ぶらぶら
「……ん。あさ、かな」
結局、あのまま記事の完成と同時くらいに私の意識は途絶えたようで、眼前には涎まみれのA4用紙が置かれていた。時計を確認すると、6時を回るところだった。さすがに腕時計までは、濡れてなくて安堵した。
「さすがに……これは……」
まずいことくらいは、寝起きで判断力の鈍っている私にもわかる。そうは言っても、データにはちゃんと保存してあるから、また印刷すればいいだけだ。
「……保存、したよね?」
昨日、というか今日の記憶だからほとんど自信はない。気持ち少し慌ててPCのデータを確認する。取材した日付と、会社の週刊誌の名前……ぐるスポ……でデータは保存してある。取材した日は4/27だ。
……4/27……ぐるぐるスポ……あった。
あったけど、執筆している時の私の心境を表してるかのような酷い誤字だ。急ぎではないにしろ、恥ずかしいのでデータ名の修正をしてから新たに印刷する。平均的な出社時間は9時ごろ。昨日と同じで、無人の中に響いたタイピング音と『ガー』というプリンターの音が辺りに響く。
「よし」
ページ数と軽く誤字などをチェックして、デスクの机に置く。
「遅れてすいません」
そう言って、手を合わせる。いや、死んでるわけではないのだけど。こんな私だけど、デスクには本当に感謝してる。良いお店を紹介してもらえたのは事実だから。だけど、私の満足できる味ではなかっただけだ。
「……」
今日、どうしようか。なんだか仕事のできるモチベーションではない。寝不足と空腹と…変なテンションになってきた。
「うん、休もう」
そう自己完結して、有給届けの書類に手を伸ばす。本当は色々と面倒な審査が必要だったりなかったりなのだが、今の私は、自分でも抑えが効かない。思い立ったが吉日、今の私には便利な言葉だ。
「よし」
おおよそ書き終えた。時間は6時半を迎えようかというところ。休む理由には、取材のため、と書いて…
「ぽーい」
デスクの机に投げ入れる。我ながらテンションに追いつけてないが、全部空腹のせいだ…なんて理由をつける。
さて。夜中ずっとコンタクトをつけてたから、目が痛い。顔を洗って、眼鏡に変えて、軽く化粧して…出かけますか。
「お疲れさまでした」
やはり誰もいない空間に向けて言葉を投げ、いそいそとその場を後にする私なのだった。