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1.プロローグ

 気付けば、真っ白なフワフワする地面らしきものの上を歩いていた。見渡す限りの、フワフワした地面。視界の半分がそのフワフワで、残りの半分はコバルトブルーだ。

 景色を認識したところで、思考力がつい先程まで無かったことに気がついた。反対にいえば、思考力が戻っていた。

 なので、疑問に思う。


「ここはドコだろう」


常世(とこよ)現世(うつしよ)の狭間じゃな」


 独り言に返事が返ってきて驚いた。あからさまに嗄れた老爺らしい声だったと思う。

 それが聞こえたのは多分俺のすぐ後ろで、立ち止まって振り返る。

 そうだよ。ずっと歩いていたのに、いつの間に背後を取られたのか。


「誰?」


 振り返った動作と一緒に誰何して。

 そこにいた姿にまた驚いた。


 何せ、奈良時代以前くらいの古い様式の衣装を纏った正座の老爺が宙に浮いていたのだ。しかも、顔が俺の目の高さ。だいぶ高い位置に浮いている。


 驚いて声が出ない、という表現はどうやら的確だったらしい。俺自身は初体験だが。


 見るからに驚いている俺に、老爺は呑気にホッホッと笑った。


「うむうむ、驚いておるの。大成功である」


 上機嫌に頷いて、それから俺の背後を指差した。釣られて振り返れば、さっきは無かった真っ白でフワフワの椅子が1脚置かれていた。


「まずはお座り。色々と説明すべきことがある故にの」


 促されるままに、というよりむしろ、身体が勝手に椅子に腰掛ける。自分の意思は全く反映されていないにも関わらず、違和感なく自発的に座ったその動作に、違和感を覚える。

 自分でも何を言ってるか自信がない。


「さて、どこから話したものかの。まずは自己紹介といこう。はじめまして、この世界の神である。名は特に名乗っておらぬ故、ワシを呼ばうならば『神様』とでも称すると良かろう」


 神様って、名無しなのか。そこにビックリだ。

 反応の仕様もなく無駄に瞬きばかりするしかない俺に、神様は俺の思考を読んだように苦笑するのだが。


「唯一無二のものに名付ける意味は無かろうよ。この世界そのものに名付けられておらぬのも同じことじゃ」


「……地球、ではなく?」


「それはこの星の名であろう。他の惑星やら恒星やら、果ては異なる星に住まう知的生命体どもの構築する社会など、諸々ひっくるめて、この世界よ。名などありはせぬ」


「知的生命……宇宙人?」


「星レベルに視点を上げれば地球に住まう知的生命体も宇宙人であろうに。いや、星間移動に達しておらぬ地球人にはまだ早いかの」


 ほっほっほと外見相応に年寄りくさい笑い方をするのだが、説明の内容が示す背景に俺は驚きっぱなしだ。

 他の星の住人がいて当然の扱い。むしろ、地球人は未発達らしい。で、唯一無二の神様。

 そこから導かれる背景といえば、つまりその他の星の住人もこの神様の管轄ってことだ。

 守備範囲広っ。


「ふむ。理解は及んだようじゃの。では次に、そなたの事を話そう。地球に干渉するための憑坐(よりまし)を探しておったところ、タイミング良く条件にあった魂が寿命を全うできず常世へ向かっておった故、拾い上げたのがそなたじゃ」


「あー。俺、死んだんですね」


「うむ。トラックというたか、大型の半自動荷車による左折内輪差に巻き込まれての」


 しかもテンプレのトラック事故ですか。居眠りどころか、内輪差って。

 全然覚えてない。俺が半分居眠りしてたからなぁ。多分俺の不注意なんだろうな。


「信号待ちするにも車道ギリギリに立っておっては危ないぞい。来世は気をつけるようにの」


「はい、すみません」


 神様に叱られちまったぜ。嬉しくないが貴重な体験じゃないだろうか、これ。


 って。

 ん?


