番外編 一昔前
息抜き
晴れやかな日差しを浴びる、辺り一面の草原に、景観に似つかわしくない城が草原の上空に浮遊している。それは、人族から魔王城と言われている。
魔王城の中は薄暗く、外の日差しが入らないからか肌寒い。
そんな魔王城の玉座に座る者が、目の前に立っている者に苛立ちを抑えられていない。
「これは、先祖代々の習わしである。必ずせねばならんのだ」と、体長10mの大男がとても大きな声で覇気のこもった声で玉座から、勢い良く立ち上がりながら言う。
目の前に立っている者は、「イヤ」と、大男の半分にも満たない身長140cmほどの小柄な娘が、ポツリと弱々しく言う。
★
この世界は、魔が収める大地と人族が栄える大地、2つが存在している。互いに交流はなく、互いを知らず、大陸の国境を広大な森が2つの大陸を別れさせていた。
この森は、魔側も人族側も立ち入る事は出来るが、入ったら最後、精霊族と戦闘になってしまう。精霊は森の番人であり、森の中央に存在する世界樹を守護している。しかも、精霊族は姿を見ることは出来ず、気配すら分からず、己の死をもって初めて精霊と戦闘になったのだと知る。
世界樹とは、この世界が誕生した際に初めて生えた葉っぱが木となり大木とになり、成長した姿が世界樹なのだ。世界樹は世界の創造主が創り出したものだ。
が、先程の精霊族と戦闘にならず、人族側と魔王側が行き来できる者がいる。
その名を「渡り綱」と呼ばれる。
それは、数100年に1度この世に性を受ける、人族側の代表である勇者と魔側の魔王であった。
特徴は、勇者であれば全属性の魔法を操り、精霊と話ができる者。魔側であれば、成人を迎えてもなお、魔としては、あり得ない低身長の者、そして精霊と話ができる者である。
★
「お嬢様、そこをなんとかお願い致します」と、小柄な娘の後方で座り、ローブを全身に纏い顔が見ない者が言う。
ローブを身に纏う者も、身長7mと高い。
「イヤ」と、娘は着ているスカートの横で両手を強く握りながら、先程より弱く言う。
「我が祖母である、先代の渡り綱は見事に役割を果たし、精霊族から魔王として認められたのだ。我が娘もきっと、役割を果たせると信じておる」と、玉座に座る、仮の魔王は先程の苛立つ口調とは違い優しい口調で言う。
「今は、祖母無き後の空席になった魔王の役目を、我が行ってはいるが、いずれ綻びがくる。精霊族の姿形さえ分からず、言葉も分からず、手探りであるのだ」と、仮の魔王は言う。
先代の魔王の時代では、空中都市魔王城は地上に存在していた。これも精霊族の許可あってのことだった。
精霊族の許可とは、何を指すのか?
世界樹の水の使用許可のことである。
この地は、農業に適した場所であるが、農地に水を使用した際には、水を引いてくる川の源流である世界樹の水が不可欠であり、使用しすぎると世界樹の水が枯渇してしまい世界樹が枯れる。そして、精霊族が襲いかかる。
渡り綱は、精霊族との交渉人であり、調整役である。
「現在、我の魔力を使用し、魔王城を空に浮遊することにより、雨の降る地点へ移動し続けることで、魔王城の農地に水を安定供給してあいるが、我亡き後を心配しておるのだ。我亡き後は、このような方法を取れるものなど、この魔王城にはおらぬのだ。分かってくれ、娘よ、皆の為なのだ。」
仮の魔王は、デカイ図体に似合わない弱々しい口調で娘に現状を言う。