対幽霊戦
「とりあえず、何がどうなってこうなってるんだ!?」
バリアを張って黒モヤを防いでいる翔に訊かれて。
「リューくんを見つけたので保護したらうっかり遭難して、偶然会った幽霊の身の上相談乗ろうとしたら失敗してこうなりました!」
リューを抱き上げて見せて言うあたし。
「わからん! 全くわからんわ、特に後半!」
勇が天を仰ぐ。
うん、なんか急展開だったよね。
「人狼保護済みってことは、アレは無視して撤退してもいいな!?」
と、言った翔に。
「やだ! あの子は助けたい!」
あたしは黒モヤに飲み込まれつつあるサキを見て言った。
「助けるて... どうやって?」
「とりあえず、この黒いのを追い払う!ーーケンジ、持ってて。翔、あたしのこと出して。」
いつの間にか腰を抜かして呆けていたケンジにリューを渡し、前に進み出ようとする。
「いや、待てよ。一回中からやってみろ。出てみて効かなかったらどうする。」
「そんなことできたっけ、これ。」
空間遮断だから、外からだけでなく内側からの攻撃も遮断しちゃったと思ってたけど。
「練習中だけど、1発ずつくらいならそこだけ一瞬穴を開ける。」
え、それ便利。
「ーーありがとう! じゃ行くぜ!」
あたしはサキを直撃しないように、少し右へそらして衝撃波を撃った。
翔がタイミングを見て、衝撃波通過の瞬間だけバリアに穴を開けたーーらしい。よくわかんないけど。でも確かに衝撃波は通過しーー
黒モヤを、少しだけ乱れさせて、でも通過していった。
「あかんやないかぃ。」
「うっ... 」
まぁさ、あたしの能力は[物理干渉]だからさ、幽霊的なものに物理的な衝撃波は確かにダメ元だったんだけどさ。
「でも、少しは効いてた気もするな... 」
翔が黒モヤが少し乱れた辺りを見て呟く。
「せやなー、ゲームやったら、アンデッドに物理攻撃は効かんけど魔法はちょっと効いて、聖魔法が効果抜群やもんな。」
「衝撃波は普通の魔法ポジションか。」
「... 魔法、って... 」
リューを抱いたケンジが何やら呟くが、今は無視。
「お前ら、いつもなんかああいう衝撃波?だけど、エネルギー発現って他に何か出せないの?」
翔に尋ねられて。
「...あたしのアレ?」
「いや、アレはやめろ。アレ以外。」
「熱エネルギーはわりとイメージしやすいんでできたわ。せやけど、熱波であって炎は出んかった。可燃物に当たったら燃えたけど。燃焼にはやっぱり何かしら媒体が必要なのかもしれへんな。冷気と電気はまだうまく発現イメージができてへん。」
勇がすらすらと言い出してあたしはちょっとびっくりする。
翔にしても勇にしても、いろいろ自分の能力研究してたんだ。
しかし、そっか。
イメージ次第でいろいろな攻撃が可能かもしれない。
あたしは自分の手を見つめた。
衝撃波を撃とうとするとき、治癒をしようとするとき、僅かに手のひらが熱くなって発光する。
暴走して能力使いすぎたりするとMP切れらしきもので倒れるから、自分に内在するエネルギーを物理的に発現するのがエネルギー発現なわけで。
「... よし、もっかい試す!」
あたしは手に力を込め、集中した。
「翔!」
「どうぞ。」
さっきと同じルートで、手に込めたエネルギーをそのまま放つ。
ふしゅるー
エネルギー波が当たった一角、黒モヤが霧散した。
「よっしゃあ! あたし出るっ!」
ガッツポーズと共に前へ出ようとするあたしに、
「ちっ。しょーがねーな... 」
何故か舌打ちで答える翔。
「ほな俺も!」
「え、でも... 」
「やり方教えや!」
どさくさに紛れてついてきた勇。
「無茶すんなよ!」
「お前にだけは言われたないっ!」
まぁ、それはそうかもしれない。
「ーー物理エネルギーに変換しないんだ。純粋にエネルギーそのものを、撃つ!」
言いながら周囲の黒モヤを殲滅する。
残った黒モヤは一旦怯んだようにあたしたちから距離をとり、複数の触手状になって揺らめいた。
中心に虚ろな目をしたサキを抱いて触手うねうねする黒モヤは、何かのラスボスっぽい。
「こうか?」
触手のうちの一つを、勇が吹き飛ばす。成功だ。
「よし、行くぜっ!」
あたしが手を構えると、迎撃するように数本の触手が突っ込んできた。
薙ぎ払って、撃ち洩らした一つを回転して避けたらそのままの勢いで蹴りを入れる。
もちろん、足にも力を込めて。
ふしゅるー
うん、エネルギーこもっていれば打撃も有効。
そうこうしているうちに勇が本体?部分に攻撃する。
「女の子に当てんなよ!」
「わかっとるわ!」
勇にだいぶ体積を減らされて怒ったのか、黒モヤが何本もの触手を伸ばしてくるが、あたしと勇は一つ一つ着実に迎撃する。
そして、サキを覆う黒モヤが、だいぶ減った頃。
「サキ!」
あたしはサキの肩に手を伸ばしーーあ、やっぱり触れませんね、そうですよね。
体をすり抜けた手をちょっと気まずく握りしめて、とりあえず先を続ける。
「本当に体見つけてあげるから! 一緒に帰ろう! このままこんな黒いのに飲み込まれちゃっていいのか!?」
邪魔するように突っ込んでくる触手を、握りしめた拳に力を込めてぶっ飛ばす。
サキの視線がゆらゆらさ迷って、ぼんやりとあたしをとらえた。
「大丈夫。探そう? みんなで探せば見つかるよ。絶対。見つかるまで一緒にいるから。」
目が、しっかりと、合った。
「ね、大丈夫だから。」
視線を受け止めて、ゆっくりと言うと。
サキの目が潤んだ。
「ほら、おいで。」
だいぶ少なくなったものの、まだサキの周りでうねる触手を無視して、両手を広げた。
「ーーあおいちゃぁあん!」
ぴー、という感じに泣いたサキが腕の中に飛び込んできて、核を失った黒モヤは出てきたときと同じようにどこへともなく、消えた。