「来世、ですか?」


「そう、来世じゃ。そなたにはその魂を持って輪廻転生してもらうことになる。5年後の災害にてワシの憑坐を務めてもらう必要があるのじゃ。神格であるワシはそれだけ質量も膨大であり、それを支えられるだけの肉体をあらかじめ用意しておかねばならぬ。生体であるからには、ワシが使わぬ間の管理をする者が必要での。それをそなたに頼もうというわけじゃな」


「5年後……。分かってるのなら先に回避出来ないんですか?」


「残念だが、起こる災害をやり過ごす以外に術はないのじゃ。異空間衝突の余波による天変地異なのじゃがの、ワシよりも高次元の出来事である故に対策のしようがなくてのう」


 異空間衝突……。

 異空間ってのは、あれだろ。SFとかファンタジーとかで登場する、魔法かなんかで穴開けて使われたり、移動するのに使ったりする、謎空間だろ。

 衝突って、どうなるんだ。想像力が追いつかん。


「無論、ただとはいわんよ。憑坐に使う以外は好きに生きて良いのだし、褒美に便利な能力も授けてやろう。あまり目立つ能力もかえって邪魔になろうし、鑑定眼あたりでどうじゃな?」


 へぇ、結構な好条件。ウマイ話には落とし穴があるものだが、この神様は信用して良いんだろうか。

 輪廻転生ってことは、生まれるところからやり直しだろ。5年後に憑坐にって、その身体まだ5歳じゃないか。


「憑坐に使われたら死ぬとか、ないですか? まだ5歳ですよね?」


「必要なのは措置に必要な神力を支える器であって、思考を媒介する脳である。成長が不足しておる程度、何の問題もない。安心して良いぞ」


 あぁ、諸々分かってて5歳なわけか。まぁ、唯一神なら全知全能と相場は決まってるけどな。


「他に聞きたいことはないかの?」


「えーと。……あ、そうだ。生まれる先は決まってるんですか?」


「うむ。勝手が分かる環境が良いかと思うての。そなたの友人と認識しておる中からちょうどいい胎児を見繕っておいた」


「友人……。もう父親になったヤツいるのか」


 まぁ、社会人だし、それもあり得なくはないんだろうけど、寂しい話だ。


 ……って。ん?


「友人ってことは、行き先地球!?」


「何を驚くか。勿論じゃ。魂は同じ星の中で回しておるゆえ、同じ星から管理を任せる魂を見繕わねばならん。地球に憑坐を置くために地球人から、それもワシを否定しそうにない無宗教者から、輪廻転生に手を入れられるだけの幸せ指数を余らせた死者の魂を探してそなたを見つけたのじゃから当然よ」


 説明というより事実の再確認といえるほど当たり前のように言い切られた。

 いやいや、でもな。トラック転生の行き先は剣と魔法のファンタジー世界ってのがテンプレだと思うんだが。ご褒美にってチートっぽい能力をくれると聞いたんだし、まさか剣も魔法もない地球とは思わないだろう、普通。


 混乱とがっかりを織り交ぜて脳内パニックの俺は置いておかれて、神様はそのまま何だか深い溜息まで吐くんだがな。


「しかしのぅ、そなた。寿命を全うせなんだ魂故に幸せ指数バランスが多少狂ったままというのは普通にある話じゃとしても、余らせすぎじゃ。持ち越しできぬのだから使うてしまわねばならぬが、特殊能力の部類である鑑定眼を最高レベルで引き換えても余るとは。他に何か欲しい能力はないかの? この余りで引き換えるとなると、そうよな、空間操作か慣性操作、あとは自動翻訳くらいかのぅ」


「……翻訳?」


「ふむ、これか。ならば、自動翻訳も最高レベルで授けておこう。うむ、使い切ったな、ヨシヨシ」


「え、うそ。別に選んだわけじゃ……」


「直感が選んだのじゃ。間違いあるまい。これならば人目を気にせず使える故、良い選択であると思うぞ」


 いやいや、鸚鵡返ししただけであって、選んでないだろ、今の。

 まぁ、どれもよく分からんからどれでも良いんだけど。


「さて、出発の時間じゃ。次は5年後にまた会おう」


 え、もう!?

 反射的に顔を上げればご機嫌に笑う神様がご機嫌に手を振った。周りから突如溢れ出したキラキラしたものが押し寄せてきて、視界があっという間に真っ白になっていく。

 椅子に座っていたはずなのに背中から落ちていく落下感にパニックしたまま、俺の意識は途切れたようだった。


『しかしまぁ、あんなに幸せ指数を余らせるとは、不幸な生まれ育ちであったのだろうなぁ。可哀想に。今生は幸せにおなり』


 意識が途切れても聞こえるとは。神様の独り言って強力だ。


会話の中に散りばめて説明したつもりですが、読み取れなかった人用に余談ですがまとめて説明します。

神様が「余らせすぎ」と嘆いていた幸せ指数ですが、人間の人生で幸せと不幸せは半々、という考え方に基づいています。

生前は不幸側に比重が偏りすぎていて、これからは幸せがやってくるはずだったのにその前に亡くなってしまった、と、そういうことです。

説明いらなかった察しの良い皆様にはお目汚し失礼しました。


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