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夏の終わり

 サキの身元が確認されたのは五日ほど経った頃だった。

 中学生が学校行事中に白骨発見というのはテレビニュースでもちらりと取り上げられたが、その後の身元確認のニュースはネットで見た。

 最初のニュースから二十数余前の不明女児か?みたいになってたから、単にDNA鑑定とかで確定するまでが時間がかかったのだろう。

 それから更にしばらくして、学校にサキのご両親からお礼の手紙が届いたと担任から電話が来た。

 見つかってよかった、お葬式ができた、これであの子も安らかに眠れます、とかそんな感じで、そして手紙なのでサキの家の住所も記されていた。

 というわけで。


「サキの墓参り行こうと思うんだけど、お前も来る?」

 電話で尋ねるとぐたぐだ言った後に一緒に行くと決めたケンジは、待ち合わせに現れるとぎょっとした。

「お前らも一緒かよ? そしてこの前と見た目が違うぞ!?」

「この前はちょっといじってたんだよ、これが本当のこいつら。」

「整形みたいに言うのやめろや 」

 あたしは隣に並ぶ勇と翔を示して言い、勇がぼやいた。

 あたしは苦情は無視して、

「県内だから電車でも行けるとは思ったんだけど、翔に頼んでみたら転移で連れていってくれるっていうから、勇もついで。」

「ついでって言うなや。」

「完全に足扱いで言うな。」

 更に二人から苦情が来るがてへっと笑って流す。

 ケンジは何やら数秒不満そうにしていたが、大袈裟にため息をついて

「今日こそちゃんと説明しろよな。全部。」

「ーーお前も大変やな。」

 何故か勇がケンジの肩を叩いた。



 手紙に書かれたサキの家の近くまで行き、近くのお店で尋ねると、わりとお墓の場所を教えてくれた。お店のおばちゃんも生前のサキを知っていて、お通夜に参列したらしい。ご近所付き合いか密な地域で助かった。

 そこからは歩きながら、ケンジにあたしと勇と翔のことを話したりしてーー

「ここか。」

 あたしたちは一つの墓石の前に立った。

 そっと墓石の横をのぞきこむと、真新しい字が掘り足されている。


  咲希 享年十二歳


 あたしは、無言で、地元で買ってきていた花束を置いた。

 出会ったときには既に死んでいたサキだが、こうして自分より若い年で「享年」なんて書いてあると... うまく言えないが、悲しいというか、そう、痛ましい気持ちが押し寄せてくる。

 何を言っても空々しい言葉になりそうで、あたしはただ手を合わせた。

 男ども三人も同じだろうか、やはり黙って手を合わせていた。

「わた○のー、おは○のーまーえでー、泣○ないで下さい~。」

 ... ん?

「そこ○ぃわたしはー○ませんー、○ってなんかーいませんー。」

「... おいこら、サキ。」

 あたしは物凄く脱力して、声の方を睨み付けた。

「その歌、二十年前はなかったやろ?」

 わりとどうでもいい気がするところを突っ込んだのは勇である。

「家に帰れてからテレビで見たのよ~。」

 くすくすと笑いを含んだ声で、サキは答える。

 姿は見えない。

「誰も泣いてねーし。お前も眠ってはいなかったみたいだけどここにいるじゃんか... 」

 呆れ顔で言ったのはケンジ。

 翔は、呆れてそして諦めたらしく、ただやり取りを見るに徹している。

「泣いてもいいのよー?」

「完全にしんみりムード吹き飛んだっつーの。ーー見えないね?」

 あたしは辺りを見回すが、声は近いのにサキが見たらない。

「んー、昼間だからかなー? あと、だんだん自分の形でいられなくなってるような気はしてるの。さすがにそろそろさようならなのかも。」

「そんな感じなんだ、幽霊って。」

 ふわーっと自然分解でもするのだろうか。

「今までは何してたん?」

「んー、お父さんとかお母さんとか家族に会って、私に向かっていろいろ話してくれるのを聞いて、お葬式で会いに来てくれた友達とかの様子を見に行ったりして... 」

「ついていってたのか。そういうの、清めの塩で追っ払われるんじゃねーか?」

 ケンジがわりとひどいことを言う。

「え、よくわかんない。悪いことしないから平気じゃないのかな? それでね、初恋の人にも会えたよ。もうおじさんだったけどね。」

 それは... 残酷な現実なのか、淡い思い出になったのか。

 どちらかわからずに反応が遅れると、サキは笑ったようだった。

「嬉しいんだよ? 結婚もしちゃってて、寂しい気持ちもあったけどね。でも、勝手に好きだったよって告白してみてきたし。それから友達とか家族にお別れできてよかった。だからーー」

 ふわりとすぐ近くに冷気を感じた。

「ありがとね。私を見つけてくれて。話を聞いてくれて。助けてくれて。お礼ちゃんと言ってなかったから、葵たちが来てくれるまでは消えないでいようって頑張ってたの。... 本当に来てくれて、嬉しい。」

 ぴとっと抱きついているらしきサキを、あたしも勘で抱き締めた。

「あたしも、ちゃんとお別れ言いたかったんだ。会えて嬉しいよ。」

「さようなら、葵ちゃん。ケンジくんも、勇くんも翔くんも。」

 だんだん、冷気が薄れていく。

「おう、元気でな... は、おかしいか... えーと... 」

 考え込むケンジ。

「ほな!」

 宙に向かって手を振る勇。

「迷わず行けるよう気を付けて。」

 翔が微笑む。

「さようなら、サキ。」

 そして冷気は、完全に、消えた。

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