夜が明けて
一応、翔がじーさんに確認し、リューはそのまま父親に引き渡すこととなった。
人狼の大人は、ほぼ私達人間と同じ姿かたちをしていたが、犬耳だった。触ったら気持ち良さそう。我慢したけど。
幼いリューが親に連れられて薬草取りに来てたくらいだから、あたしたちがスケルトンと戦っていた辺りは村からそう遠くないそうで、明け方近くに変な音が聞こえたので村の男たちが様子を見に来たとのことだった。
そう、明け方。
... 結局宿舎に帰れず徹夜だよ。
ちなみに、散乱した武器や武具のなれの果ては、リューを保護してくれたお礼に人狼さんたちが片付けて、更には弔いもしてくれるとのことだった。
明け方に騒いでご迷惑かけた上に片付けとかまで、本当にすみません。
詫びて、お礼を言って、リューとハグして別れを惜しみ、あたしたちはゲートを通った。
翔がゲートを簡易封鎖しなおしている間に、あたしと勇とケンジ三人で適当な木の根元に穴を掘り、足軽さんたちの骨を埋める。
誰か拾いそびれてたらごめん。人狼さんたちに弔ってもらって我慢してね。
さて、そして次は。
「サキの体は葵たちが見つけたってことにするとして、どうする? お前ら。」
翔が口元に手をあてて尋ねた。
「どうって?」
訊き返したあたしに、
「今から捜索隊に見つけてもらうか、自力で下山した感じにするか、遭難しなかったことにするか。」
翔が指を一本ずつ立てながら選択肢を出す。
「遭難しなかったことにする、って何?」
ケンジが怪訝そうに尋ねた。
「俺たちは昨日の昼間からの流れで今まで来ちゃったから、じーさんに昨日の夕飯前くらいには戻してもらうつもりでいる。ついでに一緒に時間を戻してもらうなら、その、二人がどこだかから落ちた直後あたりに戻れば、遭難した事実はなくなる。」
「え、待て待て? 全然わかんね... 」
翔がざざーっと話し、ケンジ混乱。でも放置。
「よし、遭難しなかったことにしよう。先生泣いちゃうし。」
あたしが即決する。
「なら、サキの体は登山道の近くで見つけたことにしよう。ちょうどいい場所とかある?」
「どういうのがちょうどいいなのかよくわかんないけど... 落ちる前の藪の中かなぁ、道から見えちゃうところでもおかしいだろ?」
翔に訊かれて、むむむと考え、それからサキを見る。
周囲が明るくなってきて、透けたサキの姿はだんだん見えづらくなってきた。
「私はどこでもいいよ。」
「じゃあそれでいいか。下手にリアリティー求めて斜面の下とか途中とかにしようとすると昨日の葵たちまで見つかりかねないしな。」
ガサガサと藪を掻き分けて、あたしとケンジは登山道に飛び出した。
「先生っ!」
「わあっ!? ーーびっくりした! なんでそんなところから出てくるんだお前らは!」
最後尾引率の先生が驚いて声をあげる。
その回りのハルたちも驚いた顔だ。
「いやぁ、リスがいたからつい追いかけて... 」
「道を外れるなって言われてるだろう!」
日頃の行いがアレなので、その辺は何も疑われないあたしたち。
「ごめんなさい、けどそれどころじゃないんです! 大変なもの見つけちゃった!」
先生につかみかからんばかりのあたしを、ケンジがちょっと引いた目で見ている。お前ももうちょっと演技しろよー。
「大変なもの?」
「早く一緒に来てっ!」
「本当に大変なんだろうな? 悪戯だったら怒るからな?」
言いながらあたしに引っ張られていった先生が、藪のなかで叫び声をあげる。
そこから、登山にも参加していたが既に宿舎に戻っていた校長へケータイで連絡。校長が警察に連絡したようで、とりあえず待機を命じられたあたしたちを迎えに来た別の先生や校長と一緒に数人の警官がやって来た。
サキの体を発見したときの状況をあたしが警官に話したあとは、子どもは宿舎に帰してやってほしいと校長が交渉し、現場検証や
調書作成は最後尾の先生と校長が残ることに。
あたしたちは、別の先生に付き添われて下山した。
身元不明遺体発見ということで、先に宿舎に戻っていたみんなも先生も騒然としていて、夕食のあとに予定されていたキャンプファイアと肝試しは中止。
イベントを楽しみにしていたみんなと、警察への協力で結局徹夜になった先生には申し訳ない気持ちはありつつ、胆試し中止に内心ガッツポーズしたのは、ここだけの秘密である。