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勇者の従者は泣き虫アサシン  作者: SHO-DA
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第8章 姉妹の対立

         --------------------

 一年に一日だけ、満月になる日。聖月の輝週、7の日。それは、一年に一度だけ異世界からの召喚ができる日。ここ族長連合ではこの数十年、毎年この日に召喚を試みていた。

 亜人との戦いに追い詰められた連合が、戦いの助けになる人材を増やすために。

 召喚そのものが失敗することが多い。だから、17年前、赤ん坊の姿で召喚された俺は、一族に歓迎された。

 召喚された者は、前世の力を残し、その強い力をこの世で発揮することを期待されている。

 俺が召喚された前年、俺、翌年、更に次の年。この4年間で4回召喚に成功し、俺以外の3人には、「才能」が認められた。4回続けて召喚に成功することさえ、この時だけだった。 

 が、俺は、この世界に必要とされている「才能」がなかった。戦闘術、精霊術、魔術・・・そんな力がない。俺以外の3人には見事な「才能」があったのに。

 今も昔も、俺には肝心なところが欠けているらしい。

 だから、5歳になる前に、召喚した族長が役立たずの俺を諦めて、里子に出した。

 族長は、精神を司る精霊に呼び掛け、俺の記憶を術で封じていた。

 そして、一年前のあの夜、封印は破られた。パーラとフォグルシスの死とともに。

          -------------------- 

第8章 姉妹の対立


 翌朝。・・・運よく俺は生きのびたらしい。頭が多少痛いが許容範囲だ。それでも朝食食う気にもなれず、それどころか三姉妹の朝の身支度を一人で整えて疲弊しきったミュシファさんに起こしてもらったくらいだ。

「・・・ホントすみません。先輩。」

「・・・へへ。パシリに謝ってもらうのって、なんか珍しい。」

 米の粥まで用意してもらった。ホント、申し訳ない。でも

「昨夜のミュシファさん、大人気だったね。」

「あ・・・うん。ちょっと恥ずかしかったけど。」

 この子、いつもドジばっかでやらかして、それでも一生懸命頑張ってて。いつの間にか成長してたんだなあ・・・感動。くやしさも少しあるけど。

「でもね・・・パシリのこと、すごいってみんな褒めてたよ・・・パシコー教官とか、近侍殿とか、従者の方とか・・・最初、誰のことだかわかんなかったけど。」

 ほんと、俺一人何役で雑用やってんだろ。雑用係としては確かに何とか認められてるけど、勇者様の従者としては、失格だよな、精霊の件も、身の回りのお世話の件も。

「あの・・・パシリ・・・ゆっくり休んでしてほしいんだけど、コルンさんが、話し合いには来てって。」

 ・・・ああ。大切な話し合いに呼ばれてるってことは、まだ必要とされてるのかな。俺は今回は失態続きだ。情報未確認の挙句勝手に暗殺、それでオーク軍に城館を奪われて状況を最悪にし、結局それを挽回するために無理な城攻め・・・多くの負傷者を出した。いや、アルの独走だって俺がちゃんと近侍らしく側にいてやればもっとうまくやれたのに。危うくあいつを死なせるところだった。もしそうなっていたら、北方族長会議の中核を失うところだった・・・。そして何より、勇者様・・・。あんなに危うい状態だったなんて。それなのに勇者としての存在感をあんなにうまく見せてくれて、アルにも認めさせて・・・俺、何にもできなかった。

「・・・パシリ?・・・やっぱり、おいしくない?」

「いや、そんなことはない・・・正直に言えば、すごくおいしいって程じゃない。でも、なんか、安心する。食べてて、ほっとする。前よりずっとおいしくなってるよ、ミュシファさんの料理。」

 もっと大げさにほめようかな、って思ったけど、きっとこの子は喜ばない。だから、思ったことを俺は飾らず、でも真剣に伝えようと思った。それが伝わったみたいだ。

「・・・えへ。お世辞じゃない?前みたいな?」

 ああ・・・以前俺は仲間に取り入るために、普通にこの子にもお世辞を言ってたな。悪いことした。でも、ウソはその時から言っちゃいない、『仕事』以外の件については、だけど。

「お世辞じゃない。おいしくなった・・・正しく偽らず、いつも頑張ってるミュシファさんだから、ちゃんと結果がついてくるんだ。」

 つい癖で、空いてる右手でミュシファさんの髪を撫でてしまった。もっとも彼女もかなり慣れて来たのか、目をつむって、じっとしてた・・・ちょっと顔が赤いかな。子ども扱いしてると思われるよな。あれ?

「誰かいるのか?部屋の外に?」

 なんか気配がする・・・ってガタ。またノックもなしかよ、アル。

「キミは!そんなに簡単に女の髪を撫でるのか!・・・ふしだらだ!」

「ああ・・・そういや、俺も毎朝髪を整えてもらってるけど、撫でるのうまいんだぜ、こいつ。」

「そんな、ソディ姉様まで・・・ボクにはしたことないだろう!キミ!」

 お前は会って三日目の赤の他人だろ・・・って、おっと今は主の義妹か。面倒くさい人間関係。いや、それは関係ないか?ふっと自分の手を見てしまう。この汚れ切った手で女の子の髪を触れること自体が罪だ・・・ミュシファさんの髪から手を離す。

「ゴメン。またやっちゃった。迷惑だよね。」

「え・・・そんなこと・・・ないけど・・・。」

 ミュシファさんが消え入りそうな声で言ってくれたけど、無理に我慢させるわけにはいかない。自重しよう。しかし・・・仲良くなりすぎじゃね?こいつら。

「ああ、だって、アルの奴、初陣なのにちゃんと勝負所は突撃かましたんだぜ。なかなか大したもんだ。」

 大筋では合意したいんだけど、近侍としては無駄な危険にさらしてしまって、賛同しづらい。でも、戦姫様が認めたなら、それはそれで意味はあった・・・かな?

