まえがき
あ、そうか。
耳外してるんだったね。
難聴の彼女と付き合って1年3ヶ月が過ぎた。
お風呂のときや寝るときは、人工内耳の機械を耳から外す。
「耳」を外したあとは、音のない世界らしい。
仕事の愚痴、デートの誘い、これからの話、、、
耳が付いてる時間に話さなきゃ、彼女から見れば口パクして、何か言ってる彼氏。
耳を付けたり、外したり、日常の世界と音のない世界を行き来する彼女。
夜寝てると外から聞こえてくる、バイクの爆音、踏み切りの音、救急車のサイレン
こっちの世界はいつだって騒がしい。
そんな彼女。
もう1つの世界も知っている。
数千人に一人の確率で発症する目の病気
「網膜色素変性症」という病気を患っているのだ。
暗いところで目が見えなくなる夜盲から始まり、
視野が徐々に狭くなっていき、視力も徐々に落ちていくという
少しずつ進行していく、治療法がない難病。
患者によって、進行のスピードは違うようで
彼女は、暗いところが全く見えず、
視野はトイレットペーパーの芯を覗いたくらいらしい。
慣れない道を歩くと、段差が見えなくて転けたり、
スーパーで買い物をしていると、小さい子どもが見えなくてぶつかったり、
薄暗い灯りのもと、彼女の目の前に手をかざしても見えていない。
音のない世界と見えない世界、、、
そこはどんな世界なのか。
そして、どう向き合っていけばいいのか。
僕(24歳)と、彼女(25歳)の日々をノンフィクションで書きます。