友達と友達
「まず状況を説明しろ。手伝うのはそれからだ。」
不機嫌そうに翔が言う。
あたしたちはすっかり日が暮れた山中で車座になって座っていた。
「えーと... 」
いったい何から説明したらいいのやら。それぞれの顔を眺めながら迷っていると、
「じゃあ、それ。本当に探してた人狼なのか?」
翔が、ケンジに寄り添うリューを指して訊く。
「うん、ーーああ、リューくん、もう喋っていいよ。」
あたしが言うと、リューはパタパタと尻尾を振って、
「リューです。七歳です。」
と、お利口さんに自己紹介。
「犬が喋った!?」
ケンジが驚いてるけど、ごめん、スルー。
と、思ったら、
「犬じゃなくて、人狼だよ。人にもなれるよ。」
リューがケンジの膝に前足を置いて言う。可愛い。
「ーーで、そいつは?」
そんなケンジに視線を移して、翔。
「学校の友達のケンジ。リューくんを見つけたとき一緒に落ちちゃって。」
「二人きりでか?」
こちらも不機嫌そうな勇。
一応、連絡しなかったこと謝ったし助けに来てくれたことお礼も言ったんだけどなぁ。
「登山班一緒なんだけど、別に最初から二人じゃなくて... リューくんの鳴き声聞いてこっそり登山道離れたんだけど、気づかれてたらしくて追いかけてきちゃってさ... 」
「... それで、リューくんを見つけても、遭難してても、連絡しづらかったと。」
「はい、そうです... ごめん。」
翔に言われて、もう一回謝っておく。
「友達なぁ... 」
呟いてケンジを眺め回した勇を、ケンジはキッと睨み付けた。
「お前らこそ何なんだよ!? 突然出てきてあーだこーだ偉そうにしやがって!」
言われた勇と翔は、顔を見合わせて、それから二人シンクロしてあたしを見た。えーと。
「ーー友達の、勇と、翔。」
それぞれ指差してあたしは言う。
「友達ぃ? けっこう年はなれてるけど。」
胡散臭げに言うケンジ。
今、勇と翔は大人バージョンだ。
「ああ、こいつらこう見えて同い年だから。」
「ーーそれは嘘やないけど雑すぎやないか?」
勇が小声でぼやく。
「いいじゃん、全部説明したらややこしくなるだろ?」
こそこそと言ったつもりだが、
「全部説明しろよ! 意味わかんないだろ!? 魔法とかなんとかも!」
ケンジがぎゃあぎゃあ食い下がってきた。
「あー... 魔法ではないんだけどさぁ... 翔はバリアと瞬間移動ができます。あたしと勇はエネルギー波とか撃てます。以上。」
「ワケわかんねぇよ!」
えー。
「うるさいなぁ、本気で話すと長くなるんだよ。今度ゆっくり説明してやっから。」
眉根を寄せてあたしは言う。
「じゃあ、あとはーー」
翔が最後に視線をサキへ移し、つられてみんなの視線がサキに集まった。
「サキです。よく覚えてないけどーーたぶん、幽霊です... 」
サキは自分で言って、ペコリと頭を下げた。
「さっきはごめんなさい。」
自分ではっきり幽霊と言ったサキに、ほっとしたような、悲しいような。
もしも自覚してなかったらどう言おうかと、神隠しの件も言い出せずにいたのだ。
「自分の体が見つからなくて、長い間一人ぼっちでこの山にいたんだって。それでーー実は、二十年以上前に、この山で神隠しに遭った女の子がいるって話があってさ... 」
あたしは、それでもちょっと言いづらく感じながら言う。
「二十年... 」
悲しげに反復するサキ。微妙にさっきの変な気配を纏いかけているような...
「だから! あたしたちで体を見つけて、家に帰してあげたいんだ!」
陰気にさせるとまずい。テンション上げていこう!
拳を握りしめて力強く言うと、サキの負の気配がふっと消える。よしよし。
「なるほど。事情はわかった。けどーー」
翔は困ったように口元に手をやって、
「当時も警察が捜索くらいしたはずだしーーそれで見つかってないのに、俺らで見つけられるかな... 」
「... そうですよね... 」
翔の言葉に、サキがまた負のオーラを纏う。冷静な判断なのかも知れないが、余計なこと言わないで欲しい。
どうしようかと思ったところへーー
「あのね、ボク... 」
リューが、遠慮がちに口を挟んだ。
「たぶん、サキちゃんのいる場所、知ってるよ。」