決めさせた。30年前に逃げ出した旧ザラウツェン族やゴウンフォルド族には反感を持っているが、城に残り続け、新たにザラウツェスを名乗るアルには素直に従いそうだ。
一方、国内でも他の地域から流れて来た難民は、旧住民や難民同士のトラブルを引きずっていて、なかなかまとまらなかった。最終的にかつての出身地で大まかに3つに分け、それぞれ代表を出させたが・・・一つ一つの勢力は弱く、公平な代表が現れたらすぐに統合した方がよさそうだ。
で、かつて別の国の住民で今ここに住んでいる流民は、その出身国ごとに代表を決めさせた。これも大小合わせて4つ。
もちろんそれが全てではない。呼びかけに間に合わないもの、信用していないもの、敵対的なもの、そもそもわれわれが把握していないもの・・・そんな連中は不参加だ。
そして、我らが勇者エンノとその仲間たちだ。勇者様三姉妹とアルの姉妹宣言は広く伝わっており(もちろん情報工作)、ここでは一勢力として参加が許された・・・しかも出席者多い!
勇者様ご本人(クッキーは取り上げた)、コルンさん。そして護姫様はなんと会議の議長だ。で、戦姫様は辞退(髪型を気にしたわけじゃないようだ。飽きるから。)、俺とミュシファさんは警護兼給仕で参加・・・って思ってたら、
「キミはこっちだ。ボクの近侍だ!」
ええ~っ!でもコルンさんもうなずいて・・・勇者様が悲しそうだったのが救いだけど・・・
そっち側にいかされた。ち。ガレデウスさん・・・しっかりしてよ!結局参加勢力は13。
で、開催者で旧領主の一族で、国内最大の都市を支配するアルが盟主となることが決まった。
マジで「北の盟主」誕生だ。もっとも、なにしろ若すぎるし女だし、後ろ盾に勇者様と巨大な物資がないと難しかったとは思う。でも、なっちまえばこっちのモン・・・でもなかった。
一番困ったのは、かつての流民と難民で、すぐ昔のことをぶり返す。結局武断でケリをつけるしかなかった。それまで辛抱強く調停していたアルがついに立ち上がり、大声を上げる。
「この族長会議の大前提は『過去は不問』だ!ボクは一族の仇である盗賊団の者も恭順した者は城内に住むことを認めた。それをやらないと、我々はまとまれない。ここで一つになれねば滅ぶのだ!つまり、キミたちの様な行為こそが北方領を亡ぼすんだ!・・・パルシウス!」
「は!」
俺はアルの意を察して、警護として使うつもりだった剣を抜いた。そして、今もめていた者たちに近寄り、そして両者に厳しく迫った。多少芝居がかった口調になったけど。
「どうする。わが族長会議の敵となるか!その覚悟があってのことか!」
二人は、若くて童顔の俺を見て、最初は脅しかどうか疑うようだった。甘いよ。俺アサシンだし。普段は消してるけど、ちょっと殺気を出してやった。
しばらくすると二人は青ざめ、震え、そしてアルに謝罪した。
「謝罪は受け入れよう。ただ、繰り返す。我らが族長会議では「過去は不問」だ。過去の恩讐にとらわれて、現在の危機に立ち向かえず、未来を失う行為を、ボクは決して認めない。もしもそれが理解いただけないのならば、たもとを分かつのみだ!繰り返す。昨日よりも今日、そして、明日だ!それが、ボクたちの絆をつくるんだ!」
アルの真摯な訴えは、この場の者たち全てに届いたようだ。しばらくは水を打ったかのような沈黙が続いたが、勇者様が拍手をすると、コルンさんが、ミュシファさんも、次々と拍手の音が広がって、広間は北の盟主アルテア・オン・ザラウツェスを讃える場となった。
俺はこっそり抜け出した。『明日』・・・。一年前に失った俺たち兄弟の明日。明日は俺とパーラとフォグルシスで、ホルゴスに行くはずだった・・・あの夜が来なければ。あの『明日』
が永遠に来ないことを、俺はこの一年で繰り返し思い知ったはずだった。
でも・・・アルは、きっと『明日』を手に入れられる。あいつらの代わりってわけじゃないけど、失ったものは戻らないけど、でも、アルが手に入れる『明日』は守ってやりたいって思った。
「いいかな、パーラ?いいよな、フォグルシス?お前らなら、いいって言うよな。」
今日は泣かない、絶対泣かない。とにかく泣かない!お前らの笑顔が見えるから。お前らの『明日』は戻らないけど、でも俺の中でだけでも、その『笑顔』がはっきり戻ったから。