「ソディ姉様こそ、一見衛兵に扮していながらの、ここぞの時の奮戦ぶり。第2小隊の者どもが心酔してたよ!」

 まあ「苦戦の中の勝利」を通して、軍をまとめていくっていう、北方領での戦闘方針がうまくいった実例がここにある。深入りすまい。実際、戦姫様、目立たずうまくやってくれてた。

「あの・・・お二人とも・・・パシリはまだ疲れているので、しばらく休ませてあげて下さい!朝にそう伝えたはずです!」

 え?ミュシファさん、ここ切れるところ?ってか、大丈夫?こんな狂暴なのと強引なのを相手に文句言ったりして。ホラ。

「何だって!こいつはボクの近侍でもあるんだぞ。心配して何が悪い!そもそもお前は何なんだ!こいつの世話を何でお前がしてるんだ!」

 ・・・それは、他の人にさせたら、俺が死ぬから。家事技能が低いコルンさんですら危うい。キーシルドさんくらいか、できそうなのは。でもあの人も朝から忙しいし。そもそも従士の先輩がしてくれることに何の不思議もないんだが。で、ホラ。

「あたしは、隊の従士で、パシリの先輩で、スカウトやレンジャーや従僕技能の弟子だから、こんな時くらい世話するのが当然なんです!お二人が押しかける方が非常識です!」

 でも・・・そこまで言っちゃう?正論だけどやばくない?この状況で。ホラ。

「ここはボクの屋敷だ!ボクがどこに居ようとボクの勝手だ!」

 こらアカン・・・俺はひたすら戦姫様を見つめることにした。まさかライオンの女王様相手にこんなことが通じるとは思わなかったが、なんか二人でぎゃあぎゃあ言ってるのを見てたらまだマシかなって思えたんだ。そしたら、なんと、通じたね。

「ああ・・・アル。ここは病室みたいなもんだ。俺たちが退こうぜ。ミの字、邪魔したな。」

 戦姫様はこう言ってアルを連れ出してくれた。途端に俺もミュシファさんもクタクタ~って感じ。もう今日一日分の体力消費したっぽい。


「・・・お疲れね。まだ昨日のお酒がぬけないのかしら。」

 いいえコルンさん。今朝の疲れです。そう言いたいのを俺はこらえてニコニコ。

「いえ。もう平気です。」

 って、心にもない一言を返す。あ~勇者様、そんなに落ち込まないでください。夕べのイタズラなんて、親愛の表現だと思えばご褒美ですから。

「・・・キミ。エン姉様と陣法師殿には随分態度が変わるんだね。」

 そりゃ、俺の勇者様だし、コルンさんもイロイロすごい人だし。たまに悪い人だけど。

「ま、パシ公はエン姉の従者だからな。」

 今日のフォロー、ホント、ナイスです。戦姫様。

「ボクの近侍でもあるんだけどね。」

 それはお前が言ってるだけ!俺は認めてないの。義理でフリしてるだけなの。でもコルンさんが、また俺を責めるような目で見る・・・俺が悪いの?

「うむ・・・では始める。」

 ナイス。護姫様。早くやろ。


 さて、まずは冒頭では現時点での情勢が確認された。

 城館の物資については、まず食糧が5万人の人口を仮定した場合、最低半年分は備蓄していたと思われていたが、実際は5か月分程度であろう。詳細はもう少し調べるが、米に小麦、大麦、豆類、保存されている大部分は穀物で、一部に急遽とりあえず放り込んだと思われる酒や肉などもあったが、これは封印を解いた今さっさと食べた方がよさそうである。もちろんみんなそのつもりだが。

 で、現時点で旧都、つまりかつての主都であるザラウツェスの人口だが、ほぼ確実に把握できるのはアルが治める南街区の5000人ほど。30年前は東西南北の各街区にそれぞれ15000人以上はいたというから、かつての三分の一以下だが、これでも城内では最大、ていうか過半数を占めるらしい。ざっとだが、他は雑居区となった西街区に2000人前後、東街区はオーク軍侵入後激減したはずで、いても1000人いないだろう、廃墟の北街区はほぼ無人。だから、城内の人口はおそらく8000人をきっている。かつて5万人の巨大都市だったが今や見る影もない。小都市並みである。

 これだけならば、軍としては不安だが、食料には当面苦労はしない・・・が、

「北の平原(と言ってもザラウツェスより南)にいかほどの人口がいるか、正直皆目見当もつきません。」

 キーシルドさんはこの会議前、セウルギンさんとともに北の平原の、かつて天界主教を信仰していた人々が暮らす地域に向かっている。そこで、教会を修復し、彼は帝国に転移する。彼には天界主教会宛のアルの親書・・・北方領での布教の許可と民への支援を申し出る内容・・・を託していた。その途中で人口についてできる限りの調査をする予定で、これにはアルの部下にも協力してもらう・・・いや、むしろこっちが手伝いか。今の時点では1万人はいそうだけど、10万人はいないんじゃない?くらいのとても予想とすらいえない状態だ。

 そして、ザラウツェン一族が支配していたころ、それに半ば従属していたのが周辺の三異族。

まず北の大道を挟んで東の山岳地帯にいる山岳民。じつはこれは護姫様とミュシファさんがが交渉済みである。手土産は戦姫様が道中退治した岩竜と山賊団。ああ・・・あれね。ここで役立ったのね。っていうより、コルンさん、うまく役立てたのね。廃品活用の名人だね。

 で、これは後の二つの異族ともそうする予定だけど

「もう昔とは違うのです。今さらザラウツェン・・・いえ、ザラウツェス一族に従属させるのはムリと判断します。ですから、新たに国交を開き、対等の同盟を結ぶ。そういう路線への変更を提案いたします。」

 コルンさんが勇者様とアルに対して、献策している。勇者様が微笑んでアルを見つめると、難しい顔をしていたアルも微笑み返す。なんかいい関係だな。

「わかったよ、陣法師どの。対等の同盟だ。平時には交易を。戦時には兵を。それでいい。」

 これで、正式な使者を出すことで、まず山岳民との同盟は問題なさそうだ。山岳民には、オーク軍が侵攻してきたら、山岳地域に陣取ってもらい圧力をかけてもらう。もっとも兵力は1000人に満たないと思われるので、あくまで牽制だ。それでも敵の一部が向かってきたら、得意の山岳戦で一泡ふかせてもらう。ま、無理するな、てのが前提だけど。こういう牽制は存在することに意義がある。相手を倒そうなんて無理に戦われちゃ、逆に迷惑だ。もちろん隙あらば敵の後方に嫌がらせしてもらう。奪った物資はそのままご進呈だ。少数だが、野山を自在に駆ける山岳騎兵っていうのもいるらしい。頼もしいね。

