宿屋での出会い
さあ、宿屋についてどうするか考えないといけない。
泊まった時は竜人だったから、今のまま行っても別人だと思われるだろう。私自身としては別にそれでもいいと思っている。別人として判断されるなら、新しくお金を払って泊まればいいわけだし。
だが、宿屋側からしたらどうだろう。竜人様が一晩泊まった後、来なくなった。単純に考えれば、竜人様のお気に召さなかったと考えてしまうだろう。私の考えすぎでなければ、そう思われても仕方ない。
だからと言って、竜人モードで行くのは勘弁したい。人に見られてちゃ、せっかくのご飯が美味しく感じられないからね。
・・・よしっ、決めた。宿屋の方には申し訳ないけど、このままで行くことにしよう。竜人になる手間もあるし、自分はいつ死ぬかわからないのだ。だったら多少は自由にしてもいいだろう。
あれこれと考えていると、宿屋までたどり着いた。ん?なぜか宿屋の中が騒がしい。昨日や今日の朝までは、あまり人がいなかったはずだけど、今は数十人ぐらいの声がしている。
・・・なんか嫌な予感がする。まあその予感には心当たりがあるんだけど。
私は恐る恐る宿屋のドアを開けた。すると中にいる人たちが全員こちらを見てきた。しかし、すぐに落胆した表情となり、あからさまに大きなため息をつきながら、周りの人たちとの会話を再開したようだ。
視線を向けられたときは私の体は強張っていたが、外されるとすぐに動けるようになった。
いやー、さすがに怖かったよ。まるで金縛りにあったように体が動かなかったし、頭の先から足の先までじっくり見られる。それもこの人数にだよ。
固まってる間に私に近寄ってきた人がいる。朝も見かけたこの宿屋の店主だ。
「も、申し訳ありません。ただいま空いている部屋がないんです」
「そうなの?って見ればわかるか」
「いえ、ここにいる人たちの大半はお客様ではないんですが・・・あれ?どこかで見たような・・・」
そう言いながら私の顔をじっと覗き込んでくる。
そういやよく見てなかったけど、きれいな人だなぁ。こんなにきれいなら言い寄ってくる男がたくさんいそうだ。
「もしかして・・・しっ、少々お待ちください」
そしてカウンターの奥へと入っていった。なんだろう一体。
少し待っていると、どうやら出てきたようだ。そして私に近づきまた顔を覗き込んでくる。
あれ?何か違和感がある。これは朝にも感じたものだ。ついつい私も彼女の顔をじっくりと見つめてしまっていた。
「ふむ、確かに似てるね」
下を向き独り言のようにそうつぶやいた後、
「少し話を伺いたいので、こちらに来ていただけますか?」
と、再び私に向き直りそう言った。まあ、断る理由もないから私は頷き、彼女の案内でカウンターの奥に入っていった。
カウンターの奥には扉があり、別の部屋につながっているようだ。
部屋に入ると増えていた。なにがって?それはさっき案内してくれた彼女がだ。同じ背格好で同じ顔立ち、唯一違うのは髪を結んでいる向きだけ。そんな瓜二つの二人が並んでいた。
「え、えーと?」
「おー、久しぶりだなこれを見て驚く姿を見るのは」
「すみません、突然来ていただいて。見てのとおり私たちは双子なんですよ」
「私が一応姉になるセシアで、こっちがミシアだ」
驚いている私に、自己紹介を済ませる髪の右側を結んだミシアとその反対側を結んでいるセシア。声も全く一緒で、しっかり見てないとどっちが話しているかわからない。
「ああ、なんか違和感あると思ってたけど、そういうことね」
「おお、気づいてたのかい。人前では髪型も同じにしてたはずだが。まあ、それはいいとしてだ」
と、一泊置いた後、
「あんた、竜人様だね」
「・・・ええ、そうです」
「やけにあっさり認めるんだね。見た目もそんなに変えてるのに」
「別に、ばれたらばれたでそこまで困る訳でもないですし、なにより・・・」
「なにより?」
「なによりこうやって人目を避けて頂いたんで、信用はできるかな。っと思っただけです」
さっきの人の多いところで聞かれていたら、私は認めずにさっさと出て行ってただろう。
「へえ、竜人様って聞いてたけど普通の人とそんなに変わらないもんだねえ」
「セシアお姉ちゃん、さすがに竜人様にたいして失礼な気が・・・」
「別に大丈夫ですよ。というか竜人様って呼ぶのやめてくれませんか?私はそんな偉い人じゃないんで」
「ほら、この子もそういってるじゃないか。そうだな、竜人様が嫌ならなんて呼べばいい?」
「リフィアって呼んでください。ミシアさんも」
「いや、でもそれは・・・」
「本人が望んでるんだから、答えてあげるもんだろ?なあ、リフィア」
「そうですよ。もしもそう呼んでもらえないんだったら、私もミシア様って呼びますよ?」
「おっ、いいなそれ。私もミシア様って呼ばせてもらおうかな」
「・・・っあーもうわかりました!リフィアさん。お願いですから普通に呼んでください!」
「はい。わかりましたミシアさん。よろしくお願いしますね」
顔を真っ赤にしているミシアさんの横で、セシアさんは悪い顔でニヤニヤとしている。そして私に手を差し伸べ、私はその手をしっかり握る。「何してるんですか、二人とも・・・」とつぶやく声は、思いのほかよく響いた。
主人公の性格が迷走中