第1章 始まりは突然に
「御前さんに決めたわ。よろしくの?」
「誰?」
出てきたのはこれだけだった。
帰ってきて、ソファで寝てたらもう夜中で、なんか光ってるし。そこからちょいエロく和服を着崩した女の人が現れるし。
突然現れた'自称魔法'は、アホなことをぬかしました。
ぼふっ‼︎
「なにかの?」
「なんでもないです。」
怖いです。
「思うてなどおらんであろうな。」
なんで考えてることがわかるんだよ。
「わっちであるからよ。」
それが怖いんですけど。
「心配せずともずっと聞いたりはせん。プライバシーは守る、少しはの。」
ちょっとなんかーい!
もう、これについて深く考えるのはやめよう、頭痛い、もうヤダ。
明日から学校だし、こいつにもあんまり会わなくて済むだろう。期待しよう。・・・・これ、もしかしてフラグなんじゃ…。
やっぱりじゃんか!俺のバカ!もう嫌!ついて来るの?
「本気なのか?学校来ても楽しくないよ。たぶん。することとかないよ?つまんないよ?楽しくないよ?」
「行くと言うておる。一度で聞き入れなさい。」
どういうことだ?ちょいエロ和服着崩し美女だぞ。なんで誰も見向きもしないんだ?
「当たり前よ。見えるわけないかろう。わっちは魔法、そういうたであろう、御前さんは転校する、わっちに選ばれた時点での決まりごとや、諦めい。」
まじかー。
「手続きは昨日連絡したわ。御前さん、なんて変な待受にしておるんじゃ。」
「勝手に人のケータイみてんじゃねーよ。お前は彼女か!」
「気にするでない。」
「気にするわっ‼︎」
「お前転校すんのかよー。しかもなによ、突然過ぎるじゃん。なんかあったのかよー。女にでも惚れたか?」
「バカだから辞めさせられたんじゃない?転校という立派な理由で。」
こいつらはすきほうだいだなー。
「あのな龍騎、茉莉。人をバカにするのはな、良くないって教わらなかったかい?だいたいお前らはいつもいつも、『1年D組天見理世。理事長室へ来なさい。』…じゃーいって来る。あんま会えねーだろーけど、メールすっから。んじゃな。」
あんな奴らでも、会わなくなると思うと寂しいもんだな、
なにかといい奴らだったからなー。
「なに、あんなに短くて良いのか?多少遅れても良いだろうに。」
「大丈夫だよ。別にいつかは会えるだろ。」
心配してくれてんのか?案外優しいところもあったりするんだな。
「そうか。」
理事長室での話は転校先の書類の入った封筒を渡されただけだった。
そして引越しの準備を終え、荷物を送り、後は夜行バスで現地に向かうだけ。バス停への道中でふと思ったのだ。
ここではやめに疑問を解決しようと。
「あのさー、名前なに?呼びづらいんですが。教えてくんないの?」
素朴な、でもずっと思ってたこと。
「わっちははおぬしの魔法。名前なんてない…ことはなかったの。でもそうじゃな、御前さんが考えよ。それでよいわ。」
そんなもんでいいのか?ほんとに?なんて思っていると、
「それでよいとゆうておろうに。はよう決めな。」
急かさなくてもよくないすか。
名前か、どうしようかな。うーん。
「じゃあ、奏なんてのはどうかな?」
この名前をどう思うだろうか。気にいるのだろうか。
センスなしと糾弾されるのか。
「して、由来は?」
「俺の勝手なイメージだけど、お前は俺の人生を共に歩いて、彩って、俺にとって必要な音を奏でてくれそうな、そんな落ち着いたような雰囲気だからって、これじゃダメか?」
心底不安なのだ。これで否定されたらどうしようと考えてしまう。心が弱いのだろうか。
「では、この時をもって、吾は奏と名乗ろう。良い名である。」
「あぁ、よろしくな、奏。」
これからの生活に一抹の不安を覚えながらも、奏と一緒に乗り越えようと決意してバスに乗り込んだ、胸いっぱいの期待と不安と共に。