 続いて西の森人である。これから使者を送ることになるが、基本的に敵にならなければそれでいい。もちろん同盟の提案をするんだけど、オーク軍の侵攻方向からは遠すぎるし、万が一にオーガ軍が呼応して北上した時の備えとして、むしろ残しておきたい。弓兵主体の彼らである。もしもの際には森での遅滞に徹してもらう。

 そして最後は、草原の民。このザラウツェスの北方にある草原地帯で暮らす遊牧民。風の精霊の加護を受けた者が比較的多いらしいが、それよりもやはり軽騎兵としての戦闘力はぜひ味方にしたい。もともと交易の民でもある彼らは、こちらから交易の提案をすれば好意的な反応が期待できる・・・更に

「三異族を中心に、そのほかの民にも、このザラウツェスでの定期市への参加を呼びかけます。」

「おい・・・パシ公。コルンのヤツ、なに言ってるんだ?」

「ええと、戦姫様、それはですね・・・。」 

 つまり、公式な民族同士の交易・交流に加えて、お互いの民が自由に物資を持ち寄って交換しあう場を提供するってことだ。楽しそう・・・もっともそれだけじゃないね、コルンさん。交友を深めかつ相互利益を一層高め、ザラウツェスの発展にも一役買ってもらうっていう政策だ。すごいなぁ。特に交易大好きな遊牧民は、大歓迎じゃないか?

 アルは、さすがにこの政策の理解には時間がかかったが、戦姫様に俺がそう説明していると

「なるほど・・・い、いや、わかってはいたが・・・さすがボクの近侍だ。」

 なんて反応しやがった・・・素直じゃない。ま、13歳の族長じゃ背伸びはやむなし。あら、勇者様がアルの頭を撫でている・・・畜生。うらやましい。

 ところで、昨夜の突然の姉妹宣言である。あれでコルンさんはずいぶん楽になったみたいで、セウルギンさんも上機嫌になった彼女をニヤニヤして見ていた。

 我々からすれば、旗印として掲げるアルが、勇者様の「妹」宣言をしてくれたおかげで、非公式とは言え今後の族長会議の中での影響力を認められたことになる。これがゴウンフォルド家を前面に出しちゃうと反感を買うかもしれないけど、『北の盟主』(俺、命名)の姉貴となると素直に聞いてくれそうだ。だから、『勇者の旗』を掲げて戦うこともできるかもしれない。

 一方アルにしても、昨日の戦いで、わずか8人実質6人の俺たちがどれだけ戦えるか思い知った。その上で指揮権はアルにあることを・・・シャレじゃないよ・・・勇者様ご自身が全軍に示してくださった。あの凄まじい力を見せた勇者様・・ついでに超美人・・・がそうしたのである。これは族長会議の主導権を握る上で大きな力になる。更に勇者様を姉と仰ぐことで、オーク軍を追い払った後で本国の・・・つまり族長連合内のゴウンフォルド家に好意的に受け取られ、その支配権を公認されることに役立つかもしれない。

 いろいろ考えても、勇者様三姉妹とアルが「姉妹」になったことは、大きな前進になった・・・俺以外からすりゃ、な。俺にとっては、なんかいろいろ面倒くさくなって・・・もうやめてっ感じなんだけど。

 傍から見てりゃ勇者様とアルは仲がよさそうだ。実際いいと思う。最初にアルが俺に吹っ掛けて来た「もし勇者が俺の思った通りの勇者様じゃなかったらここに残れ」なんて、もうどっかにいっちまっただろ。

 しかし、もう一件。勇者様には捨てておけない現状が未解決のままだった・・・。

 それは、現状の報告が終わり、大きな方針が次々と決まっていく中で、次第に勇者様と護姫様が見つめ合い、沈黙する時間が長くなっていたことで、俺にヒシヒシと伝わってきた。もっとも俺以外で気づいていたのはコルンさんくらいで、勇者様にすっかり引っ付いてたアルも、長年の妹である戦姫様もわかってなかった。

 俺は例によって『お茶の時間』と称して護姫様に休憩を提案し、護姫様は明らかにほっとした様子でそれを受け入れた。そして、彼女が俺を密かに呼んだ。


「ユシウス・・・気づいているのか?」

「どの件のことさ?シル姉。勇者様・・・エンが精霊とケンカしてるって話かい、それともその原因が俺だってことかい・・・あるいは、勇者様が精霊魔術を使えないことを、この場でアルにも教えようってことかい!?」

 シル姉は大きくため息をついた。

「全く、お前には昔から隠し事はできんのだな。」

「とんでもない。俺は間抜けにも、昨日までそのことを考えもしなかったさ。ほんと大間抜けだ・・・何が勇者様の従者だ・・・従者失格だ・・・。」

 つい泣きたくなる。シル姉といると、甘ったれてしまいそうだ。ダメだな。俺は。

「・・・お前をそそのかして『鋼の王』の力を振るわせたのは我だぞ。お前の責任ではない。」

「何言ってるんだか。たった二人の眷属だろ。シル姉一人に負わせないし、何しろ実際にあんな化け物を召喚させたのは俺なんだから、やはり俺のせいじゃないか。ちょっとでかいモン過ぎたんだ。」

 鋼鉄の巨艦。わずか一撃で屈強のオーガ兵千人をこの世から消し去り、姿なき肉塊に変えた。

俺は、まだ世に、精霊の仲間にすら存在を認められていない『鋼の精霊』の力をあまりに示し過ぎたことでエンノが他の精霊から何らかの処罰・・・無視?・・・を受けているんじゃないかという推測を話し、シル姉に概ね肯定された。ち。やっぱ俺のせいじゃねえか。

「ただ、処罰、という厳密なものでもないようだ、精霊たちは・・・困惑している。どう

すればよいのか、彼らも考えあぐねている・・・そう言う波動が伝わってくるんだそうだ。」

 ・・・なんだろ?俺の脳裏には、なんかクラスにやってきたばかりの転校生が、みんなのアイドルを独占した挙句すげえことやらかして、クラス中引いてる的なイメージが浮かんだ・・・クラス?転校生?・・・わかるけどわかんねえ。前世ワードだ。

 しかし、どうも、俺はそんな面倒くさい精霊の眷属らしいので、普通の精霊関係のことはよくわかんねえし感じもしねえ。シル姉だって、俺より知識は豊富だけど、精霊使いとしては、力を封じたきりだ。もう少しまともな・・・って、ああ!?

