遭遇:3
ずっと下へと歩を進める。不思議と疲れはしない。上を見上げると米粒程の光が差し込んでいた。
もう、戻る気などない。
ここまできたら真相を確かめるべく進むのみだ。
そう決意し進んでいると終わりは呆気なくやってきた。暗くて見えなかったが、次に続く階段がなくなっているのである。遂にたどり着いた。此処まで頑張った自分を励ましながらも、不安が頭をよぎる。
「本当にこれで終わりなのか」
シドがその言葉を呟こうとした時、彼よりも早くそれを口にする声がした。
こんなところに人が?
それに、階段を降りることに慣れてしまった自分がいるが、この状況はかなりおかしい。後ろからは気配がなかった。それにここから先は行き止まりになっている。なら今の声はどこから聞こえるものなんだ。
「恐れで何も話せないのか。それとも未だ現状を飲み込めないか。こっちは待ち疲れた。」
正体不明の声はシドを煽る様に語り掛ける。文脈から察するにシドと話をしたい様である。それにしても疲れたとはなんだ?
シドは心を決めて話しかける。
「お前は何者だ。ここはどこなんだ。教えてくれ頼む。」
なるべく相手を刺激しない様、必要最低限の情報を探るため下手に出ながらも、虚勢を張った声で問い掛ける。
声の主は待ってましたと言わんばかりに、話し出す。
「俺が誰かは教えられない。そういう決まりだからな。まぁ二つ目の質問に関しちゃ、ここは現実と夢の狭間ってトコだな」
さも、当然であるかの様に語る。誰かは教えられない?現実と夢?シドからしたら何を言っているのかサッパリだ。
「ならせめて呼び方だけでも教えてくれないか」
幸い、声の主は友好的な様で、すぐさまどうこうしようという風には感じられなかった。
それなら、距離を近づけて徐々に現状を探ろうと考えた。
声の主も名を名乗っていなかったことを思い出したのか、悪い悪いと言いながら「リバーナ・アン・ペルソナ」と名乗った。
…リバーナ・アン・ペルソナ。どんな綴りだ。それにどこの国の人なんだろうか。シドは名前を聞いて混乱する。それに長い。だったら呼び方は『声の主』のままでよかった。
そんなことを考えていると、「何を黙っている。名前を教えたんだから話をするぞ」と急かし出した。
「あ、いや、えーと、リバーナさん。ペルソナさん。リバーナ・アン・ペルソナさん?」
シドがしどろもどろに応えると、「じれったいなー。リバーナでいいよ。」相手から略称を言い渡された。それになんだか話し口調がマイルドになった気がする。
それじゃリバーナ、俺を早く現実に戻してくれ。こんな意地悪しないでと頼み込む。
するとリバーナから予想外の返答が返ってきた。
「だから、今それをしようと思って頑張ってんだろうが。」
「っとにコレだから嫌になる」「一生寝てろよな」
全く先が読めない。だって、これまで生活していた現実に戻してくれと頼んだだけなのに、こんなにも不満をぶつけてくるだろうか。
むしろ、不満をぶつけたいのは俺の方だ。こんな訳わからない所まできて、謎の人物と話し、勝手に怒りだす。俺の脳みそでは容量オーバーだ。
「リバーナ、やっぱりよく分からないんだが、戻すっていうのはつまり俺の元居た日常にって事だよな?」
なるべく機嫌を損なわせないよう細心の注意を心掛ける。
「んぁ、あー、そうだよ。そう。」
「あんたの言う通り、元居た日常に返してやんだよ」
口調は若干荒いが、俺を元居た所に戻してくれることだけは分かった。しかし、ここで俺の頭の中で疑問が生まれる。謎の空間に俺が呼ばれた理由が分からない。リバーナはすぐ現実に戻すと言っているが、なぜ、こんな場所まで連れてきたんだ?
考えれば考えるほど意味が分からなくなり、混乱する。
不安で頭がいっぱいになっていると、突然リバーナから目を閉じろと指示が出た。
逆らったところでここから出れる訳でもないし、何よりこいつは少なからず今現在の状況で俺に危害を加えるつもりはないらしい。
だから俺は言われた通り目を瞑る。
「しっかり、自分を捉えろ。これから何が起きても絶対に、目を開けてはいけない。」
「いいな。何があってもだ」
念を押すように何度も確認してくる。
「分かったよ。絶対開けない。こんな所に来てる時点でもう、驚く事はないだろうしな」
自分自身に語るように俺は口を開く。
「よし、それじゃ準備が整った。今からお前を元の世界に戻すからな。」
「3.2.1…のカウントでスタートだ。いいな。」
不安と緊張が交差する中、早く終われと願いながら俺は、分かった。と小さく頷く。
「よっしゃああ!うんじゃ、いっちょやってみっか!」
「 3 」
「 2 」
「 1 」
目を瞑っているせいで視界は真っ黒だ。なぜかテンションの高いリバーナの掛け声が響いただけで、後は何も聴こえない。暗い。無音。自分が立っている感覚だけが、足から脳へと伝わる。
カウントを終えてからと言うもの、あんなにテンションの高かったリバーナの声は聴こえない。現実に戻ってきた感覚もない。目を開けていいのだろうか。何があっても開けるなと言われた為、どんな事が起きてもいいように多少は身構えていた。しかし、特に何も起こらない。
目を開けたが最後、殺されるかもしれない。もしかしたら、体が石になるかもしれない。
そうだ、浦島太郎だって絶対開けるなと言われた玉手箱を開けたばっかりに、醜い老人へと変わってしまった。それに、開けてはいけないと言う話は数多くある。パンドラの箱然り、鶴の恩返し然りだ。
どの話も、開けたが最後。開けた者に待つのは不幸だけ。なら、俺は何があっても開けない。
…絶対に。
徐々に話、動き出します。応援頂けると嬉しいです。
…誰も見てないんだろうけど。。