日常の終わりと全ての始まり2
すでに夜になってしまいたどり着いたのは、火事から離れた場所。街の富裕層にあたり貴族たちが住んでいる。そんな中でも中の上ぐらいの貴族の館だ。その家の中に私が追いかけていた人達が入っていく。
さすがに門番がいるような場所からは簡単に入れないので、裏手の塀から忍び込んだ。
今の私は犬ではなく竜人モード、職業はメインが奴隷でサブが剣士だ。メインを奴隷にした方が身体能力は上がるし、狂戦士は自我を失う可能性がある。今回は別に殺そうとは思っていない。ある程度脅せば誰に手を出したか理解するだろうから。
さて、犯人がどこにいるかは簡単にわかる。その貴族特有の香水やらの匂いで判別できるから。
どうやら犯人が一人で部屋の中にいるみたい。二階だけど登るのに使えそうな突起があって、届かない高さじゃない。窓も開けているみたいだし、さすがに不用心すぎないかな?私に挨拶してくれって言ってるようなもんだね。
ではお言葉に甘えて入らせてもらいましょうか。
部屋の中は意外と広く、高そうなものがいっぱい置いてある。その中でこちらに背を向けて椅子に座り、寛いでいる一人の男がいた。
どうやらこっちにはまだ気づいてないみたいだね。
私は窓から入るとゆっくりと近づいていく。そろそろ声をかけようかなと思ったとき、ドアが開かれた。すぐに何人かの鎧を着た人たちが入ってきて、私を取り囲むように包囲する。
しまったなぁ、これは罠だったのか。たぶん尾行中に気づかれてたんだろう。
けどおかしい。さっきから座っている男が微動だにしない。すると私の視線に気が付いたのか、鎧からして一番偉そうな騎士風の男が貴族を持ち上げ私に向かって投げてきた。
その投げられた貴族は白目をむいており、呼吸をしていない。これは死んでるなと結論付けて私は男に話し掛ける。
「これはどういうことかな?」
私の問いかけに騎士はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「別にこれから死ぬ貴方は知らなくていいことですが、この後の楽しみのために教えてあげましょう。」
騎士がそう言うと周りの男たちの笑みが漏れる。
「実はこの貴族、前から黒い噂が絶えなくてですね。それが噂だけならまだしも本当の事だと判断されたんです。ですが、証拠がなくては動けない。そんなときに竜人族がこの街に現れたんです。そう、貴方のことです。それからは意外と簡単でした。この貴族に竜人族のことを知らせ、勝手に行動を起こすだろうと思っていましたから。ここまで事を大きくするとは予想外でしたが、たかが数軒の家でこの街の汚点が減ったんですから上々でしたね。つまり貴方は餌にされたんですよ、そこの貴族を釣るための。そして後は貴方がいなくなればいい。この貴族をあなたが殺しそれに気づいた私たちが貴方を始末する。これが今回の結末です。ちなみに貴方の処分は私たちが請け負ってますので楽に死ねるとは思わない方がいいですよ。」
そう一息に話して男どもは笑いあう。しかし私は、何も言い返すことができなかった。私の中に渦巻く感情を我慢することで精いっぱいだったのだ。しかし言葉を返さない私に気を良くしたのか、違う男がさらに言葉を重ねてしまった。
「さすがにこいつは俺の趣味じゃねえよ。・・・そういえば、あの宿屋の娘もいい女だったな。俺はそっちをいただくとするか。」
そういうとその男は部屋から出ていこうとする。
私は思わずその男に手を伸ばすが、その手は届かない。だけど男はその場に崩れ落ちた。男の頭には小さなナイフが刺さっている。手を伸ばすと同時に袋から取り出したナイフを私が投げたのだ。鎧を着ていても兜をしていなかったから、的は大きかった。
突然の出来事に対応できなかった者に私は剣を振るう。鎧を着ているため胴には攻撃できない。騎士以外は兜をしていないので、首か頭、目なんかを狙う。
しかし数の暴力によって私は不利だ。だから私は切り札を使うことにする。きっと次に気が付いた時には全てが終わっているだろう。
そして私は狂気に身をゆだねた。
気が付けば今の状況だ。騎士の男も含めて全員潰した。
”血溜まり”この表現がよく合う場所だ。ここで初めて人を殺した。だけどなぜだろう前にも一度見たことがある気がする。ゴブリンではなく人の肉塊がある光景。
記憶ではなく、赤という意味の知識として知っている。私になる前に何かあったのは確かだけど、何があったのかはわからないし、考えることを体が拒否しているように感じる。
私は考えを早々に放棄して改めて周りを見てみる。
自分でやったからだろうか、この光景を見ても吐きそうになったりはしない。むしろ気分が良くなっていくので、とりあえず奴隷へと職業を変えておく。これで今日の変更回数は使い切ったけど、あのままだと危なすぎるから。
ある程度気分が落ち着いたので、男達から剣や盾を貰って袋に入れていく。そして犬の姿になりさっさと出て行った。
明日には騒ぎになってるだろうが、きっとすぐに収まる。真相を知ってる人は竜人様の怒りだとでも思ってくれるはずだからだ。こういう時にはこの身分が役に立つとは皮肉な話だ。
さあ、最後の仕上げと行こうか。
今回の原因、つまり私だ。私が現れなかったらこんな事にはならなかったはずだし、セシアさん達にも迷惑をかけなかった。
でもだからと言って二人に謝りに行くことなんてできない。私は人殺しだし、なによりこれ以上一緒にいると今日以上のことが起こってしまう気がする。
よく考えればわかることだった。この世界で竜人と言われている私が、自分の容姿を”忌み子”だと思っていたのかを。いくら見た目は竜人でも忌み子なんだ。今回の火事とか私の狂気が、周りに死を振りまく存在だってのは間違いじゃないことを証明している。
だから私はこの街を出ていくことにする。旅に出れば関わる人が多くなるかもしれないけど、必要以上に親しくなるはずがない。だから大丈夫だろうと思う。私に少し関われば死んでしまうのは私のせいだけど、情が無ければ簡単に切り捨てられるだろう。
せっかくだから、周りを振り回してでもこの世界を楽しんでやろう。
犬の姿の私は期待に胸を膨らませ、この世界を知るため走り出した。
これにて一区切りとさせていただきます。
まだまだやりたいことが多くこれからが本番ともいえるので、少し間をおいてから次話を投稿したいと思います。