「シル姉!そういう時は、仲介者を立てるんだよ!」

 とりあえず引いているメンバーでも、比較的こっち側ともつながりがあって、向こうにも顔が利くヤツ・・・。

「そんな者が・・・おおっ?いたではないか!これ以上ないくらい身近に!」

「まさに、灯台もとクラッシュ!」

 ・・・ええと、意味は自分でもわかんないけど、そいつはまさにクラッシュなヤツだから。


「あん?火の精霊に聞いてほしい?」

 そう、火の精霊の加護を持ち、その精霊回路を刻まれた証、紅金の髪を持つこの人、戦姫様!

俺と護姫様は大急ぎで戦姫様を見つけ、人気のない所に引きずり込んだ。

「そうです。『火の精霊』様は、人族によって現象界に広がり上位精霊となった、人に最も近しい精霊。加えて、『闇の精霊』に次いで『鋼の精霊』に近い!」

 最後のこれ、俺の実体験ね。ワールドクエストでの。

「・・・なんだぁ、その鋼のれんき・・・」

 ピーピーピー。それ、NGワードだから。精霊!鋼の精霊!

「『鋼の精霊』?聞いたこともねえぞ?」

 どうしよう。俺の秘密、もう一つこいつに言わなきゃダメかな。まったく俺には人に言えない秘密が多すぎる・・・。困った俺はついシル姉・・・護姫様を見てしまった。でも・・・。

一度呼んだ武具なら簡易詠唱で、真名、名乗んなくてもいいの?・・・ち。俺は覚悟を決めた。

「おい、ユ・・・パルシウス!?」

 何かを察した護姫様が俺を止める前に、闇をまとった俺は左の拳にゴウンフォルドの族章を輝かせた。そして、ワルドガルドの名を唱える。

「て・・・てめえ?パシ公、まさか?」

「武具召喚!」

 左手の輝きが収まると、そこにはかつて戦姫様とまみえた時に俺が使っていた、この世ならぬ武具・・・スミス&ウエッソン モデル460があった。そして俺の髪は黒くなっているはずだ。

「ああ・・・お前と二度目にやりあった時は、そんな格好してそんな物騒なモン持ってやがったよな・・・で、その族章・・・シル姉も知ってたのかい?」

 いつもの、最近俺に見せてくれる親しみのこもった表情は消え失せ、まさに強敵と戦う前の

猛獣がそこにいた。覚悟はしていたが、悲しかった。だが俺はそのまま膝まずいて、敵意のないことを示す。

「戦姫様・・・これが『鋼の精霊』の眷属としての俺の姿・・・そして俺の武具です。」

 そう言って、俺は戦姫様に、慎重に内容を選びながら、事情を話した。

 俺が同族の末で、今は追放された身であること。そして、未だに承認されていない、最も新しい精霊『鋼鉄の王』の眷属であること。ホルゴスでの決戦の最中、勇者様の協力を得て、この世ならぬモノを召喚し、それが精霊たちの不興を買い、勇者様が精霊からの加護を得られなくなっていること・・・。

「ですが、『鋼の精霊』に近しく、人に最も親しい『火の精霊』に仲介をとっていただければ・・・あるいはこの事態も改善できるかもしれません・・・。」

「ち・・・要するにエン姉が今精霊魔術を使えねえのは、おめえがやりすぎたからだってことかい。」

 戦姫様の両眼・・・実はその瞳も紅金の輝きに満ちている・・・が殺意を持って俺をにらむ。以前であれば、ただのアサシンであった俺ならばそれを受け流すことができた。でも、今の俺はその殺気を全身で受け止めた。おそらく常人であれば気死するレベルの、彼女・・・かつての妹ソディアの殺気を。皮膚は自然に震え、背中に冷汗が流れ落ちる。そして、心臓が締め付けられる。ただ、それは殺気のせいだけではない。かつて妹として過ごし、今は仲間として共に戦った日々が、どうしようもなく俺を苦しめる。何より、あれほどの信頼を受けた相手からの、この怒り・・・。

 が、殺気がふっと和らいだ。いや、護姫様が遮ったのだ。

「・・・シル姉。前から思っちゃいたが、コイツに甘過ぎねえか?」

 長身のシル姉と小柄なソディ。姉妹の視線がぶつかった。二人の間に緊張がはしる。俺は、この仲の良い、本当に仲良しな二人が対立する姿なんかを見たくなかった。この世で最も見たくないものだ。しかも、それが、俺なんかのためなんて、絶対にあってはならない。

「護姫様、おやめください。戦姫様は正しいことをなされているのです。俺のためにお二人が争うなんて!」

 俺は衝動的に左手に持ったM460を自分のこめかみに向け、引き金を・・・

「バカ野郎!」

 正面の戦姫様が俺の左手を蹴り砕いた

「愚か者め!」

 振り向きざまに護姫様がカカトを俺のこめかみに叩き込んだ。

 俺はさすがにその場に倒れこむ。

「ち・・・シル姉。さすがにやりすぎだろ。」

「それはお前だ。手加減してやれ。」

 意識が遠のく中で・・・俺は・・あれ?あったかくて、なんか柔らかくて・・・花の香りがする。え!?勇者様が崩れかかった俺を抱きとめてくださっていた。途切れそうな意識が一瞬戻る。

