後輩
「今回もハズレだったんですか?」
「……」
黙ってタバコをふかす。それが、相手に肯定の意味を持った反応として伝わった。思惑通りだ。
「でもー、先輩が昨日行ったお店って、デスクのオススメ……あ」
言葉の途中で、露骨に「しまった!」という顔をする後輩さん。この子、木山が性の名はつくしというのだが、春爛漫な名前のわりには私よりも痛く辛辣な発言をする。私限定で………何故。
「木山さんって、けっこう言うよね……」
「え? 私、何も言ってませんけど?」
その目が言っとるんじゃ。そう彼女の目に問い合わせても、明後日の方向を向かれては、もはや会話など成り立たない。
「……そういえばあなた、タバコ吸わないはずだけどいいの?」
「え」
あ、嫌な予感。
「もしかして先輩! 私のこと心配してくれてるんですかー? 感激ですー!」
「……あっはは」
ぶりっ子全開。彼女のそれに限らず、大衆の女の子のこういった反応は、大の苦手なのだ。思わず乾いた笑みで返してしまった。もちろん、彼女のある種の『擬態』は、同僚連中の男どもにも向けられるのだが、なんだか私に対してだけ露骨に過激なアプローチを受けている気がするのは気のせいだと思いたい。
「いいんです。私はただ先輩とお話したいだけなんですから」
だから、そういう発言は、明日の締め切りに向けて鋭意記事を書きまくってるオスどもに取っておけばいいのに。
「……そういや、先輩って言ってくれるけど……木山さんっていくつだっけ?」
「ふーん。先輩でも他人に興味って持つんですね」
余計なお世話だ。
「年女ですよ」
逡巡を巡らせている間に返答だ。
「12歳?」
「……へ?」
面食らった顔。ここに来て、初めて彼女の目がまんまると開け放たれた。
「冗談よ」
「ですよね」
なんてことない会話を皮切りに私は5本目のメンソールの火を消し、彼女は私の腰の高さまである椅子から軽やかに腰を上げた。