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プリエール  作者: ゲジゲジ
7/12

追跡:7


「おい、本当にこっちで合ってんのか」

大きな斧を肩に携え、その斧に負けない大柄の男が低い声で語りかける。


「えぇ間違いありません。先程、奴の魔力を感じ取りましたから。」

「この街からだいぶ距離があるがそんなの問題じゃありません。遂に奴を始末出来ますよ。ただ、今まで全く痕跡を残さなかった奴が、こんなにも簡単に尻尾を出すものですか〜ね。」


顔全体を妙に紅い鼻のとんがったペストマスクで覆い、服装はしっかりとしたスーツ。それに右足を庇いながら杖を突く珍妙な男が饒舌に語る。


珍妙な男が話し終わると、2人の男は互いに見合いケタケタ笑う。


その後、「行こう」と声を合わせ歩き出し、人気(ひとけ)の無い路地裏へと消えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「兄ちゃん果物いらないかい?100ルガーでいいよ!」

愛想のいいオッちゃんが汗をかきながら熟れた果物を売ってくる。


「そこの坊や、暇なら一緒に遊ばない?」

まだ、昼間だというのにこの時間には似つかわしくない胸元の開いた服装で娼婦が誘惑してくる。


小屋から出て徒歩で1時間。やっと最初の街に辿り着いた。さっきは、目を閉じろだの、走れだの、街をしっかり見ることが出来なかったためよく分からなかったが、この街はかなり活気に溢れている。


いい意味でも、悪い意味でもだ。


周りを見渡すと大通りには屋台が並び家族連れで買い物をする人だかりがある。街に入ってからというもの、屋台から漂う芳ばしい香りがシドの鼻腔を刺激する。あちらこちらに屋台が並び、セッセと焦げ付かない様に串を回すおっちゃんや、揚げ物を素手で掴むおばちゃんなど、見ていて飽きない。


しかし、一度路地裏に出ると上半身裸で寝転がり酒を飲んでいる奴もいれば、「殺してやる、殺してやる。絶対、絶対。」と物騒なことを呟く連中までいる。


「なんとか最初の街に帰ったが、どうしたものか」


リバーナと別れたシドは、全くと言っていいほど具体的な目的がなかった。


具体的な目的なら確かにない。しかし、抽象的な目的ならある。『元の世界に帰ること』


しかし、今やリバーナと別れ、頼れる相手がいない。若干リバーナと別れたことに後ろめたい気持ちはあったがもう過ぎたこと。こうなったら意地でも1人でなんとかしてやる。


「とりあえず、情報収集も兼ねて散策すっか」


これまで命令にも似た扱いを受けてきたシドは久々の自由を満喫しようと街ブラをすることにした。


最初に訪れた時にも感じたが、街並みは日本らしくない。『日本らしいとは?』と問われればしっかり答えられないのがシドであるが、要はビルも無ければ、電信柱も無いのだ。

街灯もシドが知っている電気を利用するものではなく、各々の家や店先にランプが吊るされている。


「外国みたいだ」素直に街を見た感想だった。きっとシド以外の人が同じように感想を求められれば、これと遜色ないだろう。


自分の知らない世界がある。

最初は怖かった。しかし、言葉も通じるし、住んでる人も自分と『遜色ない人間』なのだ。(おそ)れる理由など無い。


安堵したシドの頭にリバーナの『魔法』という言葉がよぎった。「ここじゃ魔法が使える」彼女が当然の様に口にしていたが街の人を見る限り誰も魔法を使っている風には見えない。


あの力はリバーナだけにあるものだったのだろうか。今思えば、彼女は俺の傷を治してくれただけだったのに。


突然、魔法だの言われパニックに陥ってしまった自分が急に情けなくなった。

しかし、これまでのリバーナの言動を思い出すと素直に謝ろうという気持ちは生まれてこない。それもそうだろう、質問した回答の全てにおいて肝心の部分が欠けているのだから。


シドはリバーナのこれまでの態度を思い出すと、沸々(ふつふつ)と腹が立ってきた。


「結局、ここはどこなんだよー!」


周りを気にせず大声で叫ぶ。


周辺の人は、シドの急な叫び声に驚き、ある者は腰を抜かし、小さな男の子は泣き出した。


「なんか、叫んだら気持ちがスッとしたな」

周りの事などお構いなしに自己中心的な感想だ。


そしてこれまた、自己中心的に、「ストレス発散したら腹減ってきたな」と呟く始末。


そうだ、朝食を食べようとリビングに行くはずだったのに、これまで訳の分からない事が続き朝食の事など頭の片隅にも無かった。


異世界についてとリバーナの件を、「お腹が空いた。」で後回しにしてしまう。残念な男が其処には居た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


残念な男、シドの体内時計では現在昼を少し過ぎている。それに、この世界にも太陽があるので日の陰りで大体の時間が予想できた。


「とりあえず、さっきらか妙に美味そうな匂いのする屋台があるんだよな〜」


そう言い残念な男シドは、美味そうな香りを頼りに店を探す。クンクン、クンクン、犬の様に鼻を鳴らし。嗅覚を研ぎ澄ますため目を瞑る。


クンクン、クンクン…ふらふらと覚束(おぼつか)ない足取りで歩いていると、ドンと何かにぶつかる。


目を瞑って歩いていたので前が見えなかった。。

忘れるつもりは無かったが目を瞑って走った結果一度コケているのだ。


ついさっきのことだったはずなのに同じ(てつ)を踏んでしまった。今回はリバーナに目を瞑れと言われている訳ではないので、すぐに目を開く。


すると、どうだろう目の前には大きな壁があった。いや、壁というには違和感がある。


なぜならそれは壁ではなく人なのだから。

それもかなり大きい。


「おぉ、悪い悪い。」

「しっかり前を向いてなかったんだ」


目の前に現れた大男に謝るシド。


すると大男は、

「兄ちゃん、歩くときはよ、しっかり前見なきゃダメだろ。気を付けろ」


体躯に見合ったドスの効いた低い声。


「あ、あぁ…そうだよな、歩く時は前見なきゃダメだよな。」


目の前の男がただ大きいだけなら、シドもここまで縮こまらない。シドがここまで萎縮するのには理由がある。


大男は背に斧を携えているのだ。

それだけじゃない、残念な男シドにも分かる禍々しい異様な雰囲気が目の前の男からは漂っていた。


逃げなきゃ。本能が体に告げている。









敵っぽいの出てきましたね。

シド君なかなかご飯食べられない。ゴメンよ。



次の更新は一週間以内を目処にしています。

今回も読んでいただきありがとう!

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