 美しい、それは美しい精霊語の調べが勇者様の口から護姫様と戦姫様に向けられる。

「い・・・い、いや、待ってくれ、エン姉!これには事情があって・・・なあシル姉!」

「そ、そうだぞ。エン・・・軽挙は慎もうではないか・・・いや、だからな?」

 それでもエン・・・俺の勇者様は怒りを収めず、むしろ高ぶっていった・・・。だめだ。俺は薄れゆく意識を懸命につなぎとめていたが、もう限界だ。でも・・・このままじゃ・・・。

「勇者様・・・エンノ様、おやめください。俺なんかのために。そんな・・・俺は殴られて蹴られて・・・いえ、殺されて当たり前のことをしたんです。俺なんかのために大切な姉妹が・・・あんなに仲のいい、ホントに俺が大好きな三人がケンカなんか・・・やめて、エン・・・」

 最後にやっとこれだけ言って・・・俺の意識は闇に引きずりこまれた。


 意識なんか、戻りたくなかった。あのまま天界に行きたかった。俺の不始末で、あの仲のいい姉妹たちが・・・俺は本当に死にたくなった。いや、死は常に俺にとって近しく、救いですらある。俺は寝かされていた寝台の中で、ふと誘われるように隠し持っていた短刀を取り出す。

 ボグワッ。周りのことすら見えていなかった俺は、不意にアルに殴られて短刀を奪われた。

「・・・ボクのアサシンは物騒だね。こんなものを隠し持ってたのかい。さすが、かな。」

「ち・・・。」

 あきれながら俺の顔を覗き込むアル。

「陣法師殿が頭を抱えていたよ。姉様方も、なんかとても気まずくて。ま、この件に関しては中立なボクがキミの介護、というより見張りと言うべきだろうね、を仰せつかって。しかし、目を覚ましていきなり死のうとするかね・・・死を見ること忽ち帰するが如しって心境かい?」

「・・・まあ、そうかな。死は親戚みたいなもんだ。」

 多くの人を暗殺し、仲間すら裏切っていた俺。それを償うのが死なら、安いものさ。

「事情はシル姉様から聞いたけど。キミが死ぬ話でもないし、死んでどうなるものでもない・・・まあ、もしも姉様方と一緒にいるのがつらくなったんなら、前に言ったようにここでボクの家臣になればいいさ。何かを償いたいのなら、この北方領のために尽くしてくれればいい。それで多くの者が救われる・・・どうかな?」

「考えさせてくれ。」

 正直、答えた俺自身が意外だった。ただ、俺はあの大好きな三人に、とくに勇者様・・・エン・・・に合わせる顔がなかったんだ。俺如きが、あの三姉妹にケンカをさせてしまった。忠誠を誓った勇者様にたいして、そのお力を奪うようなことをして、しかもそのことに半月も気が付かなかった。従者失格。何度も同じ思いが頭の中を駆け巡る。

「だが、俺なんか家臣にしてもロクなことがないぞ。」

 なにしろ、一番なりたいもの、一番やりたいこと、一番身につけたいこと・・・大事なものはことごとく俺の手に入らない。やっぱり俺は半端なヤツだ。

「・・・やれやれ。陣法師殿が言うわけだ。キミは自分のことを、この世で一番わかっちゃいない。」

 なんだ、それ。

「体調はそれなりに戻ったようだし・・・街の巡回に行く。ボクの警護を命ずる。」

 アルはこう言って強引に俺を連れ出した。


 南街区は随分にぎやかだ。もうすぐ次の戦争が始まる・・・だからか?だが、以前通った時とは漂っていた緊張感が薄れ、明るさすら感じられる。

「どうだい!まだ一日だけど、城館の余剰物資の一部を街に流しただけでこの賑わいさ。今日の会議が終わったら、近隣のいろんな民にも呼び掛けて、物資を配分する。いろんな民の代表が訪れて、ここで暮らしたい者がいれば移住させるし、きっとこれからどんどん発展するよ。」

 アルは俺の手を引っ張って、自分の街を俺に見せて回った。正直、ホルゴスと比べたら、店も品も乏しいけど、昨日まではなかった『何か』が、街を飾っていた。

 そして、突然アルのヤツ、こんなことを言いやがった。

「ねえ、キミ。昨日までみんな戦いに怯えていた。ボクたちの未来は暗かった。でも、キミたちのおかげだ。姉様方の、お仲間たちの、もちろん兵士たちの・・・でも、ボクにとっては一番はキミのおかげ。なにしろキミがボクに勇気をくれた。キミからもらった勇気で、ボクは戦えた。キミがキミをどう思ってるかはともかく、ボクが、少なくてもボクだけはそう思ってる。それを信じてくれないかい?」

 ち・・・こいつ。それを俺に伝えるために?・・・阿呆、今、俺の顔を見るのはNGだ!

「はいはい。ボクのアサシンは泣き虫だね。」

 泣いてねえ!


 街を歩いてしばらくすると、結構人が寄ってくる。アルは当然有名人・・・そりゃ領主っていうか族長だし・・・だけど、意外に気さくにみんな接している。こいつ、好かれてるな。いい領主なんだ、若いのにってか子ども。

「そりゃ、あんなに苦しい中で、領主でございます、お嬢様です、なんてやってられないだろ?けっこうみんなとは顔見知りだよ・・・ああ、なに、ボクの連れ?こいつは近侍のパシコーだ!あ、有名かい?・・・思ったより小柄で若いって・・・?」

 ち。無駄に有名になっちまってた。それでもアルが紹介したもんだから、俺も会う人にあいさつしたり握手を求められたり・・・おっと、笑顔笑顔っと。基本、人と会う時は『笑顔』。

「キミは・・・時々そんな顔をするね。」

 周りに人がいなくなった時、アルは不意にそんなことを言った。

「その・・・ヘラヘラした、愛想笑いっぽいやつ。」

「へ?いや、俺はいつもこんな顔だけど。」

 俺は組織に笑顔を仕込まれている。今でも基本は笑顔、この顔だ。

「ボクにはそうじゃない。初めて会った時から、けっこうアイソのない顔だぞ。」

「ああ・・・そっちの方が地顔かな・・・ってそうだっけ?」

 ・・・そうかもな。なぜか・・・いや、わかってる。最初はこいつをフォグルシスかと思った。次いで、女の子だって知って、どうしてもパーラとかぶっちまった。かなり素で対応してた。仲間とだってシル姉と二人きり以外の時は、けっこう下っ端らしく笑うようにしてたけど、コイツにはどうしてもそうはできなかった・・・これもシスコンにブラコンってヤツなのか?

