不穏:8
大男と対峙してまだ30秒と経って居ないだろう。普段ならぶつかったことを謝り、すぐ回れ右して逃げればいい。
だが、それが出来ない。
『蛇に睨まれたカエル』という言葉があるが今の状況は正にこの言葉が妥当だろう。
ただし、相手は蛇というにはガタイがよく、熊と置き換えたくなる。
それに体が大きいことに目が奪われがちだが、肩に携えた斧がまた一段と恐ろしさを際立たせている。
「じゃあ、俺は謝ったしこの辺で。」
シドは震える声を押し殺し、平静を装ってその場を後にしようとした。
すると、大男が声を発するよりも先に
「お兄さん、お待ちなさい」
やけに甲高い声がする。
「はぁひぃ」急な呼び止めに驚き変な声がでるシド。
「なんでしょうか」
大男の後ろに人が居たなんて気づかなかった。大男の背を覗き込もうにも余りにも大き過ぎるため後ろが全く見えない。
「我々はね、ちょっと人探しをしてるんだけども、協力願えるかな?」男の声は優しげだ。
シドは、「人探し?協力?」突然のことに頭がついて行けなかった。
「そっ、協力。簡単な事です。」
「私の質問に答えて下さればそれでいい」
未だに姿の見えない男が話す。
シドは早くこの場から立ち去りたい一心だった。質問に答えて帰れるならそれに越した事はない。
「協力…協力するよ」
「何を探してるんだ?」姿の見えない男に問いかける。この間、大男はずっとシドを睨んでいる。やりにくい。
「人です。人を探しているんですよ」
男は静かに話す。
「人って言われてもなー、実は俺この街に来たのは今日が初めてだから、協力出来そうにないな。」
悪い、そういうことで。そう言いシドは後ろを振り返り逃げる様に歩き出す。
するとどうだろう、大男が斧を地面に叩きつける。
ズドン…
鈍い音の後には静けさが残った。
「話は終わっていませんよ。」
「確かにあなたの服装を見る限り、この街の者ではないらしい。」
けれど、と姿の見えない男は続ける。
「あなたの体から我々が探す女の魔力を感じるんですよ」
シドは男の言葉に耳を疑った。
「女の魔力?」
「そう、女の…魔力です。」男はわざとらしく含みを持たせて答える。
シドの頭の中は一人の少女でいっぱいだ。
「リバーナ」
ボソッと呟く。
すると今まで姿を見せなかった、声だけの男が「リバーナ。そう、我々が探しているのはリバーナ・アン・ペルソナです。どこでお会いしましたか?」
興奮気味な声で男はシドの前に現れた。
シドは男の姿を見ると、大男を見た時とは違う驚きを持った。
目の前の男は鼻の長い珍妙なマスクをしていたのだから。それにステッキを手に持ちスーツを着ている。
どう見ても怪しさが爆発している。
「リバーナって奴とはもう別れたんだ。」
「あいつ態度悪いから腹立って。それに魔法がどうとかいうもんだから…よ」
話し終わるか終わらないかの所で、マスクの男はシドの目の前に立っていた。
「あの女をリバーナ呼ばわり…あなた何者ですか?」マスクには視界が開ける様に穴が二つ空いている。二つの穴の底には男の目があるはずなのにマスクの影の所為か男の素顔を見ることが出来ない。
「名前は自分からそう呼べって言うから呼んでただけだ。」
「それに怪我したところを治してもらった。」「その…魔法で」
シドは目の前のマスクが怖くてこれまでの事を簡潔に包み隠さず話した。
「そうでしたか、彼女がそんな献身的な事を
ね〜」マスクの男はシドの話を興味深そうに聞く。
「もう全部話したし、そろそろいいか?」
シドはいい加減この場を後にしたかった。
しかし、マスクの男はシドにリバーナの元まで連れていくよう頼む。
なんでそんなにも彼女を探しているんだ?
シドは素直な疑問を投げかけた。
するとマスクの男は静かに「奴が魔女だからですヨ。」とシドの耳元で囁いた。
マスクの下でニヤリと下品な笑みを浮かべて
読んでいただきありがとうございます。
次話は1週間以内に投稿する予定です。