「どこに言ってたんだい、キミは!一番いいところでボクの近侍がいないだなんて・・・?」
「いえ。少し周辺の警固に。」
「・・・?まぁ・・・そうかい?・・・でも、キミ、よくやってくれた。あの二人をうまく脅してくれて・・・さすがボクのアサシンだ。」
「アル様。その言葉はご容赦を。」
「どうしたんだい?キミ。調子が狂う。いつも通りでいい・・・何よりも、ボクがキミに教えられたことが、みんなに受けいれられた。それがうれしくて・・・だからキミもその場にいるべきだったんだぞ。」
みんなが最近俺を困らせる。泣きたくなる。でも、泣かない。だから、こう言ってやった。
「・・・そりゃ、どうも。」
って。アルはすごく怒ったけど、座が鎮まり始めたので矛先を収めざるを得なかった。
「・・・キミ。覚えてろ!」
そんな感じで、なんとか族長会議も動き出した。
現時点で、族長会議に加盟する勢力は、勇者様を除くと9勢力。ザラウツェン城の8000人、北の平原の7勢力推定3万人。これに同盟勢力の三異族が推定2万人。
兵力で言えば、ザラウツェン城兵はそのまま補充後の700人。が、平原の民からは疲弊した者も多く、未だに自警団の必要もある(魔獣や野獣、あといろんな人間用に)のでせいぜい1500人ってとこか。山岳民1000人、これは後方かく乱用。森人800人、これもオーガ軍の北上に備えて待機。両者は主力決戦の場には招集しない。一方招集するのは草原の民の軽騎兵1000。
要は族長会議の主力はザラウツェン城に城兵と平原の民2200人、城外に遊撃隊として草原の民1000騎。3200人ってことだ。
「決戦用の装甲騎兵はいないのかね?」
物知りの、もと何とか王国の代表が質問してきた。アルが俺を近くに呼んで小声で解説させる。この世界の現代、人族の決戦兵器とその戦術は城郭都市による守城戦と、援軍として派遣される装甲騎兵隊による反攻である。要は頑強な防衛設備で大軍をひきつける。長期の籠城で弱った亜人軍の急所を外部から装甲騎兵が急襲する。これ用の戦馬ってのがまた凶悪で・・・。
「・・・それは困ったな・・・どちらも我が陣営にはないぞ。」
まあ、そうだ。質問の答えはコルンさんに任せるとして、実際、このザラウツェスはポンコツ要塞だ。堀はない、外城門3つは壊れてる、城壁はあちこちに穴。だから、最初から、東街区、北街区、西街区も捨てる。捨てた街区にゲリラ兵を残してもいいけど、扱いが難しい。基本、最初から中央の城館と南街区のみ防衛する。予想される進行ルートは北の大道を南下して、そこからの包囲。ただ、どの街区に主力を置くかと考えれば、先遣隊2000体が寄せて来た東街区が主で、何もない廃墟の北街区が副、西街区は・・・略奪狙いの小部隊はあるけどおまけ、あと南街区の外門を封鎖しにこれもおまけって感じかな。
「オークの死体だが、これは俺たちがもらっていいか?いい革になりそうなんだが。」
草原の民の代表がそんなことを聞いてきた。他の代表たちが思いっきり引いた。が、
「キミ?・・・うん・・・なるほど。・・・いや、それは心強い。草原の民がお望みならば、ご自身で得られたオーク族の死体は進呈する。ただし、その革でつくった品は、交易品としてはちょっと困る。市には持ってこないようお願いする。」
アルが冗談めかして言うと、会場はどっと笑いに包まれ、一方草原の民も失笑しながらも言い分は通ったので満足して頷いていた。
草原の民の軽騎兵隊は、おそらく北街区に侵入する前のオーク兵を大いに叩いてもらわなければならない。加えてオークの死体は戦場に残さない方が都合がいい。ぜひ持って行ってもらいたい。気が付くと、コルンさんがオーク軍の説明を始めていた。
「オーク軍は、その種族的特性「雑食」「適応力」「繁殖力」から・・・」
「キミ。要約してくれ。」
へいへい。つまりは、食欲旺盛だ。これがこの軍の特徴だ。まず食えるものは何でも食う。もちろん好みはあるけど、いざとなれば、何でもだ。だから、まず兵は歩兵のみだ。あれだけ適応力があり、クラスアップ、クラスチェンジと簡単にできるのに、騎乗用、輸送用、使役用・・・つまり食うこと以外に家畜は使えない。食っちまう。一方歩兵の種類は多い。一般兵ソルジャー種、戦士ウォリアー種、近衛兵ガーズ種、隊長チーフ種、弓兵アーチャー種、将軍ジェネラル種・・・ざっとこんな感じ。前に戦ったオーガ軍と比べても、兵の種類と言うよりクラスごとの違いにまでなっている。つまり生物的に兵種により適応してクラスが変わるって感じ。