「ボクには、そのままでいいぞ・・・だが、キミは姉様方にもそんなに気を遣ってるのかい?」

 従者だぜ?当然だろ?

「そうかな。ボクには必要以上にへりくだっているように思えたけど。」

 ・・・そうかもな。いつも引け目に感じてたんだな。だって、俺はみんなを裏切って、殺そうとして、それを赦してもらって、だからいつも申し訳なくて・・・。

「姉様方も、陣法師殿も、魔術師殿も、きっと他の仲間の方も、キミにそんなことは望んじゃいないと思うぞ。せっかく仲間になったのに、いつまでもかしこまられてたんじゃ、却ってやりにくいんじゃないか?なにかあったら何でも自分のせいだって思われたら、付き合いにくくてしかたないんじゃないかな?」

 ・・・。

「もう一度言うが、ボクはシル姉様の話を聞いて、特別キミを責めようとは思わなかった・・・ソディ姉様が怒ったのは、なんかよくわからない事情がありそうだけど。」

 ・・・まあ、殺し合った仲だし。しかも自分の知らないところでいろいろ動かれたら面白くないよな・・・。

「だから、ちゃんとキミは姉様方と話せ!でも、いきなり自分が悪いじゃ、話しにくくて仕方がない。相手の気持ちもちゃんと聞くんだ・・・ボクが間に入ってもいいけど、でも、まだボクじゃ力不足だ・・・いや、むしろ入るべきじゃない。キミが自分でやることだ。」

 ・・・コイツ、こんな所があいつに似てたんだな。俺の年下の、もう会えない親友に。オレよりもオレを分かってるっていうトコとか、エラソーなトコとか。

「アル。ありがとうな。ちょっと、楽になった。まずは話してみるよ・・・怖いけど。」

「ありがとう?何言ってるんだい。姉様方の不和は、この北方領族長会議最大の懸案事項だぞ。最優先で処理するのが、『北の盟主』の務めじゃないか、どうだ?近侍のパシコー!」

 ありがたいけど、なんか、コイツ、図に乗りそうだな・・・なんか素直に反応できない俺だ。

だから、こんな感じで返しちまった。

「・・・へえへえ、ごもっとも。」

 って。当然、アルはムスっとして、怒りだした。

「・・・キミ、やっぱりボクにももう少しは敬意を払うべきだぞ!」

 その通りなんだけど・・・でも。

「へえへえ、ごもっとも。」

 ボグワッ・・・やっぱり来たか。ま、覚悟の上だけど、こいつのパンチ、四姉妹じゃ一番痛いぜ。一番戦闘力低い癖に。

 俺とアルは、それからもう少し街を歩いて回って、そして昼前には戻った。自分の街がニギヤカだったおかげか、アルは年相応に楽しそうだった。


「パシリくん!この状況でデエトなんて、どういうつもり?」

 ・・・コルンさん?いろいろな意味で突っ込んでいいですか?まず要人警護をデエトとは言いません!そもそも発音がおかしい・・・デエトって、いつの時代だ?

「陣法師殿、大目に見てやってくれ。ボクとデートしたおかげでこいつもマシになった。事態の解決にはこれが近道だ。」

 ・・・いや、お前、警護って連れ出しただろ?

「男女が二人で出かければデートでいいじゃないか。街のみんなもそう思ってたぞ。」

 なんじゃそりゃ!?なんか、俺、はめられたっぽい?・・・こいつ、腹黒だったな。


 ・・・で、お昼前。俺はちょっと時間をもらって、昼食は俺がつくらせてもらうことにした。

「・・・別にいいけど、キミは料理までできるのかい?」

 そんな大したもんじゃない。素人料理だし。

「アル様。パシリくんは、大抵のことはできる便利アイテムなんです。」

 って人の人格、何だと思ってるの?褒められてないよね?

 ま、実際褒められるような料理を作れるわけじゃないし、ただ、ちょっと気分転換にってそのくらいなんだけど。俺は南街区の隅っこで栽培されていた大豆のまだ熟していないヤツを買っていたので(売り主もアルも変人を見る目で俺を見ていたけど)、それを使うことにしていた。

 で、俺は保存食と塩と砂糖を蔵からもらってきて、ちまちまと作業を始めた。で、しばらくすると空腹を訴えにきた方々が・・・。

「ち。てめえか・・・。」

「うむ・・・健在でなにより。」

『・・・。』

 俺を見て、三人とも複雑な表情を浮かべる。

俺は覚悟の上だったけど、三人は互いにも気まずいらしく、無言が続く・・・。

「まだ、少しかかるんで、先にこれでもお食べになって待っててください。」

 茹で時間と塩加減しか気を遣っていない超手抜き前菜を出したら、みんな目を剥いて、一斉に俺を非難し出した。

「こんなモン食えるかぁ!ケンカうってんのか!」

「うぬ・・・これはひどい。兵糧攻めとは、あまりの仕打ち。」

「(うるうる)」

「キミ!だから、なんであんなものを買うんだよ!」

 ち。アルまでかよ。四姉妹は仲良く俺を非難する大合唱を始めた。ま、これでそっちがまずまとまったっと。敵は一カ所にまとめるってのも一つの戦術さ、ね、コルンさん。

「パシリくん・・・嫌がらせ?」

・・・ま、一見さんにはハードル高すぎたか?

