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プロローグは麦粥とともに

 神々と人が住まう世界、カイセン・ワールドの朝は早い。


「美味い! 今朝も麦粥が美味いのう!! なんじゃこれ! 野菜くずがいつもより多いではないか!!」


 賑やかに騒ぎながら、僕の目の前で粥を貪る女の子。

 流れるような綺麗な銀髪に、深い緑の瞳。真っ白な肌で、神々しいローブを身に纏っている。


「おいウニ! お代わりじゃ! わしは育ち盛りじゃからたくさん食べねばならんのじゃ!!」


「エービーは神様じゃないか。僕が子供の頃からずっとその見た目のくせに僕の分まで食べようとしない」


 エービーという彼女は、神様だ。

 父さんが昔、遺跡から掘り出してきた石版から現れて、すぐに父さんを信者にしてしまった。

 彼女が言うには、古代神なんだそうだ。

 今は信者がいなくて、ほとんど力がないのだそう。

 父さんが死んで、エービーは慌てて僕を神官に任命し、信者にした。

 信者がゼロ人になってしまうと、また掘り出されたときと同じような石版になってしまうらしい。


「ほーん、ウニはわしの神官のくせに、神様の言うことを聞かんのじゃな? ほーん、ならばわしにも考えがあるぞ。こんな神様不孝の神官を持って、わしはなんて可愛そうな神様じゃろうか! 信者だって一向に増えん! うおーんうおーん!」


 すっごい声を出して泣き始めた。

 僕らの住むあばら家が、鳴き声でビリビリと振動する。

 うわあ、家が崩れる!!


「分かった、分かったから! はい、お代わり。もう……これで昼に食べる分がなくなっちゃうよ」


「ほっほっほ、供物をけちるではない。ふむ、むむむふ、美味い、美味いのう!」


 ほっぺたにお弁当をくっつけながら、麦粥をもりもりと食べるエービー。

 彼女の信者は今のところ僕一人で、このあばら家がエービーの神殿ということになる。

 さて、お昼のご飯がなくなった。なんとかしてこれを入手する方法を考えないとな。

 やっぱり、働くしかないよな。

 そんなことを考えながら、僕とエービーの分の食器を片付けた時だ。

 扉……の代わりに天井から垂らしている布をバサーっと開けて、一人の女の子が飛び込んできた。


「うるさーいっ! ……と思ったらもう静かになってるじゃない。またウニのところの神様が駄々をこねたんだと思ったんだけど」


 僕と同じくらいの年頃の、黒い髪の女の子がそこにはいた。

 彼女は、家の裏側にある宿屋『貝柱の(うたげ)亭』の娘で、僕の幼馴染であるアサリ。


「うん、お陰で昼ごはんが無くなってしまった。今日もアサリの家で働かせてもらえる?」


「おう! アサリではないか! ついにわしの信者になる決心がついたか!? よしよし!」


「ウニはいつだってうちに働きに来ていいのよ? っていうか、こんな変な神様放っておいてうちに来なさいよ。うちはほら、子どもはあたしと妹しかいないし、男手は必要だからさ……って、エービーうるさい! あたしはあんたの信者になんかなりませんよーっだ!!」


「なんじゃとお!! おぬしとウニがつがいになれば、神官と妻とさらに子どもも増えて、わしの信者が倍々に増えるというのに!! この深遠な神の気持ちが分からんかーっ!」


「分かんないわよ! 古代神だかなんだか知らないけど、自力で信者一人も増やせないような神様は神様失格なんじゃないのー!」


「ひぎぃ! わしの痛点を的確にえぐってくる! 恐ろしい娘……!!」


 こんな、ちょっときつい性格だが、アサリは長く延した黒髪をポニーテールにまとめ、仕事用のエプロンをワンピースの上に身に着けた活発な女の子だ。

 贔屓目でなくても、最近どんどん綺麗になってきていて、僕もちょっと気後れすることがある。


「勝った!」


 そうやってアサリが胸を張ると、最近育ってきた胸元が強調されて目のやりどころに困るなあ。

 いや、僕も年頃の男子だから、気にならないというのは嘘になるんだけど。


「ほらウニ! 行くわよ! 今日は団体のお客様が来るっていうから、父さんも母さんも、朝から仕込みで大忙しなんだから!」


「ああ、うん!」


「うおー! わしを放って行くのか!? 待てえ! わしは賄いを食べたいぞお!!」


 これが、僕たちのいつもの風景。

 父さんが死んでしまった後も、宿屋の一家は僕を暖かく迎え入れてくれた。

 僕もアサリも、お互いをちょっと意識する関係になっていたから、きっとこのまま、僕は宿屋で働きながら彼女との距離を近づけ、いつかは一緒に宿を……と思っていたのだ。

 ところが。


「あっ、お前は可愛いな。ワガハイの妾にしてやろう」


 宿にやって来た団体客……。

 豪商のヒョーモンが、アサリを見て一番にそんな事を言ったのだ。

 凍りつく空気。

 動揺するアサリの両親、そして僕。

 そんな中、うちのどうしようもない神様だけが、にやりと笑って言ったのだ。


「チャーンス……!!」

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