で、話を戻すと家畜がいないから、騎兵も輸送隊もない。だから、出陣したら、各兵は自分の食料を自分で持って行軍する。武器や装備よりも、まず食糧と鍋を優先する・・・昔のニホン軍みたい。武器より飯盒ってか。さすがに上級種は従士とかが運ぶ。結局輸送用の部隊を作ってもそいつらが自分の食い物くっちまうんじゃないかってケンカになるだけ。実際そうだし。で、食料を計画的に消費できない奴は、現地調達・・・で済めばいいんだけど、概ね次の段階・・・隊内調達に走る。つまり、仲間の食料を奪う、更に仲間を食料にする・・・。
「待って、キミ。じゃ、草原の民にオークの死体をやると言ったのは・・・。」
「そういう事。死んだ敵味方はただの食料。下手すりゃ生きてても、ね。だから食料回収さ。」
「・・・ボクはちょっと気分が悪くなってきたよ。」
「でも、覚えておいて・・・だから、俺たちもなるべく仲間は助けて。味方の死体は回収して。戦場で傷ついた仲間を生きたまま置き去りになんてしたら・・・。」
「布告する!絶対だ!」
・・・オークが軍として強力になったのは、人族の農業を模倣したことからだ。オークの中にも、生産に適応した一般種がいるってウワサだけど・・・一般種と一般兵はすぐにクラスチェンジできるらしいけど、兵になると体力は上がって、でもかなり食うようになるらしい。だから、奴らの共同体の中じゃ、一般種をできるだけ多くして、食料を作らせ、で、備蓄したら、一般兵にするって流れらしい・・・。
「随分便利だな・・・ある意味進化してる。」
「ま、種族としての『適応力』だな。ついでに『繁殖』だが・・・」
「それは、ちょっと・・・聞きづらいな。」
ち。なに顔赤くしてるんだか。思春期症候群か、コイツも。でも・・・。
「じゃ、一つだけ・・・もしもお前があいつらに捕まったら、俺がお前を必ず殺してやる。」
結構マジな顔で俺はアルに言った・・・伝わったようだ。アルもしっかり俺を見返した。
「・・・お願いするね、キミ。約束だ、ボクのアサシン。」
「ま、その前にそうならないようにしようってことなんだが。」
「も、もちろんだ。」
・・・こいつには言えねえが、オークとゴブリンが持っている「繁殖」だ。このおかげでこいつらは他の人型種族の異性をはらませることも、はらむこともできる。ついでに極めて多産・・・。もしもオーク種が大陸中に広がったらって考えると、ぞっとするね。
「しかしながら、今国境付近にある敵の屯田では・・・」
はい?コルンさん?今何て言った?
「・・・5年ほど前からある人族からオーク族に屯田兵の技術が流出しました。この結果、王国南部域までオーク種は支配を広げ、族長連合との国境付近にも大規模な屯田が確認されました。これがさるホルゴス戦役での主力の根拠地であり、先の先遣隊の・・・」
マジか。聞いてねえぞ・・・。
「キミ?屯田って?」
ああ・・・。要するに人族の場合、兵も農民も物は食う。しかし、農民は食い物を作るが、兵隊は食うだけ。だから、兵隊が多いと食料をたくさん準備しないといけないってことで。
そこで、兵隊に食い物を、つまり農業をさせるのが屯田兵。食料を自給させるわけだ。
「しかし、これをオークが身につけると・・・」
「そうか、一般種として農業を行い、備蓄したら一般兵にクラスチェンジ・・・人族以上に効率がいいんだ・・・。」
「どこのバカだ。そんなもん流出させやがって。」
ほんと、人間の敵は人間だ・・・また人類史の残りページが減った気がする。
「この度、このザラウツェス、いえ、北方領にオークが侵攻する目的は、南方のホルゴスよりも、むしろ、この北の平原での屯田設営、と考える方が自然だと思われます。」
多くの者が、その意味することに気づき、動揺する。中にはザラウツェン城の攻防だけの侵攻だと甘く考えていた者も多かったようだ。いや、俺ですら屯田設営は頭になかった。
・・・そんなものを作る気なら、今いる平原の民は・・・よくて皆殺しだな。悪ければ?考えたくもねえよ。そんな未来。
コルンさんの声を聞きながら、俺は最悪の未来を防ぐために、自分に何ができるのか、
考え続けた。