 俺はお手本として、緑のサヤごと口に含み、中の実だけをもぐもぐと、うまそうに食べてサヤは小皿に捨てて見せる。ま、塩ゆでの枝豆なんだけど、もともとわざわざ熟さない大豆を食うってのは極めて珍しい食い方なので、こっちの世界じゃ誰もやってないってだけで。

「大豆を熟す前の枝豆って段階で食うだけなんだけど、風味が全然違うし、二日酔いとかにも効果あるんだぜ・・・うまいしな。」

 俺はなんとなく、アルに向かっていった。すると、アルは俺の意図がわかったのかどうか、覚悟を決めて

「・・・わかった。妹のボクが毒見をしよう。」

 せめて味見って言え。もっとも生の枝豆は毒って話もあるから間違いじゃないか?でも、まあ、俺の真似をして枝豆を含んだ。

「・・・なるほど。甘みが少ない気もするが・・・ほくほくとした優しい甘みは・・・塩加減がまた・・・ふむふむ・・・もぐもぐ・・・」

 ふ。はまった。一度口に含むと、次々と食べ続ける枝豆の魔力・・・。ひたすら食べ続けるアルを見て、食い意地のはった、もとい、食事に積極的な姿勢をお持ちの勇者様も、まず一口・・・で、あとは、アルの二の舞だ。ふふ。二人目っと。

 その後は時間の問題で、全員が手を出し、後は放置した。まだこっちは終わってねえし。

「これは・・・止まんねえや。」

「見かけの素朴さの割りに、洗練された甘みが・・・」

「(もぐもぐ)」

「大豆が、この状態で食べられるとは・・・籠城時の食料事情が変わるぞ!」

「アル様、お見事なご判断です。」

 なんかアルって、さすが族長だな。コルンさんに認められるくらい腹黒だし。

 ちなみに枝豆は大豆と比べるとビタミンAとCは豊富だけどカロリーとかたんぱく質とかは大雑把に言うと三分の一くらいだから・・・って、なにこの魔術的な前世ワード?

 で。用意した前菜分がなくなった頃、俺の用意も終わった。

「ち・・・もうねえのかよ。」

「うぬ・・・」

「(きょろきょろ)」

「・・・思ったより夢中で食べちゃった。」

「見事な奇襲だったわ。さすが、わたしの弟子ね。」

 みんな、なんか所有格の使い方ヘンじゃね?いや、勇者様にはドンドン使ってほしいけど。

「それで前菜は終わり。で、後はこれで勘弁。メイン兼デザートで。」

 保存食、要は切ったお餅に枝豆でつくった餡をまぶした、要するに『ずんだ餅』なんだけど。

「この緑のブツブツは・・・」

 で、またもアルが毒見もとい味見をする。こいつ、自分の立場の活かし方もわきまえてるな・・・俺とは大違いだ。でも、アルが率先して食べて、保証してくれたんで、みんな安心して食べ始めて、あっという間になくなった。好評だったので、アルとコルンさんはザラウツェスの特産品として考え始めたようだ。んじゃ、これ、レシピね。

「パシリくん・・・私が定期市の案を出した段階で、この都市の特産品で悩んでたのに気づいてたのね・・・オソロシイコ・・・。」

 いや、それはさすがに考えてなかったです。過大評価です。

 で、お茶を淹れた後、俺は姉妹に一人ずつ声をかける。

「戦姫様。いろいろご不満はあるでしょうし、俺がアサシンだったことでお怒りなのはわかります。事情は改めて詳しくお話しします。ですが、火の精霊への仲介、お願いできませんか?」

「護姫様、戦姫様と俺との間のわだかまりは、二度も殺し合いをした者からすればあってしかるべきものです。しかも事情を知らされていなかったとすればお怒りは当然です。俺をかばってくれたことはとても感謝しますが、まず俺と戦姫様で話させてください。」

「・・・勇者様。俺のために護姫様や戦姫様と仲たがいなんて、あってはならないことです。お鎮まりください。ですが・・・お気持ちは、本当にうれしく・・・うれしく思います・・・。それに・・・半月もご不自由に気づかず申し訳ありませんでした。」

 もちろん、あとで三姉妹それぞれとじっくり話す約束をする(蔵の調査は免除になった)。

その条件で納得してもらって、ようやく午後の会議が始まった。正直言うと、女子率が高すぎて、それが俺としては怖いので、ガレデウスさんにでもいてほしいと思ったのだが、城内の防衛体制構築にまわっていてムリとのことだった。

 かわり、という訳ではないが、雑居区となっていた西街区の代表らしい人を招いていた。西街区の状況・・・やはり城館から逃げた盗賊団の残党が居座っているらしい・・・などをみんなで聞いた。

 で、彼を臨時に西街区のリーダーとして認め、彼を通して盗賊団にも「オークと戦い北方領の人族を守る会議」に参加するか、盗賊として討伐されるかを選ばせることにした。『過去は不問』。この大方針さえ守り盗賊であることを止めさえすれば、その存在は認められる・・・それを信じるかどうかは、残念ながら彼ら次第だ・・・。

 後日のこと。結局盗賊団残党200人ほどのうち、その四分の一が族長会議に従うことになり、後の四分の三は討滅された。アルは、信じてもらえないことを悔しがっていたが、逆に残った約50人を公平に扱い、信頼を得ることに成功したと俺は思っている。

 そして・・・コルンさん、アルにも退室してもらい、俺と勇者様、護姫様、戦姫様だけが会議場に残った。さらに、まず別室で、俺は戦姫様と二人で話すことにした。

 部屋に入ってしばらく沈黙していた俺たちだったが。

「前にお前がアサシンだったってことは知らされてたし、あのダガー、わかっちゃいたんだが。」

 戦姫様は抑えた声で話し始めた。まるでうなり声を上げるライオンだ。俺はまず、彼女の言いたいことを聞くことにした。自分の気持ちを言うだけじゃダメだってアルに言われたからだ。

「しかも、ゴウンフォルドの末裔だって・・・。おまけに鋼の精霊とかって・・・知らねえ話が続けざまに来るもんだから、な。」

 それでも、戦姫様なりに、話は理解しているようだ。

「ただ・・・な。おめえ、何のために俺たちの仲間になったんだって思うと・・・。アサシンのお前がたまたま仲間になった?あり得ねえだろ?」

 ・・・そうだよな。気づくよな・・・。そして、ついに聞かれてしまった。

「おめえ・・・俺たちを始末しに来たんだろ?」

 俺は何度か答えようとしてためらい、そして、ついに答えた。

「・・・はい。」

 と。実際には、スパイ。その後の暗殺指示。でもそんなのは大したことじゃない。スパイの段階で暗殺指示の可能性はあったんだから・・・。

 俺は覚悟した。ここで、この人に殺されることを。抵抗する気はなかった。だけど・・・。

「マジかよ・・・じゃあ、なんで始末しなかったんだ?俺なんか朝はいつも無警戒でパンイチだし、戦闘訓練じゃ何回もやられたし、おめえのつくるもんうめえからバクバク食ってたし、いくらでも殺せただろう?」

