夏だ林間学校だ!
「尚、被疑者は異世界人とみられています」の続編です。
バスの中はガヤガヤと騒がしかった。
高速を走行中にバスレクはやりつくし、歓談タイム。
窓の外の景色に緑が多くなり、川が見えると歓声が上がったりする。
「あ、葵! 今、牛がいた!」
窓際のハルが声を上げ、周囲の何人かが「えー?」等と言いながら窓の外を探す。この辺は酪農もしているようだ。
「もうちょっと珍しいもの見つけてから騒げよなー。」
可愛いげないことを言っているのは、後ろの席のケンジである。
「じゃあお前が珍しいもの見つけてみろよ。てゆーか珍しいものって何だよ?」
あたしが言うと、ケンジは一回うっと詰まり、
「... UFOとか... 」
「林間学校でなんでUFO期待してんだよ... ?」
あたしが本気で呆れた声で言ったので、ハルが横で吹き出した。そして、
「林間学校といえば幽霊じゃない? 毎年肝試しで本物が出るんだって、先輩が言ってたよ~?」
ニヤ~と、嫌な笑顔であたしに視線を送るハル。
お前... 今それを言うか?
「幽霊とかいると思ってんの? ガキだなー。」
UFOとか言ってたくせにケンジが懲りずに可愛いげないことを言うが、今度はあたしはケンジに乗る。
「そうだよ、先輩にからかわれてるだけに決まってるじゃん。」
「そうねー、だといいねー? 肝試し、誰とペアになるのかなぁ?」
ニヤニヤし続けるハルの膝を、ぺしりと叩く。
ハルは小学校でもずっと同じクラスの幼馴染みで... あたしが、小六の林間学校での肝試しでびびりまくっていた姿を、よく覚えているようである。チクショウ。
中学からの付き合いのケンジは知らない話だが、もし今回でバレたらそれはそれは鬼の首とったようにネタにされると思う。チクショウ。
「でもね、むかーし、宿舎の近くで神隠しに遭った子どもがいるのは本当らしいよ? 私のお父さんここの中学出身なんだけど、お父さんの林間学校のあと、小学生の女の子が行方不明になったって騒ぎがあったんだって。」
「それって、そのまま未解決?」
ハルの話に、職業柄思わず聞き返しーー
「やだ、葵、警察みたいな言い方。」
と、笑われた。
実は、本当に「警察みたい」なことしてたりするんだよなぁ、と思いながら、あたしもあははと笑っておいた。
職業柄というのは言葉のあやだが、中二になった今年の春から、あたしはときどき犯罪捜査をしてたりする。
あたしたちが普通に認識しているこの世界の他にいくつも、異世界が存在するらしい。
本来干渉しあってはいけない、その異世界から不法侵入し違法行為をする犯罪者から自分の世界を守れと、ある日突然任命されちゃったのが、あたしと他二名。
勝手に潜在能力を開花され、既にその力でいくつかの事件を解決していたりする。
神隠しとか、すげー異世界関係くせぇ...
しかし、ハルのお父さんの話ということは、少なくとも二十年は前の話である。
異世界がらみだとしても、とりあえずあたしには関係ないかな。
話しているうちに、あたしたちのバスは、林間学校最初の目的地の鍾乳洞に到着していた。
家の方と比べて少し涼しい山の空気を感じながら、バスを降りる。
中二の夏、二泊三日林間学校の始まりだ!