 やろうとすれば・・・でも。

「なあ、あれだけ腕の立つアサシンが、何でだ?おかしいだろ?」

 それは・・・それは・・・あなたが、ほんとは昔・・・そして・・・俺に・・・。

「あなたが、あなたたちみんなが、本当に警戒してなくて・・・俺なんかを信じてくれて、故郷を汚された俺のために怒ってくれて・・・仲間にしてくれて・・・そんなあなた方を、俺なんかを信じて無警戒なあなたを暗殺なんて、できなかったんですよ・・・できるわけ・・・。」

 ち・・・声が詰まって、裏返って・・・もう出ない。

「じゃ、一緒じゃねえか?俺だって、俺をちゃんと叱ってくれて、一生懸命に俺たちのためには働いてくれてたおめえを疑えるわけがねえ?当たりまえだ・・・それじゃ、お前が俺たちを殺せねえし、俺たちがお前を疑う訳もねえ・・・オッケーだ。パシ公。エン姉の件はもうちょっと考えてからだけど、でも、これからも仲良くやろうぜ。・・・っておめえ、どうした?」

 ・・・・・・・・。いつも戦うことばっかりの、無神経でガサツな、ライオンの女王様・・・なに・・・何言い出すんだ・・・・・・くっ。

「パシ公・・・ホント、お前アサシンだったのか?こんな泣き虫なアサシン何て聞いたこともねえや・・・あ~よしよし・かわいいじゃねえか。」

 ・・・俺は戦姫様に抱きかかえられてしまった・・・。除けるとか振りほどくとか、全然頭にも浮かばなくて・・・。なんてこった。屈辱だ。情けなさすぎる。でも、俺は動けなかった。

 声を殺して、うつむくだけで、しばらく、なんにもできなかった。

「ソディ・・・お前、従者パルシウスに何をした!」

「ん!!」

 様子を案じた護姫様と勇者様が部屋をうかがいに入ってきて、何か勘違いして・・・。二人がまた怒りだして。

「・・・すみません・・・俺なんかのために・・・。」

 俺は何度もそう繰り返して、いつの間にか三人が俺を取り囲んで・・・。最悪だ。でも。

「すみません・・・でも、いつか、この償いは必ず・・・。」

「償い・・・いらねえよ、そんなもん。いつも世話なってるし。」

「ん。」(なでなで)

「愚か者!生きて償え!」

 頼む。一人にしてくれ。さもないと俺はずっとこのままだ。三人とも、でも、ありがとう。

「・・・やっぱりボクのアサシンは泣き虫だ。」

 ・・・入ってくんじゃねえ。会って三日目の、元姉妹の義理の妹の生意気腹黒族長!

「最悪の事態は回避されました・・・彼のプライドの代わりに、だけど。」

 プライド・・・ズタズタだよ、とっくにって超眼鏡美人凄腕陣法師。

「・・・泣いてるパシリ、なんかかわいい・・・でもほんとにアサシンだったの?ウソ・・・。」

 ドジでノロマなダメスカウトまで・・・。もう、みんな、俺をなんだと思ってるんだ!

「仲間。」

「従者。」

「ん!」

「近侍・・・アサシンだけど。」

「弟子。」

「え・・・えと・・・んと・・・後輩?師匠?何だろ・・・うんと・・・。」

 ち。みんな好き勝手言って・・・だけど・・・だけど?・・・ああ、あとは言葉にならない。きっと、それでいい。それで赦してくれる。


「それで、だ。話を戻すと、ソディ、お前が火の精霊を召喚して、精霊界を収める六大精霊とエンノの仲介をする、と言うことなんだが・・・。」

「ん?・・・そっか。そういやそうだったんだよな?なんかそんなことどっかに行っちまってたぜ。」

「お前な・・・。」

ポンてって勇者様まで、そこで手を打たないで。で、そこで腕をお組みになって・・・。困ったお顔をしている。ああ・・・何か話したいことがあるけど、ちょっと伝えられないって感じだ。隊章・・・はどうなんだろ。

「勇者様は、隊章での念話も制限されていて・・・戦闘時以外はまずムリなの。」

「昨日の、えっとパルシウス?に開戦前に言葉を託したのは?」

 人に名前ムリヤリ聞いておいて、なに言いにくそうに呼んでんだよ。アル。

「そうなのよね・・・パシリくん。どうなの?」

「どうなんでしょう?」

 俺もよくわかんねえけど、やはり戦闘時には制約が緩むのに近いんじゃ?

 で、面倒くさいけど、文字で書いてもらうことにしたんだけど・・・勇者様、意外に字が下手・・・もとい、個性的で芸術的な文字をお使いになられます!

「そうなのだ。せめてもっと丁寧に、頻繁に筆談をしてくれれば我らも楽なのだが。」

「特にパシ公が来てからは、こいつエン姉の言いたいことだいたいわかっちまうから、ますます字も使わなくなっちまって・・・。」

 ・・・俺のせい?

「だから、キミ!何でも自分のせいにするのは止めろ!」

 へいへ~い・・・。

 で、みんなで、解読していって・・・

『火の精霊に仲介してもらうのは、とてもいいアイデア!さすが私の従者!・・・でも、今、ここじゃムリ!もっと精霊が集まりやすい場所とか、日時とかを選ぶべし!』

 ・・・なるほど。じゃ、今回のオーク軍との戦いは?

『間に合わない!』

 ・・・ひょっとしたら、もっと早く教えてくれたら間に合ったんじゃ?

『そうかも。てへ。』

 かわいいから、俺は許す。ただ、まあ、この後、姉妹の間ではいろいろあった。以上!



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